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160話─皇帝の過去、皇帝の夢

「……二年前に急逝した我が父、先帝アルダメレム九世はそれなりに良き治政を行う皇帝だった。ただ一つの欠点……無類の女好きであることを除けばな」


「女好き、か。皇帝という立場を考えれば、世継ぎを多く作らねばならないからな……。分からんでもない」


 ルヴォイ一世は、ゼギンデーザが乱れる前……先帝が健在だった頃の状況から話し出す。ウォンの言葉に、少しだけ笑みをこぼした。


「父の場合は、度を超していたと言える。なにせ、自分の好みに合えば貴族だろうが平民だろうがお構いなしに妃にしてしまうのだから。ざっと二十人近い妃がいたのを覚えている」


「それはまた……随分と盛んな」


「全員が子宝に恵まれたわけではないが、父は世継ぎの有る無しに関わらず全ての妃とその子に惜しみない愛を注いだ。そのおかげで、父が生きている間は不和はなかった。だが……」


 若き皇帝は、過去を懐かしみながら語る。父の急逝によって、少しずつ日常が壊れていったと。それまでの仲睦まじさが嘘のように、皇族同士で敵対関係が構築されていったと言う。


「父は遺言状を書く間もなく亡くなってしまった。そのせいで、朕を除く十七人の皇子と皇女が帝位継承を狙い謀略を巡らせた」


「……一つ質問をしたい。そういう場合、普通は第一皇子が帝位を継ぐのでは?」


「普通はそうだ。だが、当時は違った。全員が野心を燃やし、互いを蹴落とし始めたのだ。まず、世継ぎが産まれなかった妃が誅殺された。次に、後ろ盾のいない平民出の妃とその子たちが消された」


 宮廷を舞台に、皇族たちの闇のゲームが始まったとルヴォイ一世は話す。当時、身の危険を感じた彼はきょうだいたちから距離を置いていたらしい。


 その間にも、皇族間の帝位を巡る争いが少しずつ激しさを増し……ついに内乱に発展したのだという。その結果が二年に及ぶ帝位継承戦争だった。


「最初は皇族同士で殺し合っていた。だが、いつしかそれぞれの私兵を用いた戦争になり……無関係の民が被害を被るようになった」


「……だから、お前が動いたと?」


「そうだ。朕は見た……街が焼かれ、民が死んでいくのを。徴収の名の元に、金も食料も人としての尊厳も……何もかも奪われていくのを」


 皇族たちの争いが激化するなか、悪事に手を染める者たちが現れはじめていた。盗賊団が跋扈し、領主や貴族が不正に私腹を肥やし……。


 数えようにもキリが無いほどに、帝国各地で汚職と腐敗、戦乱が広がっていたのだ。戦乱を終結させ、民の安寧を取り戻すため……ルヴォイ一世は動いた。


「生前、父は常々言っていた。ノーブレス・オブリージュ。高貴なる身分の者には、民と社会を守るため私財を使い、戦う義務があると。だが、当時それを実践出来ていた者はいなかった。朕を含めて……な」


「だから立ち上がったのか。民の平和を取り戻すために」


「そうだ。信頼出来る者たちで軍を結成し、きょうだいとの戦いに臨もうとしたその時……あの人物、タナトスが現れた」


 幼少期から付き従ってくれた家臣と共に地方領主を倒し、民を束ね軍を組織したルヴォイ一世。そんな彼の元に、現れたのだ。


 理術研究院を束ねる、邪悪なる死神が。彼にサモンギアとデッキホルダーを渡し、帝位継承戦争を勝ち抜かせたのだ。


『君のその決意、私はいたく感動したよ。為政者とはかくありき……まさに君こそ、この乱れに乱れた国の救世主に相応しい。さあ、受け取るといい。ライオン型のモンスター『カイザレオン』を封じたこのサモンギアを』


