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138話─北の地で獅子は牙を磨く

 アスカとアリエルの戦いに決着がついた頃。遙か北にある、雪と氷に閉ざされた都マルヴァラーツのコロシアムにて。


「はっ! せいっ、たあっ! ……ぐっ!」


「動きが遅い! 精神を研ぎ澄ませ、全身に力を入れろ! そんなていたらくで、皇帝陛下をお守りすることは出来ぬぞ!」


「あ、ぐっ……。はい、もう一度ご指導ご鞭撻お願いします!」


 広いコロシアムの中に、雪のように白い肌を持つ十八人の女たちがいた。みな、コバルトブルーの軽鎧を身に付け訓練に励んでいる。


 彼女たちは、ルヴォイ一世によって選抜された皇帝の親衛隊。それも、ただの聖戦士ではない。サモンマスターの力を分け与えられた存在なのだ。


「! 全員、訓練やめ! 皇帝陛下のおなり、平伏せよ!」


「はっ!」


「よい、みな楽にせよ。夜分遅くまで、よく励んでくれているな。どうだ、ミセラ。フロスト博士の作った疑似サモンギア……『オルタナティブ・コア』の使い心地は」


「はい、とても素晴らしいものにございます。ベルトより展開せしこの鎧、羽根のように軽く……それでいて、そこらの鋼をも軽く凌駕する頑強さがあります」


「そうか、役立ててもらえているようでなにより。お前たちを死なせぬため、開発に力を注いだ甲斐があった」


 雪が降ってくるなか、厳しい訓練に励んでいた女戦士たち。そんな彼女らの元に、皇帝が姿を見せる。隊長ミセラの号令に従い、一糸乱れぬ動きで整列する。


 そんな彼女らを労いつつ、ルヴォイ一世はアリエルが作製したベルト型の装具……『オルタナティブ・コア』の使い心地を尋ねた。


 ミセラは一礼した後、その使い勝手の良さをベタ褒めする。皇帝は満足そうに頷きながら、タナトスに招集される前日のことを思い出す。


『やっほー、皇帝クン買ってくんない? 私が開発したこのベルト』


『いきなり謁見の間に来たかと思えば、挨拶も無しにセールスを始めるとは。噂通りの破天荒さだな、アリエル・フロスト。……いや、サモンマスターギーラ』


 タナトスに呼び出される前日。謁見の間で一人、物思いに耽っていたルヴォイ一世の元に、窓をブチ割って半人半鳥状態のアリエルがやって来た。


 変身を解いて早々に、自身が開発したというベルトを見せて買ってくれと言い始める。そんな彼女を鼻で笑い、窓の方を指さす皇帝。


 部下の諜報活動により、すでにアリエルがサモンマスターギーラであることは知っていた。そのため、特に驚きもしない。


『来た時のように帰るがいい、今なら見なかったことにしておいてやる。それとも……衛兵に叩きのめされて断頭台に送られる方が好きか?』


『やーだなもー、そんな怖いこと言・わ・な・い・の! このベルト、すんごいお買い得な品なんだからねー?』


 皇帝の脅しもなんのその、ケロッとした様子でセールスを続けるアリエル。相手が閉口しているのをいいことに、ペラペラ話し出す。


『このベルト、オルタナティブ・コアと言いましてねぇ。なんとこのベルト、皇帝クンが本契約してるモンスターのデータを入力出来ちゃうんだぜぃ! いぇいいぇい!』


『ほう、それで? データとやらを入力して何が出来るのだ?』


『ふっふっふっ、よくぞ聞いてくれました! データを入力しておくとね、同種のモンスターをこのベルトに封印して防具に変換しちゃうんだ! 凄いでしょー、私の技術力!』


 アリエルは魔法で呼び出した赤銅色のベルトを手に持ち、ルヴォイ一世にアピールする。楕円形のバックルには、彼女のイニシャルが刻まれていた。


 このベルトを高値で吹っかければ、最近陥っている資金難を脱却出来る。そう意気込んでいたアリエルだったが……。


『なるほど、確かにそれは凄い。だが一つ問題がある。どうやってカイザレオンの別個体を用意するのかな? 博士』


『え゛っ゛』


 言うまでもないことだが、キルトとエヴァ以外のサモンマスターたちと本契約したモンスターは全て理術研究院が用意したものだ。


 当然のことながら、ルヴォイ一世の本契約モンスターであるカイザレオンはメソ=トルキアに生息していない。


 昔ならともかく、今のアリエルには暗域に行くすべが無い。そのため、別個体のカイザレオンを用意するのは不可能だ。


『聞かせてくれるかな? どうやってカイザレオンを連れてくる? ん?』


『えー、それはですね……。ま、とにかく! こうして会った記念ってことで持ってってよ! じゃねー!』


『サモン・エンゲージ』


『……逃げたか。全く、要らぬものを置いていきおって。ま、いい。捨てる神あれば拾う神あり。いずれ役に立つことがあるだろう』


 答えに窮したアリエルは、ベルトをポイ捨てし変身して逃げていった。ご丁寧に、別の窓をブチ割って。


 一人残された皇帝は、玉座を立ち上がりベルトを拾う。結果的に、その判断が彼に幸運をもたらすなど知ることもなく。


(まさか、タナトスにサモンギアをアップデートされたことで雌のカイザレオンを何頭でも召喚出来るようになるとは。全く、何が起こるか分からんものだ)


