177話─裏切り者たちのその後
キルトの中に宿るルビィの視線にビビりつつ、エシェラたちは話し出す。今から数ヶ月前、自分たちが死んだ後のことを。
『はい、おつかれ~。今日の血の池地獄の責め苦はおしまい。次はすり潰し地獄に行ってらっしゃ~い』
『うう、もうやだぁ……いつまでこんなことしなきゃいけないの……』
『もう死にたいです……あ、もう死んでるんでしたねわたしたち……』
牛や馬の頭部を持つ、筋骨隆々な獄卒たちにみはられながらエシェラたち亡者は様々な責め苦を受けていた。ある時は大釜で溶けるまで煮られ、ある時は焼けた金属の棒に縛られ延々雷を浴びせられ。
生前に罪を犯した者たちを裁く冥獄魔界の日々で、エシェラとメルムは憔悴しきっていた。そんなある日のこと……。
『え!? しゃ、釈放? それも、生き返らせてくれるって?』
『そうだよ、タナトスが君らを買ったんだ。この前買われてったゾルグみたいにね。他の亡者たちが聞いたら、嫉妬のあまり殺されちゃうね君たち』
冥獄魔界を支配する魔戒王、七罪同盟の一人リヴァイアサンに面会室に呼び出されたエシェラとメルム。二人に言い渡されたのは、釈放の一言だった。
『や、やりましたねエシェラ……! これでもう、わたしたちあんな拷問を受けなくて済むんですから!』
『うん、良かったぁ……フェルシュには悪いけど、第二の人生を謳歌し』
『あ、それは無理かな。だって君たち、サモンマスターにするために買われたんだもん。前のゾルグみたいに、無残に死んで出戻るのがオチだよ。こんな感じに』
生き返れることを喜ぶ二人に、リヴァイアサンはニコニコ笑いながら現実を突き付ける。ついでに、魔法の鏡を使ってゾルグの最期を見せ付けた。
『食らえゾルグ! 僕と……』
『我の怒りの奥義! その身で食らい果てるがよいわ!』
『バーニングジャッジメント!』
『ぐっ……ぎゃあああああああ!!!』
『ひいっ! あ、あたしたちもこんな風にやり返されるの……? そのサモンマスターってのになったら』
『こんなことをされても、文句は言えない身だけど……嫌、ゾルグみたいな死に方はしたくないです!』
元仲間の最期を見て、二人はブルブル震える。が、はいそうですかというわけにもいかない。すでに迎えが来ており、面会室に入ってくる。
『やあ、タナトス。お望みの二人を用意したよ』
『わざわざ済まない、王よ。これは約束の代金だ、納めていただきたい』
『はいはい、相変わらずお金持ちで羨ましいね。じゃあ、僕はこれで。他にも仕事があるから』
やって来たタナトスから二人の購入代を受け取り、リヴァイアサンは去って行った。エシェラたちが口を開こうとした瞬間、景色が変わる。
タナトスが転移魔法を使い、理術研究院へ二人を連れてきたのだ。早速、二人にサモンギアを渡そうとするが……。
『話は聞いているだろう? このサモンギアを』
『待って! 嫌よ、あたしたちはサモンマスターになんかならないからね! ゾルグみたいに死ぬのはごめんなの!』
『サモンマスターになる以外のことなら、なんでもやります! ですからどうか、お願いです!』
『ふむ。サモンマスターになりたくない、と。いいだろう、ならサモンマスターになる必要はない』
自分たちの懇願があっさり聞き入れられたことに、拍子抜けしつつ喜ぶエシェラとメルム。だが、それも次の瞬間には絶望に変わる。
『代わりに、お前たちにはサモンマスターと本契約をするモンスターとして扱わせてもらう。ちょうど、人型のモンスターが欲しかったところでね』
『!? そ、そんなのもっと嫌に決まってるじゃない! 冗談じゃないわ、逃げ──!?』
『か、身体が動かない……!?』
『金縛りの魔法をかけさせてもらった。安心しろ、丁度お前たちの主になるサモンマスターがここに来ている。すぐに引き渡すさ、第二の人生を彼……バルステラの元で楽しむがいい』
『い、いや……いやぁぁぁ!!!』
動きを封じられた二人は、タナトスによってバルステラに引き渡された。そして……彼の『契約』により、身長八メートルの双頭の巨人にされてしまったのだ。
『なるほど、話は分かった。実に小悪党に相応しい、因果応報な話だった』
「辛辣だねぇ、ルビィさんは。でもまあ、ボクも自業自得だとは思うけど」
