148話─騎士の復活
再起を果たしたフィリールが部屋を飛び出した頃、すでに長城の外では戦いが始まっていた。ディガロが用いた小型のワープマーカーにより、三百人のウィズァーラ兵が強襲してきたのだ。
「はあっ! さあ来いっ、誰もこの先には進ませないぞ!」
『我らを前に臆したならば、潔く退くがいい! さもなくば、紅蓮の炎で焼き尽くしてくれようぞ!』
サモンマスタードラクルに変身したキルトは、敵兵たち相手に無双していた。再度ディガロが侵入して来ないとも限らないため、エヴァとドルトは長城内で侵入してきた敵と戦っている。
「このっ……ぐあっ!」
「う、腕が……俺の腕があ!」
「ごめんね、でも命を獲られるよりはマシだと思ってよ!」
『貴様らを殺すと、またタイドウリョウイチに使役されかねんからな。五体不満足にしてやるだけで済むのだ、感謝しろ!』
とはいえ、今回はこれまでのように敵を殺し尽くすようなことはしない。また亮一に好き放題されないように、対策をしているのだ。
わざと敵の手足を切り落とすだけに留め、命を奪わず撤退させる。そうすることで、亮一の手駒にならないようにする作戦なのだ。
『さすがに、すでに千人の騎士を失っているだけあって今回は数が少ないな。この分なら、すぐにカタがつくだろう』
「そうだね、騎士たちを倒したら、次は」
『ロストコマンド』
「! ドラグネイルソードが!」
「ヒッヒヒヒ、どうでやすかね? あっしからの挨拶は。気に入っていただけりゃあ御の字でさぁ」
ウィズァーラ軍を蹴散らし、戦闘不能者を増やしていくキルト。そろそろ仕掛けてくるかもしれない、と考えた直後。
どこからともなくサモンカードの発動音声が響き、キルトの持つ剣が消滅してしまった。驚く彼の側に、ディガロが現れる。
『貴様か、フィリールの兄を殺した暗殺者というのは』
「ヒッヒヒ、その通り。次はあんたさんらの命をいただこうと思いやしてね。覚悟しておくんなせ」
「そうはいかないよ、フィリールさんのお兄さんの仇を討たせてもらう!」
【REGENERATE】
グラインの仇を取るべく、キルトは義手からリジェネレイトのカードを取り出す。スロットに挿入し、リジェネレイト体になろうとするが……。
「おっと、そうはさせやせんぜ」
『コンファインコマンド』
「!? そんな、リジェネレイトが!」
『中断された、だと!?』
「ヒーッヒヒヒヒヒ!!! 驚きやしたねぇ、その顔が見たかったんでさぁ! さあ、あんたさんもこの短剣で殺してあげやすよ。グラインの後を追いなせえ!」
すかさずディガロがコンファインコマンドを発動して、変身を阻止してしまった。リジェネレイトをも妨害出来るとは想定しておらず、キルトとルビィは仰天してしまう。
そんなキルトを始末しようと、ディガロはグラインを刺殺した短剣を取り出す。すでに剣を失っており、頼れる武器はサポートカードのみ。
だが、それもディガロが持つシールコマンドで封印されてしまうだろう。そうなれば、もうキルトに勝ち目はない。だが……。
「ディガロ、そこまでだ! これ以上キルトに手出しはさせない!」
「フィリールさん!? どうしてここに!?」
「おーおー、腰抜け腑抜けの負け犬さんのお越しでやすなぁ。何のご用で、まさか戦いに来たんじゃあないでやしょうね?」
そこに、ウィズァーラ兵を蹴散らしながらフィリールがやって来る。すでにサモンマスタープライドに変身しており、やる気をみなぎらせている。
「そのまさかだ、ディガロ。私は昨日、兄上を……騎士たちを守れなかった。だから、今度は……絶対に死なせない。私の愛するキルトを、貴様から守り抜いてみせる!」
「フィリールさん……」
『フィリール……』
「ヒーッヒヒヒヒヒ!!! こいつぁケッサクだ、どの口がそんな寝言をほざくんでやしょうかねえ! あっしにあれだけ叩きのめされて、まだ勝てると思ってるんでやすかぁ?」
