173話─旅路を阻む者
一日休んでリフレッシュした後、キルトはルビィと共に紅壁の長城を発った。いつも通り、後ろから抱き締めてもらうスタイルだ。
「さぁて、急いで進まないとね。ゼギンデーザ騎士団はどこまで進んでるかな?」
「我らと違って大所帯だからな、こちらの十分の一程度の進軍速度しかないと思っておいていいだろう」
「だね、あんまり遅いのも困るけど……まあそこはあっちでどうにかするか」
何故キルトとルビィだけで移動しているのか。その理由は単純、二人旅の方が必要な荷物が少なく済み早く移動出来るからだ。
他のメンバーは決戦に備え、アジトでゆっくりとくつろいでいる。キルトたちも、休憩する時にはアジトに移動すればいいので野宿いらずで楽な旅だ。
「今日は雲一つないな。これなら遠くまで……む!」
「お姉ちゃん、どうしたの?」
「遙か西から何かが来る。気を付けろ、キルト。我らの動向を知るためにバルステラが何か送り込んできたのやもしれぬ」
「そういうことなら、今のうちに変身しちゃおうか」
『サモン・エンゲージ』
エルダードラゴンの視力を活かし、遠くをチェックしながら先へ進んでいたルビィ。そんななか、キルトの視界に映らない遠方に何かを見つけた。
敵の可能性もあるため、戦闘に発展してもいいようにと変身を行うキルト。そのまま突き進み、ルビィが見つけたモノへと近付く。
「あ、見えてき──!? な、なにあれ!? モンスター……なの?」
『分からん……だが一つだけ言える。アレは間違いなくバルステラが造り出したモノだと』
「ギィ……アァァ……」
キルトたちの前に現れたのは、一羽の巨大な鳥だった。……中途半端に人間と融合し、かすれた呻き声をあげているが。
胸の部分に血の涙を流す人の顔が貼り付けられ、両脚が人間の腕になっている異様な姿を見てキルトとルビィは鳥肌が立つ。
『あまりにもおぞましく、それでいて痛々しい……。バルステラめ、まさか全ての大地の民をあんな怪物にしてしまうつもりか?』
「アァ……ソウダァ。アノオ方ハァ……全テヲ、支配ィィィ……」
「ひいっ!? しゃ、喋った! 怖い……おしっこ漏れそうだよ」
鳥の胸部に貼り付けられた顔から、不意にハッキリとした言語が発せられる。理性など残っていないと思っていたキルトは、仰天して墜落しそうになる。
「君、何があったの? どうしてそんな姿に?」
「バルステラサマハァ……我ラト契約シィィ……新シイ力ヲ……授ケ……アァ、アァァ……!!」
『キルト、あやつ様子がおかしいぞ。いっそ無視して、このまま先に』
「……サナイィ。オ前タチハァァァ、コノ先ニハ通サナイゾォォォォ!!!」
キルトに問われ、怪鳥は答える……が、途中からあからさまに様子がおかしくなる。嫌な予感を覚えたルビィが、スルーして先に進もうと言おうとしたその時。
翼を広げ、怪鳥がキルト目掛けて突撃してきた。赤い翼を炎で包み、目の前の敵を燃やし尽くさんと攻撃を仕掛ける。
「うわっ! ダメだ、多分バルステラに精神をいじられてる! これじゃ話が出来ないよ!」
『可哀想だが、楽にしてやるのが一番だろう。あんな姿でバルステラのいいようにされているよりはな……』
「そうだね、出来れば元に戻してあげたいけど……方法があるか分からないもんね。ごめんね、鳥さん……」
【REGENERATE】
【Re:NIFLHEIMR MODEL】
相手が炎ならこちらは氷だと、キルトはリジェネレイトを果たす。炎の翼をかわし、怪鳥の背後に回り込みながらカードをスロットインする。
【カリバーコマンド】
「さあ、その翼を切り落としてやる! コキュートススラッシャー!」
「オォ……アアァッ!」
まずは相手の右翼を両断せんと、Uターンして刃を振るうキルト。が、怪鳥はその場で真上に飛翔して攻撃から逃れてみせた。
キルトの頭上に移動し、脚代わりの人の手を広げ指を鋭い爪に変化させる。素早く急降下し、爪による反撃を叩き込もうとする。
「イァァァァ!!!」
「っと、そんなの当たらない! ヘイルシールドで防いでやる!」
急降下攻撃を盾で防ぎ、相手の体重を利用して受け流すキルト。バランスを崩した怪鳥の右翼を攻撃し、根元から切り落とす。
「てえい!」
「ギァァァ!!」
『いいぞキルト、このまま一気に……ん? この羽音……他にもいるのか!?』
「アァァァ……!!」
「ギィヤァァァ!!」
「クァ……アァァ……」
「追加で三羽も!? まずいな、これはちょっと処理しきれないかも……」