「う……それを言われると、何も言い返せない……です」
話を聞き終えたルビィとプリミシアにバッサリ切られ、バツが悪そうな顔をするメルムたち。そんな彼女らに、キルトは静かに問う。
かつて自分に行ったことを、心から反省しているかと。その問いに、双頭を何度も縦に振り二人は反省したとアピールする。
「あたしたち、死んでからやっと気付いた。あんたに酷いことしちゃったって。ごめん、キルト。今更謝ったって許してもらえるわけないけど……」
「それでも、わたしたちはそれしか出来ないんです。バルステラの傀儡に落ちぶれたわたしたちには……」
「……ねえ。バルステラを倒せば、二人は元に戻れるの? 場合によっては、真っ当に生きられるチャンスをあげるけど」
「え……?」
しおらしい二人を見て、キルトはそう口にする。かつての恨みはあるが、それ以上に今のメルムたちの痛々しい姿をみていたくなかった。
彼女らは死後、十分に罰を受け苦しんだ。その上で反省しているなら、許してあげるべきだとキルトは考えたのだ。
『よいのか、キルト。こやつらを助けて』
「うん、もし反省したのが嘘だったならお姉ちゃんとエヴァちゃん先輩で好きにしちゃっていいわけだし? ちゃんと反省してるなら、元に戻してあげなきゃ」
「さりげなく恐ろしいこと言うのな、ボウズ」
モートロンの呟きを聞こえないフリしつつ、キルトはエシェラとメルムの反応を窺う。二人は少しの間ボケッとしていたが、言葉の意味を理解し感謝しはじめる。
「い、いいの? あんたを追放して、大切なものを奪おうとしたのに……そんなあたしたちを、許してくれるの?」
「ありがとう、ございます……。キルト……くん、本当に……」
『まあ、キルトが決めたことなら反対はしない。貴様らの反省が上っ面だけのものなら、我がもう一度冥獄魔界とやらに送るだけだからな』
「し、してますしてます! フェルシュやゾルグは逆恨みしていたけど、わたしたちはそんなことしません!」
「そんな暇なかったもんね……二十四時間ずっと拷問されてたんだもん」
必死に弁明した後、二人はキルトたちの元にやって来たもう一つの理由を話す。バルステラがゲールヴィアッセで待っていると聞き、キルトはやる気を見せる。
「ふぅん、逃げずに待ってるんだ。なら、すぐに向かわなきゃね」
「気を付けて、あの街は……いえ、ゲールヴィアッセだけじゃない。この国は全部、わたしたちのような異形たちがひしめいているの」
「バルステラはあたしたちや国民を『コレクション』にして楽しんでる。あいつを放っておいたら、この大地に住む民全員が異形にされちゃうわ」
『なるほど、バルステラの目的はそれか。実にくだらぬ、唾棄すべき野望だな』
「お願い、バルステラを止めて。ゲールヴィアッセにあるあいつの本体を滅ぼせば、異形たちはみんな元に戻れるはずだから。頼んだわよ、キルト……」
そう言い残し、ツインレディは来た時と同じようにテレポートで姿を消した。残されたキルトたちは、アジトに戻り仲間にこの話を聞かせる。
「酷い話やな、バルステラのバカタレはウチらが思っとったよりかなりの外道やで」
「これは急がねばなるまい、早急に覇王を討たねば奴の野望が達成されてしまうぞ」
「うん、そんなのは許せない。だから、ここからは今まで以上にスピードを上げていくよ。みんなで交代して、昼夜問わず西に進むんだ!」
アスカとフィリールの言葉に頷きつつ、キルトは仲間たちに告げる。反対する者は一人もおらず、その日から強行軍が始まった。
そのおかげで、八日後には合流地点であるリヴェールヘズンの街に到着した。異形たちを死に還しつつ、待つこと二日……。
「済まない、道中異形の者たちに襲われてな。到着が予定より遅れてしまった」
「大丈夫、まだ時間はあ……随分少ないね、八人しかいないの?」
「流石に全軍では期日内に到着するのは無理だからな、現地で軍を呼び出すことにした。……では、行こうか。ゲールヴィアッセに」
「うん。バルステラを倒して、ふざけた野望を徹底的に砕いてやらなきゃね」
ついに、ルヴォイ一世たちが到着し合流することが出来た。第一次メソ=トルキア大戦の終戦が、少しずつ近付いてきていた。




