161話─紺碧の長城を突破せよ!
かつて、デルトア帝国の守りを担っていた紺碧の長城。北方の国境全域に渡って築かれた鉄壁の城塞は、ゼギンデーザの手に落ちた。
「ガリバルディ将軍、デルトア帝国に降伏勧告状を送りました。専用のメールバードを用いたので、四日程度で届くかと」
「ご苦労、これで敵が折れてくれればムダな争いをしなくて済むな。ま、かの国の皇帝マグネス八世が受け入れるかは分からぬが」
長城の一画には、国境を警備していたデルトア帝国の騎士たちが捕らえられている。彼らの解放と引き換えに、降伏せよという書状をガリバルディが送った。
戦うことなく望みの物……デルトア帝国の全領土を得られるのならそれに超したことはない。ルヴォイ一世の望みを知るからこそ、無血終戦を彼は望んでいた。
「雪が強くなってきたな……寒さに気を付けて警備をせよ。肝心な時に風邪を引いて戦えなくては困るからな」
「ハッ、かしこまりました」
「捕虜たちにも暖かい上着を支給しろ。死なれては交渉が出来ぬでな」
中央棟の最上階、司令官の執務室にて部下にそう指示を出すガリバルディ。窓の外では、吹雪が吹き始めている。
この分なら、敵はそうそう攻めてはこないだろうと考える。魔法を使い、暖めたブランデーのボトルを取り出して一杯やりはじめた。
「さて、敵国のサモンマスターはどう出るか……。すでに仕掛けてきているか、まだ期を窺っているのか……」
将軍が暖かい部屋でぬくぬくしている一方で、見張り通路にいる騎士たちは寒さに辟易としていた。早く交代の時間になれと、皆心の中で呟く。
「あー、さっむ……。なんで吹雪なんて吹くかなぁ、寒いわ視界も悪くなるわで嫌になるぜ」
「早く中に戻って、あったけぇココアでも……ん? おい、あそこ何か動かなかったか?」
「あ? どこだよ、こう吹雪いてたら分からぶべぇっ!?」
やることもなく、寒さに耐えながら雑談をしていた騎士たち。その時、吹き荒ぶ雪の中を銀色のブーメランが飛来する。
見張りの一人にクリーンヒットし、昏倒させてから弧を描き吹雪の中に戻っていく。突然のことに、騎士たちが驚いていると……。
『アドベント・エルダードラゴン』
『アドベント・キルモートブル』
『アドベント・モートロン』
「こ、この音声は!? 敵だ、敵襲だー!」
視界の利かない吹雪の中、無慈悲な音声が三つ鳴り響く。突然の襲撃に、騎士たちは半ばパニックに陥りつつも素早く仲間に伝達を行う。
だが、もう遅かった。吹き荒ぶ雪の先に、うっすらと巨竜のシルエットが浮かび上がる。そして……。
「行け、キルモートブルにモートロン! 滅茶苦茶に暴れてこい!」
「ぶもおおおお!!」
「やれやれ、ミミック使いの荒い姐さんだ。ま、いいさ。ドーンとブン投げな!」
「うむ! てやっ!」
右手でキルトとエヴァを乗せたキルモートブル、左手でプリミシアが乗るモートロンを持ち上げるルビィ。気合いを入れ、両手を全力で振るう。
投石機の如く、本契約モンスターごとキルトたちを頂上へと豪快に侵入させたのだ。予想外の奇襲方法に、騎士たちは度肝を抜かれる。
「なあっ!? と、飛んで来やがっただとぉ!?」
「ヤバイ、対空兵器なんて無……ぐぎゃっ!」
「はい、到着~っと。さああんたたち、一人残らず叩き潰してあげるから覚悟しなさい!」
「行くよ、突撃ー!」
通路上に着地したキルトたちは、見張りの一人を踏み潰した後思いっきりキルモートブルを爆走させる。逃げ場の無い通路で、騎士たちに為す術はない。
「ぎゃああああ!! 嘘だろ、いくらなんでもっがぁっ!」
「ひいいい!! 逃げろ、轢き殺されるー!」
「アハハハハ! さあ、無様に逃げなさーい!」
「ぶもおおおおお!!!」
エヴァは相棒を加速させ、どんどん見張りを轢き潰していく。一方、防壁を越えて中庭に着地したプリミシアは……。
