178話─王都の決戦
合流を果たしたキルトたちは、そこからさらに三日をかけてウィズァーラ王国の首都……ゲールヴィアッセにたどり着いた。
街を囲む防壁は赤黒いイバラが絡み付いており、死臭を放っている。これまでの経験と己の勘から、ルヴォイ一世は二度目の計画変更を余儀なくされる。
「ここにいるメンバーだけで戦わせてもらう。普通の騎士たちでは、バルステラに従う異形たちを倒せない可能性が高いからな」
「僕もそう思う。彼らはバルステラの本契約モンスターだからね、サモンマスターとそれに準じる存在じゃないと攻撃も防御も通用しないんじゃないかな」
『ふむ、そうなると……こちらの九人とそちらの八人、計十七人が最大戦力というわけだ』
「へえ、オレを忘れてなかったんだな。ククク、お優しいこった」
『黙れ、駄犬め。ずっと寝ていたクセに偉そうにするでないわ』
道中ずっと部屋で寝ていたヘルガも含め、全員が変身を終えゲールヴィアッセの東門前に集結している。いざ門を開こうとした、その時。
「! 陛下、門がひとりでに開いて──!?」
「な、なんやこれ!? なんちゅう数の異形どもがひしめいとるんや!?」
「酷い……この国にはもう、まともな大地の民は残っていないのだろうな」
門がゆっくりと開き、街の中の景色がキルトたちの目に飛び込んでくる。……そこにあったのは、この世の地獄だった。
大通りや裏通りのみならず、家々の壁や屋根の上にまでひしめく異形の群れが一行を出迎えたのだ。キルトたちが言葉を失っていると……。
『よお、遅かったなぁ。待ってたぜ、お前たちが来るのをな』
「この声は……バルステラ!」
『さあ、オレ様の城に来やがれ。ただし、来ていいのはキルトにルヴォイ一世、お前らだけだ。残りはオレ様のコレクションと遊んでな!』
「あわわ、動き出すよ!」
『大丈夫だよめーちゃん、こんな時にはあのカードを!』
「あ、そうだね! みんな、死んでも平気なおまじないいっくよー!」
バルステラの叫びにより、それまで静止していた異形たちが一斉に動き出す。戦いの火蓋が切られるなか、サモンマスターダークサイドことメリッサが動く。
『リバイバルコマンド』
「うわっ! なんやこの炎……あら? 熱くない?」
「これはね、おとーさん直伝の蘇生の炎だよ!」
『一回だけなら死んでも生き返れるから安心して戦って! あと二枚あるから、死んじゃっても平気だよ!』
紫色の炎が描かれたカードの効果により、キルトたちの身体の中に蘇生の力が宿る。これで、準備は整った。決戦の始まりだ。
「僕たちはバルステラを討つ! みんな、絶対生き残ってね!」
「アルセナ、ミセラ、親衛隊たちよ! これは勅命だ、決して死ぬな!」
「ここはアタシたちに任せなさい! 行って、キルト! あのクソ野郎をぶち殺しなさい!」
「陛下こそ、どうかご無事で!」
直々に招待されたキルトとルヴォイ一世を無視し、残りのメンバーを襲う異形たち。仲間の無事を祈りつつ、二人は街の奥にそびえる城に向かう。
『着いたな、キルト。……嫌な場所だ、死の匂いに満ちている』
『ガルルゥゥ……!』
「カイザレオンも警戒しているな。一体、ここで何が行われていたんだ……?」
「一つだけ分かるよ。倫理に反するおぞましいことをやってたってことだけはね」
十数分後、バルステラの潜む城にたどり着くキルトたち。エントランスに入ると、街にいた時よりも濃い死臭が鼻をつく。
警戒しながら先に進み、玉座の間にたどり着く。扉を開け、中の様子を窺う。広い部屋の奥、巨大な玉座にバルステラが座っていた。
「よお、待ってたぜ。随分待たせ」
『サポートコマンド』
「たっ!」
「うるさい、お前みたいな外道なんかときく口は無いよ。ここで死ね、バルステラ!」
バルステラの口上を遮り、決戦のために新しく入れ替えたサポートカードを使うキルト。槍のような身体を持つイカのモンスター『ランスクィードル』を放ち、相手の仮面を貫く。
「初手で顔面狙いか。悪くない、むしろ奴相手ならいい判断だ。首と胴を切っても死なないのだから、顔を貫かれたくらいでは死ななかろう」
『うむ、むしろさっさと死なれては困る。奴にはたっぷりと制裁をしてやらねば気が済まんからな!』
ルヴォイ一世とルビィがそう口にする中、顔を貫かれたバルステラが動き出す。ランスクィードルを引っこ抜き、割れた仮面の欠片と共に払い捨てる。
「あーあ、素顔を見られちまったな。ま、いいさ。冥土の土産ってことでよ、オレ様の顔を……」