 その翌日、サモンギアのアップデートによりルヴォイ一世は複数のカイザレオンを使役出来るようになった。それも、リスク無しで。


 となれば、有効活用しない手はない。皇帝は開発部に働きかけ、莫大な予算を与えてオルタナティブ・コアを複製させた。


 簡易版サモンギアとでも言うべきベルトに、召喚した雌のカイザレオンを宿して親衛隊専用の防具へと生まれ変わらせる計画を進めたのである。


「訓練は順調か? ミセラ」


「はい、新しい防具にも慣れ今は棒術の訓練を行っています。……時に陛下。アルセナ様はご壮健でしょうか」


「ああ、元気にしているとも。今は『裏の』将軍として、その辣腕を振るってくれている。改めて、お前たちの部族の優秀さを思い知らされるよ」


「お褒めの言葉、ありがたき幸せです。……このように部族を重用していただけるのなら、最初から陛下にお味方すべきだったと思います」


 ミセラたちが属している部族、シュトラ族はかつてルヴォイ一世と敵対していた。彼の弟、第八皇子に従い皇位継承の戦いに参加していたのだ。


 が、ある時サモンマスターの力を得たルヴォイ一世によって主君が討たれてしまう。第八皇子に従っていた他の貴族たちに見捨てられ、部族は孤立。


 もはや命運も尽きた。そんな空気が里に広がるなか、族長の娘アルセナが立ち上がる。自らの身と引き換えに、部族の降伏を認めてもらおうと決意したのだ。


「確かに、そうかもしれん。ま、今となってはどうでもいいこと。アルセナと相思相愛になった今、シュトラ族は我が身内も同じ。誰にも邪険にはさせないさ」


 だが、ルヴォイ一世と対面した結果予想外の事態が起こる。なんと、お互い一目惚れしてしまったのだ。結果、皇帝の寵姫となることを条件に部族の降伏が認められた。


 そうして許されたシュトラ族は、新たな主への忠誠を示すため量産されたオルタナティブ・コアの実験に参加した。


 実験の末に命を落とす者が現れながも、ついに実験は成功。皇帝の親衛隊……『レオナトルーパーズ』が設立されたのだ。


「さて、そろそろ本題に入ろう。みなも知っているだろうが、すでに南部の三国が戦争を始めている。血で血を洗う、覇権を握るための戦いだ」


「はい、すでに存じております。サモンマスターたちも参加する、苛烈な戦だと」


「そうだ。この国には朕……いや、俺とアルセナの二人サモンマスターがいる。そこにお前たちも加われば、敗北はないと断言出来よう」


 キルトたちが騎士を相手に無双してみせたように、サモンマスターに対抗出来るのは同じサモンマスターやごく一部の上位者だけ。


 しかし、サモンギア由来の技術によって作られたオルタナティブ・コアを身に着けているシュトラ族の戦士たちは違う。


 サモンマスターに準じる存在として、対等に戦うことが出来るのだ。もちろん、サモンカードを使えない分個々の戦力は数段落ちるが。


「忘れるな、勇猛なる獅子の魂を宿す乙女たちよ! お前たちは群れでの狩りを行うのだ! 金剛石よりも硬い不滅の絆とチームワークこそが最大の武器なのだと、他国の者どもに思い知らせてやるがいい!」


「ということは……ついに、我が国も参戦するのですか!?」


「ああ、近々な。最後まで抵抗していた反乱勢力が、今日降伏した。数日かけて準備を整え……我らも大戦に参加する」


 皇帝の言葉に、若き乙女たちは歓声をあげる。新たな力を戦場で振るえる日が来るのを、ずっと楽しみに待っていたのだ。


 サモンマスターたちの戦乱は、さらに加速する。超大国の参入によって。その結末は、まだ誰も知らない。

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― 新着の感想 ―
[一言] 一難去ってまた一難な空気になって来たな(ʘᗩʘ’) しかしアリエルの奴また面倒な代物を作りやがって(⑉⊙ȏ⊙) 知的好奇心で作った挙げ句、金儲けで売り付けようとしたけど肝心の部分ノープラン…
[一言] >「よい、みな楽にせよ。夜分遅くまで、よく励んでくれているな。どうだ、ミセラ。フロスト博士の作った疑似サモンギア……『オルタナティブ・コア』の使い心地は」 絶対アレだw
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