176話─忌むべき再会
翌日、認識阻害の魔法をかけて茂みに隠しておいたポータルキーを回収したプリミシアが西進のトップバッターを務めていた。
モートロンを駆り、野山を突き進んで合流ポイントであるリヴェールヘズンを目指す。その途中、当然のように異形たちが現れるが……。
「オォ……アァッ!?」
「ごめんね、先を急いでるからゆっくり相手してられないんだ。その代わり、確実に仕留めてあげるから……ゆっくり眠ってね」
「見れば見るほど胸くそ悪いぜ、なあプリミシア。あんなのを造るような性悪野郎、早いとこぶっ潰してやらねえとな」
時間の猶予が無い以上、いちいち足を止めて戦っている暇はない。そこで、キルトが資材をかき集めて作ったある装置を使い仕留めていく。
モートロンのサイドカーに搭載された、魔力によって生成される小型の魔導追尾ミサイル発射装置を使っているのだ。
「しかし、こいつは凄いもんだ。あのボウズ、こんなもんまで作れるたぁ地頭の出来が大違いだな、え? プリミシア」
「なんだい、遠回しにボクがバカだって言いたいのかい? 悪かったね、キルトくんみたいに……ん、そろそろ魔力を補給しなきゃ。ポーションをっと……グビッ」
ミサイルの威力は凄まじく、一発で数体の異形を葬ることが出来る。……のだが、その分魔力の消耗もバカにならない。
モートロンやプリミシア単体では供給が間に合わず、十分おきにポーションで魔力を補給しながらでないとすぐガス欠になってしまうのだ。
「ふう、エヴァちゃんに感謝しないとね。彼女のポータルがなかったら、大量のポーションなんてすぐに用意出来ないし」
「だな。……にしても、妙だとは思わねえか? 敵の中枢に近付いてってるのに、迎撃の手が緩いぜ」
「うん、それはボクも思ってた。なんていうか、本気で邪魔しに来てる感が無いんだよね。なんのつもりなんだか……」
そんなこんなで、異形たちを退け順調に先へ進んでいたが……。プリミシアとモートロンは、違和感を抱いていた。
異形のモンスターたちは襲ってこそくるが、まともに妨害しているような素振りを見せていない。どこかやる気が無いのだ。
「俺たちを調子付かせて先に行かせるのが目的なのかねえ? 待ち伏せして全員でフルボッコ、てな具合によ」
「その可能性もあるね。この装置を使い続けるのも大変だし、一人出てきてもらってもいいかも」
罠の可能性を考慮しつつ、二人は先に進む。しばらくして、プリミシアは森の端にモートロンを停める。ポーションの飲み過ぎで催してきたのだ。
「ちょっとトイレ! モートロン、異形モンスターが来ないか見張ってて。覗いたら怒るからね?」
「言われなくても、他人がションベンしてるとこなんて見ないっつの」
「下品な……ま、いいや。すぐ戻るから待ってて」
森の中に分け入り、用を足すプリミシア。一息ついた後、モートロンの元に戻り少し休憩する。ポータルキーを取り出そうとした、その時。
何者かが近付いてくる気配を察知し、プリミシアはデッキホルダーに手を伸ばす。ブレイブコマンドのカードを抜こうとすると……。
「ま、待って! あたしたちは戦いに来たんじゃないの! だから落ち着いて? ね? ね?」
「お願いです……わたしたちを信じてください……」
「う……これまた強烈なのが来たな。だが、これまでに会った異形よりは自我がしっかりしてるみたいだ」
「うん、こんなにハキハキ喋れるのには初めて会ったよ」
二人の目の前に、ツインレディがテレポートしてくる。多少マイルドではあるが、双頭という異形を前に少し引き気味だ。
そんなプリミシアたちに、ツインレディは懇願する。キルトに会わせてほしい、と。
「キルトくんに? 君たち、彼の知り合いなのかい?」
「知り合い、というか……元仲間なんだけど……」
「いろいろあって……その、ね……」
