170話─バルステラ、動く
宙を漂う、のっぺらぼうの仮面を身に着けた生首と対峙するキルトとルヴォイ一世。観客たちがざわめくなか、バトルフィールドのド真ん中にポータルが現れる。
「あ、いたいた! もー、キルトったらどこに行ってんぎゃああああ!! な、生首が浮いてるぅぅ!」
「クックックックッ、ごきげんようだな闇の眷属の小娘。驚いたか? オレ様の姿によぉ」
それぞれの敵を撃破し、キルトに加勢しようとするも姿が見当たらず……。とりあえずポータルを使い、気配を追ってきたエヴァたち。
出てきた先で出会ったのが空飛ぶ生首とくれば、流石のエヴァも仰天してしまうのも無理はない。その後ろでは、顔だけポータルから出したプリミシアが絶句していた。
「え? え? なにあれ……えっキモっ、やだぁ……」
「まずい、ロコモートが素に戻りはじめているぞ」
「よっぽどショックだったんだね……って、そんなこと気にしてる場合じゃない! バルステラ、お前の狙いはなんだ!」
いきなりの生首にフリーズし、少しずつ素が出始めるプリミシア。彼女の心配をしつつ、キルトはバルステラに問う。
「ククク、決まってるだろぉ? こうやって敵国の中枢に入り込んだんだ……この時のための『仕込み』をしてきたんだぜ? ずっとなぁ!」
「!? じ、地面が揺れている……? 民よ、急いで簡易ワープマーカーを起動するのだ! 城の地下にある避難壕に逃げよ!」
「クハハ、もう遅いぜぇ。マグナパイプ、地中よりその姿を現せぇ!」
バルステラの言葉が発せられた直後、地面が揺れ始める。嫌な予感を覚えたルヴォイ一世が観客たちに向かって叫んだ、その刹那。
帝都マルヴァラーツを囲むように、地中から巨大な紫色のパイプ群が姿を現した。三重の円から構成されるパイプにより、帝都は外部と隔絶されてしまう。
「ふあっ!? なんやアレ、いきなり変なもんが出てきおったで!」
「グルルルル……! あいつはヤバいぜ、オレの本能が告げてやがる。あのパイプは、この世に存在しちゃあならねえものだってな」
「トムス将軍、あれを! 街の外に現れたアレは一体……?」
「よく分からないけど、ロクな代物じゃあないことだけは分かるよぉ。うん」
空に浮かぶ牢の中にいたアスカたちは、一足先にパイプの姿を見ることが出来た。アスカやウォン、トムスが驚くなかヘルガだけが唸り声をあげる。
獣人の持つ強い生存本能が告げているのだ。バルステラが呼び寄せたアレは、この世にあってはならない危険なモノなのだと。
「ゆ、揺れが収まった……?」
「バルステラ、一体何をした? 我が国を……民をどうするつもりだ!」
「クハハハ、そんなのは決まってるだろ? オレ様のコレクションに加えてやるのさ! ゼギンデーザの民も、デルトアの民も! 一人残らずこのサモンマスターコレクトのなぁ!」
「コレクションだと? まさか貴様、ディガロのように全ての民と本契約するつもりか!?」
狂ったように笑うバルステラの言葉に、ルビィは以前見た忌まわしい光景を思い出す。そして、相手の目的に気付いた。
「その通りだぜ、竜の女。この街を覆うパイプは地下深くを経由してヴィズァーラ王国の首都、ゲールヴィアッセと繋がっててなあ。そこから大量の魔力を流し込めば……ククククク」
「そんなこと、朕がさせると思うか? 今ここで貴様を滅ぼし、その野望砕いてくれる!」
「そいつぁ無理だな、若造。外のパイプは特殊なコーティングをしてあってな、無理矢理破壊しようとした瞬間ドカン! と爆発するぜ? この街が跡形も残らねえ大爆発が起きるんだ、見応えあるぞ」
「貴様……!」
「それに、パイプを起動させたのはこの街だけじゃねえ。デルトア帝国の首都、シェンメックでも同じように包囲網が完成してるのさ!」
抜かりないバルステラのやり方に、ルヴォイ一世は歯ぎしりをする。そんな彼やキルトに向かって、覇王はとんでもないことを口にした。
