124話─新たなるサモンマスター
水色の髪をツーサイドテールに纏めた女……サモンマスターパフォールはビシッと決めポーズを取る。が、キルトとルビィが無反応なのを見て憤慨する。
「ちょっと~! せっかく可愛いウチがエモエモなポーズしてるのに、なんの感想も無いわけ~!?」
「え? あ、その……似合ってると思いますよ?」
「奴のペースに乗せられるな、キルト。貴様、ここに何をしに来た? どうせくだらぬ用であろうが、一応聞いてやる」
「あ、そうだった。総統閣下さんくんちゃんからー、宣戦布告状を預かってきてまーす。よーするに……我がレマール共和国は、現時刻をもってデルトア帝国への侵攻を行うってこと!」
サモンマスターパフォールは、ルビィを指差しながらそう口にする。彼女の言葉に、キルトとルビィは驚愕し目を見開く。
「なに? 宣戦布告だと!?」
「そ~だよ。もう帝都の方にはぁ、正式な使者が開戦通告をしに行ってまぁ~す。ウチがここにいるのはぁ~……お前を消すためさ、サモンマスタードラクル!」
「そのつもりなら、応戦するまでだ! いくよお姉ちゃん!」
『サモン・エンゲージ』
『ああ、こんなふざけた言動をする女など返り討ちにしてくれる!』
キルトは契約のカードを取り出し、サモンマスタードラクルへ変身する。続いて、『REGENERATE』しようとするが……。
「おっと、そうはさせないよん! このままバトルに突入だ~!」
『ヘアーコマンド』
サモンマスターパフォールは、左腰に下げた茶色のデッキホルダーからカードを取り出す。逆立つ髪の毛が描かれたソレを、右のももに装着された長方形のサモンギアにかざした。
すると、彼女のツーサイドテールが枝分かれして伸びていき、ロープのようにキルトに巻き付く。そのまま勢いよく、正門の外に放り出した。
「うわわわっ!?」
『なんだ? あの女。カードをサモンギアに装填するのではなく……かざしただけで効果を発動したぞ!?』
「ぺっぺっ、口の中に土が……。うん、そろそろ出てくるんじゃないかなと思ってたよ。装填式じゃないサモンギアが……うわっと!」
「あ~、惜っし~。もうちょっとでヘアースピアで貫いてもやれたのにな~。次は外さないもんね~!」
地面に叩き付けられ、若干のダメージを受けるキルト。これまでとは違うシステムのサモンギアを前に、ルビィは動揺を隠せない。
だが、いつまでもそうしているわけにはいかない。敵が再び髪の毛を伸ばし、キルト目掛けて攻撃を仕掛けてきたのだから。
「このっ、こんな髪斬ってやる!」
『ソードコマンド』
「ふっふ~ん、このリンシャちゃんの髪は簡単に斬れないよ~? カードの力で強化されてるってのもあるケド。毎日のお手入れをかかしてないからね~!」
「ぐっ、本当に硬い!」
一旦リジェネレイトは諦め、剣を呼び出して迎撃を行うキルト。髪の毛を斬り付けるも、ダイヤモンドのような硬さで弾き返されてしまう。
『奴め、単騎で乗り込んで来るあたり相当実力が高いようだ。この髪、ブレスコマンドを使えば斬れるだろうか?』
「ものは試し、やってみよう! ……これ、リジェネレイトしなくてよかったかも。強化カードを使えないと厳しい相手だし」
ようやく相手の本名が分かったところで、次々襲ってくる髪の毛の槍を避けつつ次のサモンカードを取り出す。
竜の炎を用い、ドラグネイルソードを強化して切れ味をより鋭くする。果たして、今度は攻撃が相手に通るのか。
『ブレスコマンド』
「これなら行けるかも! ドラグネイルスラッシャー!」
「あ~っ! よ、よくもウチの髪の毛を~!」
『よし、やったぞ! このまま奴を倒し……なっ!? こ、これは!?』
「ふっふ~ん、残念でした~。斬られた方の髪も~、こうやってウチの身体のどっかとくっついてれば操れるんだよね~」
見事、サモンマスターパフォールことリンシャの髪を切り落とすことに成功したキルト。が、斬られた方の髪をリンシャが掴むとまた動き出す。
左腕を髪で拘束され、キルトは新たなカードの使用を封じられてしまう。どうにか髪を排除しなければ、リジェネレイト体になることは出来ない。
「くっ……邪魔な髪だね、もう!」
「ほ~ん、タナトっちゃんからいろいろ聞いてたけどさ~。あんまり強くないね~、君。ウチの方が百倍強い、みたいな~?」
「……なんだって?」
