136話─こうして乙女は帰還した
家族との別れを経て、ムーテューラの手でアジトのリビングに送還されたアスカ。改めてキルトとの初キッスに臨もうとするが……。
「あら? なんでキルトおらへんの……ってええええええっ!? もう夜!? 上からこっちまで転送すんのにどんだけかかっとんねん!」
いつの間にか、キルトがいなくなっていた。おまけに、リビングの壁にかけられた時計を見ると時刻が夜の九時を指している。
どうやら、グラン=ファルダとメソ=トルキアを往復するのにかなりの時間を要してしまったらしい。昼前に呼び出されたのに、帰ったら夜。
ムーテューラの転送が下手くそなのか、他に原因があるのか。キルトを探しに行こうとしたアスカは、テーブルの上に封筒があることに気付く。
「なんやこれ、ウチ宛て……かいな?」
封筒の表面には、キルトの字で『アスカちゃんへ』と書かれている。封を破り、中に入っていた手紙を取り出し読むアスカ。
「えーとなになに、『アスカちゃんへ。この封筒は特殊な魔法で封をしてあるんだ。なので、この手紙を読めるのは戻ってきたアスカちゃんだけなんだよ』やって。ほー、そなんか」
──なんとなくだけど、アスカちゃんが神々に呼び出されたんだなってことが分かる。きっと、辛い決断を前倒しにしなくちゃいけない事態になっちゃったんだよね?──
「流石キルト、バッチリ当たっとるで。ま、ウチはこうして帰ってきたわけやけど」
手紙を読みながら、アスカはそう呟く。目だけは動かすのを止めず、先へ読み進めていくと……。
──もし、アスカちゃんが戻ってきてくれたなら。僕はとっても嬉しい。この手紙を読んでるアスカちゃんも、同じ気持ちなら嬉しいな──
──本当は、リビングで待っていたいんだけど……そうもいかなくなっちゃって。夕方になって、ペレトレスの街に行ってたルビィお姉ちゃんが、慌てて戻ってきたんだ。街の中に、レマールの暗殺部隊が入り込んだって──
「ええっ!? そらアカンやつや。クッソー、あいつら汚いマネしおるわ」
どうやら、夕方ごろまではキルトはリビングで待機していたようだ。しかし、少数精鋭の暗殺部隊が街に侵入したことで事態が変わったらしい。
──僕はお姉ちゃんと一緒に、ペレトレスに行ってトムス将軍や街の住民を助けてきます。もし、アスカちゃんが戻ってきてくれたなら。僕と一緒に、戦ってほしいんだ──
──ちなみに、十日間この封筒が開封されなかった場合手紙は自動で燃えて消えます。アスカちゃんが地球に戻ることを選んだってことだからね。その時は……僕たちのことは気にせず、家族と幸せに暮らしてね、アスカちゃん。キルトより──
「キルト……そうや、ウチはそのために戻ってきたんや。新しい居場所を、仲間を守るために」
キルトは騎士団や街の住民を助けるため、ルビィと共に戦いに向かった。ならば、アスカがするべきことはただ一つ。
新たに得た力を振るい、愛する少年を助ける。それ以外にはない。手紙を折り畳み、私服の懐にしまった後アスカはリビングを飛び出す。
「待っててや、キルト! アスカちゃんが今助けに行くで!」
◇─────────────────────◇
「はあ、はあ……。まさか、フロスト博士が暗殺者たちと一緒に襲ってくるとはね。なんとか街から引き離せたけど……」
『正直、一対一では勝ち目が薄いな。自慢の攻撃力も、当たらなければ宝の持ち腐れだ』
無様に負けて撤退したのだから、攻めてくるのは軍を再編してから……。誰もがそう思っていたなか、突然の襲撃。
トムスやキルトの裏をかき、リンシャがアリエルと八人の暗殺者たちをペレトレスに送り込んできた。もちろん狙いは、トムスの暗殺。
