179話─覇王バルステラ
「救う、ねぇ。やってみな、口だけで終わらせてやるよ!」
『キルト、気を付けろ。奴はもはや人にあらず。どれほどのパワーがあるか分からん、慎重に立ち回ろう』
「うん、イノシシのパワーは凄いからね。あいつもきっと、とんでもない膂力があるはず……」
大振りな片刃の曲刀を構え、バルステラは一気に地を蹴ってキルトに飛びかかる。その衝撃で玉座が粉々に砕け、破片が吹き飛ぶ。
人ならざる異形となり、人外の力を得たようだ。盾を構え、キルトはルビィのアドバイスに則り守りを固めるが……。
「ムダだぜ、そんなチャチぃ盾で! イノシシの魔獣となったオレ様の攻撃を防げるかよ!」
「うわぁっ!?」
「キルト!」
予想以上のパワーで振るわれた剣が直撃し、玉座の間の入り口まで吹き飛ばされてしまう。衝撃で扉が砕け、破片がキルトの上に降り注ぐ。
「ハッ、大したことねぇなぁ。ま、所詮はガキだ。オレ様のパワーに勝てる道理はねえよなぁ!」
「確かに、貴様の膂力はたいしたものだ。だが、スピードはどうかな!」
『ポールコマンド』
『シールドコマンド』
瓦礫に埋もれたキルトが復帰するまでの時間を稼ぐため、今度はルヴォイ一世がバルステラに挑む。先ほどの一撃を見ているため、回避を優先し攻撃を行う。
ハルバードを振るいつつ、目にもとまらない速度でバルステラの周囲を跳び回るルヴォイ一世。スピードで相手を攪乱し、隙を突く作戦だ。
「フン、確かにスピードはオレ様を上回ってはいるなぁ。だがな小僧、どんなに早くても……ダメージを与えられないんじゃ意味ないぜ!」
「くっ! こいつ、朕の攻撃がまるで効いていない!?」
「残念だなぁ、このローブの下に着てる鎧自体も頑丈だが……魔獣の肉体に変質したオレ様のボディはちょっとやそっとじゃ傷付かねえんだよ! ぬうん!」
「がはっ!」
ハルバードによる攻撃でローブはズタズタになったが、その下に着込んでいる鈍色の鎧は全く傷が付いていない。
相手のスタミナが消耗した頃を見計らい、バルステラはカウンターを叩き込む。凄まじい威力に、ルヴォイ一世の上半身と下半身が分かたれてしまう。
「おっと、いけねえ。ついうっかり殺しちまったぜ。これじゃあコレクションに──!?」
「……危なかった。あの子どもらに蘇生の力を貰っていなかったら、これで終わりだったな」
「本当、彼らには感謝しなきゃ。あのまま瓦礫に潰されて終わり、なんて洒落にならないからね」
「てめぇら、何がどうなってやがる……!?」
勢い余って獲物を殺してしまったことを残念がるバルステラだったが、彼の眼前であり得ないことが起きた。二つになった皇帝の身体が紫色の炎に包まれ、再び一つになったのだ。
同時に、瓦礫の中からも紫色の炎が吹き出しキルトが飛び出してくる。生き返った二人は、呆気に取られていたバルステラに渾身の一撃を放つ。
【カリバーコマンド】
「食らえ! コキュートススラッシャー!」
「その鎧ごと骨肉を断ってくれる! インペリアルストライク!」
「ぐうおおおっ! んの、これしきぃ……!」
曲剣を盾代わりにし、二人分の攻撃を受け止めるバルステラ。いくら膂力に優れていても、二対一では流石に分が悪いようだ。
少しずつ押されはじめるなか、バルステラは歯ぎしりをする。ここまできて負けられないと、全身に力を込めキルトたちを押し返す。
「冗談じゃねえ……人間やめて、ようやくここまで来たんだ! 負けるわけにゃあいかねえんだよ!」
『理解出来んな、何故貴様はそこまでして歪な存在を蒐集しようとする? 何のためにこんな真似をするのだ!』
「決まってるだろぉ? この世の全ての命をオレ様のモノにするんだよ! そのために受け入れたのさ、この『契約』の力を!」
ルビィの問いに答えながら、バルステラは以前の招集でタナトスに言われたことを思い出す。サモンギアのアップデートにより、授かった力。
『いいか、バルステラ。お前は大地の民を含むあらゆる生物を魔物と融合させ、本契約モンスターとして使役出来るようになった。サモンギアのバージョンアップによってな』
『ほー、そいつはありがてぇな。これでオレ様の楽園を作れるぜ』
『だが、代償がある。本契約モンスターを増やす度、お前はヒトではなくなっていく。最後には身も心も獣に成り果てる。そうならないよう、本契約の数はある程度のところで増やすのをやめるのだな』
第三世代機サモンギアになったことで生ずる、メリットとデメリット。その二つを天秤にかけ、バルステラは選んだ。
例え人ならざる存在に堕ちようとも、己の野望を達成する選択を。そうして彼はイノシシのような魔獣へと変貌し、王国をコレクションの収蔵庫へと変えた。
「オレ様は覇王だ! この大地の全てを支配し、あらゆる生物をコレクションしてやる! そのためにこの力を得た! 誰にも……邪魔はさせねえ!」
「くっ……ダメだ、奴に対抗しきれない! これだけのパワーでは……」
