184話─ギアーズ技術財団
「ん、到着っす。ようこそ、カルゥ=オルセナへ!」
「わあ、なんか……凄い光景が広がってるね」
複数の大地を経由し、ようやくカルゥ=オルセナにたどり着いたキルトたち。彼らの目の前に広がっているのは、ネオン煌めく大都会。
並行世界にあるもう一つの大地、『カルゥ=イゼルヴィア』との交流の結果……そちらの文化を取り入れ、大きく発展したのだとイレーナは言う。
「うーん、凄いねこの大地は。暗域でもこんな街並みは見たことないよ」
「……何だか、頭がクラクラするな。どうも、こういうビカビカした街並みは慣れないものだ」
「我もだ。第一、この街は匂いが好かん」
「なーに、大丈夫っすよウォンさんにルビィさん。これから行くとこは、こういうギラギラした光景とは無縁っすから」
大都会パワーに圧倒されるウォンやルビィに、イレーナはそう口にする。そして、転移魔法を発動させてキルトたちを『ある場所』に誘う。
「うわっ!? いきなり景色が……」
「おー、今度は雄大な大自然! いいねえ、こういうとこでピクニックでもしたら最高なんじゃないかな?」
転移魔法により、キルトたちはカルゥ=オルセナの奥地にあるジャングルへとやって来た。巨大なテーブルマウンテンの山頂から、どこまでも広がるジャングルを見下ろす。
「いい場所だな、空気が澄んでいる。だが、何故俺たちをここに?」
「んふふ、それはっすね。このテーブルマウンテンこそが、元『シュヴァルカイザー基地』にして『ギアーズ技術財団』だからっす!」
ウォンの質問に答えた後、イレーナは指を鳴らす。すると、近くにあった岩が動き明らかに人工物と分かる出入り用の小屋が姿を現した。
イレーナに案内され、キルトたちは小屋の中に。小屋の内部は下りの階段になっており、建物内部に降りられるようになっているようだ。
「うわあ、凄い! ご先祖様、こんな基地を持ってたんだ!」
「ふむ……男のサガか、こういうのを見ると年甲斐もなくワクワクしてくるな。中に入っても?」
「もちろん! あ、でもアタイから離れちゃダメっすよ? 中は警備のドロイドが巡回してるっすからね、侵入者として通報されちゃうっすから」
「面倒なものだな……。まあよい、なら早く道案内するがいい」
イレーナを先頭に、基地の中に足を踏み入れるキルトたち。巨大なテーブルマウンテンの中に築かれた基地に、ルビィ以外興奮しっぱなしだ。
「へえー、この壁……かなり古いね、それこそ本当に三百年くらい経ってるように見えるな。この基地、一回調査したいところだよ」
「ここがご先祖様の使ってた基地……! 僕たちのアジトみたいでかっこいい!」
「やれやれ、みなどうしてこう……ウォンまで心躍らせるとは。我には全く分からん……」
大はしゃぎしている仲間たちを見て呆れながら、ルビィはイレーナに従い先に進む。階段を降りていくと、連絡通路に出た。
通路のある大部屋は吹き抜けになっており、エントランスの様子が上からよく見えた。財団の職員たちや、銀色のヘラクレスオオカブト型のメカが行き交うのをキルトは眺める。
「人がいっぱいいるね、みんな忙しそう」
「ここでは、三百年前からずっと『インフィニティ・マキーナ』って武具を造り続けてるんすよ。初代財団代表、アレクサンダー・ギアーズ博士の遺志と技術を継ぐために」
キルトの言葉に答え、イレーナはエントランスを見下ろす。エントランスの中央には、老人の立像が建てられていた。
恐らく、この人物がアレクサンダー・ギアーズなる人物なのだろう。そう考えながら、キルトは地上に降りていく。
「あ、イレーナさん! お疲れ様です!」
「ん、みんな変わらず元気そうっすね? どっすか、マキーナの生産は順調っすか?」
「ええ、新しい代表が来てから絶好調ですよ! やっぱり、イレーナさんの旧友だけあってとても親しみやすいです」
「よかった、彼女を推薦した甲斐があるってもんすよ。今、会えるっすかね?」
「ええ、アポなしでもイレーナさんなら大歓迎だと思いますよ、代表なら。今繋ぎますんでちょっと待っててください」
エントランスの一角にある受付カウンターに向かったイレーナは、代表と面会するため話をする。それが終わるまでの間、キルトたちはエントランスを見学することに。
「見て見て、お姉ちゃん。こっちに資料が展示されてるよ」
