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125話─世界大戦の前触れ

 予想もしない出会いにキルトとアリエルがエキサイトしていた頃。帝都シェンメックにあるラーファルセン城にて緊急会議が行われていた。


 参加者はマグネス八世にバルクス皇子、フィリールに帝国騎士団の元帥とその右腕たる将軍。そして、金獅子騎士団(リオーネリッター)の新隊長エイプルの六人だ。


「……みな、忙しいところを集まってくれて礼を言う。突然で済まないが、つい先ほど……南のレマール共和国及び西のウィズァーラ王国からの使者が来た」


「ええ、すでに知らせが来ています。両国とも、我が国へ宣戦布告をしたとか」


「そうだ、ジャンゴ元帥。我々は帝国臣民にこの事を知らせ、一刻も早く戦への備えをせねばならぬ。しかし……」


 円卓を囲みながら、皇帝は会議の参加者につい先ほど起きた事を説明する。左二つ隣の席に座っていた壮年の男、ジャンゴ元帥は眉間にシワを寄せる。


 そんな彼に答えつつ、皇帝の歯切れはあまり良くない。しばしの間を開けた後、マグネス八世は決心を固め話を始めた。


「……良からぬ話がもう一つある。西の国境にある『紅壁の長城』に、我が息子……グラインの暗殺未遂事件が起きた」


「なんですって!? そのような話、初耳ですよ父上!」


「そうです、何故兄上や私にお話してくださらなかったのですか!」


「……分かってくれ、バルクスにフィリール。この事がどこかに漏れれば、民が動揺する。そうなれば、戦への備えどころではなくなってしまう。故に、ごく一部の者以外には知らせていなかったのだ」


 すでに騎士団の上層部は知っている話であったが、バルクスやフィリールにとって第二皇子の暗殺未遂事件は寝耳に水だった。


 父へ抗議の声をあげるも、そう言われては押し黙るしかない。そんななか、黒髪をオールバックにしたもう一人の男が挙手する。


「どうした、トムス将軍」


「いえね、ふと気になったことがありましてなぁ。ウワサが流れてるんですよ、北、南、西の各国に二人ずつ……サモンマスターがいるってね。それが本当なら、かなりまずいんじゃないかなぁ、と」


「ふむ……サモンマスターの力は、ワシ自身二回の御前試合でよぅく見ておる。あれだけの戦闘力を持つ者が敵にいるとあれば、苦戦は免れえまい」


 右腕の発言を受け、ジャンゴ元帥は考え込む。サモンマスターには、通常の武具では攻めも守りも意味を為さない。


 ファルダの神々や最上位の闇の眷属等のごく一部のイレギュラーを除けば、誰も敵わない。冗談抜きで、たった一人のサモンマスターに千人の騎士が全滅しうるのだ。


「元帥閣下、心配はありません。私やキルトたちガーディアンズ・オブ・サモナーズもこの戦争に参加致します。祖国を守るのも、私たちの務めですから」


「そいつはありがたいねぇ、皇女殿下。しかし……大丈夫なのかい? 一桁人数しかいないんだろう? 西と南に分散するってなると、かなり大変なんじゃないのかな」


「ええ、そうですねトムス将軍。確かに、今確実に動けると保証出来るのは四人程度です。しかし、人数が足りないなら増やせばいいだけのことです」


 危機感を抱くジャンゴ元帥に、フィリールがそう伝える。今回の危機は、彼女にとって到底見過ごせるものではない。


 そこへトムス将軍が割って入り、GOS(ゴッズ)の人数不足を指摘してくる。だが、そこに関してはすでにキルト主導で計画を立てていた。


「ほう、と言うと……?」


「私たちは現在、使用者のいないサモンギアとカードデッキを三組所有しています。それらを使い、新たなサモンマスターを味方に引き入れる計画が進行中なのです、将軍」


「なるほど、それはいい。サモンマスターが増えれば増えるだけ、こちらが優位に立てるだろう。だが、どうやって新たなサモンマスターを見つけるつもりなんだい、フィリール」


