131話─第一次メソ=トルキア大戦
「……始まったね、両軍の戦いが。ルビィお姉ちゃん、アスカちゃん。僕たちも出撃するよ」
『ああ、任せておけ。誰が相手だろうと、我がいる限り敗北は無い』
「うう、いよいよやんな……。すー、はー。よし、やったるで!」
デルトア帝国とレマール共和国、ついに両大国の騎士団がぶつかり合う。事前に張り巡らされた罠を、少なくない損害を出しつつ踏み越えるレマール軍。
弓兵隊の攻撃を魔術師たちが防ぎつつ、デルトア軍の弓兵たちが反撃に出る。その様子を双眼鏡で見ていたキルトは、ついに出撃することを決めた。
「今回は最初から全力で行くよ。何が起こるか分からないからね」
『了解した。たっぷりと暴れてやろうではないか!』
「うん、行くよ!」
【REGENERATE】
【Re:NIFLHEIMR MODEL】
戦場で何が起こるか、全く予想出来ない。ゆえに、初手から全力を出さねば生き残ることは不可能。キルトはリジェネレイト体になり、アドベントを行う。
【アドベント・コキュートスドラゴン】
「アスカちゃん、乗って! このまま殴り込みをかけるよ!」
「ガッテン!」
清らかな青き氷竜へと変わったルビィが召喚され、キルトとアスカを背に乗せる。大空へと飛び立ち、激戦の舞台へと突撃していく。
……この時、キルトはアスカやルビィに気付かれないようこっそりとスペアのポータルキーを地面に落としていった。
それが何を意味するのかは、のちに明らかとなる。
「トムス将軍、敵の小隊が罠を抜けました!」
「意外とやるねぇ、敵も。よし、こっちは大盾重装隊を……ってさむっ! なんだぁ、この冷気は?」
「将軍、大変です! 北東方面から巨大な竜が接近しています!」
「? ああ、なるほど。よし、味方を後方に下げろ。始まるぜ、サモンマスター殿のド派手な攻撃がよぉ」
部下にとっ捕まり、無理矢理後方に下げられたトムスが部隊を指揮していたその時。周囲一帯に、凄まじい寒風が吹き荒れる。
同時に寄せられた巨大竜の目撃情報から、トムスはキルトが加勢に来たことを確信する。被害が出ないよう、部下たちを退却させた。
「かしこまりました! 退却のラッパを鳴らせー! サモンマスター殿の攻撃が始まるぞー!」
「ハッ!」
ラッパの音に合わせ、デルトア騎士団が後方に下がっていく。それを見たレマールの騎士たちは、自分たちに恐れをなしたと勘違いする。
「おい、あいつら逃げてくぞ」
「罠をものともせず突き進む我々に、今更恐れをなしたようだな。このまま進め! 奴らの陣を崩し……て……」
「ごきげんよう、レマール共和国の騎士団よ。我が名はルビィ、凍てつく冷気を操るコキュートスドラゴンなり。早速で悪いが……消えてもらおう」
「ど、ドドドドラゴンだぁぁぁぁ!? て、てった」
「遅い! コキュートスブレス!」
敵を追撃し、総崩れにしてやろうと画策するレマールの指揮官だったが、そこにルビィが現れる。天を覆い尽くす巨竜を前に、ただ唖然としてしまう。
一目見ただけで理解出来た。いや、させられた。矮小な人の身では、雄大なるいにしえの竜を打ち倒すことなど出来ぬのだと。……まあ、ルビィは雌だが。
「ヒッ、下がっ……ぐあああ!!」
「ぎええええ!!」
「ま、魔法障壁が効かな……あがっ!」
先発部隊の指揮官を含むレマール騎士の大半が、ルビィの放った冷気のブレスの直撃により物言わぬ氷像に変わった。
草原は薄い氷で覆われ、あっという間に極寒の世界に塗り替えられてしまう。その様子を見ていたトムスたちは、羨望の眼差しを空に向ける。
「おお……なんと凄まじい。数百のレマール兵を、いとも容易く……」
「これが、サモンマスターの力かぁ。んっふふ、いつ見てもゾクソクするよ。彼らが味方で、本当によかったねぇ」
「見てください、将軍! 竜が消えていきます!」
デルトア軍が見守るなか、ルビィがキルトの鎧の中に戻っていく。ここからは、キルトとアスカが大暴れするターンだ。
『キルト、奴らはかなり混乱している。このまま攻め込んで一気に切り崩すぞ!』
「おっけー、ありがとうお姉ちゃん! さあ、飛び込めー!」
「おー!」
「ひぃっ! き、来たぞぉ! デルトアのサモンマスターだぁぁぁぁ!!」
