181話─好敵手への再挑戦
アジトの訓練場に移動し、キルトとルビィはバイオンと対峙する。待ちに待ったリベンジの瞬間の訪れに、少年は心を昂ぶらせる。
「いよいよだよ、お姉ちゃん。ついに、バイオンにリベンジする時が来たんだ」
「ああ、随分と待たされたような気分だ。我もキルトも、あの日から格段に強くなった。それを奴に教え込んでやろうではないか」
腰から下げたデッキホルダーを撫でながら、キルトはルビィにそう語る。相棒の言葉に頷き、少年はゆっくりと『契約』のカードを引き抜く。
彼らから数メートル離れたところに立つバイオンもまた、好敵手との戦いに心を躍らせていた。こちらもデッキから『契約』のカードを抜き、相手に見せる。
「I will not hold back. Let's get started, Kilt. Everything that you have cultivated in battles so far! "Let me show you!(手加減はしない。始めよう、キルト。貴殿がこれまでの戦いで培ってきたもの全てを! 私に見せてもらおう!)」
「もちろん、やってやるさ! お姉ちゃん、いくよ!」
『サモン・エンゲージ』
『Summon Engage』
「出し惜しみはしない、初手から全力だ!」
【REGENERATE】
【Re:NIFLHEIMR MODEL】
二人同時に変身を行い、その後続けてキルトはリジェネレイト体への再変身を行う。少年の身体から溢れ出す冷気を浴び、バイオンは笑った。
「Nice breeze, very comfortable. Now then... let me test your power!(いい風だ、とても心地いい。さて、では……貴殿の力を試させてもらうぞ!)」
『Sword Command』
「負けない、今回は勝つ!」
【カリバーコマンド】
それぞれの得物を呼び出し、一気に距離を詰めるキルトとバイオン。少年は以前の戦いよりも速度、正確さ、威力が格段に上がった剣戟を叩き込む。
「おお、凄いで! 前に戦った時と比べて互角に渡り合えとる! この分なら、キルトが勝てるんちゃうんか!?」
「いや、油断は禁物よ。バイオンの方も、キルトの動きにもう適応してるわ。この勝負、まだどっちが勝つか分からないわね……」
「いいや、キルトが勝つさ。何せ、私たちガーディアンズ・オブ・サモナーズのリーダーなのだから!」
果敢に攻めるキルトを見て、アスカが期待を込めた声を出す。エヴァが懸念を口にするも、フィリールの言葉に考えを改める。
「……ええ、そうね。キルトならきっと勝てる! いけー、そこよキルトよー!」
「ケッ、うるせぇ奴らだ。こういうのは静かに観るのがマナーだぜ」
大声で応援するエヴァたちを横目に、ヘルガはジッと二人の戦いを見つめる。前回に比べ、今回は最初からキルトが優位に立っているようだ。
(strong……! Obviously stronger than before. The weight and sharpness of the blow had improved to an unimaginable extent since that time. Good, really good. This is how a battle should be(強い……!明らかに、以前より力が増している。一撃の重さも鋭さも、あの時から考えられないほどに向上している。いいぞ、実にいい。戦いとはこうでなくては!))
キルトに押されているというのに、バイオンの心に焦りはなかった。むしろ、相手が自分の想定をも上回る成長をしたことを心から喜んでいた。
とはいえ、簡単に負けてやるつもりなどバイオンには一切ない。肝心なのはここから……前回キルトを倒した切り札を、相手が超えられるか。
そこが焦点となるのだ。相手が攻め疲れにより動きが鈍った隙を突き、バイオンはキルトに回し蹴りを放って吹き飛ばす。
「うぐっ! やった……むっ! お姉ちゃん、どうやら来るみたいだよ。アクセルコマンドが」
『そのようだ。だが、同じ手に二度もやられぬ……そうだろう? キルト』
「もちろん! 今回は負けない!」
キルトを蹴り飛ばした後、バイオンはデッキホルダーから一枚のサモンカードを取り出す。それは、前回キルトが手も足も出ず完敗を喫したアクセルコマンドのカード。
「That spirit and goodness! "Come on, show me." I wonder if you can surpass Super Acceleration!(その意気や良し! さあ、見せてくれ。超加速を貴殿が超えられるかを!)」
『Accel Command』
カードをベルトのバックルに挿入し、バイオンは目にも止まらぬ速度で動き出す。前回のように、キルトを倒そうとするが……。
