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155話─雪原に散る者

「お手並み拝見、といこうか。レイ家の名は朕の耳にも届いている。さあ、君の武技を見せてくれ」


「言われずとも見せてやろう。その身によく味わうがいい!」


 雪が降り始めるなか、ウォンはルヴォイ一世に挑みかかる。少しでも多く時間を稼ぎ、プリミシアたちを追えないように。


「受けてみよ、レイ家流格闘術……牙乱千打!」


「ふっ、息をつかせぬ連続パンチか。面白い、この姿になった朕がどれだけ動けるか試させてもらおう」


 足場の悪さをものともせず、大きく踏み込んだウォンは敵に接近する。そのまま左右の拳を連続で繰り出し、殴打の嵐を見舞う。


 それに対し、ルヴォイ一世は冷風に舞う粉雪の如くヒラリヒラリと攻撃をかわしていく。ある程度殴打を放ったところで、ウォンは次の手に出る。


「フッ!」


「っと、足払いか。足下への注意が散漫になってきたところで、不意討ちを叩き込む。いい小技だ」


「ああ、避けられるところまで想定済みだ! レイ家流格闘術……」


「むっ!」


「大雪山落とし!」


 相手の注意が拳に向けられている隙を突き、足払いをかけて転倒させようとする。が、ルヴォイ一世は難無く対応しその場でジャンプして避けた。


 だが、その動きもウォンは読んでいた。あらゆる行動を想定し、最適な技を放てるよう常日頃から訓練しているのだ。


 そんなウォンは相手の腕を掴み、くるりと身体を反転させつつ自分の元に引き寄せる。そして、豪快な背負い投げを放った。


「これは一本取られたな、下が柔らかい新雪でなければ怪我をしていたよ」


「まだまだこんなものではないぞ、レイ家の誇る武技はな」


「ああ、二つだけとはいえ堪能させてもらった。お返しに、次は朕の力を見せてやろう」


『ポールコマンド』


 攻撃は決まったが、頑丈な鎧と柔らかな雪のせいでダメージを与えるには至らない。追撃を食らう前に、皇帝は起き上がり距離を取る。


 そして、腰に取り付けたデッキホルダーから青いハルバードが描かれたカードを取り出し、鎧の腹部にあるスロットに挿入した。


 直後、天から長い柄を持つ斧槍が落ちてくる。槍の穂先と斧刃を備えた得物を手に取り、ルヴォイ一世は全身からオーラを放つ。


「さあ……始めよう。ここまでは単なる肩慣らし。本番はこの瞬間からだ」


(……なんという気迫だ。この俺が気圧されるほどとは。だが……最後まで抗ってみせる!)