キルトは背中のマントを広げ、グライダーのように滑空しながら敵陣に攻め込む。ちなみに、アスカはキルトの腰にぶら下がっている。
先発部隊を全滅させられ、統制が乱れたレマール軍にとってこの襲撃はたまったものではない。リカバリーもロクに出来ないうちに、応戦を余儀なくされてしまう。
【カリバーコマンド】
「さあ、どんどん行くよ! 死にたい奴からかかってこーい!」
『ミラージュコマンド』
『スイングコマンド』
「死にたくなくても、問答無用ではっ倒させてもらうで! 覚悟しいや!」
「クソッ、舐めてくれやがって! たかがガキがこの人数を全滅させられると思うな!」
キルトは聖剣を、アスカはヨーヨーを装備した七人の分身を呼び出す。そのまま敵陣へと斬り込み、バッサバッサと薙ぎ倒していく。
「ていっ! やあっ!」
「へっ、そんな剣なんか俺様の分厚い盾で……あれ? う、腕が無い!?」
「悪いね、腕ごと盾はぶった斬ったよ。次は首だ!」
「そ、そんなげぶ!」
今この瞬間に至るまで、レマールの騎士たちはサモンマスターを侮っていた。強大な魔物と武具を使役するとはいえ、所詮子ども。
歴戦の強者である自分たちには勝てないと。だが、その認識が間違っていたことを命を代価として知ることになる。
「ソイソイソイッ! ウチのヨーヨーテク、存分に見せつけたるわ!」
「がはっ!」
「ぐあっ! クソ、どうなってやがる!? なんであんなオモチャの攻撃を防げ……げはっ!」
「ひえっ、脳みそがうどん玉みたいにこぼれとる……アカン、もうおうどん食えへんかも……」
どれだけ頑強な鎧兜や盾で身を守ろうと、どれほど強靱な武器を振るおうと。サモンウェポンの攻撃を防ぐことは出来ず、傷一つ与えられない。
たった一人でも、強大な神々や魔戒王にも太刀打ちしうるコンパクトな決戦兵器。それをコンセプトとして開発されたサモンギアの力は、無敵なのだ。
「まずい、このままでは全滅だ! おいお前、後方に待機してるリンシャ将軍に伝えろ! 敵のサモンマスターが攻めてきたから、応戦してくれとな!」
「は、はい!」
キルトとアスカの大暴れによって、レマール騎士がどんどん討ち取られていく。ここにデルトア軍の攻撃も加われば、敗走は確実。
勝つためには、味方のサモンマスターにも動いてもらう必要がある。……が、すでに動き始めていた。彼女たちが。
『よし、いいぞ! このまま奥に進んで大将首を獲ってしまおう』
「うん、どんどんすす──!?」
「ウルルル……ガァッ!」
『なっ、こやつは!? アリエル・フロスト!?』
一気果敢に攻め込もうとするキルトの身体が、突然ふわりと浮き上がる。遙か上空から、半人半鳥の姿になったアリエル……サモンマスターギーラが襲来したのだ。
大きく頑強な足の爪で肩を掴まれ、キルトは遠くへ連れ去られていく。それに気付いたアスカは、ヨーヨーをシュートしキルトの脚に巻き付ける。
「ウチだけ置いてけぼりなんてさせへんで! キルトー、その女味方になる予定だったんちゃうのん!? なんで襲ってきてるんや!?」
「ぼ、僕にもさっぱり……! フロスト博士、なんでこんなことをするの!? 離してよ!」
「グルルル……ゴフッ」
『待て、こやつ様子がおかしいぞ。まさか……アスカの時のように、洗脳されているのか?』
「まさか、またタナトスが一枚噛んで……うわっ!」
明らかに様子がおかしいアリエルを見て、キルトとルビィの脳裏にかつてのアスカが思い浮かぶ。あの時のアスカも、理研に洗脳されていた。
キルトへの協力を阻止するために、タナトスが裏で何かをしたのではないか。そんな疑念を抱くなか、キルトたちは戦場から離れた草地に放り投げられる。
「あいたっ! うー、腹ダイレクトにぶつけたで……」
「アスカちゃん、大丈夫? ……ところで、あれ見てよ。明らかに様子が変だよね?」
「ん? あ、ホントや。まるでキルトに助けてもらうまでのウチみたいやわ」
「ウルルル……グラァッ!」
『やはり、理術研究院が何かしたようだな。であれば仕方ない。戦って正気に戻してやる他はなさそうだ』
「やれやれ、これだから戦争は……嫌なんだよね、何が起きるか全く予想出来ないよ」
南の戦線にて、ついにサモンマスター同士の戦争が始まる。──戦わなければ生き残れない。勝つのはキルトたちか、それとも……。




