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153話─南の地の不穏

 エヴァが大敗を喫し、失意に沈んでいる頃。キルトとアスカはトムス将軍率いる騎士団と共に、レマール共和国へ侵攻していた。


「ロドールイの街の住民たちよ! 我々はデルトア帝国騎士団である! 門を開け降伏するならば、我々は君たちを攻撃しない。だが、勧告に従わぬなら力尽くで門を開けさせてもらう!」


「今から一時間、猶予を与える。その間に決めるといい、降伏か戦いかを!」


 デルトア騎士団はこの数日、共和国北方にある各街を支配下に置き帝国領を増やしながら南進していた。意外にも、各街で抵抗は起きなかった。


 王国から共和国に変わっても、国内の腐敗は消えず市民たちは元老院からの搾取に苦しんでいたのだ。このロドールイの街も、同様に搾取されていたらしい。


「分かりました、今門を開けます! 元老院に重税を課され続けて飢えるくらいなら、デルトア帝国領に組み込まれた方がよっぽどマシだ!」


「……ふむ。どこの街も、みんな似たようなことを言うねぇ。元老院とやらは、かなりやりたい放題みたいだねぇこれは」


「嫌な話ですね。フェルシュ含む王族が消えて、少しはマシな国になったと思っていたんですが」


 街の内と外を隔てる城壁に取り付けられた門が開かれ、騎士団が招き入れられる。馬に乗ったキルトは、トムスの隣を進みながらそう口にする。


 結局、支配者の首と肩書きがすげ替えられただけで国の状況は何も改善されていなかった。そのことを知り、キルトは失望していた。


「この街にも、食料やらなんやらを運び込まないとねぇ。見てごらんよ、そこかしこ浮浪者だらけだ。可哀想ったらありゃしない」


「ええ、本当に……」


 ロドールイも、これまでに占領してきた街のように貧困にあえぐ者たちで溢れていた。ひとまず、彼らに本国から取り寄せた食料を与えることに。


「こーいう時に、このワープマーカーっちゅうんがあると便利やな。一日一回一時間って制約があるんが難点やけど」


「ま、数が多いから問題はないがな。しかし、こんなものまで作れるとは侮れぬな……あのフロストなる女は」


 そんななか、ルビィとアスカは街の中央にある広場に大きなシートを設置していた。白いシート全体に広がるように、紫色の転移用魔法陣が描かれている。


 かつてアリエルが発明した大規模転送用の魔道具、ワープマーカーと呼ばれるもの。彼女の研究所にあったものを、わざわざ持ってきてくれたのだ。


「せやなぁ。『サモンギアの修理が終わるまでは、裏方として役に立たせてもらう』言うてはったからな。早速役に立ってくれてありがたいこっちゃで」


 正気に戻ったアリエルは、当初の予定通りキルトたちに味方することを決めた。手始めに、研究所にしまってあった大量のワープマーカーをデルトア帝国に寄贈したのだ。


 アリエル自身は、アスカとの戦いで破壊されたサモンギアの修理が終わるまで直接戦闘に加われない。そのため、こうして裏から手を回してくれたのである。


「おねーちゃーん、アスカちゃーん。どう? ワープマーカーの設置終わった?」


「うむ、バッチリだ。後は魔力を流し込んで起動させれば完了だ」


「分かった、じゃあさっさと済ませちゃおう!」


 ワープマーカーの設置が終わったところで、キルトがやって来た。彼の魔力を流し込むと、魔法陣が光を放ちはじめる。これで、準備は完了だ。


 敵に悪用されないよう、強固な魔法プロテクトが施されておりデルトア騎士団とキルトたち以外は使用出来ないよう設定されており、放置していても問題はない。


 もっとも一日に一回、一時間しか使えないため悪用するのにもわりと工夫がいるのだが。


「さ、ウチらも外にあるテントに行こか。明日からはいよいよ首都攻略に向けて一気に南下するさかい、早めに休んで英気を養わんとな」


「うん、そうだね。でも……」


「初戦以降、リンシャが姿を見せていないのが気になるのか? キルト」


「うん、いくらなんでも変だと思ってさ。共和国の北部一帯をほぼ取られてるのに、何もしてこないのが引っかかるんだよね」


 食料の配給等の作業を騎士たちに任せ、キルトたちは街の外に設営されたテント群へ向かう。その途中、キルトは考えていた。


 アスカからの報告では、初戦以降敵将であり現在唯一のレマール共和国所属のサモンマスター……リンシャが姿を見せていないのだという。


「まあ、確かに気になることではある。何か裏で企んでいるのやもしれんな。そのために、動かずにいるとも考えられる」


「油断は出来ないからね、いろんな可能性を考えて臨機応変に対処出来るようにしとかなきゃ」


