151話─眠れる獅子の目覚め
「うー、やっぱり寒いね。ウォーンー、そろそろ交代してくれなーい? ボク、寒くて雪だるまになっちゃーう」
「今行く、少し待っていろ。風呂を沸かしたから、身体を温めてくるといい」
「わ、ありがと! ウォンは気が利くねー、そういう男は女の子にモテるよー」
アジトでの報告会から、七日が経った。その日も、変わらずウォンやプリミシアたちは北の国境の監視をしていた。
紺碧の長城の近くにある森の中の丸太小屋を拠点にし、イゴールとメリッサを鍛えつつ北の帝国の動向を探っていたが……ついにこの日、異変が起きた。
「ん? なんだ……長城の方から警報が鳴っているぞ」
「え? 長城と結構距離あるのに、聞こえるの? 凄いねウォ──!? か、壁が吹き飛んだぁ!?」
「ついに来たか! ロコモート、風呂は後にしてくれ。イゴールたちを呼んでくる、長城に向かうぞ!」
「うん、分かった!」
突如、デルトア帝国とゼギンデーザ帝国を隔てる城壁が破壊されたのだ。ウォンは即座に指示を出し、一足先に現場へ向かう。
『サモン・エンゲージ』
「寒いのは嫌いだと分かっている、だが力を貸してくれ。頼むぞファンシェンウー!」
『フシュ……シュルルル』
は虫類ゆえに寒さに弱いファンシェンウーだが、主に頼まれては断れない。若干不機嫌そうな声を出しつつも、ウォンに協力する。
丸太小屋から長城までの距離、約八百メートル。雪に足を取られつつ、大急ぎで現場に行くと……すでに、デルトア騎士団とゼギンデーザ軍が戦っているのが見えた。
「投石機準備ィ! 他の城壁を粉砕せよ! 同胞たちの侵入経路を確保するのだ!」
「ハッ! 投石機用意! てー!」
ルヴォイ一世の腹心、帝国三将軍の一角『幻槍将軍』ガリバルディの指示の元、巨大な氷の塊が戦車型の投石機から射出される。
魔法障壁もろとも粉砕せんと、次々に城壁に叩き付けられる。このままでは、さらに穴を広げられてしまうだろう。
「ガリバルディ様、デルトア騎士団が攻めてきています。攻城兵器を破壊するつもりかと」
「なれば、我らの力で……む、誰か来るぞ!」
「ゼギンデーザの兵たちよ、これ以上の攻撃はこの俺が許さん!」
『ポールコマンド』
前線の様子を双眼鏡で確認しながら、ガリバルディの副官がそう告げる。そこに、前線を抜けてきたウォンが現れた。
得物である棍を呼び出し、敵が迎撃に動くより先にガリバルディに攻撃を仕掛ける。勢いよくジャンプして、脳天に棍を叩き付けようとするが……。
「そうはいかない! 将軍、今のうちに攻城部隊の再配備を!」
「うむ、よくやってくれた! 投石機隊、移動せよ!」
「! 雪の中に潜んで……貴様、サモンマスターか!」
が、ウォンの放った攻撃は防がれてしまう。雪の中から飛び出した、コバルトブルーの軽鎧を身に着けた女戦士の操る槍で受け止められたのだ。
ガリバルディたちが移動するなか、雪中より現れた女戦士は己の名を口にする。
「いいや、違う。私の名はミセラ。勇猛なるシュトラ族の戦士にして、皇帝陛下の親衛隊『レオナトルーパーズ』の隊長だ!」
「サモンマスターでは、ない? ならば何故、俺の攻撃を受け止められる? 普通の武具では、サモンマスターに太刀打ち出来ないはずだ」
「そうとも、この装具は普通の武具ではない。私たちは陛下より与えられたのだ。サモンマスターに対抗出来るこの『オルタナティブ・コア』をな!」
再度放たれたウォンの攻撃を篭手で受け止め、跳ね返すミセラ。彼女の身に着けているベルトを見たウォンは、警戒心をあらわにする。
(あのベルト……ただの装具ではないな。恐らく、あれが奴の言っているオルタナティブ・コアなるものか。俺一人でも勝てるだろうが、ここはロコモートたちの到着を待って……)
「さあ、出でよ我が同胞たち! デルトア帝国に与するサモンマスターを捕縛するのだ!」
「ハッ!」
「!? バカな、さらに五人だと!?」
時間を稼ぎ、プリミシアたちの到着を待って全員でミセラを倒そうと考えるウォン。だが、そうはさせじとばかりに雪中から五人の女戦士が現れる。
全員が隊長と同じオルタナティブ・コアを装着しているのを見て、ウォンは目を見開く。流石のウォンでも、六対一では分が悪い。が……。
「おっまたせー、ウォン! ちびっ子たちも連れてきたよー!」
「僕たちの初陣だよー! めーちゃん、頑張ろうね!」
「うん、やっちゃ……わ、敵がいっぱい!」
「来たか、ロコモート! 気を付けろ、こやつらは俺たちと互角に戦える相手だ!」
タイミングよく、モートロンを駆りプリミシアことサモンマスターロコモートが現れる。サイドカーにはイゴールとメリッサも乗っており、気合い十分だ。