「くせ者め、覚悟しろ!」
「皇帝陛下より、デルトア帝国のサモンマスターを捕らえよとの命令が出ている。潔くお縄に着け!」
「ふふん、そうはいかないー。久しぶりにキルトくんと一緒に戦えるんだもの、ボクのかっこいいところをたくさん見てもらわなきゃ。さあ、どこからでもかかってこい!」
『ブレイブコマンド』
緊急事態を察知し、集まってきたゼギンデーザ兵たち相手に大立ち回りを演じていた。モートロンから降り、殴るわ蹴るわブーメランを投げるわと大暴れだ。
「この……ぐあっ!」
「背中がガラ空きだ! これでも……あぎゃっ!」
「クソッ、鬱陶しいブーメランめ! 叩き落とし」
「おっと、オレがいるってことも忘れるな! チャキチャキ轢き潰してやるぜ!」
金色のオーラを纏い、襲い来る敵をちぎっては投げちぎっては投げ……と暴れまくるプリミシア。モートロンも、彼女の死角をカバーするように中庭を走り回る。
「……よし、我もキルトに合流しよう。空中から援護をし」
『アドベント・インフェルニティドラゴン』
「なっ……ぐうっ!?」
「みーつけた。やあ、オリジナルの僕の本契約モンスター。出会ったばかりで悪いんたけどさ、ここでサクッと死んでくれない?」
「貴様……そうか、貴様がエヴァの言っていたキルトのクローンか!」
長城内で暴れ回るキルトたちに合流しようと、ルビィが動き出した瞬間。背後からサモンギアの駆動音が響き、吹雪の中から巨大な黒竜が姿を現す。
竜の体当たりを受け、よろめくルビィ。黒竜の頭部に乗っているネガを見つけ、低い唸り声をあげる。
「わあ、怖い怖い。ダメだよ、そんな声出しちゃ。行儀が悪いよー?」
「黙れ、キルトの姿をした悪人め! ちょうどいい、貴様をここで滅ぼしてくれる!」
「やれるのかなぁ、君一頭で。一応聞いておくけどさあ、君が死んだらオリジナルも死ぬってこと覚えてるよね?」
「一頭? フン、愚かな。我を獣のように数えるなど不敬なるぞ。それに、我は一人ではない。いつ如何なる時も……」
「やっと動いたね、ネガ! エヴァちゃん先輩のリベンジをさせてもらうよ!」
「キルトが我の側にいる。我らは決して分かたれることはないのだ」
すぐにルビィが合流してこないことから、何かあったと察したキルト。いつかの時のように、奥歯に仕込んだ短距離用の転移石を使ってルビィの頭の上に移動したのだ。
「あらら、来ちゃったんだ。ま、いいや。はじめまして、オリジナルの僕。ここで死んでよ、僕のレゾンデートルのためにもさ」
「ネガ……イツニナッタラ我ハ戦エル? モウ、待ツノハ飽イタゾ」
「っと、ごめんごめん。いいよ、ムダ話をするのも飽きたしちゃっちゃと殺そうか!」
「お姉ちゃん、来るよ!」
「フッ、よかろう。同じドラゴンでも、我の方が格も強さも上だということを教え込んでくれる!」
ルビィとオニキス、両巨竜から放たれる熱気によって雪が蒸発していく。やる気を見せるルビィに、オニキスが声をかける。
「グルルルル……調子ニ乗ルナ、長ク生キテイルダケノ年寄リメ。臭イデ分カルゾ、貴様ガ本契約ノ力デ若返ッテイルコトハナ」
「あ゛? 娘……あまり我を舐めるなよ? 不遜な発言を取り消すチャンス、一度だけくれてやる。撤回するがいい」
「ホウ、図星ヲ突カレテ焦ッテイルナ。ヤハリムダニ歳ダケ取ッタババアナド恐ルルニ」
「よし、分かった。貴様には生まれてきたことを死ぬほど後悔してから死ぬ権利を与えよう。この【掲載禁止ワード】めがああああああ!!!」
「わわわわっ! お、お姉ちゃん落ち着いて! 落ちる、落ちる!」
「へえ、オニキスったら意外と饒舌だねぇ。ふふ、楽しくなってきたね。さあ、始めようか。僕と僕の戦いをね!」
吹雪の中、二人のキルトの戦いが始まる。