 皇帝の気迫に押され、僅かにたじろぐウォン。しかし、怯みこそすれど逃げることはしない。自ら敵の懐に飛び込み、猛攻撃を加える。


「確かに、使いこなせれば凄まじい威力とリーチを発揮する素晴らしい武器だ、ハルバードは。だが、こうして懐に飛び……がふっ!」


「もちろん、そうやってこちらのリーチの長さを逆手に取ってくるのは予想済みだ。だからこうして、カウンターを叩き込むのだ」


 柄の長さが仇となり、至近距離に飛び込んできたウォンに一方的にやられる……と思いきや、そうはならなかった。


 相手の拳を避けたルヴォイ一世が、カウンターの膝蹴りを放ったのだ。ダメージは無くとも、踏ん張りの利かない雪の上では衝撃を殺せない。


「距離が離れた……これで、こちらのリーチの長さを活かせるわけだ」


「まずい……!」


「食らうがいい! レオニグルスピナー!」


 体勢を立て直す暇を与えず、連続突きをウォンに叩き込む。槍の穂先で突かれ、斧の刃で斬られ……これまで傷一つ付くことのなかったウォンの鎧が、ヒビ割れ砕けていく。


「ぐ、がはっ! 俺の鎧が、こんな簡単に……」


「これが第二世代機(セカンド)第三世代機(サード)のスペックの差、といつものだ。自慢の鎧は砕けた、もう君を守ってくれるものはないぞ」


「だからと言って、降伏などしていられん! レイ家流格闘術……」


「勇ましいな。だが、力の差はしっかりと理解しなければならないな」


『シールドコマンド』


 鉄壁の守りを崩されながらも、ウォンは諦めず攻撃しようとする。それよりも素早く、ルヴォイ一世は二枚目のカードを使う。


 縦長の楕円形をし、口を開け牙を覗かせる獅子の顔を模した盾が呼び出されウォンの拳を受け止める。篭手が砕け、ついに攻撃の手段も失ってしまう。


「バカ、な……」


「ムダだよ、朕の『レオニグルシールド』は砕けん。さて、では……フン!」


「がはっ! ……済まない、ロコモート……キル、ト」


「これでよし。後は親衛隊を呼び戻してこの者を拘束させるだけだ」


 皇帝はウォンに接近し、盾でこめかみを殴打する。強烈な一撃で兜が砕け、意識を失ったウォンは倒れ込む。キルトたちへの謝罪の言葉を口にしながら。


 一方、ウォンを戦闘不能にしたルヴォイ一世は懐から小さな笛を取り出す。親衛隊を呼び寄せるために使う、専用のものだ。


「ガーディアンズ・オブ・サモナーズ……必ず全員捕らえてやろう。我が理想を叶えるためにも、かの者らの……ん?」


「ガルル……グルゥ」


「戻ってきたか、カイザレオン。その様子だと、取り逃がしたようだな」


「クゥン……」


「気にすることはない、敵の逃げ足が速かった……それだけのことだ。追跡ご苦労、ゆっくり休め」


 親衛隊が戻ってくるのを待っていると、プリミシアと双子を追っていたカイザレオンたちが主の元に戻ってきた。


 モートロンのスピードに追い付けず、途中で追跡を諦めたのだ。しゅんとしている彼女らを労い、皇帝はライオンたちを消す。


「サモンギア……か。朕の……いや、俺の思っていた以上に強いな、この兵器は。もっと早く、俺がコレを手に入れられていたら……あんな帝位継承の内乱(無意味な戦い)も、起こらずに済んだのだろうか」


 そう呟きながら、皇帝は鎧の下に格納してあるプロテクター型のサモンギアを鎧の上から撫でる。呟きに答える者は無く、冷たい北風が音を立てながら吹くだけだった。



◇─────────────────────◇



「む、戻ったかエヴァ。しっかり休養出来……どうした? 浮かない顔をしているが」


「……なんでもない。それにしても、珍しいわね。フィリールが編み物なんて」


 その頃、エヴァは再建された紅壁の長城に戻っていた。新たな司令官となったフィリールの部屋に向かうと、彼女は安楽椅子に座り編み物をしていた。


「ああ、手指の訓練になるかと思って幼い頃に始めたんだが……これがなかなかハマッてしまってね。今、必勝祈願にいろいろ編んでいるんだ」


 机の上に置かれたカゴの中には、様々な色の毛糸玉が入っている。聞けば、北国にいるウォンたちにはマフラーを、それ以外のメンバーには帽子を編んでいるらしい。


「……そう。意外と器用なのね。この帽子……サモナーズエンブレムが織り込まれてるわ」


「それぞれの本契約モンスターの意匠も織り込んでみたんだ。どうだ、すでにエヴァの分は出来ているから被ってみてくれないか? 被り心地が快適か聞かせてくれ」


「うん、分かった」


 別の机の上に置いてあった、完成品の帽子を手に取るエヴァ。白と黒の牛柄模様の中に、牛の横顔が編み込まれた一品だ。


 被ってみると、頭を毛糸特有のふわふわした暖かさが包み込む。敗北で折れた心が、ちょっとだけ癒やされる暖かさだった。


「うん、問題は無いわ。ありがとね、フィリール」


「そうか、ならよかった。今日一日、頑張った甲斐があったよ」


 嬉しそうにはにかむフィリールを見ながら、エヴァは心の中で己に問う。自分は、戦い以外に何が出来るのだろうか、と。


(頭の良さじゃキルトに勝てないし、料理はアスカの方が上だし。フィリールは編み物が上手で、アタシには出来ない。なのに、戦いもダメなら……アタシが、ここにいる価値はあるの?)


「……どうした、エヴァ。体調が悪いのか? まさか、変なものでも食べたか?」


「なんでもないって言ってるでしょ、ちょっと考え事してただけ。帽子、ありがとね。じゃ、アタシ部屋で休んでるから」


「トゲトゲしい返事……キッツ❤」


 帽子のお礼を言った後、エヴァは自分の部屋として使わせてもらっている寝室に向かう。寝間着に着替えてベッドに横たわり、無言で天井を見つめる。


「……帰ろっかな、実家に。ここにいても、あいつに……ネガにリベンジ出来るわけでもないし」


 頭の中にネガティブな考えが渦巻くこと十分。エヴァは唐突にそう呟き、のそっと起き上がる。ポータルを開き、そのまま暗域へと向かう。


 ネガとの戦いで折れてしまった心は、そう簡単には立て直せないようだ。机の上に置いたサモンギアとデッキホルダーに一瞥もくれず、エヴァは人知れずメソ=トルキアを去って行った。

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― 新着の感想 ―
[一言] 男が仲間の為に命捨てても時間稼いだのに一敗だけで全て捨てるかエヴァよ(ʘᗩʘ’) でも冥界に帰ってもお前の雇い主は新しいオモチャに掛り切りで誰も慰めてくれんぞ(↼_↼) だいたいどの道、…
[一言] >「トゲトゲしい返事……キッツ❤」 戻ったんかいw これでいろんな意味で復活したわけだw
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