 未だ沈黙を続けているリンシャに警戒心を抱きつつ、街を出るキルトたち。一方、レマール共和国の首都、ガトランジャの街では……。


『ヒールコマンド』


「はあ、はあ……。もー、なんなんこいつら!? ウチをここまで追い詰めてくるなんてあり得ないんですケド!?」


「諦めろ、サモンマスターパフォール。六対一、数の差を覆すことは不可能だ」


「おとなしく降伏せよ。皇帝陛下は寛大なお方だ、平伏し服従を誓えば命は助けてくださるだろう」


 二日間に及ぶ、大規模な戦闘が行われていた。二日前、突然共和国の南部にゼギンデーザ軍が姿を現したのだ。


 デルトア帝国を挟んでおり、唯一領土を接していないレマールに対してルヴォイ一世は他国より早めに侵略の手を伸ばしていた。


 帝国じゅうから優秀な魔術師を集めて、大規模な転移魔法を発動して送り込んだのだ。帝国三将軍の一角たる、『烈斧将軍』ヴィクトル率いる兵団を。


「はぁ? な~にアホなこと言ってるわけ? ウチがそんな恥知らずな真似するわけないじゃん。寝言は寝てから言えっての!」


「そうか、ならば滅するのみ。覚悟するがいい、サモンマスターパフォール! 総員、フォーメーションDだ!」


「おー!!」


 リンシャは将軍として軍を率い、ヴィクトルたちを迎え撃った。が、敵の切り札たるレオナトルーパーズの投入により窮地に陥る。


 一人一人の力は本家サモンマスターには及ばずとも、集まれば脅威となる。一対六ではリンシャに勝ち目はなく、元老院の拠点である旧王城の最奥まで追い詰められていた。


『アルティメットコマンド』


「カモーン、ネイストモールちゃん! あいつらをぶっ殺しちゃおー!」


「きゅきゅーん!」


 一発逆転を狙い、リンシャは奥義を発動する。降り注ぐいくつもの岩塊が描かれたカードをサモンギアにかざし、本契約モンスターを呼び出す。


 長い金髪が生え、星形のサングラスをかけたモグラ型のモンスター『ネイストモール』が現れ、長い爪で石造りの床を掘り返し空中に投げる。


 直後、リンシャが相棒を踏んで勢いよくジャンプしていく。放り投げられた石の塊を追い越し、今度は降下して蹴り砕く。


「食らえー! ギガンロックレイン!」


「む、来るか……! 総員、フォーメーションB! 守りを固めよ!」


「ハッ!」


 上空から降ってくるいくつものかつて床だった石の塊を防ぐべく、六人の戦士たちはオルタナティブ・コアの力を解き放つ。


 獅子の顔を模した、縦長の楕円形をした盾を呼び出して一カ所に固まり、盾のドームを作る。結果、攻撃そのものは凌げたが全員石の下に埋まってしまった。


「ふーんだ、自分から生き埋めになってやんの~。ばーかばーか! さ、今のうちにてった」


『シックルコマンド』


「……え? うそ、どこから……こうげ、きが……」


「……油断したな、サモンマスターパフォール。最後の最後で気を抜くとは」


 レオナトルーパーズを身動き出来ない状態にしたリンシャは、逃走を図る。すでに街は陥落寸前、元老院のメンバーもヴィクトルに捕縛された。


 別の街に逃げ、立て直しを図ろうとするも……その直後、虚空にサモンカードの発動音声が響く。刹那、リンシャの首から勢いよく血が噴き出す。


「だれ、あんた……どうやって、ここに……」


「ワタシの名はアルセナ。誇り高き狩猟民族、シュトラ族の長の娘にして……『サモンマスターアルテミス』の名を持つ戦士だ」


「サモン……マスター、アルテミス……」


 仰向けに倒れたリンシャは、薄れゆく意識を懸命に保ちながら乱入者に問いかける。彼女を見下ろしている、白装束を着た女は淡々と答えた。


 両手首に装着された扇状の鎌を振るい、血を払ったあと生き埋めになった部下たちを助けに向かう。その様子を見ながら、リンシャは息絶える。


「みな、大丈夫か? 負傷した者はいるか?」


「いえ、問題ありませんおひい様。みな無事です」


「そうか、よかった。では、ヴィクトル殿のところに行こう。あちらもすでに、作戦を完了させただろうからな」


「ハッ!」


 アルセナは部下たちの無事を確認し、猛禽類のように鋭い目付きを和らげ笑う。雪のように白い肌を撫でた後、白装束に付属しているフードを被り歩き出す。


 キルトたちの知らない間に、レマール共和国は終焉を迎えようとしていた。

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― 新着の感想 ―
[一言] 自国対敵国の戦争じゃ済まなく自国以外全て敵国、前を攻めれば後ろから攻められる、右も敵、左も敵の全面戦争だけにキルト達だけが勝ち取るって訳でもないのか(ʘᗩʘ’) 早くも一国敗戦だけど終わっ…
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