その瞬間、プリミシアはかつて逃走劇の最中にバルステラと鉢合わせた時のことを思い出す。あまりにも不審な彼の行動の真実を、たった今理解した。
「まさか、お前があの時デルトア帝国にいたのは!」
「そうさ、地下に張り巡らせたパイプの調整をして回ってたのさ。おかげでこうして、計画の三割を達成出来たぜ。ありがとなぁ! クハハハハ!」
「御託を並べるのはそこまでにしときなさい、話を聞いた以上あんたはここでぶっ殺す! エクスビートスピーク!」
愉快そうに笑うバルステラに痺れを切らし、エヴァが攻撃を仕掛ける。破壊音波が放たれ、宙を漂う生首を襲うが……。
「おっと、そう来るならコイツを盾にさせてもらうぜぇ」
『アドベント・ツインレディ』
「えっ、嘘……!? あの二人は……!」
どこからともなくサモンギアの発動音声が流れ、双頭の女巨人が召喚される。彼女らの顔に見覚えがあったキルトは、驚愕に目を見開く。
「どうした、キルト。あのおぞましい巨人を知っているのか?」
「知ってるよ、だって……あの二人は、僕の仲間だったから……勇者パーティーにいた頃の……」
「なに!?」
「ウグ……ああっ!」
「ハハハ、身代わりご苦労さん。んじゃ、オレ様は一旦帰らせてもらうぜ。パイプを作動させるまで一ヶ月かかるからなぁ、最終調整してくるからよ! クハハハハハ!」
かつての仲間、メルムとエシェラの変わり果てた姿を見てパニック寸前の状態になるキルト。彼の言葉を聞いたルビィとエヴァは、思わずフリーズしてしまう。
その隙に、バルステラは盾代わりにしたツインレディを送還し長距離テレポートの魔法を発動する。己がテリトリーである、ウィズァーラ王国へ戻っていった。
「……チッ、逃げられたか。民よ、落ち着いて聞くのだ! バルステラの野望は朕が打ち砕く! 諸君らを奴の好きにはさせない、どうか安心してくれ!」
一連のやり取りを聞き、恐慌状態に陥りかけている観客たちにルヴォイ一世はそう語りかける。彼の言葉を聞き、群衆は少しずつ落ち着きを取り戻す。
「陛下がああ仰られるなら……安心していい、のかな?」
「きっと大丈夫さ、陛下は強いから! きっと、あんな生首野郎なんてすぐとっちめてくれるよ!」
「そうね……怖いけど、ここで暴動なんて起こしたって何も解決しないし……」
ひとまず、パニックに陥った群衆が暴徒化することは避けられた。だが、本当の問題はここから。パイプを用いた侵略を阻止しなければならない。
「……キルトよ。朕から一つ提案がある、聞いてくれるか?」
「奇遇だね、僕も取り引きを持ちかけようと思ってたんだ。一時休戦して、バルステラと戦わない? 力を合わせてさ」
「無論、拒否する理由はない。このまま奴を野放しにしておけば、ゼギンデーザもデルトアも滅ぼされる。いや、滅べばマシな状態にされる。それだけは防がねばならない」
バルステラが本格的に動き出した以上、キルトとルヴォイ一世が戦っている場合ではない。それぞれの主張を一旦取り下げ、団結しなくてはならないのだ。
何せ、相手はサモンマスターすら己の本契約モンスターとして異形の存在に作り替え使役するのだ。力を合わせなければ、まず勝てない。
「君と共闘することになるとはな。人生、何が起こるか分からないものだ。……まずは君の仲間を解放しよう。全ての戦力を集結させねば」
「そうしてもらえると助かるよ。それにしても、バルステラ……あいつの使うサモンギア、一体どうなってるんだろ……」
サモンマスターの絶対のルールを覆す、数々のイレギュラーを抱えるバルステラ。不気味でおぞましい覇王の在り方に、キルトは戦慄を覚えるのだった。
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