126話─積み上がる問題
アリエルが帰った後、夕方。キルトたちはアジトに集まり、それぞれに起きた出来事についての情報共有を行っていた。
レマール共和国とウィズァーラ王国による宣戦布告と、新たなるサモンマスターたちの襲来。そして、アスカの身に降りかかった選択。
「……問題が山積みだね。今日だけでこんな大変なことになるなんて思わなかったよ」
「まさかの事態ね、何もかも。いつか仕掛けてくるとは思ってたけど、こうも一斉に来られると……ちょっと対応しきれないわ」
アジトのリビングにて、キルトとエヴァが呟く。てっきり、レマールだけが仕掛けてきたのだと話を聞くまではそう思っていた。
しかし、同時にウィズァーラまで動くとあれば話は変わる。とはいえ、まだ付け入る隙はいくらか存在していた。
「今のところ、その二国が同盟を組んで……みたいなことにはなってへんのやろ?」
「ああ、会議が終わった後それぞれの国に潜り込ませていたスパイに連絡を取ってね。むしろ、ウィズァーラはレマール共和国やゼギンデーザ帝国にも攻め込むつもりのようだ」
「二正面どころか三正面作戦をやろうってわけ? 呆れたわね、どんだけ自分らの戦力に自信があるのよ」
今現在、デルトア帝国に宣戦布告した二つの国が連携を取る気配は無いらしい。それどころか、ウィズァーラ王国は別の国も攻めるつもりのようだ。
エヴァが呆れ返るなか、キルトは一つの懸念を抱いていた。唯一沈黙を保っているゼギンデーザ帝国が、どう出るかが読めないのだ。
「こうなると、ゼギンデーザ帝国がどう出るかが気がかりだね。母上はまだ動くことはないだろうって言ってたけど」
「北の帝国か……。帝位を巡る動乱は終わったが、いまだ若き皇帝に敵対する勢力もいるという。しばらくは参戦してこないだろうと、私も睨んでいるよ」
「ならいいんだけどね。じゃ、次の議題。……アスカちゃんの進路、決めなきゃね」
デルトア帝国を取り巻く状況に関する話を一旦やめて、次の話題に移る。……が、その途端全員が押し黙ってしまう。
内容が内容なだけに、迂闊なことは言えない。どちらを選ぶにせよ、アスカは大なり小なり後悔することになるのだから。
「……なあ、キルト。ウチ、どないしたらええんやろ。ずっとな、頭ん中に浮かんでくるねん。オトンたちとの思い出が」
「アスカちゃん……」
「もし、もしも……あの日の事故が起こらんようになって、オトンたちとの日常を続けられるならって。そっちを望むジブンも、確かにおって……」
うつむきながら、そう口にするアスカ。フィアロの言葉で、彼女は気付いてしまった。心のどこかに、かつての日常に戻りたいと思う自分がいることを。
そうした思いを抱くことが、この大地で生きると決めた自分への……なにより、大切な仲間であるキルトたちへの裏切りになると考えているのだ。
「……アスカちゃん。僕はね、アスカちゃんが大好きだよ。だからこそ……アスカちゃんには、最大限納得出来る選択をしてほしいなって思うんだ」
「キルト……」
「そうだな、我もそう思う。今ここで、この大地に残る道を選んでくれと強要するのは簡単だ。だが、それではアスカの意思を軽んじ踏みにじることになる」
アスカの隣に座り、キルトは優しい声でそう語りかける。ルビィも言うように、アスカに残ってほしいと言うのは簡単だ。
だが、それではアスカが自分の意思で道を選んだことにならない。彼女の心に大きなしこりを残し、やがてはそれが問題を引き起こすだろう。
「……アタシもルビィの意見に賛成よ。アスカ、あんたがどっちを選んだってアタシたちは怒りゃしないわ。あんたの人生だもの、こっちがどうこうしようなんておこがましいことをするつもりはないわ」
「エヴァちゃんパイセン……」
