167話─二人の乙女、奮戦せり
「調子に乗るな、我らにも親衛隊の意地がある! なんとしてもここで倒させてもらうぞ!」
「フォーメーションC! スリーマンセルで奴を仕留めろ!」
半数が倒され、劣勢に追い込まれるレオナトルーパーズの面々。元々、彼女らは六人一チームで一人のサモンマスターに匹敵する存在。
一人でも欠ければ、途端に苦しい戦いを強いられることになってしまう。もっとも、相手がリジェネレイト体では十八人いても勝つのは難しいが。
「懲りないわね……ま、いいわ。安心しなさい、ウォンの安否を聞き出さなきゃいけないから殺しはしないから。死なない程度に痛め付けはするけどね! スパークリングシャウト!」
ギターを鳴らした結果、現在メーターの半分ほど魔力が貯まっている。エヴァはそれを全消費し、襲い来る親衛隊三人に向け新たな攻撃を放つ。
「な、なんだ? リングが黄色いぞ?」
「迂闊に近寄るな、戻れ! 触れたら何が起こるか分からないぞ!」
「残念、もう遅い! 弾けて痺れろ、ボルテクスミューズ!」
「なっ……ぐあああ!!」
先ほどとは違う、黄色く輝く音波がギターから放たれる。ゆっくりと近寄ってくるソレから離れようと、後退する親衛隊たち。
だが、少し遅かった。エヴァがギターを鳴らした直後、リングが弾け広範囲に拡散する電撃が放たれた。二人は直撃を免れたが、残る一人は電撃を浴び倒れる。
「あと二人ね。どうする、まだ続ける? 降参した方がいいと思うけど?」
「ふざけたことを! 例え最後の一人になろうが、陛下への忠誠を示すため……戦い続けるのみ!」
「そうとも! 我らはあのお方に一族をお許しいただいた! その恩に報いるためにも、降伏など絶対にしない!」
「そう、素晴らしい忠誠心ね。じゃあ、覚悟しておきなさい。……痛いわよ、すっごくね!」
残り二人になってなお、諦めず攻撃を続行するシュトラ族の戦士たち。そんな彼女らに敬意を込めて、完膚なきまでに叩き潰すことを決めたエヴァ。
最初に突進してきた相手の槍を半身になって避け、身体を捻ってギターの刃を叩き付ける。鎧によって防がれるも、今度はぐるんと回転しもう一撃を放つ。
「オラァッ!」
「がはっ! な、なんて無茶な動きを……」
「フン、アタシは闇の眷属よ? これくらいじゃあ身体に負荷なんてかかんないの。さて……これであとはあんただけね!」
鎧がクッションになり、辛うじて死を免れた親衛隊の戦士。が、意識を刈り取るには十分な威力があったことに変わりはない。
白目を剥き、その場に崩れ落ちて動かなくなる。これで、残る敵は一人。最後の相手を倒すべく、エヴァは切り札を解き放つ。
【アルティメットコマンド】
「さあ、行きなさい! パーリナイトブル!」
「ぶるっしゃああああ!!」
二つのスポットライトに照らされた黒塗りの人物が描かれたカードを取り出し、サモンギアにスロットインするエヴァ。
彼女の身体から、オレンジ色のオーラとなったアフロ頭にサングラスを装備したキルモートブル……改めパーリナイトブルが放たれる。
「ぐうっ! う、動けない……!」
「さあ、アタシのライブもそろそろフィナーレの時間よ! アンコールは無し、最後のグルーヴ……ノッて逝きなさい!」
そう叫んだ後、エヴァは鎖によって縛られ動けない相手の周囲を高速で移動しはじめる。ひし形を描くように動き、残像を残す。
三体の残像と共に敵を包囲した後、エヴァたちは一斉に全身から破壊音波を放つ。四方から攻撃を浴びせられ、親衛隊最後の一人は苦悶の叫びをあげる。
「ぐあああっ! か、身体が……バラバラになりそうだ……!」
「フッ、これで終わりじゃないわよ! 食らいなさい、アタシの新しい必殺技を! 奥義、絶唱のジーニアス!」
叫び声をあげ、エヴァは分身たちと同時に勢いよく走り出す。両足を揃え、敵目掛けて跳び蹴りを放つ。足の裏に、破壊音波を発生させながら。
「ぐ……あああああああ!!!」
「っと。これにてライブは終了よ。あ、安心しなさい? ギリギリ死なない程度に手加減してあげたから」
四方から襲い来る音波と蹴りを浴び、親衛隊最後の一人を小さな爆風が包む。鎧が砕け、半裸の状態で地に倒れ伏した。
相手を通り過ぎ、背後に着地したエヴァは振り返りながらそう口にする。絶好調の状態を維持したまま、エヴァは見事勝利を飾った。
◇─────────────────────◇
「むう、なかなかにすばしこい! だが、必ず我が槍の餌食にしてくれようぞ!」
「よっ、ほっ! 悪いけど、もう二度と当たらないよ! 特に顔には絶対にね!」
エヴァが親衛隊を全滅させた頃、プリミシアはガリバルディと激しい戦いを繰り広げていた。オルタナティブ・コアの技術を応用して作られた槍の攻撃を、紙一重でかわしていく。
「ふむ、ちょこまかと動き回りおる。なれば、それを上回る速度で槍を振るうのみ! ぬうううん!」
