129話─GOS集結
礼拝堂で新たなサモンマスターが誕生した、ちょうどその頃。レマール共和国の南東の果て、シャポル霊峰の裾野にある一軒の小屋にて。
「ふんふんふーん。さてさて、今日はどんな実験をしよっかなーっと」
そこに、アリエル・フロストがいた。彼女の生まれ故郷は霊峰を超えた大陸東部にあるのだが、訳あってレマール共和国に『亡命』している。
共和国の首都から遠く、人のいないこの地でひっそりと研究に明け暮れる毎日を送っていたのだが……。
「おいす~。この前はよ~くも邪魔しごっ!」
「お、引っ掛かったね~。どう? お手製の木箱トラップ。脳天にキクっしょ?」
「あおおおおお!! イッツへっどぺいん!」
そこに、お邪魔虫が一人。レマールに潜むもう一人のサモンマスター、リンシャがやって来たのだ。小屋の扉を開けた瞬間、ピアノ線が切れトラップが作動する。
扉の真上に吊られていた空の木箱が落下し、リンシャの脳天に直撃したのだ。アリエルとしては、彼女にはさっさと帰ってほしかった。
同じ国にいるだけで仲間意識などサラサラなく、面倒ごとの種を持ってくるだけの厄介者と認識していたのである。
「うぐぐ、よくもリンシャちゃんにこんなイタズラを~! マジでいったいんですケド!」
「うんうん、痛いよねえこれ。自分に試してみたんだけどたんこぶが三段も出来ちゃってね。じゃ、そゆことでさよなら」
「は~い、また……って、何帰そうとしてくれてんの! も~、ホントあったまくる!」
服じゅうに付けたド派手なアクセサリーをジャラジャラ鳴らしながら、地団駄を踏むリンシャ。そんな彼女をあしらいつつ、アリエルは呆れ返る。
「いや、マジで帰ってくれないかな。こっちは研究で忙しいし、引っ越しの準備もしなきゃだしさ」
「は? 引っ越し? なに、ドコ行くわけ」
「決まってるでしょ? 昔の読者クンのところに行くのさ。なんでも、超凄いアジトとやらを持ってるらしくてね。そこに行けば、どんな研究もやり放題ってわけなのさ!」
「ふ~ん。やっぱりそう来たか。たなちんからコレ貰っといて正解だったかも」
キルトと意気投合した結果、アリエルは彼の仲間になることを約束していた。だが、そんなことをリンシャが許すはずもない。
レマール共和国が覇権を握るためには、サモンマスターという最高の切り札が不可欠。ここで片割れを失えば、国益を大きく損なう。
「ん? なんだい、それ……サモンカード?」
「ぴんぽ~ん、でもただのサモンカードじゃないんだな~。この世で一枚しかない、ちょ~きょ~りょくな切り札だもんね!」
『ブレインウォッシュコマンド』
リンシャは懐から、鎖で縛られる脳みそが描かれたカードを取り出す。そして、そのカードをサモンギアに読み取らせる。
すると、突然アリエルが見知らぬ部屋の中に転送される。部屋の中央には、物々しい拘束具が設置されており……その側にはタナトスがいた。
「来たか。やはりキルト側に寝返ろうとしたな、アリエル・フロスト」
「あんたはタナトス! ちょっと、どうなってるのさこれ! なんで私がこんなトコに飛ばされたの!」
「数日前の招集に、貴様が来なかった段階で見限らせてもらってな。リンシャを帰す直前、奴に一枚のカードを渡した。……貴様をこの洗脳ルームに送り込むためのカードを、な」
あまりにも自由奔放で、言うことを聞かないアリエルをタナトスは洗脳して駒にすることを決めていた。サモンマスターたちには、これからメソ=トルキアで大戦争を起こしてもらわねばならない。
大地をめちゃくちゃに荒らし、理術研究院の付け入る隙を作ってもらうのが目的なのだ。だが、キルトに味方する者が現れては作戦は上手くいかない。
「なにそれ、そんなカード……わっ! ちょ、何なのこのアーム!?」
「喜べ、かつて天王寺アスカに行ったものと同じ洗脳処置をしてやろう。もう二度と、私の手を煩わせることのないようにな」
「ふざけないでくれるかな? そうやって他人の精神を踏みにじるような真似が許されると思ってるわけ?」
「ああ、許されるとも。私には成さねばならぬ大いなる目的があるのでね。そのためにも、サモンマスターたちには戦ってもらわねばならない」
「目的? 一体なにを……あがあああっ!!」
拘束具から伸びる数本のアームに捕らえられ、アリエルはかつてアスカがされたのと同じ脳破壊による洗脳を受ける。
悲鳴をあげる彼女を見ながら、タナトスは小さく頷く。そして、誰にも聞こえないような声で呟いた。
「……偉大なる【●●●様】のために、私はこの穢れた世界に降り立った。必ず成し遂げる。『フィニス再臨計画』をな」
◇─────────────────────◇
さらに三日が経過し、ついにレマール軍が国境に到達する日の前夜がやって来た。アジトの中には、ガーディアンズ・オブ・サモナーズのメンバーが集結している。
