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130話─決戦の火蓋は切られた

 翌日、朝五時の鐘が鳴る前……夜が明けたばかりの平原に、デルトア帝国騎士団がいた。レマール共和国の軍勢を迎え撃つためだ。


 大戦の舞台となるのは、南の国境線の中でも街道から離れ、なつ大規模に部隊を展開出来るシュトラ平原と呼ばれる場所だ。


「うう、なんや緊張するわぁ……。皆殺気立ってておっかないでぇ」


「仕方ないよ、アスカちゃん。これから僕たちは、デルトア帝国を守るための戦いをするんだから。ね、お姉ちゃん」


「ああ。我らも奮戦せねばなるまい。この国の守護者としてな」


 帝国騎士団の総数は、八千人。このうち、主要都市の防衛に当たる者らを除いた中から三千人が南部戦線に割り当てられた。帝国の西には長城があり、守りが堅い。


 対する南は、旧レマール王国と交流があったため長城を建設しておらず、容易に侵攻されてしまう。そのため、多めに戦力を割り振らねばならないのだ。


「おお、ここにいましたかぁ。お三方、体調の方はどうですかな」


「僕とお姉ちゃんは万全ですよ、トムス将軍。アスカちゃんはかなり緊張してますけど」


「しゃあないやろ、ウチ国同士の戦争なんて学校の資料映像くらいでしか知らへんのやもん」


「アスカ殿は異世界から来たのでしたな。聞くところによると、とても平和な国の出身なようで。いや、羨ましい限りですなぁ」


 現在キルトたちは、騎士団本陣から十数メートルほど離れた場所にある丘にいた。一騎当千の力を持つ彼らは、帝国の切り札。


 遊撃要員として、本隊から離れ自由に戦えるようにしてあるのだ。そんな彼らの元に、馬に乗ったトムス将軍がやって来る。


「そういえば、斥候を出していたのだったな。もうそろそろ、戻ってきた頃合いなのではないか?」


「ええ、つい先ほど戻りましてねぇ。バッチリとレマール軍の情報を持って帰ってきましたよぉ」


「おお、それはええニュースやな。で、どないな感じなんや?」


「目測で、敵の戦力はざっと五千ほど。こちらよりも、かなり戦力が多いようでね」


「うーん、それはちょっと厄介ですね……」


 現在、騎士団の規模自体は敵の方が多いようだ。しかし、単に数が多ければそれだけで勝てるというわけでもない。


「ま、そこは俺の腕の見せ所ってわけさね。数で劣るってんなら、それをカバーすりゃいいだけのことよ」


「というと……罠を張るんですね?」


「そゆこと。この数日を使って、レマール軍がこの平原を通過するよう細工しててねぇ。……戦争に奇麗事はない、時に騎士道精神を捨てでも勝ちを目指さなきゃならんってことだ」


