183話─世代を超えた共闘
少しして、運ばれてきた山盛りのピラフを平らげたイレーナは一つのベルト……試作型のダイナモドライバーを置いて帰っていった。
三日後、キルトを迎えに再びやって来るという。その時までに、仲間に話をしておいてほしい。そう言われたキルトは、急遽仲間を招集する。
「……っていうことがお昼にあったんだ。これは一大事だよ、僕のカンが告げてる。この戦い、今までよりも過酷なものになるって」
「我とエヴァがアジトで内職している間に、そんなことが……。なれば、要請に応えねばなるまい。キルトの先祖の仲間が助けを求めているのであればな」
「ええ、アタシも賛成よ。彼らのことはよく知ってるわ、むかーし一緒にフォルネシア機構で歴史書を読んだもんね? キルト」
「うん、僕はずっとご先祖様に憧れてきたんだ。彼らが大地を平和にするために使った武具を悪用するなんて、絶対に許さないぞ!」
キルトたちの心は一つ、イレーナの要請に応えることで意見が一致した。……が、問題が一つ。それは、誰がキルトと共に動くのか、だ。
「リジェネレイトしたメンバー全員を連れて行きたいとこだけど、こっちを攻めてこないとも限らないし……どうしよっか」
「逆に、理術研究院がこっちも攻めてくるって前提で最大戦力をあえて残していくのもアリだと思うよ、私はね。その方が牽制になるし」
「フロスト博士の言うことも一理ありますね……よし、じゃあこうしましょう。博士にウォンさん、二人は僕と一緒に来てください。残りのメンバーは、状況に応じて配置を換えましょう」
アリエルの進言を踏まえ、キルトは作戦を考える。最初から最強戦力を連れて行くと、トラブルが起きて全滅した時に目も当てられなくなる。
そこで、ポータルが開けるエヴァを架け橋として随時メンバーを流動的に用いることを決めた。まずは言い出しっぺのアリエル、そして実力を信頼しているウォンを連れて行くことに。
「ん、とりあえずは留守番してればいいのね。ところでキルト、例のイレーナはどうやってこっちとコンタクトするって言ってた?」
「はい、なんでもこの試作の最新式ダイナモドライバーを使うそうです。僕も軽く調べてみたんですが、通信装置が組み込ま」
「こらこらこら、読者くん! なんでそんな面白そうなものを一人でいじくっちゃうんだい! 私にもやらせておくれよ、今すぐ! ハリー! ナウ!」
「ああっ、ダメです博士! 下手にいじくると自己防衛システムが……」
机の上に置いてあったダイナモドライバーをひったくり、自室兼ラボへと持って行くアリエル。研究者としての血が疼いて仕方ないらしい。
早速ベルトを持って行くも、途中で自己防衛システムが作動し電撃のお仕置きを受けることに。廊下から響いてくる悲鳴に、キルトたちはやれやれとかぶりを振った。
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それから三日後、約束通りイレーナがサモナーズショップにやって来た。キルトとルビィ、ウォン、アリエルが揃っている。
「やあやあ、君たちがキルトくんのお仲間っすね? アタイはイレーナ、よろしくっす!」
「ああ、こちらこそ。俺はウォン・レイ。サモンマスター玄武だ」
「私はアリエル・フロスト。同じくサモンマスターギーラさ。よろしく~」
「我の名はルビィ。偉大なるエルダードラゴンにして、キルトの魂の伴侶だ」
すでに面識のあるキルト以外の三人がイレーナに自己紹介をした後、一行は帝都の外に出る。キルトに渡した試作ドライバーを受け取り、イレーナは地面に置く。
「それで、どうやって我らはそのカルゥ=オルセナという大地に行くのだ?」
「ん、簡単っすよ。このドライバーに登録してある座標をいくつか経由して、現地に向かうっすから」
「随分回りくどいことするんだねぇ、そんな厳重に守られてるのかい? その大地は」
ルビィに問われたイレーナは、ドライバーを起動させつつそう答える。アリエルの疑問に頷きながら、転移システムを作動させた。
「まあ、そうっすね。何しろ、カルゥ=オルセナは『並行世界と繋がっている』唯一無二の大地っすからね。それに……」
「それに?」
「並行世界を渡る力を持つ『ウォーカーの一族』がかつて生み出した破壊兵器、『ミカボシ』が変じた守護者がいるっすから。外部の者の出入りは厳しい審査がされるんすよ。例え神々であっても……ね」
