132話─人鳥空舞! サモンマスターギーラ!
明らかに様子のおかしいアリエルに拉致され、戦場から強制離脱させられてしまったキルトとアスカ。レマール軍には、まだリンシャがいる。
急ぎアリエルを倒して戻らなければ、今度はデルトア騎士団がサモンマスターに蹂躙されることになってしまう。が、何やらキルトに秘策があるようで……。
「ふふん、僕たちを連れ出して時間稼ぎしようって魂胆なんだろうけど。あいにく、こんなこともあろうかと僕が事前に策を打っておいたからね。問題はないんだよ!」
『策、か。キルトが自信ありげに言う時は、だいたい成功するものだ。よし、なら焦ることはない。こやつを倒すことだけに集中しよう!』
「ガッテンやで!」
「ウウウウ……ガアッ!」
『スラッシュコマンド』
そんな会話をしているキルトたちを、空中からアリエルが見下ろす。両腕が翼に変化しているため、サモンギアを使えないように見える。
が、彼女の背中に取り付けられた水色のプロテクター型のサモンギアには同色のデッキホルダーが下側に連結されている。魔力を流すことで、カードが自動で装填されるのだ。
そんなわけで自動装填されたのは、鋼色の鋭い刃と化した翼が描かれたカード。そのカードの効果によって、アリエルの翼が変化する。
『む、奴の翼が変わったぞ。えらく金属質になったものだな』
「カードの名前からして、確実に刃物になったね。あれで僕らを……っと、話してる場合じゃない、来る!」
「ルァァァ!!」
刃の翼を得たアリエルが急降下し、キルトとアスカに襲いかかる。二人は左右に別れて跳び、振るわれた翼を避けた。
「やってくれるやないか。ほならこいつを食らい! スパイダーベイビー・ブレイク!」
「グルッ……シャアッ!」
「はやっ!? あっという間に上空に戻ってしまいおったで」
『まずいな、空中にいる限り奴の機動力でこちらの攻撃を避けられ続けるぞ。スタミナ切れを待つ、なんて悠長なことは言っていられぬし……』
「可哀想だけど、なんとかして翼を叩き折って地面に落とすしかないね!」
アスカが反撃に放ったヨーヨーを華麗な空中制動で避け、そのままキルトたちが手出し出来ない上空へと戻っていくアリエル。
機動力が武器の相手を仕留めるには、長所を潰してしまうのが効果的。幸い、世界大戦に備えてサポートカードは補充してある。
「まずはフロスト博士の高度を下げる! こうだっ!」
【サポートコマンド】
「来い、マグナマンティス!」
「キチチ、カチチチチチ」
「おおっ? なんやこのカマキリ、腕がU字磁石になっとるで」
キルトは両腕が磁石になった銀色のカマキリが描かれたカードを取り出し、サモンギアにスロットインする。
相手の翼が金属質になったのなら、磁力を利用して引き寄せられるはず。そう推測し、このサポートカードをチョイスしたのだ。
「キキィィイイィイ!!」
「ガウッ……ウウッ!?」
『おお、いいぞ! 奴の高度が下がりはじめた、やはり磁力は有効なようだな!』
「よっしゃ! ウチのヨーヨーの射程距離まで来たら叩き落としたるわ!」
「グガ、ウ……サセ、ナイ!」
『アドベント・フラウラピル』
このまま引き寄せられてはまずいと判断し、アリエルは本契約モンスターを召喚する。彼女のすぐ横に、水色の羽毛を持つハーピィの魔物が現れた。
ハーピィはハヤブサのような猛スピードで急降下して、磁力の発生源であるマグナマンティスを抹殺しようとする。
「まずい、助けに……」
「キュイイィ!」
「カチ……キイッ!」
「アカン、間に合わへんかったわ!」
相手が遠距離攻撃してくる可能性を考慮し、マグナマンティスから距離を取っていたのが災いしてしまった。敵の本契約モンスターの爪が、マグナマンティスを仕留めてしまう。
