171話─竜騎士と皇帝の同盟
「……っし、とりあえずこれで街の中と外を安全に行き来出来るようになったわ。はー、疲れた」
「恩に着る、エヴァンジェリン殿。おかげで、万が一の時に民が別の街に退避出来るようになった」
バルステラの策略を阻止するため、一時休戦し共闘することとなったキルトとルヴォイ一世。ウィズァーラ王国に向かう前に、一つやることがあった。
マルヴァラーツの民が内と外を行き来出来るようにと、エヴァがポータルを街の内外、計八カ所に設置して回ってきたのだ。
「キルトー、悪いけどアタシ先にアジト行ってるからね。ポータルの半永久的存続処理って、かなり魔力使うのよね……もークタクタよ」
「ありがとね、エヴァちゃん先輩。こっちの事は気にしないで、ゆっくり休んで」
皇帝とキルトに礼を言われた後、エヴァは疲れを取るためポータルキーを使いアジトに戻った。すでに帝都を囲む結界は解除されており、いつでも自由にアジトと外の往復が可能だ。
「うあー、おかえりやでウチのサモンギア~! もう手放さへんで~!」
「やれやれ、一時はどうなることかと思ったが……無事に返却されてよかった」
コロシアムにウォンたちのサモンギアとデッキホルダーが運び込まれ、元の持ち主に返却される。これで彼らも、元通り戦えるようになった。
作戦を話し合った結果、キルトたちGOSは紅壁の長城から、ルヴォイ一世率いるゼギンデーザ軍は帝国南西の国境から。
それぞれのルートでウィズァーラ王国に侵攻し、東部にある大都市リヴェールヘズンにて合流。その後、一気に王都へ攻め込むことに決まった。
「奴はパイプの起動に一ヶ月かかると言っていたが、朕たちを油断させるためのブラフの可能性が高い。モタモタせず、短期間で決着をつけねば」
「我らの方は身軽だが、お前の方はどうなんだ? 大所帯では迅速な移動など出来まい」
「問題はない、竜の乙女よ。我が国に属する魔術師たちは優秀でな、大規模な転移魔法で国境まではひとっ飛びで行ける。そこからの進軍は自力になるがな」
「なるほど。ま、精々遅れぬようにすることだ」
ルビィとそんなやり取りをした後、皇帝は控え室にいるアルセナの元へ向かう。キルトたちもコロシアムに留まる理由がなくなり、アジトへ戻る。
「あ、そういえば一緒に出てきた将軍さんとかはどうなったの?」
「大丈夫、みんな死んでないよ。ウォンが生きてるか聞き出すために峰打ちで済ませたから」
「そっか、ならよかった。殺しちゃってたら、多分共闘出来なくて三つ巴の戦いになってただろうし」
「それは……想像したくないなあ」
ガリバルディや親衛隊の生死について聞かれ、答えるプリミシア。一応生きてはいることを知り、ホッと安堵の息を漏らすキルト。
急がば回れ、気持ちばかり焦って事を進めてもロクなことにならない。一旦アジトに帰り、エヴァのように休息を取ることにした。
一方、紅壁の長城では……。
「バリスタを発射せよ! 敵を防衛ラインの内側に入れるな!」
「ハッ! バリスタ隊、用意! てー!」
「んじゃ、私は空から潰しに行くかなー。ドルトー、援護よろしくぅ」
「ああ、任せろ。お前には当てん、そこは安心しておけ」
何度目かのウィズァーラ軍の侵攻を、駐屯している騎士団とサモンマスターたちが迎撃している真っ最中だった。
今は亡き兄、グラインの後継としてフィリールが指揮を執るなか、ドルトやアリエル、双子たちが変身して出撃していく。
『サモン・エンゲージ』
「さあて、大暴れしちゃうよー! フラウラピル、また力を貸してもらうからね!」
『はいはい、やればいいんでしょやれば。あーあ、戦うのってめんどーい』
半人半鳥、ハーピィの姿になったアリエルが真っ先に出撃する。デッキに宿るハーピィ、フラウラピルとやり取りしつつ上空から敵の軍勢を襲う。
『ダーツコマンド』
「ハロー、ウィズァーラ兵の諸君! 早速だけど死んでもらうよ! グラーニティレイン!」
「まずい、上から……ぎゃああ!」
翼になった両腕を広げ、上空から大量の羽根を降り注がせて敵軍を攻撃する。そこに、長城にいるドルトとバリスタの矢も加わり大きな被害が出る。
この時点でもう踏んだり蹴ったりだが、ウィズァーラ軍の悪夢はまだ終わらない。降り注ぐ羽根と矢の雨の中を、一人の少女が駆け抜けていく。
「そーれ! みーんなやっつけちゃうからねー!」