プリミシアに問われるも、ツインレディを構成するエシェラとメルムははっきり答えない。というより、答えられるわけがなかった。
かつて他の仲間と共謀してキルトを追放したばかりか、サモンギアを奪おうとしたなどと知られたらその場で処刑されるだろうことは明白なのだから。
「その、とにかくキルトに会いたいの! お願い、ここに連れてきて!」
「あなたがキルトの『今の』仲間だってことは、バルステラ……様から聞いてるわ。だから……」
「だとよ。どうする、プ……ロコモート。こいつら信用していいのか? 俺はキナ臭くって仕方ねえんだが。追い返した方がいいんじゃないか?」
「ボクもそう思うけど……でも、彼女らが本当のことを言ってるかキルトくんに聞かないと分かんないし。とりあえず呼んでみるよ」
明らかに怪しいツインレディを信用せず、さっさと追い返してしまうべきと主張するモートロン。一方のプリミシアは、事実確認が優先だと述べる。
キルトなら余程油断しない限り何があっても大丈夫だろうと、モートロンはそう考え相棒のやり方に従う。ポータルキーを使い、キルトとやりとりが行われる。
「あー、キルトくん? 休んでるところ悪いんだけどさ、ルビィさんと一緒に来てくれないかな? 君に会いたいって人……人? が来ててさ」
『分かった、すぐ行くね。お姉ちゃん、呼ばれたから外に行くよ』
『ん、了解した』
アジトにいるキルトは、プリミシアの要請を受けて外に出てくる。そうして彼が目にしたのは、変わり果てた姿になってかつての仲間たちだった。
「! お前たちは……」
「ひ、久しぶり……キルト、元気してた?」
「ま、また会えてうれ……ひっ!」
「貴様らがエシェラとメルム……だったか? よく我の前に姿を見せられたな、以前屠ったゾルグのようになりに来たのか?」
固まるキルトを背に庇い、ルビィが殺意のこもった視線と言葉をツインレディに叩き付ける。事前に用を足していなかったら、プリミシアはあまりの迫力に漏らしていただろう。
「ず、ずいぶん怒ってるけど……何かあったのかな? 彼女らと」
「詳細は端折るが、こやつらはキルトを裏切り捨てたゴミどもだ。とうの昔にくたばったはずだが、バルステラの傀儡にされていたとはな」
「……今更、何の用なのかな。二人と話すことなんてないよ、帰るね」
「ま、待って! お願い、あの時のことは謝るから! だから話だけでも聞いて!」
「本当にごめんなさい、キルト。今更謝っても意味はないって分かっているけれど……謝罪はさせてほしいの」
氷のように冷たい声でそう告げ、キルトはアジトに戻ろうとする。が、そんな彼に縋り付くようにツインレディは土下座をし、二つの頭を地に擦り付ける。
あまりにも必死なその姿を、冷え切った視線で見下ろすキルトとルビィ。プリミシアとモートロンがオロオロするなか、キルトが口を開く。
「……いいよ、話は聞いてあげる。ただし……」
『サモン・エンゲージ』
『少しでも怪しい挙動をした瞬間、消し炭にしてやる。それだけはよく心に刻め、いいな?』
「は、はいぃ……」
「肝に銘じておきますぅ……」
サモンマスタードラクルに変身したキルトとルビィに凄まれ、エシェラとメルムは壊れたように何度も首を縦に振る。
少しして、キルトに促されたツインレディが話し出す。自分たちに起きた事の顛末について。
「あの日、キルトを嵌めようとして逃げられた後……しばらくして、あたしたちは七罪同盟を名乗る奴らに襲われたの」
「知ってるよ、エシェラとゾルグは殺されてメルムとシュルムは公開処刑されたんだよね。コリンさんから聞いたよ、詳細を」
「そう……わたしたちは死んだわ。……でも、それで終わりじゃなかった。死んでなお、生前の罪を償うために苛烈な責め苦を味わわされたわ」
キルトたちに、エシェラとメルムは語る。死後、自分たちの身に起きた出来事を。




