158話─広がる戦火、膨れ上がる問題
バルステラと対峙し、やる気をみなぎらせるメリッサ。一方、プリミシアは冷静さを保ったままバルステラを観察する。
(あいつ、さっきボクたちをコレクションに加えてやるって言ってたね。キルトから聞いたな……あいつは、人間をモンスターと融合させて無理矢理本契約モンスターにしちゃうんだって)
数日前に起きた、紅壁の長城でのフィリールとディガロの戦い。その結末は、突如現れたバルステラによってディガロが本契約されるというものだった。
その顛末を定例報告でキルトから聞いていたプリミシアは、思考を巡らせる。何故このタイミングで、相手が見計らったかのようにやって来たのか。
「……メリッサ、イゴール。一旦退くよ、こいつの狙いがなんとなく読めた。ここで一戦交えたら、キルトたちが危機に陥る!」
「えっ、そうなの!?」
『じゃあ帰るー! 悪い奴やっつけるのはまた今度だね!』
「逃がすと思うか? 何をどう読んだかは知らんが、オレ様の相手はしても」
「やだね、そもそもボクたち逃げてきて疲れてるんだ。戦ってなんかやらないよ!」
バルステラの言葉を遮り、プリミシアは懐に隠していたポータルキーを使ってアジトに瞬間移動する。メリッサもそれに習い、姿を消した。
「……チッ。あいつらを捕獲して、GOSのアジトに乗り込む足掛かりを得るつもりだったんだがな。見抜かれたか、あの覆面女……気に入ったぜ」
プリミシアたちがいなくなった後、バルステラはやれやれとかぶりを振る。彼がプリミシアたちの前に現れた理由は、ただ一つ。
彼女らと『契約』し、アジトに入るために必要なポータルキーを手に入れることだ。キーを手に入れ、アジトへの侵入制限を取り払ってしまえば……キルトたちの安住の地は、消滅する。
「ま、こっちはゆっくりやりゃあいい。今は別件……『仕込み』をしてる計画を進めねえとな。ククク、この計画が成功した時の敵どもの顔を見るのが楽しみだぜ」
逃げられたことに落胆することもなく、バルステラはそう呟いた後懐から転移石を取り出して起動する。次なる悪巧みをしながら、王都ゲールヴィアッセに帰っていった。
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「ただいまー。今日も疲れたなぁ、早く寝……あ、プリ……ロコモートにメリッサさん! どうしたの、何かあったの?」
「キルト、戻ってきたんだね! 実は……」
プリミシアたちがアジトに帰還してから十数分後、今度はキルトとルビィが帰ってきた。二人に、プリミシアは今日の出来事を話す。
突如として沈黙を破り、ゼギンデーザ軍が紺碧の長城に攻め込んできたこと。疑似サモンギア、オルタナティブ・コアを用いる親衛隊と戦ったこと。
そして、親衛隊たちを束ねるゼギンデーザ帝国の皇帝……ルヴォイ一世ことサモンマスターエンペラーの出陣により、撤退を余儀なくされたことを。
「なるほど、ではウォンは一人で敵の相手を……」
「……うん。ボクたちを逃がすために、一人で皇帝の相手をしてるんだ。アジトに戻ってこないってことは……」
「負けて殺されたか、捕縛されたか……どちらにせよ、安否を確かめねばなるまい。なあ、キルト?」
「そうだね、お姉ちゃん。それに……そのオルタナティブ・コアってのも詳しく知りたいしね」
戦況が混沌としてきている中での、新たなる動乱の発生に頭痛を覚えるキルト。南は南で、とある問題が起きていたのだ。
「実はな、ロコモートに双子よ。こちらでも問題が起き」
「おお、キルトたち戻ってきてたのか! 大変なんだ、エヴァがどこにもいないんだ!」
「アジトにいるかと思って来てみたが、ここにもいないのか……一体、どこに行ったんだ?」
ルビィが話し出そうとしたところで、リビングにフィリールとドルトが現れる。いつまで経ってもエヴァが戻らないため、アジトに探しに来たのだ。
「えっ、エヴァちゃん先輩そっちにいないの!?」
「ああ、昼間は確かにいたんだが……いつの間にかいなくなっていたんだ。部屋にサモンギアとデッキホルダーを残してな」