「うむ、本当だ。えーとなになに……三百年前、ヴァルツァイト・テック・カンパニーによる侵略でカルゥ=オルセナは危機に陥っていた……」
「あ、聞いたことある。大昔にいた魔戒王が経営してたあくどい企業なんだって。理術研究院とどっちが悪いかな」
キルトたちはこの時知らなかったが、インフィニティ・マキーナミュージアムが破壊されたことで一部資料の展示が財団本部で行われていた。
ジッと資料を見ていると、不意に肩に何かが触れる。何だろうと思い、キルトが己の肩を見ると……。
「スキャニング開始……」
「わあっ!? な、なにこれぇ!? ちょ、取れない!?」
「キルト、大丈夫か!? このっ、離れろ虫め!」
「お待たー、これから会え……って何事っすか!? こら、離れるっすよつよいこころ八百七十号!」
いつの間にか、全長三十センチ近くある銀色のヘラクレスオオカブトが留まっていたのだ。ルビィに引っ剥がしてもらおうとするも、力が強く離れない。
面会の調整を終えたイレーナが呼びに来たことで、どうにか引き剥がすことが出来た。……が、よそ者として警戒されているのか気に入られたのか、虫型ロボはキルトの側から離れない。
「あの、なんか着いてくるんですけどこれ……」
「あー、多分気に入られたっすね。分かるんすよ、この子。君がシショーたちの子孫だって。だからまあ、しばらく側に置いといてあげてほしいっす」
「まあ、そういうことなら……」
なんだかんだでつよいこころ八百七十号を連れ、ウォンやアリエルと合流した一行はエントランス奥にあるエレベーターに乗り込む。
四階にある財団代表の執務室に向かい、中に入る。そこで待ち受けていたのは……。
「チ~ッす、ジュディ! 久しぶりっすね、四十年ぶりに会うっすね!」
「おー、イレーナ! よく来てくれたな、連絡があってからもうワクワクしっぱなしだったよ! ほら座れ座れ、菓子……ん? んんんん??」
「……見られてるね、読者くん」
「ああ、ガン見されてるな」
部屋の中には、白衣を纏った長身の女性がいた。イレーナとは旧知の仲のようで、お互い親しげに笑い合っている。
そんな中、女性……ジュディがキルトの存在に気が付いた。アリエルやウォンが見守る中、ジュディはキルトの元に近寄る。
「なあ、ちょっと聞いていいか? もしかして君……フィルさんとアンネローゼさんの子孫だったりしない?」
「え、あ、はい。そうなんです、僕は」
「ああーやっぱり! いや、目元とか雰囲気とかめっちゃフィルさんにそっくりだからさ! そっかそっか、戻ってきたのか……あの二人の子孫が」
「大げさな奴だ、この大地にもかの者らの末裔はいるのだろう? なればそんなに騒ぐようなことではないのではないか?」
キルトがフィルたちの子孫だということに気付き、大喜びするジュディ。ルビィにツッコミを入れられるも、特に気にしていない。
「それはそれ、これはこれ。基本的、この大地から巣立ってった子孫たちが帰ってくることがないからさ、嬉しいんだよあたしは。なあ、イレーナ?」
「そうっすね、みんな新天地で幸せにやってるみたいっすから。……守護者の審査関連で、戻るのも面倒みたいっすからね」
「でも、その割には僕たちすぐこっちに来れましたよ?」
「ああ、あれ顔パスされたみたいっす。守護者、外の情報たくさん集めてるっすからね。……かつてのシショーたちのように、ヒーローとして活躍してるのをかなり好意的に見てもらったんだと思うっす」
遠い日の記憶を思い返しながら、そう呟くイレーナ。だが、いつまでもそんな話をしている暇はない。まずは、ジュディたちと話し合いをせねばならないのだ。
「ま、とりあえずみんな座ってくれ。これから、ここ直近であった出来事とこれからの方針について話さなきゃならないからな」
「ええ、分かりました。早速ですけど……一体何があってダイナモドライバーを奪われたんです?」
「ああ、つい先日のことだ。歴代のインフィニティ・マキーナを展示してあるミュージアムが何者かに襲われてな。警備担当の証言によれば、そいつは『サモンマスターランズ』を名乗ったらしい」
「サモンマスターランズ……知らない相手ですね。多分、タナトスが新しい手駒を増やしたんでしょう。ティバもネヴァルもゾルグも死んで、動かせる部下が足りてませんから」
ジュディに対し、キルトはそう答える。奪われた二つの遺産を取り戻すため、彼らは少しずつ団結し始めるのだった。