『たくさんやっつけて、ご褒美いっぱい貰っちゃうからね! いつでもいいよ、めーちゃん!』
「おっけー、それじゃあ殺っていこー☆」
『スピアコマンド』
「おまけにもう一枚! みんなー、仕事の時間だよー!」
『ネクロコマンド』
メリッサことサモンマスターダークサイドは、走りながら得物である槍を召喚する。さらに、無数のスケルトンが描かれたカードを追加で取り出しサモンギアに読み込ませた。
すると、彼女を護るように地面から無数のスケルトンが現れ併走しだす。その光景を見たウィズァーラ兵たちは、仰天して尻込みしてしまう。
「な、なんだぁ!? あのスケルトンどもは!?」
「冗談じゃねえ、上から攻められて大変だってのにあんな数のスケルトン相手してられへばっ!」
ものの数分でスケルトンの数が二桁になり、わらわらと増えていく。アリエルたちからの攻撃で、ただでさえ壊滅寸前なのにこれではオーバーキルも甚だしい。
が、そんなのは関係ないとばかりにメリッサはスケルトン軍団を従え敵に切り込む。槍を振るって騎士たちを薙ぎ倒し、命を奪っていく。
「そぉーれ、みんな吹っ飛べー! ダークレギル・スピア!」
「くっ、このガキなんつーパワー……あぎゃっ!」
「クソッ、スケルトンが壁になってるせいでこっちの砲撃が当たらねえ! ズルごはっ!」
ウィズァーラ軍の後方にいる象戦車隊がメリッサに狙いを付け、大砲を放つ。が、自律行動するスケルトンたちが盾となり主を砲撃から守る。
そのせいで攻撃が通じず、てこずっている間にアリエルやドルトの攻撃を受けて砲手が次々に倒されていく。トドメとばかりに、象が怯えて暴れ出し部隊としての機能を喪失してしまった。
「いい具合に押しているな。よし、私も加勢するとしよう。ずっと指揮ばかり執るのは私の性分に合わんからな!」
「何かあったら魔法石を使ってお知らせします。存分に暴れてきてください、フィリール様!」
「ああ、行ってくる!」
【REGENERATE】
【Re:SHADOW DANCER MODEL】
双眼鏡を使って仲間の奮戦っぷりを見ていたフィリールは、我慢出来なくなり自身も参戦することを決めた。リジェネレイトし、踊り子の姿になり戦場へと跳ぶ。
「さあ、舞うとしようか。皆の者、見るがいい! 我が美しく妖艶な……人生で最後に見ることになる舞いをな!」
【ツインドレスコマンド】
地面に落ちながら、フィリールはデッキから一枚のカードを取り出す。斜めに交差する二本の曲刀が描かれたカードを、サモンギアにかざし武器を召喚する。
紫色をベースに、三本の金色のラインが走る刃を持つ二振りの剣がフィリールの手元に現れた。柄を握り締め、舞姫はニヤリと笑う。
「さあ、この『デュアルムーンクレスト』で斬り刻んでやろう! 一人残らずな!」
『ゲキメツセヨ!』
「げえっ、敵の総大将まで来やがった! もう無理だ、こんな戦い勝てっこねえ!」
「もう命令違反なんて気にしちゃいられねえ! みんな逃げろぉぉぉぉぉ!!!」
元から凄まじい戦力を持つ相手が複数がかりで蹂躙しに来ているのに、そこにフィリールまで加わったとあってはもう戦闘の続行など不可能。
完全に戦意を喪失したウィズァーラ兵たちは、手にしている武器を捨ててクモの子を散らすように逃亡を始めた。
「逃がさん、何人か生け捕りにして情報を吐いてもらうぞ。残りは全て斬り捨てる、覚悟せよ!」
「!? い、いつの間に俺の前に回り込みやがったてめぇ!」
「悪あがきはよすんだな、大人しく捕まれば五体満足で牢に入れるぞ?」
「ふざけんな! そこをどきやがれ、俺は絶対に逃げ切ってやる!」
「そうか、残念だ。なら……足を貰おうか」
とある兵士に目を付け、凄まじい速度で進路に回り込むフィリール。降伏するよう告げるも、相手は聞く耳を持たず逃げようとする。
ならば仕方ないとため息をついた後、フィリールはゆっくりと円を描くように右足を動かす。直後、彼女の姿が消え……兵士は両足の膝から下を、永遠に失った。
「え? は? ……ぎゃああああ!! あ、足が! 俺の足がねぇぇぇぇ!!」
「悪いな、これも戦の習い。恨むなら、私の言葉に従わなかった自分を恨むのだな」
倒れ込みのたうち回る兵士の首根っこを掴んで引きずりながら、フィリールはそう口にする。こうして、彼女たちは無事長城を守り抜いたのだった。




