139話─最初で最後の顔合わせ
「ふう、これで暗殺者は全員かな? 無事捕縛出来てよかったよ」
「いやぁ、助かりましたよぉドラクル殿。まさか、敗走した直後に暗殺部隊を送り込んでくるとはねぇ。今回はしてやられた、ってとこかなぁ」
アスカとアリエルの戦いに決着がつくなか、ペレトレス内でも暗殺者たちの捕縛が完了していた。土地勘のない場所での戦闘が幸いし、なんとか全員捕らえられた。
暗殺者たちは武装解除され、隷属紋の首輪という魔道具を身に着けさせた状態で騎士団の監視下に置かれている。明日、ルマリーンに移送されるのだ。
「歯応えのねえ奴らだったぜ。あんな連中、オレの鼻がありゃどこに逃げようが袋のネズミだ」
「ヘルガさんもありがとう、暗殺者たちを捕まえるのに協力してくれて」
「ククク、礼が言葉だけってんじゃあ物足りねえなぁおい。オレと遊べよ、キルト。あの髪の毛女じゃイライラが消えねえんだよ」
「貴様は全く、相変わらずの戦闘狂だな。……それにしても、あの嵐はなんだったのだろうな?」
上級将校が宿泊している宿のエントランスにて、そんな話をするキルトたち。トムスだけでなく、珍しくヘルガもテーブルを囲んでいた。
少しは群れることを覚えた……と思いきや、戦い足りないためキルトと遊びたいだけなようだ。そんな彼女に呆れつつ、ルビィは呟く。
「確かにね。なんか曇ったと思ったら、すぐ消えちゃっ」
「ふっふっふっ、それはな。ウチが勝ったからなんやで、キルト!」
「アスカちゃん! よかった、無事勝てたんだね!」
「あったりまえや、大見得切っといて負けられるかいな」
そこに、アリエルを担いだアスカがやって来る。見回りをしている騎士に、キルトたちの居場所を聞いてきたようだ。
自分の勇姿を存分に見せびらかしてやろうと、変身を維持したままやって来たはいいものの。バックパックが邪魔で、あちこちぶつかっていた。
「あ、ごめんおばちゃん。後で直しとくさかい堪忍してや」
「ククク、こいつは驚いたな。お前……すげぇ格好になったな。なるほど、それがキルトの言ってたリジェネレイトってやつか」
「せやせや。どや、羨ましいやろー? この世で一つだけの、ウチのスペシャルフォームやで!」
「ほう。面白え、ならツラ貸せよ。キルトと纏めて相手してやる。……の前にだ、お前の担いでる奴は何者だ?」
リジェネレイト体を得たアスカに興味津々なヘルガは、彼女とも戦おうとする。が、その前にアスカが担いでいる人物について問う。
一通りキルトが説明した後、ヘルガはフンと鼻を鳴らす。アスカがサモンギアを破壊してしまったため、今現在アリエルは戦えない。
新しいサモンマスターが来たとはいえ、戦えないのなら興味は無いようだ。
「トムス将軍、一つお願いがあるのですが……フロスト博士の身柄、僕に預けてはもらえませんか?」
「んー、いいよぉ。君にはいろいろ借りがあるからねぇ。そのサモンギアってのが壊れてるなら、こいつは悪さ出来ないんだろう? なら、こちらで拘束はしないよぉ」
「ありがとうございます。博士は元々、僕たちの仲間になってくれる予定だったんですが……敵に洗脳されてしまって」
「話はもう終わりだ、表に出な。久々に血湧き肉躍る戦いをしようぜ……なあ、キルト」
「あ、ちょっと、引っ張らないでぇぇ!!」
アリエルの身柄を預かることを承認してもらったキルトは、アスカ共々ヘルガに外へ引っ張り出される。街の外に出て、彼女の気が済むまで戦わされる羽目に。
「あうう……もうへとへと、動けないよお……」
「お疲れ様、キルト。ヘルガめ、あれだけ戦ってまだ元気とは。絶倫にも程があるぞ、まったく」
「もうダメ、ねむい……すやあ」
二時間ほどヘルガに付き合わされ、心身ともに疲れ果ててしまったキルト。ルビィにお姫様抱っこされ、アジトの自室に戻る。
パジャマに着替えさせてもらった後、ベッドに倒れ込んでそのまま眠ってしまう。アスカも同じように、自室で眠りこけていた。
「よほど疲れが溜まっていたのだな……。まあ、無理もないか。おやすみ、キルト」
ルビィは寝息を立てるキルトの頬にキスをしてから部屋を出る。別室にて拘束しているアリエルの様子を見に行ったのだ。