『ガトリングコマンド』
「拝みながら倒れな」
「お前、その顔……うわっと!」
かつてボルジェイが用いた、設置型のガトリング砲を呼び出すバルステラ。彼の素顔は、左目周辺を除きイノシシのソレになっていた。
放たれる弾丸の雨を避けつつ、キルトはどうにか敵に接近しようと試みる。だが……。
「オレ様一人じゃつまらないからよ、ゲストを呼んでやるぜ! たっぷり楽しみな!」
『アドベント・ツインレディ』
『アドベント・ディガストード』
サモンギアを用いる素振りも見せず、本契約モンスター二体を呼び出すバルステラ。かつての部下、ディガロだったキノコ人間と双頭の巨人が現れる。
「き、キルト……」
「逃げて……今のわたしたちは、バルステラ様に逆らえ……あぐっ!」
「余計な口をきく必要はねえ、あいつらを弱らせてこい。オレ様が『契約』出来るようにな!」
「……なるほど、一般人と違って僕たちサモンマスターはある程度弱ってないと本契約出来ないみたいだね。なら、やられなきゃいいだけだ!」
「そうだな、キルトよ。あのキノコ人間は朕が相手をしよう、もう片方は任せるぞ!」
無理矢理攻撃をさせられている二体の異形の相手をしつつ、どうにかバルステラに近付けばいいかを考えるキルト。
迂闊にカードを使えば、ディガロだったモノに無効化される恐れがある。異形に成り果てても、サモンマスターであることに変わりないのだ。
「オォ……死ニ、ヤセェ……」
「哀れな、もはや自我も残っていないか。なら、すぐに楽にしてや……くっ!」
「ヒャハハハ!! 避けろ避けろぉ、オレ様の攻撃に当たったらこいつらの仲間入りは確実だぜぇ!」
かつての精細さを欠いた、ノロノロとした体術でルヴォイ一世に挑むディガロ。彼の攻撃を難なく捌きつつ、反撃で倒そうとする皇帝。
それを阻むように、バルステラがガトリグ砲を向ける。相手をおちょくるように、わざと微妙に狙いを外して妨害を行う。
「面倒な……なら、一気に始末するのみ!」
『ポールコマンド』
「あっ、ダメだよ! 迂闊にカードを使ったら」
「ヒヒヒ……消エ、ナセェ」
『ロストコマンド』
「! 武器が……なるほど、傀儡に落ちても力は健在というわけだ」
「その通り! オレ様のコレクションの中でも自慢の逸品だからな! ヒャハハハ!!」
ルヴォイ一世はサモンカードを使い、ディガロを倒そうとする。キルトが止めようとするも、すでに遅かった。
ディガロもサモンカードを用い、召喚されたハルバードを消し去ってしまう。その様子を見て、異形の王は高笑いする。
「バルステラ! お前はなんでこんなことをする! 命をもてあそぶのはそんなに楽しいのか!」
「ああ、楽しいね。先代の王から、オレ様はいろんなことを学んだ。命ってのは、こうやって好き放題するもんだってな!」
『最低のゲスめ! 貴様ほど、吐き気のする悪は見たことがない!』
「悪? 違うな。オレ様も先代の王も、自分のやりたいことをやってるだけだ。あいつは魔女狩り、オレ様はコレクション集めと内容は違うがな」
己の所業を悪だとは微塵も思っていないようで、バルステラは平然とそう言い放つ。これには、流石のキルトもブチ切れた。
「そう、やっぱりお前は生きてちゃいけない奴だ。この世から消し去ってやる!」
『ああ、だがまずは……この頭でっかちを排除せねばな』
「うん、二人ともごめんね!」
「あぐっ!」
「ひうっ……」
バルステラの攻撃をかわしつつ、ツインレディに接近するキルト。みぞおちに拳を叩き込み、一撃で意識を刈り取り昏倒させた。
「ほお、やるじゃねえの。なら、オレ様が直接相手をしてやるよ」
『ソードコマンド』
「来い、お前なんかには負けない!」
【REGENERATE】
「ソウハ、サセネエデヤス……」
「おっと、二度目の妨害はさせんぞ!」
「ガハッ!」
ガトリング砲の操作をやめ、バルステラはキルトとの直接対決に望む。決戦に相応しい姿になろうとするキルトを、ディガロが妨害しようとする。
が、今度はルヴォイ一世が体当たりを叩き込んで阻止し、相手を床に押し倒す。その勢いのまま首をへし折り、トドメを刺した。
「そっちも終わったか。なら、二人纏めて遊んでやるぜ。オレ様のコレクションに加わりな!」
「そうはいかないよ、お前を倒して異形にされた人たちを……」
【Re:NIFLHEIMR MODEL】
「救う!」
氷の聖騎士へと姿を変え、キルトはバルステラを睨み付ける。ここからが、本当の戦いの始まりだ。




