154話─皇帝出陣
「た、頼む……助けてくれ! 金でも領土でも国民でもなんでもくれてやる! だから我々の命だけは!」
「フン、つまらねえ奴だな。抵抗するでもなく、あっさり降参しやがって。ま、所詮官僚なんぞに戦闘力なんぞ期待してなかったが」
ガトランジャの街の南部に、旧王都ザクルリームから移設された王城がそびえ立っている。城の地下通路に、総督を筆頭とした元老院メンバーとゼギンデーザ軍がいた。
城を脱出し、逃亡しようとする総督たちの動きを先読みしたヴィクトルが兵を率いて前後から挟み撃ちにしたのだ。
「まあ、安心しとけよ。少なくとも、ここで殺しゃあしねえから」
「そ、そうなのか? 良かった……」
「こんな狭いところで斬首したら、血の臭いでむせちまうからな。外に出たところで首をはねさせてもらうから楽しみにしてろ」
「全然良くないぃぃぃぃぃ!!!」
身なりのいい格好をした、小太り体型の男……レマール共和国の総督は絶叫する。元老院のメンバーたちもみな、一人残らず顔面蒼白だ。
そんな彼らを見て、青い鎧を着て無精ひげを生やした男……『烈斧将軍』ヴィクトルはカッカッカッと大笑いする。
「ハハハ、冗談に決まってんだろ! お前らは一人残らず本国に移送する。そこで改めて処刑させてもらうのさ。ショーという形で……お、この気配は」
「ヴィクトル閣下、こちらは終わりました。敵将リンシャを葬り、首をお持ちしました」
「ほー、どれどれ……。うん、人相書きと同じやつだな。よくやってくれた、おかげでこっちはスムーズに作戦を完了出来た。ありがとよ、アルセナ」
この場での処刑はジョークだったようで、笑いながらそう口にする。とはいえ、まともな死に方が出来ないことに変わりはなさそうだが。
ロープで縛った敵国の首脳陣を連れ出しているところに、任務を終えたアルセナ……サモンマスターアルテミスが現れる。
手に持っている、血のしたたる蓋付きの桶をヴィクトルに差し出し一礼するアルセナ。中身を確認した後で、ヴィクトルは礼を言う。
「それと、俺に対して敬語はいらねえぜ。俺たちとあんたはもう同格の存在……いや、あんたの方がちょっとだけ立場が上なんだからよ」
「そういうわけにはいきません。これはワタシを含めたシュトラ族全体の総意ですから」
「律儀なもんだねぇ、あんたも。なんで陛下がシュトラ族を重用すんのか分かった気がするぜ」
リンシャの首が収められた桶を片手に、アルセナと共に地下通路から出るヴィクトル。兵士たちに指示を出し、ガトランジャ占領の準備を進める。
「ヴィクトル将軍、すでに共和国北部はデルトア帝国があらかた占領済みのようです。如何致しましょう」
「決まってらぁな、戦って分捕るまでよ。陛下の理想を実現するためにな。アルセナ、お前んとこの連中使って偵察してくれるか? 敵の規模やらなんやらを知りたい」
「承知しました。これよりすぐに発ちます……レオナトルーパーズよ、集え!」
「ハッ!」
アルセナが号令をかけると、どこからともなく六人の乙女たちが現れる。主からの指令を受け、共に北へ向かって出発していった。
「さて、まずはレマールが脱落、か。次に落ちるのはデルトアかウィズァーラか……こいつぁいい賭けの対象になりそうだ」
そう呟いた後、ヴィクトルは街の外に気付かれた幕舎へと向かう。キルトたちが知らぬ間に……レマール共和国は、その短い歴史に幕を下ろした。
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「こいつらしぶといね! これだけ戦ってるのにまだ一人も倒れないとは思わなかったよ!」
「こちらも同じ気持ちだ。我らの半分の人数で、よく持ち堪えているものだな!」
その頃、遙か北の雪原ではウォン・プリミシア・メリッサの三人とレオナトルーパーズによる大乱戦が繰り広げられていた。
戦いが始まってから一時間近く経っても、まだ決着がつく気配が見えない。完全に、両陣営が拮抗しているのだ。
「ていっ! やあっ! 食らえ、おとーさん仕込みの必殺ぱーんち!」
「おっと、そんな大振りな攻撃当たらないわ!」
(よし、今のうちに後ろから奇襲……)
『めーちゃん、後ろに敵! 気を付けて!』
「おっけ、ありがといーくん!」
プリミシアがミセラを含む二人と戦うなか、メリッサことサモンマスターダークサイドも奮戦する。背後からこっそり近寄る敵の攻撃を避け、デッキからカードを取り出す。
「いっくよー! せいっ!」
『スピアコマンド』
『おかーさん譲りの力、見せてやる! この魔槍ぐらきしおす・れぷりかでね!』
「でね!」
「ふん、長柄物で私たちに挑もうなんて百年早いのよお嬢ちゃん!」
「磨き上げたコンビネーションで返り討ちにしてあげる!」
柄の部分にレプリカであることを示すRの文字が記された、漆黒の槍が描かれたカードをスロットインするメリッサ。
母アーシア譲りの槍術を用いて、獅子の乙女たちと互角に渡り合う。ウォンもプリミシアたちに負けじと戦っていたが……。
(……何故だ? とても嫌な予感がする。俺たちが敵襲に気付いた時点で、すでに手遅れになっていたかのような……この胸騒ぎはなんなんだ?)