「諦めちゃダメだよ! 僕たちが負けたら、みんな不幸になっちゃう。そんなの、絶対に認められない!」
形勢が逆転し、今度はキルトたちが押し込まれる側に立たされる。ルヴォイ一世を励ますキルトを、バルステラはターゲットに選ぶ。
「そうかい、なら……まずはお前から倒れな! そうして、不幸を味わえ!」
「そうはいかない、今度こそ防いでやる!」
『サポートコマンド』
「おせぇ! 盾の補強なんざさせるわけねえだろうがよ! オラッ!」
「まずい……腕ごと持ってかれ……うあっ!」
「キルト!」
自動装填機能を使い、サポートカードで盾を強化しようと試みるキルト。だが、それよりも早くバルステラの怒りの一撃が炸裂する。
二度目の攻撃により、盾だけでなくサモンギアそのものである義手に致命的なダメージが与えられた。義手がひしゃげ、盾が歪み……機能の喪失も、時間の問題だ。
「くっ……でも、踏みとどまれた! 義手が完全に壊れる前に……バルステラ、お前を倒す!」
「フン、そうはさせねえ。二人仲良く地を舐めろ!」
『アルティメットコマンド』
『キルト、敵の奥義が来るぞ!』
心臓と融合したサモンギアを使い、バルステラはつばぜり合いをしたまま奥義を発動させる。覇王の頭上に、禍々しい黒い球体が出現した。
ドロドロしたタールのようなナニカが滴るソレが、ゆっくりとキルトとルヴォイ一世目掛けて降下していく。
「安心しな、オレ様の奥義……デッドリーエクスクラムを食らっても死にはしねえ。その代わり、一発でオレ様のコレクション入りだ! ヒャハハハ!」
「キルト、どうする!? 一旦退くか!?」
「ダメだ、退いてもすぐ飛びかかられて捕まるだけだよ! 二人だけじゃ逃げ切れない、何とかしないと……」
「ムダムダ、お友達はここに来ねえぜ。オレ様のコレクションたちの相手を……!?」
「いいえ、いるわよ。ここに二人!」
「もうあなたの好きにはさせません、バルステラ!」
つばぜり合いをやめて逃げても、すぐに捕まって直接球体に放り込まれるだけ。だが、逃げねば球体が直撃し負けてしまう。
どの道、もう勝ち目はないと思われたその時。気を失っていたエシェラとメルムが目を覚まし、キルトたちの背後に回り込んだ。そして……。
「てめぇら、どういうつもりだ! オレ様の奥義を妨害しやがって!」
「ふん、あんたを直接攻撃したりは出来ないけど……」
「こうやって、技を止めるくらいなら……! あなたの支配に抗って、実行出来るんです!」
『貴様ら……』
落下してくる球体を掴み、キルトたちへの直撃を防いだ。だが、その分彼女らの肉体が蝕まれていく。少しずつ身体がヒビ割れていくなか、双頭の巨人は叫ぶ。
「キルト、バルステラを仕留めて! あたしたちのことは気にしないで、とびきりの一撃をくれてやりなさい!」
「わたしたちも、長くは持ちません! だから、どうか……」
「……分かった、ありがとう。お姉ちゃん、フィリップさん! バルステラを倒すよ!」
『ああ、任せろ!』
「朕の命に代えても、彼女らの献身に報いてみせる!」
「ぐうっ、舐め……うおっ!?」
メルムたちもだが、キルトの義手も限界が近付いてきている。完全に壊れる前に、決着をつけなければならない。
ルヴォイ一世と協力し、バルステラを押し返し転倒させる。その隙を突き、二人同時に奥義を発動した。
【アルティメットコマンド】
『アルティメットコマンド』
「これで終わりだ、バルステラ! お姉ちゃん、お願い!」
『任せろ、奴の動き……我が封じてくれるわ!』
「来い、カイザレオンたちよ! 我らの宿敵を、今こそ葬る時!」
オーラとなったルビィがバルステラに襲いかかり、鎖となって地に縫い付ける。相手の動きを封じた瞬間、キルトは飛び上がる。
「食らえ! アウロラルスターシュート!」
「奥義……コンクエスタスタンピード!」
「ガルルァァァァ!!!」
ルヴォイ一世の背後に魔法陣が現れ、そこから大量の雌のカイザレオンたちが飛び出す。バルステラに突撃し、数の暴力で蹂躙する。
「ぐっ、がぁっ! クソが、あり得てたまるか……! オレ様は、まだ……」
「いいや、これで終わりだ! 野望と共に砕け散れぇぇぇぇぇぇ!!」
「地獄で罪を悔い改めろ! バルステラ!」
抵抗しようとするも、そこに雄のカイザレオンに乗ったルヴォイ一世の突進とキルトの跳び蹴りが炸裂する。二人の奥義を受け、ついに覇王は力尽き……崩れ落ち倒れた。
「負け、た……? このオレ様が……覇王バルステラが……こんな、奴ら……に……」
「そうさ、お前は負けたんだよ。命をもてあそんだ罪を、あの世で裁いてもらうがいいさ」
キルトに言い返そうとするも、それすら叶わずバルステラは事切れた。同時に、義手が砕けその役目を終える。
サモンマスターの姿でいられなくなり、変身が解除されるキルト。彼の側に寄り添い、ルビィは消えていく球体を見つめる。
覇王は倒れ、長きに渡って続いた戦乱が……幕を下ろす時が来た。