何やら複雑な事情がありそうだと、キルトたちは考え納得する。が、この時彼らはまだ知らなかった。自分たちの予想よりも、イレーナの故郷……『双子大地』は数奇な運命に弄ばれた大地であったことを。
◇─────────────────────◇
「ネガ、いるか? 例のものを持ってきた、これを使ってスランプを脱するといい」
「お、来た来た! いやー、首を長くして待ってたよタナトス。にしても、まさかこの僕がスランプに陥るなんてねぇ」
その頃、理術研究院の大七牢棟にネガとタナトスがいた。ダイナモドライバーを納めたアタッシュケースを受け取り、ネガは呟く。
サモンギア・第三世代機の開発に難航し始めた彼は、とうとうスランプに陥ってしまった。そこで、新たな風を取り入れるべくあるものに目を付けた。
それが、かつてオリジナルのキルトの先祖が用いて悪と戦ったダイナモドライバー。先人の知識を取り込み、スランプを脱しようと目論んだのだ。
「ま、誰でも不調になる時はある。それでも、お前は四つのサモンギアを完成させた……ランズのものを含めてな。それは誇れることだ、ネガ」
「僕としては不本意だけどね、ランズのギア以外は急造品だもの。後で改良したいけど、そのためにはまずこのドライバーの解析から始めなきゃ。ふふ、楽しみだよ」
気分転換も兼ねて、早速ダイナモドライバーの解析作業を始めるネガ。そんな彼を見守っていたタナトスだが、不意に天井を見上げる。
「ん? どうしたのさ、タナトス」
「……いや、なんでもない。ネズミが巣でも作っているようだ、後で機動部隊の奴らに『掃除』させておく」
ネガに問われ、タナトスは天井裏にネズミがいるのだと答える。特に疑問も抱かず、ネガはすぐ興味を失い解析作業に戻った。
そんな中、天井裏には一人の男が潜んでいた。黒いタキシードとシルクハット、顔を覆うドミノマスクを身に着け息を潜めている。
「……ようやく見つけ出したぜ、ドライバーを。よりによってこの『怪盗ローグ』の親友の形見を盗むたぁ、ふてぇ奴らだぜ」
怪盗ローグを称する男は、天井板の隙間から部屋の様子を観察する。本当なら、すぐにでも二つのドライバーを取り返したいところだが……。
(今のオレじゃあ、サモンマスターとかいう奴らには勝てねえ。ここは大人しく、情報だけを持ち帰るとするか。幸い、セキュリティパスはもう手に入れた。ジェディンたちにいい土産が出来たぜ)
三百年前の戦いならともかく、現在暗躍しているサモンマスター相手では流石のローグも勝ち目がない。そのため、単独で動かず帰還を選ぶ。
天井裏の気配が消えたのを確認した後、タナトスは部屋を出て遠ざかっていく気配を視線だけで追う。通信用の魔法石を取り出し、連絡をする。
「……私だ。早速仕事をしてもらおうか、入り込んだネズミを消せ。元機動部隊副隊長の力を見せてもらうぞ……『サモンマスターメタルス』よ」
『了解しました、タナトス院長。シモンズ隊長もお呼びしましょうか?』
「不要だ、奴には双子大地の動向を見張らせている、今は動けん。代わりにお前が動け、部下を動員するがいい」
『かしこまりました。では、サモンマスターメタルス出動します』
連絡を終え、タナトスはきびすを返して廊下の奥へと向かう。彼の胸中で渦巻く、ドライバーに対する思いは……。
「……三百年前、あのドライバーを所有していた者たちによりミカボシの奪取は阻まれた。その趣向返し……少し楽しませてもらってもバチは当たるまい」
そう呟き、タナトスは黄金の門を作り出しその中に姿を消した。一方、第七牢棟を脱したローグは……。
「はー、やれやれ。相変わらず暗域ってのは空気が重苦しくて嫌になるぜ。やっぱ古巣が一番だな、さっさと帰っ」
「待ちなさい、侵入者よ。お前は知ってはならない情報を掴んだ。ゆえにここで消えてもらいます」
「……て一休み、っつーわけにゃいかねえか。ナニモンだ、あんた。名前くらいは教えてくれるだろ?」
「私はケイリー・ヴェンジャー。機動部隊Ω-13の元副隊長にして……理術研究院に所属するサモンマスター」
カルゥ=オルセナに戻ろうとしたところでタナトスの放った刺客に襲われる。灰色のメタリックな質感のライダースーツを着た闇の眷属の女は、冷徹な声で答える。
黄色いベルト型のサモンギアを起動させ、カニの姿を模したエンブレムが彫られた黄色のデッキホルダーに手を伸ばす。
「そうかい、オレを仕留めようってわけだ。だが、そう簡単に行くかな? 逃げ足にゃ自信あるんだぜ、オレはよ」
女……ケイリーにそう答え、ローグは笑う。イレーナの知らないところで、戦いが始まろうとしていた。




