165話─ゼギンデーザ、猛進
「ありがとね、モートロン。凄いや、手首が元通りだよ!」
「あいよ。俺のパーツは本体から切り離されると、一日程度で溶けて無くなっちまうからそこだけ気を付けてくれよな、旦那」
ネガとガリバルディを退け、紺碧の長城を奪還したキルトたち。たが、一つわりと困る問題が起きてしまった。
ネガとの戦いで切り落とされた、義手の手首が見つからなかったのだ。困っていたキルトに、モートロンが自身のパーツを提供してくれることに。
「凄いのね、最近のミミックはそんな芸当までやれるの」
「俺が特別なだけさ、エヴァンジェリンの姐御。バイクなんて高等キカイに化けられるミミックなんざ、暗域広しと言えど俺くらいのもんさ」
「そうそう、モートロンは凄いんだ! ボクが魔力を補給してあげれば、ある程度なら無茶な変身も出来るしね」
ゼギンデーザ帝国首都、マルヴァラーツへ向け旅を続けるキルトたち。だが、彼らはまだ知らなかった。デルトアの南と、ゼギンデーザの南西部。
二つの場所で、それぞれの事件が起きていたことを。
◇─────────────────────◇
「ピエリッテ将軍! 敵軍の総大将、バルステラ王はこちらに投降しました! 生け捕りにして帝都に移送しますか?」
「ふーむ……妙だな、あまりにもあっさりと決着がつき過ぎてる。あいつ、何か企んでいそうだね」
ゼギンデーザ帝国とウィズァーラ王国の国境、パデア裂峡谷。険しい谷を舞台に、デギンデーザ三将軍最後の一人『魔剣将軍』ピエリッテ率いる軍団が戦っていた。
敵はバルステラ自らが率いる、ウィズァーラ軍の本隊……だったのだが、驚くほどあっさりと決着がついてしまった。
ツバの広い帽子を被り、闘牛士のような紅の装束を着た女将軍は考える。あまりにも自分たちにとって都合が良すぎる、と。
(バルステラめ、何を企んでいる……? 安易に帝都に送り、処刑させるのは不味いように思えるが……)
本来、捕らえた敵将は帝都に移送しコロシアムにて処刑を執り行うのがゼギンデーザ帝国の習わしだ。なのだが、今回ばかりはそうすべきか躊躇われた。
何せ、相手はただのサモンマスターではない。サモンギアとデッキホルダーを没収してしまえば、普通ならそれで問題無くなるが……。
(バルステラに対しては、特別に強く警戒するよう陛下から厳命されている……。やはり、奴はここで始末して首だけを送る方がいいな)
同じ第三世代機サモンギアを用いる者として、そして己と同じく特殊な機能を与えられた者として……ルヴォイ一世はバルステラを警戒していた。
獅子のように勇猛な主君が、最大限の警戒をせよと命じる相手ならば、この場で処した方が安全。ピエリッテはそう判断し、同行していた親衛隊を呼ぶ。
「お呼びでしょうか、ピエリッテ閣下」
「うん、熟考した結果バルステラはこの場で処刑することにした。首のみを帝都に持ち帰り、陛下に献上する。君たちには、バルステラの持っている装具の保管を頼みたいんだ。してくれるね?」
「かしこまりました。皇帝陛下の名代として、帝都へ帰還するまで責任を持って保管致します」
六人のレオナトルーパーズを引き連れ、ピエリッテはバルステラを捕らえている幕舎へと向かう。鎖で縛られた王は、仮面の下で笑みを浮かべる。
「おー、これはこれは。誉れ高き魔剣将軍御自らこんな小汚い……」
「うるさいよ、バルステラ。用件は一つ、お前をこの場で処刑させてもらう」
「ほう? 聞いた話じゃ、ゼギンデーザ帝国じゃあ敵将は帝都に送ってから殺すそうだがな」
「お前は例外さ、あまりにも危険だし不確定要素が多すぎる。だから、ここで死んでもらうよ。勿論、サモンギアとデッキホルダーは没収させてもらうからね」
バルステラにそう告げた後、親衛隊に目で合図を送るピエリッテ。乙女たちは幕舎の隅に置かれていたサモンギアとデッキホルダーを確保し、魔法によって封印する。
それを確認した後、ピエリッテは腰から下げた二本の剣のうち、上側にあるものを引き抜く。切れ味抜群のサーベルで、抵抗を許さずバルステラの首を落とした。
「これでよし、と。……そういえば、こいつの顔を見たことはなかったな。誰か、この仮面を外した者はいないのかい?」
「それが、まるで接着しているように仮面を外せず……。触ると変な感触もしますし、みな不気味がって取ろうとするとする者はいません」
「そう、まあいいさ。落とした首も封印魔法で包んで、さっさと帝都に届けよう。君たち、四人ほど残って死体を処理してくれ」
「ハッ。捕らえたウィズァーラ兵たちは如何致しますか?」
「上級将兵だけ捕虜として連れて行く。残りは武器を取り上げて解放する。全員を食わせる食料はないからね」