「三人増えたか。結構、相手に不足なし。お前たち、訓練を思い出せ! 陛下の理想実現のために、全力で奴らを打ち倒すのだ!」
「お任せを、隊長!」
「ふーん、ちょっとヤバそうな雰囲気だね。でも、ボクたちも負けないよ!」
六人のレオナトルーパーズは、槍を構え戦闘態勢に入る。プリミシアもモートロンから降り、拳をパキポキ鳴らす。
そんななか、イゴールとメリッサはどちらがメインになるかじゃんけんで決めていた。緊張感も何もあったものではない。
「じゃーんけーんぽん! あ、負けちゃった。ま、仕方ないかー」
「じゃあ今回は私がメインね! いっくよー、そぉれっ!」
『サモン・エンゲージ』
じゃんけんに勝ったメリッサは、デッキホルダーから『契約』のカードを取り出しグローブの甲にあるスロットにスラッシュする。
すると、イゴールが黒いもやとなってメリッサに吸い込まれていく。そして、両肩と胸に薄紅色のオーブが取り付けられた漆黒の鎧を身に着けた姿になる。
「じゃじゃーん! 『サモンマスターダークサイド』しゅつげーき! さあ、悪い子はやっつけちゃうよー!」
『やっつけちゃうぞー!』
「来るか。総員、フォーメーションA! 奴らを攪乱しつつ攻撃せよ!」
「おー!」
雪と氷に閉ざされた地で、ついに幕を開ける。最強の軍事力を誇るゼギンデーザ帝国と、デルトア帝国の戦いが。
そして、その戦火は各地に広がっていく。すでに、残る二人の将軍が率いる部隊が……ウィズァーラ王国とレマール共和国にも、その手を伸ばしていたのだ。
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「さって、到着ーっと。うん、いい大地だねー。実に壊し甲斐があるよ。僕の煉獄の炎で焼き尽くしてあげたいね」
同時刻、デルトア帝国首都シェンメック近郊にポータルが開いていた。そこから姿を現したのは、純白のジャケットと赤い長ズボンを身に着けた少年……ネガだった。
左腕にはガントレット型のサモンギアを装着し、左腰には竜の横顔のエンブレムが彫られたクリムゾンカラーのデッキホルダーを下げている。
「それじゃあ、早速探すとしよっかな。オリジナルを殺して、僕が取り込んでやる。そうすれば、本物のヒトのように……長寿になれるからね」
『……我ガ力ヲ貸シテヤル。安心シロ、ネガ。オ前ノ願イハ叶ウダロウ』
「おっ、頼もしいねえオニキス。期待してるよ、この世でもっとも神に近い竜の実力をね」
『期待ハ裏切ラナイ。約束シヨウ』
シェンメックへ向けて歩き出すネガに、デッキホルダーに封じられたエルダードラゴンが声をかける。楽しそうに笑いながら、ネガはその声に答えた。
ゼギンデーザ帝国とネガの参入により、メソ=トルキアを覆う戦乱はさらに拡大していく。だが、参戦するのは彼らだけではない。
「……Kilt. Rumors about you have reached our ears. He gained new powers and grew stronger(キルト。貴公の噂は我が耳にも届いている。新たな力を得て、強さを増したと)」
暗域のどこかにある荒野。そこに一人、バイオンがいた。修行を行っていたのか、彼の周囲にはトレーニング用の道具が散乱している。
「I want to see it with my own eyes, I want to feel it, I want to taste it. how much strength you have gained. The time is ripe……now is the time for a rematc(是非ともこの目で見たい、感じたい、味わいたい。貴公がどれほどの強さを得たのかを。時は熟した……今こそ、再戦の時)」
風の噂で、バイオンは知った。キルトが新たな力……『REGENERATE』を得てボルジェイ、そしてティバとネヴァルを打ち倒したことを。
そうして、彼は決意した。もう一度キルトと戦い、彼がどれだけ成長したのか確かめたいと。
「I'm really looking forward to it. From now on, I can be sure that it will be a fruitful battle. wait,kilt(実に楽しみだ。実りのある戦いになると今から確信出来る。待っているがいい、キルト)」
かつてキルトを下した大魔公が、再び表舞台に姿を現す。戦乱の世は、まだ終わらない。