 トムス将軍は、少しでも勝率を上げようと国境付近に罠を張り巡らせていた。例え騎士道に反する戦術と非難されようが、彼は気にしない。


 一人でも多く犠牲を減らし、敵を仕留め、戦いを勝利に導く。卑怯、卑劣とそしられようと、祖国を守るためには必要な策なのだ。


「トムス将軍! そろそろ本陣にお戻りください、もうじきレマール軍が到達する頃合いですから」


「ん、そうしよう。じゃあな、サモンマスターさんたち。もし生き延びられたら、そんときゃ君らの店で戦勝パーティーをさせておくれよ」


「ええ、もちろん! 最高級の料理とお酒でお祝いしますよ。ね、アスカちゃん」


「せやな、でも店狭いから全員は無理やな」


 そんな会話をした後、トムス将軍は呼びに来た部下と共に本陣に戻っていった。その後、キルトは双眼鏡を使い南方を見ていた。そして……。


「! 来た、レマール軍だ! 今のところ、前に戦ったサモンマスターの姿は見えないね」


「騎士どもに紛れているのやもしれん、油断は禁物だぞキルト。……それにしても、結局アリエルの合流は間に合わなかったな」


「仕方ないよ、万事上手くいくなんてことはないからね。よし、出撃するよ!」


「ん、任せとき!」


『サモン・エンゲージ』


 数十分後、ついにレマール共和国の軍勢が国境地帯に姿を見せる。デルトア騎士団の纏う黒い鎧とは対照的な、白い鎧が朝の日差しを受け輝いている。


 以前刃を交えたサモンマスターパフォールの姿はないが、油断は禁物。二人同時に変身を終え、アスカが飛びだそうとする。


「よっしゃ、早速とつげ」


「アスカちゃん、ストップ! 僕たちは少し様子見だよ、戦いが始まるのを待って側面から敵軍を叩くんだ」


「ん、分かったわ。敵さんに奇襲しようっちゅーことやな、確かにその方がよさそうやわ」


『フシュル、フシャー』


 が、キルトに制止されることに。まずは騎士団同士にぶつかってもらい、頃合いを見て敵陣を切り崩しにかかる作戦なのだ。


 キルトたちが静観するなか、トムス将軍に率いられたデルトア騎士団のうち百人が出撃する。いよいよ、戦いが始まるのだ。


「さあて、まずは敵を釣り出すとしますかねぇ。上手いこと罠に嵌めてやろうじゃないの」


「ハッ、では私めが囮を」


「いやいや、ここは俺が行かなきゃあ。大将首なんて、誰でも欲しがる大手柄。まず間違いなく、末端の騎士は飛び付くさね」


「そんな、危険です! 将軍を喪うようなことになっては、ジャンゴ元帥閣下に申し訳が立ちません!」


 あえて少数の兵を率いて出撃することで、相手を油断させ必要以上に前に進ませる。それがトムス将軍の最初の作戦だ。


 自ら囮になり、敵を罠にかけようとする……が、当然部下の猛反対を受ける。しかし、トムスは一歩も譲らない。


「なぁに、死ぬつもりなんてないさ。俺は騎士たちを率いる将として示さなきゃならんのよ。死地に飛び込み、戦い抜く勇気があるってね!」


「あ、お待ちください!」


 不意を突いて馬を走らせ、部下たちを振り切って飛び出すトムス将軍。数キロ先にいるレマール軍の先鋒たちは、彼の存在に気が付いた。


「おい、誰か飛び出してきたぞ」


「身の程知らずめ、たった一人で何が出来るってんだか」


「……おい、ちょっと待て。あの顔知ってるぞ。あれはトムスとかいう奴じゃないか?」


 レマール軍の騎士たちがトムスを見て小バカにしていると、双眼鏡を覗いていた一人の騎士がそう口にする。その一言が、大損害をもたらすなど夢にも思わずに。


「なに!? トムスといやぁ、デルトア騎士団総帥の右腕と謳われる騎士じゃないか! あいつを討ち取れれば、大出世間違いなしだ!」


「へへ、そんな美味しい奴が一人でノコノコ出てくるたぁツイてるぜ。ようし、奴の首は俺が貰ったー!」


「あってめぇ、抜け駆けするんじゃねえ!」


 レマール軍からすれば、鴨がネギのみならず調理器具と調味料を持ってくるような状況だ。手柄を欲する者たち……特に新兵たちが、勝手に前に出てしまう。


『コラー! お前たち、隊列を崩すな! さっさと戻らんか、このバカ者どもが!』


「へへ、あいつを仕留めちまえば隊長も喜ぶ……うおあっ!?」


「な、なんだぁ!? お、落としあ……ぎゃあああ!」


 それに気付いた指揮官が、拡声魔法で怒鳴りつけるも時すでに遅し。トムス将軍を討たんと、馬を駆り突っ走っていく。


 が、数十メートルほど走り、国境を越えたところで彼らを異変が襲う。突如として足下に魔法陣が浮かび上がり、地面に穴が空いた。


 馬もろとも穴に落ち、底に仕掛けてあった無数の槍の穂先に貫かれ絶命することに。


「んっふ、よしよし。あっさりかかってくれたねえ、落とし穴の罠に」


「あのバカどもめ……罠の存在すら読めんとは! だが、タネされ割れればこちらのもの。弓兵隊、構え! 射てー!」


 早速十数人の部下を失った指揮官は、飛び出していった者たちのアホさに呆れつつ指示を出す。罠があるのなら、進まなければいい。


 弓兵たちを使い、遠距離からトムスに矢の雨を降り注がせようとする。が、その程度の策などすでにトムスは見透かしていた。


「ま、そう来るよねぇ。それくらい、こっちも想定済みなんだなぁこれが。魔術師隊、プランA発動!」


『ハッ、お任せを!』


 無数の矢が飛んでくるなか、トムスは懐に入れていた連絡用の魔法石を使い本陣に連絡をする。すると、彼を起点にして空中に魔法障壁が展開された。


 障壁に触れた矢はレマール軍の先発部隊の真上に転送され、彼らに降り注ぐことに。これには不意を突かれ、レマール軍は防御が遅れた。


「なっ、反射転送のまほ……ぐあっ!」


「退避、たいぐへっ!」


「おのれ、トムスめ! よくもやってくれたな! こうなれば罠なぞどうでもよい、突撃せよ!」


「は、はいっ!」


 決して少なくない損害を被り、先発部隊の指揮官は怒り心頭に発する。罠など数の暴力で潰してしまえばいいと、全部隊計四百人を突撃させる。


「来たねえ、敵さんが。さて、本陣に戻って……こちらも派手に行かせてもらおうかねぇ!」


 馬を走らせ、部下の元に戻るトムス。敵を迎え撃つため、本陣から五百人の騎士たちを追加で呼び出す。こうして、戦いの火蓋は切られた。


 のちに『第一次メソ=トルキア大戦』と呼ばれる戦乱が、幕を開けたのだ。

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― 新着の感想 ―
[一言] 遂に開戦だけど(ʘᗩʘ’) アスカも、もうすぐ帰れるかもな話になってるのに戦を経験さる事になるとは(´-﹏-`;) 全て無かった形で戻ってもトラウマにならんといいが(-_-メ)
[一言] さてさて、敵さんを骸にして送り返しましょうねェ!!
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