「ああ、勝てるさ。今の私には、新たな力がある。貴様を倒し、愛する者を守るための……力が!」
大笑いしながら挑発してくるディガロに、そう啖呵を切るフィリール。デッキホルダーから『REGENERATE─決意』のカードを取り出し、相手に見せる。
「そのカードは!? そうか、フィリールさんもリジェネレイトを……」
「ああ、そうだ。見ていてくれ、キルト。私の新しい姿を!」
「ハッ、させるわけないでやしょうが。あんたさんの変身も、あっしが阻止して」
「そんなことさせるもんか! てやっ!」
「うぐお!?」
再びコンファインコマンドを使い、変身を妨害しようとするディガロ。しかし、その瞬間キルトが動く。勢いよくタックルを食らわせ、逆に相手を妨害したのだ。
「フィリールさん、今のうちに!」
『こやつは我らが抑え込む! さあ、やれ!』
「ありがとう、二人とも。……兄上、見ていてください。今、あなたの仇を討つ!」
【REGENERATE】
フィリールの身に着けている勲章型のサモンギアが光に包まれ、その姿を変えていく。三日月を模した紫色の首飾りとなったソレに、カードがかざされる。
すると、フィリールの身体をどこからともなく現れた紫色のリボンが包み込む。少しして、リボンが消えると……そこには、妖艶な踊り子の格好をしたフィリールが立っていた。
【Re:SHADOW DANCER MODEL】
「……これが私の、新しい姿か。力がみなぎってくるのを感じる……。これなら、キルトを守れるはずだ」
紫に金のラインが走るミニスカートにビキニブラ、それに加えサンダルという一見防御力など皆無な姿になったフィーリル。
三日月の絵が描かれた紫色のフェイスベールで口元を隠し、ニヤリと笑う。髪には紫色のメッシュが混じり、どこか神秘的ながら妖艶な色気を醸し出していた。
『奴め、随分とハレンチな姿になりおって。キルトの教育によろしくないぞ、全く』
「フィリールさん、きれ……うわっ!」
「このガキが……! よくもあっしの邪魔をしてくれやしたね、そんなに死にてぇならお望み通り殺してやりまさぁ!」
キルトがフィリールに見惚れていると、ディガロに投げ飛ばされてしまう。短剣を構え、キルトを刺し殺そうとするディガロだが……。
「させない、と言ったはずだ。お前の相手は私だ、ディガロ!」
「なっ、はや……がふっ!」
『なんという脚力だ……ディガロとかいう男が吹き飛んだぞ』
「凄い……! これだけ力が上がれば、カードを使わなくても勝てるかもしれないよ!」
そこにフィリールが踊るような仕草で飛び込み、撫でるような蹴りを叩き込む。さほど威力があるようには見えなかったが、直撃を食らったディガロは遙か遠くへ吹き飛ばされる。
「ディガロ様! 大丈夫ですか!?」
「ぐぐぐ……あっしに構うこたぁありやせん、お前たちはさっさと長城の中に侵入しやがれ!」
「は、はいいい!!!」
吹っ飛ばされたディガロの元に、まだ五体満足な兵士が駆け寄る。が、叱咤され慌てて長城の方へと走っていった。
「よくもあっしを蹴り飛ばしてくれやしたね……。おかげで、あの短剣がどっかいっちまいやした。許しやせんぜ、あんたさんだけはねぇ!」
「フン、それはこちらの台詞だ。兄上たちを殺した罪は重い。貴様には地獄に落ちてもらうぞ、ディガロ!」
『キルト、ここは下がっていよう。今のフィリールなら大丈夫、奴に勝てるだろうよ』
「そうだね、お姉ちゃん。でも、またあいつがなにかしないとも限らないから……こっちも『切り札』を使えるように構えておかないとね」
一発攻撃を食らったことで、暗殺者としてのプライドを傷付けられたディガロは激昂する。そんな彼から距離を取り、キルトは一枚のカードを取り出す。
「来い、ディガロ。昨日のように軽々と私を倒せると思うな。目覚めた可能性の力、貴様にとくと味わわせてやる」
ゆらゆら身体を揺らしながら、フィリールは宿敵を挑発する。決意の果てに得た力を振るい、愛する者を守るための戦いが始まる。