「そうだな、もしアスカがテラ=アゾスタルに戻ることにしたとしても。私たちは笑顔で見送るさ。大切な仲間の幸福を祈ってね」
「フィリールはん……みんな、ありがとな。ウチ、頑張って答えを出してみる。せやから……それまでは、一緒に頑張らせてもらうわ」
仲間たちの言葉を受け、少しだけアスカの心は晴れた。共に歩むにせよ、別れを選ぶにせよ……前向きに答えを見出せるだろう。
「よし、では次だ。キルトよ、あの女……アリエルといったか。アレとどんな関係なのかく・わ・し・く! 聞かせてもらおうかな」
「なーに、キルトったらまた新しい女を引っかけてきたわけ? 全く、悪い子に育っちゃったわねぇ」
「ちょ、何言ってるのエヴァちゃん先輩!? ルビィお姉ちゃんも変な風に言わないで!」
「なーんや、ウチが今日一日悩みまくっとる間におもろそなことが起きとったんか?」
アスカの進路について、いい話で終わった直後。今度はキルトに対する、女たちの尋問会が幕を開けることとなった。
「あのね、何度も言ったでしょ? フロスト博士とは直接会ったの今日が初めてだって。それまでは、雑誌の記事への感想とお便りを……」
「ん? フロスト? ああ、むかーしキルトが熱中してた月刊誌に論文とか載せてた奴のこと? それなら、確かに文通くらいしかしてないわね」
「でしょ!? エヴァちゃん先輩! 僕は無罪だよね!?」
「んー、無罪でもいいけど嫉妬の炎が燃えたから有罪で」
「ひょ、ひょんなぁ」
見知らぬ女と親しげにしていたのが気に入らなかったようで、ルビィやアスカから突き刺さるような視線を浴びせられるキルト。
唯一、キルトとアリエルのことを知っていたエヴァから助け船が来る……ことはなく、ほっぺむにむにの刑に処せられしまった。
「まあまあ、その辺にしてあげよう。むしろ、やるなら私にだな」
「話が脱線するからドMは黙ってなさい!」
「おっふ❤」
「うう、味方はフィリールさんだけだぁ……」
「よしよし、私だけは裏切らないぞ。安心してくれキルト」
フィリールの介入により、キルトへの尋問が一旦中断される。素早くエヴァから逃れ、フィリールの隣にキルトは避難した。
「ま、おふざけはここまでにしておいてだ。実際問題、そのアリエルという女が我らの仲間になるのはあり得るのか?」
「ぷっ、お姉ちゃんたらそんな駄洒落……こほん。今のところ向こうは乗り気みたいだけど……あの人気難しくて気まぐれなとこあるから。確約は無理だね」
「あー、昔チラッとフロスト博士のインタビュー記事読んだことあるけど……確かに自由奔放というか、ちゃらんぽらんというか……。まあ、こっちの予想通りに行かない女なのは確かね」
二大国との戦争を前に、キルトたちが早急に取りかからねばならないのが戦力の増強だ。その意味では、アリエルが加入してくれればかなり心強くなる。
何しろ、彼女はレマール共和国を仮の宿にしているのだ。国の内部事情については、キルトたちよりも遙かに詳しい。故に、是非協力してほしいところだが。
「ま、そっちは僕の方でなんとかしてみるよ。かつての文通仲間の縁でさ」
「そうだな、仲間集めに関してはエイプルやジャンゴ元帥も協力を表明してくれている。とてもではないが、今の私たちにはタナトスのようにのんびり仲間を探す余裕はない」
「うん、いろいろと悪いタイミングで事が重なっちゃったなあ……。あ、そうだ。ウォンさんとプリミシアさんにも情報共有しとかないと」
「ヘルガはいいのか?」
「あの人は……冒険者だし、戦争へ招集がかかるんじゃないかな? 多分断るだろうけど」
問題は山のようにあるが、焦らず一つずつ解決していく他にない。話し合いの末、全員の認識がそう一致した。
「さて、まずは……仲間を集めなくちゃね」
キルトたちの所有する、未使用のサモンギアに適合する者は現れるのか。それとも……。