あとはこのまま、アルティメットコマンドを使ってトドメを……と思っていたキルト。だが、そんな彼の元に別の羽音が複数近付く。
別の個体が異変を察知し、仲間の救援にやって来たのだ。流石のキルトでも、四羽を同時に相手取るのは少々骨が折れる。そこで……。
「アスカちゃん、来て! バルステラの刺客を一緒に倒してちょうだい!」
「っしゃ、ウチに任しとき!」
ポータルキーを使い、アスカを援軍として呼び出すキルト。アジトに備え付けられている魔法の水晶を使い、様子を見ていたアスカはすでにリジェネレイト体になっていた。
「うー、直に見ると余計キモいでこいつら。でも、無理矢理こんな姿にされたって思うと可哀想やな……」
「ギュィィ……死ネッ!」
「っと、そういう口悪いんはシバいたるで!」
【シュートコマンド】
白銀の輝きを放つバックパックを装着し、ジェット噴射で浮遊しながらアスカはそう口にする。そんな彼女に、新たに現れた怪鳥の一羽が突撃する。
攻撃を軽く避けた後、アスカはサモンカードをスラッシュして大砲を呼び出す。横にスライド移動しながら狙いを定め、引き金を引く。
「いくで、ファイア!」
「ガギィッ!」
「いいぞー、アスカちゃん! 僕も負けてられない、さっきのを仕留めないと!」
『ああ、その意気だキルト! あの鳥どもを、バルステラの傀儡から解放してやるのだ!』
アスカの砲撃を食らい、増援に現れた一羽が炎に包まれ墜落していく。その勢いに続けと、キルトも先ほど攻撃した個体に再度斬撃を放ちトドメを刺す。
「ギィ……ァ……アリ、ガトウ……。ヤット、死ネル……」
「! 鳥さん……」
『やはり、バルステラに無理矢理モンスターと融合させられているのか……。哀れなものだ、この者らに罪など無いのに』
左の翼も斬られ、遙か下の地表へ落ちていく怪鳥。その最中、キルトに向かってそう口にする。鳥の胸部に貼り付けられた顔に微笑みを浮かべ、満足そうに消えていく。
そんな怪鳥をキルトの中で見ながら、ルビィはやるせない口調で呟く。同時に、バルステラに対する怒りが沸々と湧き上がる。
「バルステラ……許さない! 何の権利があって、こんな酷いことをするんだ! ボルジェイ並みの……いや、それ以上の外道だよあいつは!」
「ウチもそう思うわ、こんなんウチへの仕打ち以上の酷さやで。ホンマ、胸クソ悪くなるわ!」
バルステラの討伐を改めて心の中で誓いつつ、キルトとアスカは怪鳥たちを仕留めんと攻撃を続ける。しばらくして、怪鳥たちは疲弊し動きが鈍る。
『キルト、奴らは疲れて飛行速度が落ちている。奥義を放つチャンスだ!』
「うん、これで終わりにしよう!」
【アルティメットコマンド】
「よっしゃ、ウチもやったるで! アステロアグル、力貸してぇな!」
『ウィーンガシャッ!』
【アルティメットコマンド】
キルトとアスカは同時にカードを発動し、奥義を放つ体勢に入る。それぞれのパートナーをオーラに変えて、怪鳥に目掛け射出した。
疲れもあるが、死による解放を望む怪鳥たちは動くことなくオーラを受ける。その姿には、涙を誘う哀愁が漂っていた。
「これで、楽にしてあげる。……アウロラルスターシュート!」
「なるべく痛くせぇへんから、安らかに成仏してな。いくで、スカイフォールエンドライバー!」
「アァ……ヤット、楽ニナレル……」
「死ナセテクレテ、アリガトウ……」
二羽の怪鳥は、キルトとアスカのキックを受け爆散する。望まぬ異形へ変えられ、無理矢理使役される人生からの解放を喜びながら。
『……終わったな。なんともやるせない戦いだった……』
「うん……。なんだろう、凄く虚しいよ……いろんな意味で、しんどくて嫌になっちゃう」
「キルト、少しアジトで休みぃ。代わりにウチが距離稼いだるさかいな。今のあんたには休息が必要や」
『そうだな、アスカの言う通りだ。少し心を落ち着けよう、そうしないと壊れてしまうぞ』
「分かった。ありがとね、アスカちゃん」
バルステラの所業にショックを受けているキルトを気遣い、彼が回復するまでアスカが西へと向かうことに。ポータルキーを使い、キルトはアジトへ戻った。
「……ホンマ、許せへん。覇王バルステラ……なに考えてるのかは知らへんけど、こないなことしてタダで済むと思わへん方がええで!」
怒りの呟きを口にした後、アスカはバックパックを使い高速で飛んでいく。かつての自分を怪鳥たちに重ね……義憤に駆られながら。