さすがに同じモンスターを複数仮契約してはいないため、同じ戦法は採れなくなってしまった。
「まずいなあ……この姿でも飛べるっちゃ飛べるけど、博士みたいな速度は出せないし……空中戦をしようにも分が悪いよ」
『我が出たところで、奴の機動力に翻弄されるだけだろうな。小回りが利かぬからな、我は……』
もう一度ルビィをアドベントするという手もあるにはあるが、機動力の差は埋められない。どんなに威力が高い攻撃も、当たらなければ無意味。
このままでは、アリエルの体力か魔力が切れるまで延々この場に釘付けにされてしまう。それだけは避けたいが、妙案が浮かばない。
「ああもう、どないしたらええんや!? このままやったら、味方がもう一人のサモンマスターに殺し尽くされてまうで!」
「大丈夫、そうはならないよ。……もうそろそろ、着いてる頃だろうからね。強力な助っ人が」
アリエルのヒットアンドアウェイ戦法に苦しめられるなか、焦りが募るアスカにキルトがそう答える。一方、戦場では……。
「ほ~れほれ、みんなウチの髪の毛でブチ殺しちゃうよ~ん。どんな死に方がい~い? 最期くらいは選ばせてあげるよ! キャハッ!」
「く、くそっ! 本当に敵軍にもサモンマスターがいる……がはっ!」
邪魔者たちがいなくなり、ついにサモンマスターパフォールが出撃してきた。今度はデルトア騎士団が、サモンマスターに苦しめられることに。
一人、また一人と長く伸びる髪に絞め殺されたり身体を貫かれていく。やられっぱなしで士気が下がっていたレマール軍が勢いを盛り返し、反撃を始める。
「リンシャ将軍に続けー! 敵軍を蹂躙しろー!」
「さっきのお返しだ、今度はあいつらが惨めに死ぬ番だぜ!」
「いけいけ~、デルトアの騎士たちをやっつけろ~」
リンシャの指揮の元、ドンドン攻め込んでいく。トムスは部隊の守りを固め、何とか敵の攻勢を凌いでいるが……あまり長くは持ちそうにない。
「トムス将軍、左翼が重点的に攻められていて崩れそうです!」
「追加の人員を投入するんだ、何があっても切り崩されちゃあならないよ! ……やれやれ、サモンマスターってのは敵でも味方でも恐ろしいねぇ」
「ククッ、そうだろ? ま、安心しろ。キルトの代わりに、このオレが暴れてやるよ」
右翼も左翼も中央も、敵の猛攻で突破されそうになっている。目が回るような忙しさのなか、指揮を採るトムスの背後から声がする。
振り向くと、そこには……いつやって来たのか、番外のサモンマスターであるヘルガが立っていた。
「お前は冒険者ギルドの!? 何故ここにいる、ギルドからの志願兵は西の戦線に回されているはずだぞ!」
「ククク、キルトに直接『指名』されたもんでね。不測の事態に備えて、いつでも行けるようコイツで待機してたのさ」
トムスの部下に尋ねられ、ヘルガはあるものを見せる。それは、丘に落としたスペアのポータルキーだった。
実はキルトは、GOS最後の会議の前日にこっそり一人でヘルガに会いに行っていた。そして、不測の事態に備え臨機応変に動けるよう、ポータルキーを託したのだ。
誰もいないアジトで様子を見ていたヘルガが、こうして助太刀に来たのである。
「キルトがいねえのはイライラするが……ま、仕方ねえわな。向こうの方から匂ってくるぜ……強者の気配だ。ソイツと遊べば、少しはイライラも消えるかもな」
「おお、ありがたいねぇ。ドラクル殿たちがどこかに連れていかれたのが見えてね、さてどうしたものかと困っ……あ、いない……」
「風のような速さで走り去っていきましたね。心強い味方……って認識していいんでしょうか、あれは」
もうトムスたちと話すことはないと、ヘルガは敵陣へ向かってすっ飛んでいく。狂犬の乱入により、状況は変わる。
両軍の戦いの決着まで、少しずつ時が進んでいた。