ピエリッテは親衛隊六人のうち、四人にバルステラの遺体の処理を命じてから残り二人を連れ退出する。この時、彼女らはまだ知らなかった。
どのような選択を取っていたとしても、バルステラの手のひらの上で踊らされていることに変わりはないのだと。
首をはねられた覇王は、未だ死していない。それを知るのは、先のことだ。
◇─────────────────────◇
一方、遙か南にて。旧レマール領北部を占領していたデルトア騎士団は、北上してきたヴィクトル率いる軍勢に強襲され苦戦していた。
アスカとヘルガをミセラたち親衛隊が先んじて襲撃し、本隊から引き剥がされてしまったからだ。占領地を守ろうと、奮戦するが……。
「ダメです、大盾部隊突破されました!」
「右翼、左翼共に防衛線が崩れています! このままでは、全軍総崩れです!」
「まずいねえ、どんどん押し込まれている……。烈斧将軍ヴィクトル、噂通りの苛烈な攻めだ。全く、頭が痛くなるよぉ」
総大将ヴィクトルを旗頭に、デルトア騎士団の防御を突破してくるゼギンデーザ軍。一方、両軍が激突している平原から四キロほど西に行ったところで、アスカたちが戦っていた。
「これでも食らいや!」
「遠距離からの銃撃か……。ムダなこと、この盾は簡単には砕けぬ!」
「へえ、ならオレの蹴りはどうだ? 防げるんならやってみな……!」
ミセラ率いるレオナトルーパーズと、リジェネレイトしたアスカ……そして、強敵の登場に喜ぶヘルガ。二対六、数はアスカたちが劣勢だ。
だが、元々強いヘルガがいるのに加えアスカがリジェネレイトした分、個々の戦闘力は敵の方を上回り数の差をカバーしている。
「ぐっ! 恐ろしい女だ、ただの蹴りで盾に亀裂が走るとは」
「ほう、砕くまでには至らないか。ヒヒヒ、そうじゃなくちゃ面白くねえ。来いよ、オレを楽しませろ!」
『サポートコマンド』
「ああもう、前に出過ぎやでヘルガはん! それじゃうちの援護射撃に当たってまうで!」
リビングソードを呼び出し、ミセラたちに猛攻を加えるヘルガ。だが、興奮するあまり前に出過ぎてしまっていた。
そのせいで、空中から射撃を行っていたアスカが思うように攻撃出来ない。射線を塞いでいることはヘルガも重々承知だが、もう彼女は止まれない。
「オラァッ! どうした、お前らの力はその程度か?」
「くっ、強いな……。サモンマスターノーバディ、噂よりも出来る!」
「隊長、一旦お下がりください! 私たちが奴を抑えます、その間に回復を!」
リビングソードと短剣を操るヘルガに、スペックの差から押されはじめるミセラ。部下たちが前に出て、代わりにヘルガと戦う。
「ああもう、じれったいわぁ。こうなったらしゃーない、前に出過ぎたヘルガはんが悪いっちゅーことで……諸共吹っ飛ばして仕舞いや!」
【シュートコマンド】
一方、なかなか攻撃出来ず業を煮やしたアスカは、ヘルガごと敵を吹き飛ばすことを決める。どうせヘルガなら避けられるだろうと、信頼しているからこその無茶だ。
銀色のキャノン砲が描かれたカードを取り出し、サモンギアにスラッシュする。そうして現れたキャノン砲を、眼下の敵に向けるが……。
「おっと、そこまでだ。お仲間は皆倒したぜ、将軍を殺されたくなかったら降伏しろ!」
「! あれは……トムスはん! やられてしもたんか……!」
引き金を引こうとした瞬間、ボロボロになったトムスを抱えたヴィクトルがテレポートしてくる。両軍の戦いは、ゼギンデーザの勝利で終わったようだ。
「だそうだ、どうする? 我々としては、このまま戦いを続けても構わぬが?」
「……チッ。流石に味方を見殺しにするのはオレのプライドが許さねえ。いいぜ、降伏してやる。だが……必ず後で逆襲してやる。覚えておきな」
「うう、まさかこんなに早くあっちの決着がつくなんて……こら想定外やで……」
アスカの考えでは、あと数時間は決着がつかないはずだった。だが、今回は相手が悪すぎた。三将軍最強を誇るヴィクトルが敵では、長期戦は不利。
地に降り立ち、変身を解除して降伏の意を示すアスカ。ヘルガ共々、サモンギアとデッキを没収され連行されていく。
「よし、これでこっちの任務は完了だな。親衛隊、ご苦労だった。次は帝都までそいつらの護送を頼むぜ」
「お任せを。お前たち、行きますよ」
「ハッ!」
トムス率いる騎士団の敗北により、デルトア帝国は苦境に立たされることになる。総攻撃のカウントダウンが、ゆっくりと進んでいた。
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