180話─戦乱の終わり
バルステラを倒してから、十日が経過した。その日、デルトア帝国首都シェンメックにてマグネス八世により終戦宣言が行われた。
キルトとの共闘を通じて、ルヴォイ一世が考えを改め和睦を申し込んできたのだ。これにより、第一次メソ=トルキア大戦は幕を閉じた。
「此度の戦いで破壊してしまった紺碧の長城の修繕費は、全て我が国で支払わせていただく。それから、賠償金も貴国に。本当に申し訳ない、マグネス殿」
「いや、無益な争いをせずに済むのならそれでいいのだ。しかし、貴殿は徹底的に戦う姿勢だったとキルトくんから聞いている。何故それを改めたのだね?」
デルトア・ゼギンデーザ和平条約の調印式が行われ、各国の要人や民が集うなかマグネス八世は問う。それに対し、ルヴォイ一世は微笑みながら答えた。
「私は学んだんだ。彼……キルトと共に戦うなかで。人は、手を取り合えると。私一人では、バルステラに敗れていただろう。彼が共にいたからこそ、勝つことが出来た。故に……私は融和の道を選んだのさ」
「そうか……彼のおかげか。ならば、これからは共にこの大地の平和を築き上げていこう。禍根は多少残るだろうが、いつかそれも乗り越え……」
「共に創ろう。争いの無い、民が幸福に暮らせる大地を」
民が見守るなか、両皇帝による調印が行われる。戦乱の時代の終わりに、民が大いに喜びをあらわにしている頃。
キルトたちガーディアンズ・オブ・サモナーズの面々は旧ウィズァーラ王国の首都……ゲールヴィアッセに来ていた。
「うん、これで封印は完了だね。これから数千年をかけて、じっくり浄化していかなくちゃ」
「死してなお災いを遺すとは。バルステラめ、本当にロクでもない男だ」
全員で手分けし、ゲールヴィアッセを囲む四重の結界を張り巡らせたキルトたち。そこまでするのには、理由があった。
バルステラの死と同時に、彼に『契約』されていた者たちは全員が解放され、昇天した。……触れた者を死に至らしめる、呪われた灰を残して。
「キルトが灰を自動で集める装置を作ってくれなかったら、放置するしかなかったな。そうなれば、灰が風に乗り……」
「あっちこっちにバラ撒かれちゃうもんね。それは困るし、まあ……とりあえずは封じ込められてよかったってところだわ」
灰が各地に散れば、生きることの出来ない不毛の地が出来上がってしまう。それを防ぐため、キルトは都市ごと灰を封印したのだ。
ウォンとエヴァの呟きを耳に、キルトたちはアジトへと撤収する。七日をかけて行った作業の完了を祝し、アジトにてささやかなパーティーが行われるのだ。
「みんな、今回は本当にありがとう。一人でも欠けてたら、この結果にはならなかったよ」
「ふふん、もっと褒めてくれてもええんやで? ……にしても、大丈夫なんかキルト。義手……もう直せないんやろ?」
「まあ、ね。今の僕でも……いや、今の僕だからこそあれは直せないよ」
リビングに集まり、アスカ手作りの料理を楽しむキルトたち。そんななか、アスカの言葉を受けキルトは苦笑する。
バルステラにサモンギアとデッキホルダーを兼ねていた義手を破壊され、キルトはもうサモンマスターになれない。……かつての方法では。
「でも、問題はないんだなーこれが。サモンマスタークインビーの使ってたサモンギアをバラして、新しく作り直したやつがあるから。それ使えばいいだけだしねー」
「それはそうだが……左腕はどうする? また新しい義手を作るのか?」
「いや、そっちも問題ないよ。ふふふ」
幸い、新たなメンバーを迎え入れるために作ったガントレット型のサモンギアとデッキホルダーがある。それを使えば、サモンマスタードラクルの復活だ。
とはいえ、ドルトの問いの通り左腕もなんとかする必要がある。だが、そちらはすでに双子の協力で問題を解決していた。
「そういえば、この七日間左腕を一回もマントから出してなかったわね。てっきり、義手がなくなって見せたくないからだと思ってたわ」
「実際には違う、ってことだよね? 見たいなぁ、読者くんがどんな対処をしたのかさ」
「うん、いいよ。それじゃあ、本邦初公開! これが僕の、新しい左腕だよ!」
エヴァとアリエルに催促され、キルトは作業着代わりに羽織っていたマントをはだける。その下から現れたモノを見て、全員が驚愕することに。
「あれっ!? う、腕がある! どうしたのこれ、どっから拾ってきたの!?」
「ククク、オレには分かるぜ……匂いでな。キルト、これは『自前』の腕だろ? どんな手品を使った? え?」
プリミシアがトンチキなことをのたまうなか、一人離れた場所で酒を飲んでいたヘルガがキルトの元にやって来る。
「ふふふ、それはね! 僕とめーちゃんが頑張ったんだよ、ねー?」
「うん! おとーさんみたいに上手く出来るか不安だったけど……ちゃんと『生やせた』んだよ!」
「ん……どういうことだ? 何故この二人が得意そうにしている?」
「ふふ、ヒントをあげるよフィリールさん。双子のお父さんはアゼルさん、じゃあ彼の得意とする能力は……?」
何故かキルトに代わって得意気に説明を始める双子を見て、フィリールが首を傾げる。そんな彼女に、楽しそうにキルトが声をかけた。
そのすぐ後ろでは、ルビィがニヤニヤしている。フィリールを含む全員が考え込むなか、真っ先にエヴァが答えに気付く。
「ま、まさか!? キルトあんた、蘇生する時に腕を再生してもらったってこと!?」
「ぴんぽーん、正解! まあ、僕も最初に聞かされた時は半信半疑だったけどね。本当に腕まで再生するなんて思わなかったよ」