「キルトの奴、目を閉じたな。なるほど……完全迎撃態勢を取ったか、いい判断だ」
「うう、ずっと目をかっぴらいてるから痒くなってきた……!」
「──見えた、そこだ!」
キルトは慌てず、目を閉じて集中する。相手が攻撃してきた瞬間、カウンターを叩き込むつもりなのだ。ウォンとプリミシアが呟いた直後、キルトが動いた。
「コキュートススラッシャー!」
「Guuu! "I didn't expect you to give up on me so quickly!" ?(がふっ! まさか、こんなにも早く見切られただと!?)」
『いいぞ、キルト! 奴にトドメ……む、いかん!』
「あは、は……完全には、避けきれなかったね。脇腹をやられちゃったな……」
「キルト!」
バイオンの超加速を見切り、カウンターの斬撃を叩き込むキルト。鮮血がほとばしるが、それは一人分のものではなかった。
バイオンの攻撃もまた、キルトの脇腹に命中していたのだ。結果、勝負は痛み分け……相打ちによるドローで幕を閉じることに。
「Haha, that's amazing... To surpass super-acceleration ability and inflict this much damage on me. Kilt, you... how far can you please me(ハハ、素晴らしい……超加速能力を超え、この私にこれほどの傷を与えるとは。キルト、貴殿は……どこまで私を喜ばせてくれるのだ?)」
「喜んでくれてよかったよ。どうする? 怪我を治したら……もっかいやる?」
「Of course I want to know more! "The more I fight with you, the stronger I become!" "Let's reach the far peak of strength together.(当然だ、私はもっと知りたい! 貴殿と戦えば戦うほど、私もまた強くなれる! 至ろうではないか、共に遙かなる強さの頂へと)」
「おっと、そこまでだぜ。キルト、順番を守ってもらわなくちゃあいけないなぁ、え? 次はオレだ、早く傷を治しな。もうガマン出来ねえんだよ、早くオレともヤろうぜ!」
『全く、この狂犬め。まあいい、少し待っていろ』
ルビィの血で傷を癒やし、今度こそ決着をつけようとする……が、戦いを見てエキサイトし過ぎたヘルガが割って入ってくる。
これ以上のお預けは無理だと判断し、バイオンと選手交代することに。見るのもまた修行だと、バイオンは快く交代を承認した。
「さあ、オレにも見せろ! キルト、お前の力をナァァァ!!」
「もちろん! 休憩なんていらないさ、このまま何戦でもやってやる!」
かつての敗北を一矢報い、少年は新たな絆を育む。だが、この時。彼らの知らないところで、新たな物語が始まっていることを……誰も知らなかった。
◇─────────────────────◇
「あー、タナトス殿に報告だ。この『サモンマスターランズ』、無事ネガ殿に頼まれた『ブツ』を奪ってきたぞ」
「ご苦労、サモンマスターランズ……元クラヴリン王のしもべよ。どうだ、その力の使い心地は」
「ああ、実にいい。インフィニティ・マキーナとかいったか。連中の武装を軽くいなせたぜ」
その頃、理術研究院の院長室に二人の人物がいた。片方はタナトス、もう片方は濃い茶色のマントで全身を覆った男だ。
頭にはガスマスク風の呼吸器と、額に描かれた第三の目が特徴的白いヘルメット状の仮面を身に着けた男は『あるものを』差し出す。
「ほう、これが……三百年前より噂だけは聞いていた装具。『ダイナモドライバー』か」
「ああ、こっちが『天』の『ホロウバルキリー』のドライバーで、こっちが『地』の『シュヴァルカイザー』のドライバーだ。間違いなく納めてくれよ?」
「ご苦労、流石は機動部隊Ω-13『ポケットの中のチリ紙』を束ねていた男だ。手際の良さが違う」
机の上に、サモンマスターランズは二つのアタッシュケースを置く。ケースを開き、中を見せると……そこには、一つずつベルト型の装具が納められていた。
「褒めてもなんにも出ねえぜ、むしろそっちが給料をくれよ。正式に移籍したんだからな」
「ああ、もちろん。後でボーナスを出そう、私は成果を出す者には気前がいいのでな。……ところで、その本契約モンスターの使い心地はどうだ?」
「ああ、実にいい。流石、元魔戒王なだけはある。……この『単眼の蛇竜ラ・グー』はよ」
タナトス相手にそう話しながら、男は見開かれた目の形をしたエンブレムが刻まれた赤黒いデッキホルダーを撫でる。
サモンマスターたちによる動乱の時代は終わり……遙かなる時を超え、『過去』がキルトたちに牙を剥こうとしていた。




