169話─狩りの女神を打ち破れ!
「よし、出来た! ウチらの魔力をたっぷり注いでやったで!」
「ククッ、こいつでキルトが何をするか……見届けさせてもらうとするか。向こうの奴らも、見たがってるからな」
武器を失ったキルトが苦戦しているなか、アスカとヘルガはカードへの魔力充填を完了させた。別の牢に入れられているウォンたちとアイコンタクトを取りつつ、アスカは腕を鉄格子の外に出す。
「むぐぐ、肘辺りが限界やな。ウチの声は聞こえてへんやろうけど……受け取ってや、キルト! ウチとヘルガはんからの切り札を!」
音声遮断の結界により、声は聞こえていないと知っていてなおアスカは叫ぶ。腕を精いっぱい下に振り下ろし、キルトの元へカードを落とした。
「いいぞー! やれー、アルテミス!」
「あと少しだ! デルトア帝国の英雄を倒しちまえー!」
『フン、アウェーの地での戦いは肩身の狭いものだな。誰も我らを応援してくれぬのがこんなにも寂しいとは』
「そうだね……っと! もう、あんなカードを相手が持ってるって知ってたら武器タイプのサポートカード用意したのに!」
武器を奪われ、丸腰の状態で勝てるほどアルセナ……サモンマスターアルテミスは弱くない。盾のおかげで攻撃は防げるが、攻め手に欠け反撃に移れないのだ。
そんな状況下で、観客たちから飛んでくるヤジやブーイングがキルトの精神を追い詰める。少しずつ追い詰められていくなか、ルビィが降ってくるカードに気付く。
『キルト、上からなにか降ってくるぞ! あれは……サモンカードか?』
「ええっ!? もしそうなら、逆転の切り札になるかも! 絶対にキャッチしてやる……」
「そうはさせない、先に切り刻んでくれる!」
同じくカードに気付いたアルセナが跳躍し、鎌で切り裂こうとする。が、そこにキルトが突進して足首を掴み、地面に叩き付けて阻止した。
『今だ、跳べキルト!』
「うん、てやっ!」
「くっ、しまった!」
アルセナの妨害に成功したキルトは、観客たちのブーイングを浴びつつジャンプしてカードをキャッチする。素早く後退し、カードをスロットインした。
「さて、どのような展開になるか……見届けさせてもらおう、この戦いの行く末を」
その様子を見ていたルヴォイ一世は、小さな声で呟く。彼は見届けたいのだ。真にキルトが強き者なのかを。
【コピー・ストライクコマンド】
「これは……もしかして、アスカちゃんの武器?」
『だろうな、前に奴のリジェネレイト体を見せてもらった時にコレを使っていたからな。この武器があれば……』
「うん、サモンマスターアルテミスと戦える!」
コピーコマンドの効果が発動し、サモンマスターミスティ・エアソニックモデルの武器である『アステリオンアーム』が現れた。
右腕に篭手を装着し、キルトはアルセナと向かい合う。直後、アルセナはデッキホルダーから二枚目のスナッチコマンドのカードを取り出す。
「何度武器を得ようと同じこと。全て奪い消し去るのみ!」
「おっと、流石に同じ手は二度も通さないよ。ようやく使う時が来た……三枚目のカードをね!」
【フリーズコマンド】
そう叫びながら、キルトは素早くニヴルヘイムモデル第三のカードを取り出す。青白く輝く氷の結晶が描かれたカードをスロットインすると……。
「!? なんだ、ワタシのサモンギアとカードが……凍結した!?」
「これがフリーズコマンドの効果さ! 相手が発動しようとしたカードを無効化し、さらにサモンギアを一分間凍らせて使えなく出来るんだよ! 強力だけど一回しか使えないから、これまではタイミングを計ってるうちに使う機会逃しちゃってたけどね」
『満を持して使ってやったというわけだ。さあ、今のうちに決着を!』
「うん!」
アルセナの手にあるスナッチコマンドのカードと、指輪型のサモンギアが凍り付き動作を停止する。ここから一分間、彼女はサモンギアを使えない。