そんななか、夢の世界に旅立ったキルトはお花畑を散策していた。夢の中なだけあって、ふわふわ浮かびながら移動している。
『ふにゃー、たまにはこんな風にのんびりするのもいいよねー。早く戦争を終わらせて、ゆっくり休みたいなー』
『あのー、もしもし? もしかして……あんたがアスカの言ったったキルトっちゅうボンかいな?』
『ふあっ!? だ、誰!? なんで僕の夢の中に知らない人たちがいるの!? ……ん? 待って、今アスカちゃんのこと言った?』
『驚かせてもうて済まんなあ。ワシは天王寺雄大、アスカのオヤジや。こっちにおるんが妻の美咲、こっちが息子の孝則や』
『どうもこんばんは。あらー、直接見ると一層可愛いやないの! 飴ちゃんもろてきたんやけど、食べへんか?』
『オカン、夢ん中で渡してもしゃーないやろ』
ふわふわリラックスタイムを堪能していたキルトの元に、突如知らない男女が三人現れた。びっくり仰天するキルトに、三人は自己紹介する。
『ワシらなぁ、もうすぐ魂が浄化されて別人に生まれ変わってしまうんや。でな、最後に一目……アスカの思い人に会わせてもらえることになったんや』
『え、そんな……そのこと、アスカちゃんは』
『知っとる、ぜーんぶ了承済みや。その上で、あいつは君のことを選んだんやで、キルトくん。あ、だからって自分を責めんでくれや。俺たちは別に恨んでおらへんから』
『そうそう。むしろ、お願いしにきたんよ。アスカのこと、頼みますって』
明日には浄化が完了してしまう雄大たちのため、ムーテューラは最後に彼らの願いを叶えてあげることを決めた。
キルトと会い、彼に娘を託したいという願いを成就させるため、こうしてキルトの夢の中に彼らを送り込んだのだ。
『……きっと、アスカちゃんは凄く悩んだと思います。僕たちを取るか、ユウダイさんたちを取るか。その苦悩の果てに、アスカちゃんは僕たちを選んでくれました』
『ああ、アスカが戻った後のことも見とったで。ボンにならあの子を任せられるわ。な、美咲』
『そうやねえ、キルトくんとってもいい子やもの。アスカのこと……お願いね。私らの代わりに、あの子を幸せにしてやってください』
『ええ、もちろん。今ここで誓います。アスカちゃんは、必ず僕が守り抜きます。何があっても、彼女を幸せにします。彼女が僕を選んでくれたなら……それに応えるのが僕の義務です!』
雄大たちの前で、キルトは力強く宣言する。アスカの好意に応え、彼女を幸せにすると誓う。少年の答えに、雄大たちは満足そうに笑った。
『ありがとな、ボン。おかげで……もう心残りは全部なくなったわ。これで、なんの悔いもなく生まれ変われるわ』
『アスカと幸せにな、キルトくん。そそっかしい妹やけど、末永く大事にしたってや』
『よかった……本当に、本当に……うっうっ』
『泣くんやない、美咲。……じゃあな、ボン。ワシ、ボンと話せて……本当に、よかった……』
『ええ、僕もです。……さようなら、アスカちゃんのご両親とお兄さん。あなたたちのこと、永遠に忘れません』
心残りがなくなり、雄大たちは消えていく。キルトは目に涙を溜めながら、彼らを見送る。柔らかな白い光に包まれ、三人は消えた。
余韻に浸るキルトだが、突然急速に意識が現実に引き戻されていく。どうやら、誰かがキルトを起こしにきたようだ。
「……ト。キルト、起きて! 大変、大変な事態になっちゃったのよ!」
「むにゃ……エヴァちゃん先輩!? どうしたの、一体なにがあったの?」
激しく身体を揺さぶられ、キルトは重いまぶたをゆっくりと開く。すると、焦りに焦ったエヴァの姿が視界に映る。
彼女がここまで焦ったことは、未だかつてない。かなりの緊急事態と見て、キルトは一気に意識を覚醒させる。
「落ち着いて聞いて。……紅壁の長城にいるフィリールのお兄さんが、暗殺されてしまったわ」
「えええっ!? ど、どうして……エヴァちゃん先輩たちがいたんでしょ!? なのになんでそんな……」
「詳しいことは、現地で話すわ。ルビィにはもう声をかけてある、悪いんだけど一緒に来て」
「うん、分かった!」
一人の乙女が飛躍を遂げたその日、西の地では悲劇が起きていた。ウィズァーラ王国との戦いで、何があったのか。今、キルトが知ることになる。