「それに関しては……敵に倣う以外にはないとキルトは考えています。すなわち、自分の目で見極めるのですよ。サモンマスターに相応しい人物を」


 兄バルクスからの問いに、フィリールはそう答える。こればかりは、キルト自身が見極めなければならないこと。


 迂闊にサモンマスターを誕生させれば、力に溺れ敵対されてしまいかねない。そうならないよう、慎重に相手を選ばねばならないのだ。


「であれば、ワシらで候補を募らせてもらおうかの。開戦まで、あまり猶予が残されておらん。七日後にはレマールの軍勢が国境に来るだろう」


「フィリール様、私にも一つ考えがあります。ここは私たちにお任せ願えませんか?」


「……分かった、元帥閣下とエイプルにこの件を手伝ってもらうことにしよう。二人とも、感謝する」


 ジャンゴ元帥とエイプルが、サモンマスター候補を探す手伝いをしたいと申し出た。戦いが始まるまで、猶予はあまり無い。


 猫の手も借りたい現状で、彼らの申し出を断る選択肢はフィリールになかった。……が、エイプルが大騒動を巻き起こすことを、この時まだ知らなかった。


「よし、このまま次の議題に」


「お待ちを、父上。……どうやら、ネズミが入り込んでいるようです」


「ほーお、気配を完璧に消したつもりだったんですがねぇ。あっしに気付くたぁ、流石はフィリール皇女だぁ」


「! 貴様、いつの間に!?」


 続いて、どのように騎士団を編成して西と南の脅威に備えるか議論しようとするマグネス八世。直後、フィリールが彼を制止し会議室の扉へ振り向く。


 すると、そこには闇のように深い黒色のフード付きの外套を身に着けた人物が立っていた。顔にはのっぺらぼうの仮面を着けており、顔は見えない。


「外には衛兵がいたはず、どうやってここに!」


「ヒッヒ、そりゃあ決まっているでやしょ皇子さん。こう、コキッと首をね……分かるでやしょうや」


 仮面の人物は首をへし折るジェスチャーをしながら不気味な笑い声をあげる。フィリールは席を立ち、父や兄たちを守るべく敵の前に立つ。


「いつからそこにいた? 貴様」


「へっ、そりゃあ最初からでやすねぇ。話はぜぇんぶ聞かせてもらいやしたぜ」


「最初からだと!? バカな、なら俺や父上の視界に入っていないとおかしいぞ!」


「へっへっへっ、いいことを教えてあげやしょ。気配を極限まで消すとね……姿すら消えるんでやすよ。蜃気楼のようにね」


「そんなのはどうでもいい。貴様、どこの国に属する者だ? ただの賊ではあるまい、そうだろう」


 バルクスが驚くなか、仮面の人物はそう口にする。彼に対し、フィリールは詰問する。彼女はすでに気付いていた。相手がただの賊ではないことを。


 クックックッと低い声で笑いながら、賊は仮面と外套を脱ぎ去る。その下から現れたのは、どじょうヒゲを生やした小柄な男だった。


「ヒッヒッ、もちろんでさぁ。んじゃま、名乗らしてもらいやしょ。あっしはディガロ。ウィズァーラ王国の懐刀、暗殺と盗みのプロでさぁね」


「暗殺……? まさか、グラインを殺そうとしたのは貴様か!」


「ご名答でさあ、皇子さん。ま、前回は()()()に慣れてなかったもんでしくじっちまいやしたがね」


「! みな、下がって! こいつはサモンマスターだ!」


「ヒッヒッヒッ、ご名答。あっしは『サモンマスタードロウ』! ウィズァーラ王の命により、情報を盗ませてもらいやしたぜ」


 くすんだ茶髪を汚れた指で掻きながら、ディガロは笑う。腰に巻かれている茶色いベルトタイプのサモンギアを指で弾いた後、左腰に下げていたデッキホルダーに手を伸ばす。


「やる気か、いいだろう。私が相手に」


「おっと、そいつぁ今日の予定にないんでね。あっしはここで失礼させてもらいまさぁ」


『アドベント・スケープスツール』


「ムキュッキィ!」


「なに!? 貴様どうやってその機能を……うわっ!」


 ディガロはデッキホルダーからくねくねしている茶色のキノコが描かれたカードを取り出しベルトのバックル部分にかざす。


 すると、カードが白い炎に包まれて消えるのと同時に、成人男性ほどの大きさのあるキノコのモンスターが姿を現した。


 キノコのモンスターはつぶらな目をパチクリさせた後、頭を振って大量の胞子を撒き散らす。フィリールたちが胞子で視界を塞がれている間に、ディガロは姿を消してしまう。


「……逃がしたか。誰も犠牲にならなかったのが幸いだな」


「しかし、これは由々しき事態だ。前半だけとはいえ会議の内容を聞かれてしまうとは」


「父上、奴の対処は私がします。キルトたちと連携して、必ずあの男を仕留めてみせましょう」


「うむ、頼んだぞフィリール」


 南のレマール、そして西のウィズァーラ。二つの国に挟まれたデルトア帝国に、史上最大の危機が迫っていた。

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― 新着の感想 ―
[一言] どぉやら本当に自体は風雲急を告げてるようだな(ʘᗩʘ’) あのフィリールが最初から最後までMっ気を出さないなんて(٥↼_↼) コチラが直ぐに出動できるのが4人と言う情報がバレてるなら手早…
[一言] マジで戦わなければ生き残れねえようだな……
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