「なら……この『ホワイトアウトシックル』で直接仕留めるのみ!」
「負けない……アスカちゃんたちが届けてくれたこの武器で! 絶対に勝ってやる!」
アルティメットコマンドを使えないアルセナと、次戦に備え温存しておきたいキルト。理由は違えど、奥義を使わない二人は真正面からぶつかり合う。
獲物を狩る無慈悲な鎌が振りかぶられ、キルトに襲いかかる。それに対し、キルトは篭手に装着された刃を突き出しつばぜり合いに持ち込む。
「むうううう……!!!」
「ぐぬおおおお……!!!」
「頑張れ! 負けるなサモンマスターアルテミス!」
「そのまま押し込めー! 相手をやっつけろー!」
観客たちの声援を受け、アルセナは一歩踏み出す。そのままキルトを押し込んで体勢を崩し、一気に仕留めようと目論むが……。
「そう来ると思ったよ。だから……こうしてやる!」
「!? 刃を滑らせて……まずい!」
『これで終わりだ! この勝負、我と……』
「僕の勝ちだ!」
力押しで攻めてくるだろうと予測していたキルトは、相手の力を利用して刃を滑らせる。そうして攻撃を受け流し、アルセナの脇腹を切り裂いた。
「ワタシが、敗れるとは……。陛下、申し訳……あり、ません……」
「お、おい……マジかよ、サモンマスターアルテミスが……」
「ま、負けちゃった……!?」
白き装束を血に染め、アルセナは膝から崩れ落ち戦闘不能となる。その様子を見ていた観客たちがざわめくなか、ルヴォイ一世が立ち上がった。
それに気付いた観客たちが静まり返るなか、皇帝は跳躍しバトルフィールドに降り立つ。サモンマスターエンペラーに変身し、サモンカードを使う。
『ヒールコマンド』
「よく戦ってくれた、アルセナ。己を恥じることはない、ゆっくり休みといい」
「はい……」
「さて、サモンマスタードラクル……いや、キルト。見事な戦いであった、アルセナを打ち破ったその実力、讃えさせてもらおう」
愛する者の傷を癒やし、入退場口に向かわせた後ルヴォイ一世はキルトの方へ向き直る。一旦変身を解除した後、キルトも変身を解くよう促す。
「カードを消費した状態では万全な体勢とはなれまい。お互い全力の相手を倒さなければ、真なる勝利とは言えぬ。そうだろう?」
「そうだね、ありがたくリセットさせてもらうよ。……こうなるんだったら、アルティメットコマンド出し惜しみしなくてよかったな」
「今更言っても仕方あるまい。使わずとも勝てたのだ、それを喜び──!?」
変身が解かれ、姿を現したルビィ。愚痴るキルトにそう声をかけた直後……禍々しい気配の出現に、全身に鳥肌が立つ。
「なんだ、この気配は! 一体どこか」
「ハロー、サモンマスター並びにゼギンデーザ臣民の諸君~? オレ様が来てやったぜぇ~」
「貴様……バルステラ!? すでに首塚に葬ったお前が、何故生きている!?」
二日前、ピエリッテが持ち帰ってきたバルステラの首をルヴォイ一世は代々使われている敵国の戦士を葬る首塚に葬っていた。
……のだが、その首が突如としてバトルフィールドのド真ん中に現れたのだ。突然のことに、その場にいた全員が騒然としている。
「クハハ、決まってるだろ? オレ様はなぁ、全ての本契約モンスターが死なない限り滅びるこたぁねえのさ! お前たちとは根本から違うシステムを使ってるからな!」
「あり得ない……サモンマスターが死ねば本契約モンスターも死ぬし、逆もまたしかり。それがサモンギアの根幹を成す黄金ルールなんだよ!」
「だから言ってるだろ? オレ様はそこからして違うんだってな。ま、その違いを実現するために『代償』は支払ったがなぁ」
驚愕するキルトにそう答えつつ、バルステラは愉快そうに笑う。そして、この瞬間から……覇王の計画が始まるのだ。
あまりにもおぞましく、恐ろしい……世界征服作戦が胎動する。




