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133話─初戦の行く末は

「にゅははは~、どいつもこいつも雑魚ば~っかりだね~! ウチに勝てるよ~なやつ、一人もいないみたいだね~!」


 厄介なキルトとアスカがいなくなった結果、リンシャはドンドン調子に乗りはじめていた。デルトアの騎士たちを雑魚と見下し、いたぶりながら殺している。


 絶対的な力と特性の差で、騎士たちが勝てる見込みはほぼない。だが、それでも彼らは一歩たりとて退くことだけはしなかった。


「全軍進め! あの女をこれ以上本隊に近付けさせるな!」


「命に代えてもこの国を守る! それが我々デルトア騎士団の役目だ!」


「そうとも、例え奴を倒せなくても……俺たちが戦い続けることで疲弊させられる! そうすれば、ドラクル殿たちが戻ってきた時に優位に立てる!」


 騎士たちには、守るべき家族が、民が、祖国があるから。己を捨て石として、未来へ希望を繋ぐ……その覚悟を全員が決めている。


 そんな彼らをあざ笑いながら、リンシャは髪を振るい命を奪っていく。本隊到達まで、残り百メートルを切った。


 このまま騎士たちを殺し尽くし、敵将トムスを討ち取ればレマール軍の勝ちだが……。


「さ~て、このままドコドコすす」


「おっと、待ちな。オレと遊べよ、お前も……サモンマスターなんだろ?」


「へ? ぎゃぶっ!?」


 そう簡単に行くはずもなく、リンシャやレマール軍にとって予想外の敵が現れる。騎士たちの間を駆け抜け、ヘルガが現れたのだ。


 強烈な飛び膝蹴りを顔面に食らい、リンシャは味方の方へ吹っ飛ばされる。華麗に一回転してから着地したヘルガは、ニヤリと笑う。


「お前らは怪我人連れて下がってろ。雑魚にウロチョロされるとイライラするからな……」


「し、しかし……敵はサモンマスターなのですよ!? どこのどなたか存じませんが、たった一人で戦うなんて無茶です!」


「ハッ、心配ならいらねぇよ。オレもサモンマスターだからな」


『バトルセットアップ』


 スーツのジッパーを下げ、胸の谷間からデッキホルダーを取り出しつつヘルガは声をかけてきた騎士に答える。デッキに魔力を流し込み、サモンマスターノーバディとしての戦いに臨む。