二人の敵を相手に優位に立ち回っていたが、内心では強い不安を抱いていた。味方のデルトア軍がゼギンデーザ軍に負けてしまうかもしれない。
不安の原因はそうした負の想像だと思っていたが、それが間違いであることを思い知ることになる。最強の敵の登場によって。
『アドベント・カイザレオン』
「! この音声……ウォン、敵が……わっ、あぶな!?」
「ガルルルァァァ!!!」
「わー、ライオンさんがいっぱい来たー! 私なんて食べても美味しくないよー!」
「グルゥゥゥゥ!!!」
「雌ライオンの群れ……!? バカな、複数のモンスターを使役するなどあり得ないはず!」
レオナトルーパーズが劣勢に陥ろうとした、次の瞬間。どこからともなくサモンギアの発動音声が響くと同時に、コバルトブルーの体色をした雌のライオンたちが現れる。
合計八頭の雌カイザレオンたちは、レオナトルーパーズを守るようにウォンたちの前に立ちはだかる。そして、そこに……。
「遅れて済まない、親衛隊の諸君。これより、朕も参戦しよう」
「陛下! 申し訳ありません、ご到着の前に敵のサモンマスターを捕らえらればよかったのですが……」
「気にすることはない、ガリバルディたちの邪魔をしないよう釘付けにし続けてくれただけで十分任を果たしてくれた」
ゼギンデーザ帝国の皇帝、ルヴォイ一世ことサモンマスターエンペラーがついに姿を現した。コバルトブルーの輝きを放つ全身鎧を身に付け、背には白銀のマントを羽織っている。
頭には本契約モンスターである雄のカイザレオンの顔を模した紅色の仮面を身に着けており、顔の上半分を隠している。
(この男が、ゼギンデーザ帝国の皇帝……! まずい、オーラだけで分かるぞ……今の俺たちでは、この男には勝てない!)
ルヴォイ一世からにじみ出る絶対強者のオーラに当てられ、動きが止まるウォン。プリミシアやメリッサも、同じように動けずにいた。
「さて、朕が来た以上はお前たちに勝ち目はない。降伏せよ、さすれば命は取らぬ。それとも、雪原の風と散る方が好みか?」
「くっ……まずいな。ロコモート、耳を貸せ」
「な、なにさウォン。アレと戦うつもり? 流石のボクでも……ちょっと勝てる自信ないかな」
「逆だ。俺が囮になる、その隙に双子を連れて逃げるんだ。キルトに伝えろ、ついにゼギンデーザが動いたと」
レオナトルーパーズとカイザレオンたちに包囲されはじめるなか、ウォンはプリミシアにそう耳打ちする。彼の言葉に、プリミシアは目を丸くした。
「ダメだよ、ウォンを置いていけないよ!」
「誰かが囮にならなければ、この包囲から抜けられない。機動力に優れたモートロンを駆れるお前なら、逃げ切ることが出来るはずだ」
「何か小声で話しているようだが、相談はいつ終わるかな? 朕は辛抱強い方だが、それでも」
「今だ! 行け、ロコモート!」
『ナックルコマンド』
「分かったよ、ごめんねウォン!」
『アドベント・モートロン』
相手の不意を突き、ウォンがルヴォイ一世に突撃する。その瞬間、プリミシアは相棒を召喚してサドルに跨がる。
唖然としているメリッサの首ねっこを引っ掴んで自分の後ろに乗せ、無理矢理包囲を脱し勢いよく南へ向かって急発進した。
「逃げるか。追え、カイザレオンたち! 親衛隊はガリバルディの援護に向かえ、この男の相手は朕一人で十分だ」
「ハッ!」
「ガルッ!」
ウォンの攻撃を受け止め、拳を掴んで身動きを封じつつ皇帝は命令を下す。八頭の獅子がプリミシアたちを追い、親衛隊は仲間の援護に向かう。
残ったのは、ウォンとルヴォイ一世のみ。
「仲間思いなのだな、自ら残り捨て石になるとは」
「今の俺たちでは、お前に勝てないと直感で理解したのでな。俺は最適解だと信じた行動をしたまでだ」
「フッ、面白い男よ。お前が敵なことが残念だ」
雪が降り始めるなか、ウォンは一人ルヴォイ一世と戦う。相手の手を振り払い、勢いよく後ろに飛んで距離を離す。
数多の獅子を従える皇帝と、ウォンの一騎討ちが始まる。