「みんな、集まってくれてありがとう。明日はいよいよ決戦の日。そこで、事前に作戦を立てておこうと思うんだ」
「ああ、そうだな。事前の計画は大切だ。何事も行き当たりばったりでは成功しない」
キルト、ルビィ、エヴァ、フィリールにアスカのいつものメンツに加え……。修行の旅を中断してやって来たウォン、ヒーロー活動の途中だったプリミシア。
外泊許可を貰いルマリーンから足を運んできたドルトに、新顔のイゴール&メリッサ。以上の九人が、円卓を囲み話し合いを行っている。
「なあ、キルト。ヘルガはんは呼ばんでよかったんか?」
「アスカ、あの雌犬は断じてこの組織のメンバーじゃないわ。あんな年中発情してる駄犬なんて不要よ、敷居を跨がせるつもりはないわ」
「同感だ。卑しい雌犬をここに連れてきてみろ、あっという間にキルトが汚される」
「さ、さよか……」
ヘルガも呼ぶべきでは、とアスカが提案するも速攻でエヴァとルビィに却下された。和解こそしたが、キルトからは遠ざけておきたいようだ。
「ま、彼女は置いといてだ。今のところ、敵のサモンマスターは三人なんだろう?」
「ええ、そうですねドルトさん。アリエルさんは僕たちの勢力に合流してくれるでしょうし、レマールの戦力は一人減ると思います。……仲間にならなくても、敵ではなくなるかと」
「だが、楽観視してはいられない。ウィズァーラも時を同じくして仕掛けてくるだろう。恐らく、次は確実に兄上を長城ごと葬り去るつもりだろうな」
現状キルトたちが存在を把握している敵国のサモンマスターは三人。キルトが交戦したパフォールとギーラ、フィリールが邂逅したドロウ。
それに加え、ウィズァーラ王国にはまだ一人正体不明のサモンマスターが潜んでいる。さらに言えば、北のゼギンデーザにも二人潜んでいるのだ。
「最大の懸念はそこだ。紅壁の長城の総指揮を執ってるグライン皇子の求心力は強いからね。彼がもし殺されたら、士気はガタ落ちだよ」
「プリ……ロコモートの言う通りだ。兄上は武芸に長けた百戦錬磨の強者。だが、サモンマスター相手には無力だ。早急に護衛を派遣しなければ、今度こそ殺されてしまう」
一人だけ変身した状態のプリミシアことサモンマスターロコモートの発言に、フィリールは焦りを浮かべながら答える。
彼女からすれば、実の兄が暗殺の危機に瀕しているのだから焦るなと言う方が無理だ。そこで、キルトはある作戦を提案する。
「部隊を『三つに』分けましょう。僕と誰か一人が対レマール戦線に参加、残りを何人かのグループに分けて西と北に送ります」
「えー、北にも行くのー?」
「なんでなんでー?」
「いいですか、イゴールくんにメリッサさん。ゼギンデーザがいつ反乱勢力を一掃して参戦してくるか分かりません。動向を常に把握し、参戦に備える必要があるわけです」
万が一ゼギンデーザ帝国まで参戦してくるようなことになれば、デルトア帝国は完全な四面楚歌に陥ることになる。
そうなれば、いくらサモンマスターが最大数いるとはいえ対処しきれない。ゼギンデーザの動向把握は、必須項目の一つなのだ。
「西にはフィリールさんに行ってもらいます。自分の手でお兄さんを守れる方が安心でしょうし」
「済まない、心遣いに感謝する。エヴァ、ドルト、共に来てくれないか?」
「そうね、ポータルを使えるアタシがいれば安全確保に貢献出来ると思うわ」
「俺も……そうだな、狙撃衛星を応用すれば監視の目を増やせるだろう。是非同行させてくれ」
フィリールに請われ、エヴァとドルトが西へと向かうことに。一方、北に行くのは……。
「北は俺に任せてくれ。ロコモートと言ったか、お前も来い。そこの双子もだ」
「僕たちもー? 行く行く! 寒いところ大好き!」
「修行して強くならないとねー!」
「というわけでさ、新入りたちの教育をしつつゼギンデーザの監視をするよ。ボクたちに任せて!」
ウォン、プリミシア、双子コンビの四人がゼギンデーザの監視に向かうことに。まだサモンマスターとしての実戦経験のない双子を、いきなり戦場に出すことは無理なのだ。
そこで、経験豊富なプリミシアに稽古をつけてもらいつつ、ウォンと共に監視任務を遂行してもらうことにしたのだ。
「んじゃ、南の戦線はウチとキルトで担当するわけやな」
「うん、よろしくねアスカちゃん。……最悪、あと四日しか一緒にいられないかもしれないけど」
「あ……そう、やな」
大陸西半分が舞台となる戦争が、いつ終わるか分からない。終結するより先に、アスカが神々に答えを出さねばならない日がやって来る。
その日が来るまで、少しでも彼女の側にいてあげたい。そうした気遣いゆえのグループ編成なのだ。
「では、各グループに別れて詳細な作戦会議を始めよう。アスカ、我らの部屋に来い」
「ん、りょーかいしたわ」
三つのグループに分かれ、具体的な作戦を立てるキルトたち。ついに、開戦の時が訪れようとしていた。