「そういうことでしたか! 分かりました、我々は退却します……ご武運を!」


「いいから行け。これから派手に()る。巻き込まれねえよう……おっと」


「も~、なんなのさお前! いきなり顔面に蹴り入れるとかあり得ないんですケド!」


「ハッ、弱ぇ犬ほどピーピー吠えるって言うが……お前はどちらかっつうと弱い者いじめをするカス犬だな」


 死角から伸びてきた髪の毛を、愛用の短剣でガードするヘルガ。鼻血を出しつつ復帰してきたリンシャを見て、吐き捨てるように呟く。


「うるさいうるさいうるさ~い! 人が気持ちよ~く殺しまくってるのを邪魔するなんて、ぜ~ったいに許さないんだから~!」


「ほう、許さねえなら……どうする? オレを殺すのは骨が折れるぜ? 軽く二百六本はな」


『サポートコマンド』


 軽口を叩きながら、ヘルガはデッキから魚の絵が描かれたカードを取り出しスロットインする。もちろんただの魚ではない。


 顔の先端に槍状の(ふん)を持つ空飛ぶ魚の魔物、『フライニュール』の群れを呼び出したのだ。総勢三十六尾の魚たちが、ヘルガの周囲に召喚される。


「……行け。あの女を援護しようとする奴らを片っ端から仕留めろ。タイマンを邪魔されるのはイライラするからな」


「キュキュキュー!」


「うわ!? こ、こっちに来るぞ!」


「ひえええ、来るなぁぁ!!」


「ちょ、こら~! なに勝手に退却し……おひゃっ!」


「ハッ、今度は避けたか。次は前歯をへし折ってやろうと思ってたが、なかなかいい身のこなしだな」


 フライニュールたちが一斉に突進し、レマールの騎士たちへ襲いかかる。頑強な防具も、鋭い吻の前には無意味。


 慌てて逃げていく部下たちを叱責していたリンシャだが、ヘルガの放った二度目の飛び膝蹴りを慌てて回避する。


「も~、ホント怒った! マジ激おこなんだから、覚悟しろ~!」


『ネイルコマンド』


 リンシャは第二のサモンカードを取り出し、ももに装備したサモンギアに読み込ませる。カードに描かれているのは、ファッションで使われる付け爪。


 ただし、非常に長く鋭く尖っている禍々しい見た目をしているが。リンシャの両手の指に、紅い付け爪(ネイル)が装着される。


「この『プリティミナルネイル』で切り刻んでやるもんね! もちろん髪の毛も使ってぶっ殺しちゃうよ!」


「ふぅん。面白ぇ……じゃ、たまには趣向を変えてみるとしようか」


『サポートコマンド』


「来い……リビングソード!」


 逆立った髪と長く鋭い付け爪による完全武装状態になったリンシャは、反撃を開始する。近寄って爪を振るい、離れては髪を叩き込む。


 目まぐるしく変化する相手の攻撃を避けながら、ヘルガは新たなサポートカードを取り出す。青みがかった灰色の剣が描かれたカードを読み込ませると……。


「オオ……オオオ……。我ヲ呼ブノハ誰ダ……」


「御託を並べてる暇があったら、さっさとオレの手に収まれ。じゃねえとへし折るぞ」


「……スイマセンデシタ」


 刀身にいくつもの目が浮かぶ、不気味な剣のモンスターが空中に出現した。自我を持っているようで、話し始めるが……。


 ヘルガに脅され、あっさりと彼女の左手に収まることに。呪われし剣と自前の短剣の二刀流となり、反撃を行う。


「まずはこの邪魔な髪からだ。散髪してやるよ……こう見えて、毛を刈るのは得意なんだぜ? なんせ、オオカミの獣人だからなぁ! カースネルスラッシュ!」


「させないよ~ん! ヘアキューブハンマー!」


 左手に持ったリビングソードを振るい、髪を切り落とそうとするヘルガ。体するリンシャは、髪を束ねてブロック型のハンマーに変える。


 剣と髪がぶつかり合い、互いを押し合う。フライニュールが飛び交い、騎士たちが悲鳴をあげるなか二人の戦いは続く。


「むぎぎぎ……! なにあんた、チョー力強いんですケド!?」


「ハッ、このくらいで驚いてちゃ話にならねえぜ。やっぱり……オレを満足させてくれるのは、キルト以外にゃいねえか? あ!?」


「うげっ、ヤバッ!」


 サモンマスターとしてのスペックが互角なら、次点で響いてくるのは元々の身体能力の差だ。獣人ゆえの高い筋力を活かし、ヘルガは力任せに剣を振り抜き髪の毛を両断する。


「食らいな……カースレイドストライク!」


「なんの! グランネイルガード!」


「ムダだ……吹き飛べ!」


「あぎゃっ!」


 返しの一撃を叩き込み、リンシャを吹き飛ばす。爪で防御してもなお、リンシャは致命傷を避けるのに精一杯だった。


 地面に叩き付けられ、ダメージによって変身が解除されてしまう。こうなればもう、後は煮るなり焼くなり好きに出来るが……。


「ううう~……!! もうマヂ無理、帰るぅ~! 全ぐ~ん、てった~い! 覚えてなさいよ~、次はぶっ殺してやるんだから~!」


「ケッ、根性無しめ。この程度で逃げ帰るたぁ、随分な弱虫だ……つまらねえ」


 再度変身して戦う気力も無くなったようで、リンシャは涙目になりながら撤退の指示を出す。……とは言っても、先発隊は全滅、後発の部隊も大打撃を受けている。


 もれなく全員が満身創痍になり、フライニュールに突っつかれながら這々の体でレマール共和国に逃げ帰ることとなった。


「おお……やった! レマール軍を追い返したぞ!」


「トムス将軍、追撃しますか? 今なら敵将を討てるかもしれません!」


「そうしたいけどねぇ、功を焦るのは禁物だよ。こちらも少なくない被害が出た……それに、敵のサモンマスターはまだいるからねぇ。そいつが戻ってきたら、大きな被害が出るかもしれない。一旦退こう、次はこっちから敵国に攻め込む」


 このまま追撃し、レマール軍にさらなる打撃を……と進言されるトムス。だが、彼はその案を却下した。リンシャの大暴れで、デルトア側も被害が大きい。


 このまま進軍し、後ろからもう一人の敵サモンマスターに襲われたらさらに被害が出てしまう。慎重を期し、トムスは撤退を選んだ。


「全軍に告ぐ! 我らは国境防衛の戦いに勝利した! これより最寄りの街に撤退する! 各々傷を癒やし、次の戦いに備えよ!」


「おおーーーー!!!」


 経過はどうあれ、初戦を勝利で飾ることが出来たデルトア騎士団。すでに陽は高く昇っており、血と死体で溢れる平原を陽光が照らしている。


「……これで終わりか、物足りねえ。キルトを探して、合流するとしようか」


 戦無き戦場にもう用は無いと、ヘルガはひっそりと姿を消す。その頃、キルトたちはというと……。


「はあ、はあ……。ダメだ、全然追い付けない! やっぱり、機動力をなんとかしないとどうにもならないよこれ!」


「一体、何時間戦っとるんやろな……もう限界やで、ウチ」


「グルルル……ギッ? ……シャアッ!」


 いまだアリエルを地上に引きずり落とすことが出来ず、苦戦を強いられていた。そうこうしている内に、仲間の撤退に気付いたアリエルが離脱する。


 決着をつける前に、敵が撤退していったことにルビィは不満を覚える。せめて一矢報いられればよかったのだが……。


『奴め、結局こちらを引っかき回すだけ引っかき回して行きおったな。全く腹立たしい!』


「今回はしてやられたね……。でも、一回やられたら二度目はないよ。次は絶対勝つ! そのために、対策を考えなきゃね」


 戦争には勝ったが、勝負は引き分け。リベンジに向け、キルトは闘志を燃やすのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 流石に戦争の前哨戦で敵の最大戦力の飛車と角を取ることはできんかったか(ʘᗩʘ’) でも少し不味いぞ(٥↼_↼)ただでさえ前回のグレイブヤード戦では助太刀したけどタダ働きで終わり、今回は正式…
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