「だってそうじゃ~ん? こんなふ~にやりたいほ~だいにされてさ、ダサくな~い? ぷぷぷ!」
「……ムカッ」
髪の毛を振りほどこうと悪戦苦闘しているキルトに対して、そんな挑発が行われる。プライドを傷付けられたキルトは、剣を投げ捨てた。
『き、キルト? 何故武器を捨て』
「もうあったまきた! 本当に僕が弱いのか、それとも強いのか分からせてやる! せいやっ!」
「ちょ、おあっぶふぇ!」
バカにされてイラッときたキルトは、空いた右手で髪を掴み力任せに引っ張る。予想外の行動にリンシャは踏ん張ることも手を離すことも出来ず、そのまま引き寄せられた。
相手の顔面にド真ん中右ストレートを叩き込み、屋敷の反対方向に吹っ飛ばした。石畳に顔から落ち、リンシャは悶絶する。
「おあああああ!! 顔、顔がぁぁぁぁぁ!!」
「ふーんだ、僕をバカにするからこうなるんだよ! これに懲りたら、もう僕を怒らせないことだね!」
『……なかなかに恐ろしいな、キルトが怒ると。これは我も気を付けねばな』
相手が女であっても容赦なく顔面パンチをぶっ放すキルトを見て、ルビィは戦々恐々とした口調で呟く。もっとも、彼女がキルトを怒らせたとしても同じ目に遭うことはないが。
「ふー、怒りも綺麗さっぱり飛んでった! さて、あいつを捕らえて情報を」
『ダーツコマンド』
「! キルト、上だ!」
「え!? うわわっと!」
悶絶しているリンシャを捕らえようと、近付いていくキルト。その時、どこからともなくサモンギアの起動音が響く。
ルビィが叫んだ直後、上空から七色に輝く無数の羽根が降り注いでくる。間一髪攻撃を避けたキルトが、攻撃が来た方を見上げると……。
「新手……パフォールの仲間か!」
「仲間と言われたらまあ……今のところは一応、同じ陣営ってことになってるねえ。うん、私としてはどうでもいいんだけど」
太陽を背に、新たなサモンマスターがキルトを見下ろしていた。胴体を七色の羽毛に覆われ、両腕が翼に、両脚が爪を備えた鳥のソレになった半人半鳥の姿をしている。
「あ~、やっと来てくれたのぎっちゃん! なんでタナトっちゃんの招集サボったのさ~」
『タナトスめ、またよからぬことを……。いや、今はそれより。貴様、何者だ! 名を名乗れ!』
「んー、しょうがないなー。私は『サモンマスターギーラ』。またの名を天才発明家……アリエル・フロストと言う!」
「へ!? ま、まさか……あなたが『あの』フロスト博士ですか!?」
『なに!? キルト、あやつを知ってるのか!?』
「おー? ははぁん、君……私のことを知っているのかい?」
第二の敵が現れ、形勢逆転されてしまいピンチに……と、本来ならなるところだろう。だが、新たに現れたサモンマスターの名を聞いた瞬間、キルトの顔付きが変わる。
「知ってますとも! むかーし、魔導学園で刊行された『月刊マジョリカジャーナル』に記事を寄稿してましたよね!? 僕、ずっと読んでたんですよ!」
「おおおおお!? こいつはミラクルな出会いだね、まさかあの雑誌の読者に君がいたとは!」
「あ、あの~……ぎっちゃん? 今はそれどころじゃなくってさ」
「シャーラップ! 私は今喜びに打ち震えている最中なんだ、邪魔をしないでくれたまえ!」
「ちょま、あ~れ~っ!」
『おお、飛んだ飛んだ。遙か彼方に消えていったな』
どうやら、魔導学園時代に記事の著者とその読者という形で二人は互いを認知していたらしい。地上に降り立ったアリエルは、羽根で丸眼鏡の位置を直しつつ嬉しそうにしている。
そんな彼女にリンシャが声をかけるも、邪魔だとばかりに突風を叩き込まれ吹っ飛ばされてしまった。哀れ、お空の彼方に消えていく。
「多分君だね? 当時熱心にファンレターを送ってくれたのは。いやぁ、あれは有意義な議論だったよ」
「そうですか、光栄です! あのやり取りをきっかけに、サモンギアシステムのプロトタイプを」
『あー、キルトよ。白熱しているところ済まないが、一つだけハッキリさせておきたい。その者は……我らにとって敵なのか? それとも、味方なのか?』
「ん、安心していいよ。レマールには居候してるだけだし、君らの敵になるつもりはないから」
今回の戦いは、サモンマスターギーラの介入により勝者無しで終わった。だが、すぐにキルトたちは思い知ることになる。
戦わなければ生き残れない、戦乱の時代がすでに始まっていることを。