「……あの時、タナトスから掛けられた言葉は今でも覚えている。朕にサモンギアを渡してくれたことだけは今も、かの者に感謝しているよ」


「タナトス、か。奴が何の思惑も無く、力を貸すとは思えないがな」


「そのくらい、当時も今も織り込み済みだ。死神に力を借りた代償など、全てが終わり朕が必要なくなった後でいくらでも払ってくれる」


 自らへの利益無くして、タナトスがサモンマスターの力を他者に与えることはない。自身の経験から、ウォンは皇帝にそう忠告する。


 だが、ウォンの言葉を聞いてもルヴォイ一世は不敵な笑みを浮かべるだけだった。そんな彼に、ウォンは改めて問う。


「皇帝よ。お前はこの戦乱を勝ち抜いた暁に、何を成そうとしているのだ?」


「決まっている。我がゼギンデーザ帝国が西大陸を統一し……もう二度と、無益な争いによって民が傷付くことのない理想郷を創るのだ」


 敵対者の問いに、毅然とした態度を崩すことなくルヴォイ一世は答える。二年に及ぶ戦乱の中で、彼は見続けていた。


 本来ならば、幸福な人生を生きられたはずの民が不要な苦しみと悲しみを背負い、死んでいくのを。ゆえに、彼は決意したのだ。


 自らが帝国を……そして、大陸を束ね。もう二度と無益な戦をしないで済む、誰もが笑い合える平和な世界を創り出すことを。


「……なるほど、な。少なくとも、お前が悪人ではないことが分かった。いや、それどころか『手段を間違えているだけ』の善人だ」


「手段を間違えている? どういうことかな、聞かせてもらいたい」


「簡単なことだ。お前一人で責任を背負う必要はないということだよ、皇帝。一度キルトと話してみるといい、彼と協力すれば……」


「今のところ、その選択肢はない。もし、その選択をするとすれば……朕がかの者に敗れ、軍門に下った時のみ」


 キルトと力を合わせれば、 ルヴォイ一世の抱く夢の現実はグッと近付く。だが、国を束ねる者としての矜持ゆえか、今の皇帝にその択を採る気はないらしい。


「……っと、そろそろ軍議の時間か。ウォン・レイよ、今日はこの部屋で休むといい。逃げようとしても無意味だぞ? 親衛隊に見張らせているからな」


「分かっているさ。サモンギアがあるならともかく、丸腰の状態でムダに足掻くほど愚かじゃあない」


「賢明な判断だ。では、また明日」


 もう話すことは無いと、ルヴォイ一世は部屋を出て行く。去り際に、ウォンが変な気を起こさないように釘を刺しながら。


「……さて。まさか俺がこんな囚われの身になってしまうとはな。どうにかして、俺が無事なことをキルトたちに知らせられればいいんだが……」


 城に張り巡らされた特殊な魔法結界によって、ポータルキーを使うことは出来なくされてしまっている。今のウォンには、座して待つことしか出来ない。


 物語に登場する囚われの姫のような気分を味わい、思わず苦笑する。とはいえ、ここに至って焦るほどウォンの肝っ玉は小さくない。


「信じて待つしかないな。キルトたちが来る……ん?」


「失礼致します。本日の食事のメニュー、何かご希望はありますか?」


「いや、何でも構わない。嫌いなものは特にないからな」


「かしこまりました。では、三十分ほどお待ちくださいませ。すぐに朝食を運んでまいります」


 やることも無いため、瞑想でもしていようか……と考えていると、扉がノックされる。そして、ウォンの世話を担当するメイドが開いた扉の隙間から顔を出す。


 体裁としては捕虜のため、贅沢は言うまいとウォンは特にリクエストはしなかった。メイドは一礼した後で、扉を閉め去って行く。


「本当に妙な気分だな。まあ……滅多に出来ない体験をしたということで前向きに考えよう。ネガティブな思考は最大の敵だからな」


 自分に言い聞かせるようにそう呟き、ウォンは床に座りざぜんを組む。ゆっくりと目を閉じ、深呼吸しながら瞑想を行う。


 一方、キルトたちはというと……。


「ダメね、この先に結界か何かを張ってあるみたい。ポータルを生成出来ないわ」


「うーん、となると……あの紺碧の長城を突破していかなくちゃいけないわけだね。これは骨が折れるなあ」


 エヴァのポータルを使い、デルトア帝国とゼギンデーザ帝国の国境付近まで来ていた。ガリバルディ率いる騎士団の攻撃により、すでに紺碧の長城は敵の手に落ちた。


 国境を越え、ゼギンデーザ帝国に侵入するためには堅牢な守りを誇る長城を突破しなければならない。モートロンのサイドカーに座るキルトは、双眼鏡を覗き込む。


「うわ、見張り用通路の上に敵がビッシリ……どうしようかな、これ」


「フッ、どうもこうもなかろう。敵が待ち構えているのなら、真正面から突破してやればいい。そうだろう? エヴァ、ロコモート」


「もちろん! アタシの得た力のお披露目するのにいい舞台ね。腕が鳴るわ」


「相手にとって不足なし! 今度こそ役に立ってみせるからね、楽しみにしててよ!」


「よし、行こう! 待っててねウォンさん、必ず助けるから」


 キルトたちの逆襲が、今始まる。

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― 新着の感想 ―
[一言] 皇国だろうと帝国だろうと世継ぎを作るのが努めとも言うが(ʘᗩʘ’) 人間何時かは死ぬんだし(-_-メ)遺言くらい用意しとけよ(٥↼_↼) どっかの魔神一家や命王一味、魔戒王みたいな長命種…
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