幸い、街をぶらついていたルビィが暗殺者の気配を捉えて騎士団に警告したため、トムスは難を逃れた。だが、暗殺者たちは街の中に逃げてしまう。
「ウルルル……ガアッ!」
「うわっと! もう、速すぎて嫌になっちゃうよ!」
『ジワジワこちらにダメージを与え、体力を削る作戦か……。済まぬ、キルト。我がもっと小回りを利かせられれば、空中戦で奴を倒せるのに』
「はあ、ふう……。気にしても仕方ないよ、お姉ちゃん。出来ない以上は、別の作戦を立てるしかないよ」
騎士たちとヘルガに暗殺者の捕縛をしてもらい、キルトはルビィと合流してアリエルを街の外にある平野に誘き出した。……まではよかったが、相変わらず相手の飛翔能力に苦戦していた。
空中制動で遙かに上回るサモンマスターギーラを相手に、リジェネレイト体の力でも優位に立てずにいたキルト。
このままでは、ジワジワとなぶり殺しにされてしまうだろう。彼が一人で戦えば、だが。
「グルルル……ギャアッ!」
『ダーツコマンド』
『奴め、一気に決着をつけるつもりだ! キルト、身を守るのだ!』
「うん、分かっ」
「その必要はあらへんで、キルト! ウチの分身がぜーんぶ羽根を叩き落としてやるさかいな!」
『ミラージュコマンド』
大量の羽根を降り注がせ、キルトを始末しようとするアリエル。キルトは左腕に装備したヘイルシールドを構え、攻撃を防ごうとする。
が、その時。街の入り口にキルトが設置したポータルキーを通ってサモンマスターミスティに変身したアスカが現れた。
十二人の分身を呼び出し、降り注ぐ羽根の雨からキルトを守り消滅していった。
「アスカちゃん! 帰ってきてくれたんだね!」
「ああ、そうや。話すとながーくなるから、これだけ言わせてや。……ただいま! キルト、ルビィはん!」
『よく帰ってきてくれたな、アスカ! ……やはり、例の選択絡みで呼ばれていたのか?』
「うん、そうなんよ。せやから、ウチは選んだ。この世界で、キルトたちと一緒に生きていくって。オトンたちと、お別れして……新しい力を、得てきたんや」
心底嬉しそうなキルトやルビィと言葉を交わしながら、アスカはデッキホルダーに手を伸ばす。取り出しのは、『REGENERATE─決別』のカード。
「そ、そのカードは!?」
『驚いたな、お前も得たのか……リジェネレイトを』
「グルル……ギィッ!」
カードを取り出した直後、アスカの周囲を風が渦巻く。ただならぬ気配を感じ、アリエルは唸り声をあげながら上空を旋回しはじめる。
今仕掛けるのは危険だと、本能で察知しているようだ。そんな彼女には目もくれず、アスカは右手に持ったレイピア型のサモンギアを目の前にかざす。
「……見ててや、キルト。これがウチの! 新しい力や!」
【REGENERATE】
直後、サモンギアが銀色の光に包まれ形を変えていく。銀色に輝く、オートマチック式のハンドガンへと変化を遂げる。
グリップの底部分にある溝にカードをスラッシュして、アスカは力を解き放つ。服装が変わり、群青色のラインが走る銀色のボディスーツが全身包む。
頭部には赤色のバイザーが付いた銀色のフルフェイスヘルメットを被り、背中には飛行機のジェットエンジンを思わせる二つの装置がついたバックパックが装着されていた。
【Re:AIR SONIC MODEL】
「す、凄い! これがアスカちゃんの……」
『リジェネレイト体、なのか』
「……ふう。腹の底から力が溢れてくるのを感じるわ。キルト、ここはウチに任せてくれへんか。あの女、ウチが正気に戻したる」
「分かった、頑張ってアスカちゃん!」
「へっ、心配無用やで。この『エアハイトウィング』で、大空を自由自在に飛んだるわ!」
戦いを選んだ少女は、愛する者のため天を舞う力を得た。月明かりが照らすなか、天空を舞台にリベンジマッチが始まる。