イゴールとメリッサの父、アゼルは死者をよみがえらせる力を持つ。蘇生させる際、膨大な魔力を注ぎ込めば遺体の欠損を完全に修復出来るのだ。
もちろん、それは蘇生に力を受け継いだ双子も理論上は可能ではある。だが、まだ父に実力が追い付いていない二人では腕の再生を失敗する可能性があった。
「はー、それで運良く成功したってこっちゃな。やったやんか、キルト! 棚からぼた餅……いや、濡れ手に粟……?」
「まあ、とにかくだ。これで、キルトは完全に過去と決別出来たわけだ。魂の伴侶として、我はこの上ない喜びを感じているぞ」
「僕もさ、お姉ちゃん。あ、そうだ。みんな揃ってるし、新しいサモンギアのお披露目会しちゃおっか!」
だが、双子の努力によりキルトは無事左腕を取り戻すことが出来た。……そのために、一度死ぬ必要はあったが。
ルビィに祝福され、喜んでいたキルトは部屋に戻って新型のサモンギアとデッキホルダーを持ってくる。手の甲側が青、手のひら側が赤のツートンカラーになった少々派手なガントレットを、全員に見せびらかす。
「これはまた随分と派手だな、森の中にいても目立つぞこれは」
「でも、いいんじゃないかい? ノーマルモデルとニヴルヘイムモデル、両方の象徴って感じでさ」
「俺もそう思う。しかし、これほどまでに美しい篭手は見たことがない。実家に飾られている美品すら、これほど心を奪われることはなかったのに」
「フロスト博士の言う通り、二つのモデルをモチーフに塗装しなおしたからね。デッキホルダーの方は、リジェネレイトの有無で色が変わる仕様だけど」
ドルトやアリエル、ウォンたちが批評をするなかキルトはサモンギアとデッキホルダーを装着する。デッキは真紅の色をしており、中央には竜形態のルビィの横顔を模したエンブレムが刻まれていた。
「それじゃ、変身いくよ! みんな、よーく見ててね! お姉ちゃん、やろ!」
「ああ、みな見て驚くがいい。心機一転、新しく生まれ変わったサモンマスタードラクルを!」
『サモン・エンゲージ』
右腰に下げたデッキホルダーから『契約』のカードを取り出し、ガントレットに備え付けられたスロットに挿入する。そうして、キルトとルビィは一つに融合し……見慣れたサモンマスタードラクルの姿になった。
「なんだ、いつもと同じか。ま、新品らしい匂いはするがな。ククク」
「見た目は同じでも、強さはこれまでと段違いだよ。ヘルガさん、試してみない?」
「なんだ、そっちから誘うのか? ククク、いいな……たぎるぜ。じゃあ、たっぷりと相手してもらおうかな」
「なら、その次は俺と手合わせ願おう。いいかな、キルト」
「もちろん! なんなら、全員で相手してくれても」
「I see, then…… can you be my partner? kilt(そうか、なら……私の相手もしてもらえるかな? キルト)」
新しいサモンギアの力を試したくて仕方ないキルトは、自分からヘルガに試合を申し込む。ヘルガのみならず、ウォンもやる気を見せたその時。
アジトを守る結界をすり抜け、リビングにバイオンが姿を現す。ポータルから出現した強敵に、その場にいる全員が驚く。
「バイオン!? このアジトにはポータルキーがないと入れないはずなのにどうやって!」
「It's easy for me to infiltrate closed places. Besides, I heard that…… you've gained new powers and become stronger(私には容易いことだ、閉ざされた場所への潜入はね。それより…聞いたよ、新たな力を得て強くなったとね)」
のんびりした様子で答えつつ、己のデッキホルダーに手を伸ばすバイオン。彼はすでに知っている。キルトがリジェネレイトを果たしたことを。
「I was going to come earlier, but I know you're in a difficult situation. I waited until it was all over and I calmed dow(もっと早く来るつもりだったのだが、君が大変な状況だと知ってね。全てが終わって落ち着くまで、待っていたんだ)」
「そう……気を遣わせちゃったみたいで、なんだか悪いね」
「Never mind. I'm used to waiting. But I can't wait any longer. Come on, fight me. Show me all that power!(気にすることはない。待つのには馴れているからね。だが、もう待てない。さあ、私と戦ってくれ。その力の全てを見せてもらおうか!)」
「いいよ、もちろん。あの時のリベンジをさせてもらう。お姉ちゃん、やれるかな?」
『ああ、いつでもいいぞ。我もこやつに負けたままではいかんと思っていた。いい機会だ、屈辱を晴らしてやろう!』
かつて惨敗を喫した相手へのリベンジ。もはや憂いることなど何もないキルトとルビィは、闘志を燃やす。
「やれやれ、仕方ねえ。なら、先にヤらせてやるよ。その代わり、見応えのある戦いをしな」
「ついに来たわね、リベンジの瞬間が……!」
キルトとバイオン。二人が再び出会い……戦いが始まる。殺し合うためでなく、互いの強さを知るために。
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