「まさか……理術研究院の奴らが何かしたのか?」
次から次へと問題が起こり、てんやわんやするキルトたち。当のエヴァはというと、実家を出てアジトに戻ろうとしていた。
「なんでぇ、結局泊まっていかねえのか。慌ただしい奴だな」
「ごめんね、でも……道を見つけたから。だから、戻らなきゃ。キルトたちのところに」
「寂しくなるわね~、今日は一緒に寝ようと思ってたのに。エヴァちゃんの好きだった子守歌も歌ってあげようと思ってたのにねぇ~」
「もう、やめてよ……これでも二百歳なんだから、そんなの恥ずかしいから……」
屋敷の玄関にポータルを生成し、グラキシオスやマリーガと別れの言葉を交わすエヴァ。すっかり立ち直った彼女を、両親は安心して見ていた。
「次に帰ってくるときゃあ例のボンも連れて来い! たっぷり可愛がってやるからよ」
「楽しみにしてるわね~、エヴァちゃんのお婿さんが来るの」
「分かったわ、こっちの動乱が終わったら連れて来るから。じゃあ……またね!」
キルトを連れてくると約束し、エヴァはポータルをくぐり抜けてメソ=トルキアに戻る。ポータルキーを使い、アジトに帰り……。
「ただい」
「あ、エヴァちゃん先輩!! 一体どこに行ってたの、みんな心配してたんだよ!」
「妙に晴れ晴れとした顔をしおって……貴様、どこで何をしていた? 事と次第によっては許さんぞ」
「あ……はい、スミマセン」
ルビィに凄まれ、床にちょこんと正座することに。ここから、エヴァの弁明タイムが始まる。
「えー、まずは事の発端から……はい、話したいと思いマス……」
そんなこんなで、エヴァは全てを語る。ネガとの出会いと戦い、敗北によって突き付けられた現実による挫折。
実家に帰り、両親とのコミュニケーションで魂の成長を果たしてリジェネレイトに成功したこと。一切合切全部を打ち明けた。
「……ああ、そうか。だからあの時、あんなに元気がなかったのか」
「ごめんね、フィリール。キツく当たっちゃって」
「しかし、驚いたな。キルトのクローンが存在していたとは」
「……いや、薄々そうだろうなとは思ってたよ。サモンギアをこんなハイペースで改良やら量産出来るなんて、僕のクローンでもいないと無理だもの」
ここに至って、ついに自身のクローン……ネガの存在を知ったキルト。エヴァを圧倒し、赤子の手を捻るように完勝した相手に警戒心を高める。
「ほんと、問題が山積みで嫌になっちゃうね……」
「ねーねー、ところで南の問題ってなーにー?」
「なーにー?」
「ああ、そうだ忘れてた。実は……もう、レマール共和国の南半分はゼギンデーザ軍に占領されてるみたいなんだ」
キルトがため息をついていると、双子が声をかけてくる。そんな彼らに、キルトはデルトア軍の斥候がもたらした情報を伝えた。
「えっ、嘘でしょ!? いくらなんでも早くない?」
「どうやら、何らかの方法で共和国の南端に軍を送り込んでたみたい。新首都は陥落、首脳陣は軒並み行方不明らしくて……」
「ついでに言えば、敵のサモンマスターも生死不明の状態だ。状況的に、死んでいるだろうとは思うが想像の範疇を出ない」
プリミシアが驚くなか、キルトとルビィは語る。すでに共和国の首都は敵の手に落ち、一切手出しが出来ない状態にあるらしい。
王国時代の旧首都は、まだデルトア軍にもゼギンデーザ軍にも渡っておらず今後はこの街を巡って攻防が繰り広げられるようだ。
サモンマスターパフォールことリンシャの生死が分からないのも、キルトの不安に拍車をかけていた。まあ、彼が知らないだけですでに死んでいるのだが。
「なんか、大変な時にいなくなっちゃってたみたいねアタシ。ごめんねキルト、この埋め合わせは必ずするからね。新しく得た力で!」
「うん、頼りにしてるよエヴァちゃん先輩!」
確かに問題は山積みだが、全く希望が無いわけではない。新たなる可能性に目覚めたエヴァと共に、勝利に向けてキルトたちは少しずつ歩んでいく。
その先に待ち受けるのが、険しいイバラの道だったとしても。力を合わせ、乗り越えていくのだ。