『おい、ヤバイぞロコモート。あのおっさん、少しずつ速度とパワーが上がってる。多分、遅効性の強化魔法をかけてるな。時間をかけるほど不利になるぞ!』
「おっけ、そういうことなら……一気にケリを着けちゃいますか!」
モートロンの忠告を受け、相手がフルパワーを発揮する前に決着をつけることを決めるプリミシア。デッキホルダーに手を伸ばし、アルティメットコマンドのカードを抜こうとするが……。
「させぬ! そこだ!」
「っ! デッキホルダーが!」
「陛下より聞いている、ぬしらサモンマスターにとってそのデッキホルダーなるものは命と同等の重要さがあると。であれば、それを封じるのが我が策よ!」
『おいやべえぞ! アレを壊されたら俺もお前も一巻の終わりだ! 何がなんでも回収しろ!』
その瞬間を狙っていたガリバルディが、神速の突きを放つ。プリミシアの腰に下げられていたデッキホルダーを、遠くに弾き飛ばしてしまった。
幸いにも、デッキホルダーに傷は付いていない。だが、持ち主の手を離れたままでは非常に危険だ。本契約モンスターを収納出来なくなり、死のリスクが跳ね上がるのだ。
「急がなきゃ、早く回収しないと!」
「そうはさせぬ、こちらの相手をしてもらおうか!」
「もうっ、こんな時に妨害してくれちゃって!」
一旦戦闘を中止し、デッキホルダーを拾いに行こうとするプリミシア。だが、それをガリバルディが許すわけもなく。
ここぞとばかりに集中攻撃を放ち、プリミシアを串刺しにしようとする。生きて捕らえよと命じられているため、執拗に手足を狙っていく。
「もう……っと、まずい! 雪で足が滑った!」
「勝機! 脚は貰ったァーッ!」
「くっ、そうはいか……あっ!」
焦りが募った結果、プリミシアは足を滑らせバランスを崩してしまう。その隙を突き、ガリバルディは渾身の一撃を放った。
雪に手をつき、無理矢理身体を捻って攻撃を避けるものの……体勢が変化したことで、槍の穂先がマスクの左頬部分を大きく切り裂いた。
「ま、マスクが……また、破れて……どうしよう、ボクもう」
『くぉらロコモートォ! てめぇいい加減にしろ! たかがマスクの一枚二枚、破れたくらいで怖じ気付いてんじゃねえぞ!』
またしてもトラウマがよみがえり、動きが止まるプリミシア。だが、今回はモートロンが叱責した。二度も同じ醜態を晒させるつもりはないようだ。
『よく思い出せ! てめぇの素顔を見たキルトたちはお前を罵ったか!? バカにしたか!? してねえだろ!』
「そ、それは……そうだけど……」
『自分に自信を持て! お前は自分で思ってるほど醜くねえ! それに……トラウマを乗り越えるのが、お前の憧れたヒーローってやつなんじゃねえのか!?』
ガリバルディの攻撃を避けつつ、モートロンの説教を聞くプリミシア。その末に、彼女は気付いた。自分がヒーローを目指すきっかけになったキルトもまた、己の過去を乗り越えていったことを。
(そうだ、モートロンの言う通りだ。いつまでも、過去に縛られてたらボクは強くなれない。キルトたちの足を引っ張り続けちゃう。そんなのは、嫌だ……!)
「仲間割れですかな? では、そろそろトドメを刺させていただきましょうぞ! ぬううぅん!」
『諦めるな、ロコモート……いや、プリミシア! 立ち上がれ、突き進め!』
「う……りゃああああ!!」
「なっ!? 我が槍を掴ん……がはっ!」
頬を隠していた手をどけ、プリミシアはガリバルディの突き出した槍を掴み取る。そして、槍ごと彼を遠くに投げ飛ばした。
「ありがとう、モートロン。ボク、頑張って乗り越えてみるよ。キルトくんみたいな、本当のヒーローになるために!」
『へっ、それでこそ俺の相棒だぜ。さ、急いでデッキを拾え! 奴に妨害される前にな!』
「うん!」
一息に跳躍し、雪の上に落ちたデッキホルダーを回収するプリミシア。そして、第三のアルティメットコマンドを発動する。
『アルティメットコマンド』
「今回はこれだ! 行くよモートロン!」
「おう、任せておきなァ! エンジン全開!」
バイクのパーツで作られた斧が描かれたカードをスロットインし、相棒を顕現させるプリミシア。現れたモートロンが叫ぶと、彼の身体がバラバラになる。
「ぐぬっ……な、なんだあれは!?」
「食らえ、ボクらの必殺技を! 奥義……モーターロードスラッシャー!」
モートロンの後輪がプリミシアの右くるぶしに装着され、残りのパーツで巨大な斧が形造られる。刃となる前輪を回転させ、サモンマスターロコモートは敵に突撃していく。
猛スピードで敵に接近し、守りを固める暇も避ける隙も与えず……渾身の一撃でガリバルディを斬り伏せてみせた。
「ぐ、がっ……見事、なり!」
「……ふぅ。これで、ボクも……ちょっとは前に進めたかな」
鎧ごと切り裂かれたガリバルディは、そう口にして気を失った。剥き出しの頬を撫でる風を感じながら、プリミシアはそう呟いた。




