123話─義母との初対面
「ん、ここでいい。ご苦労だったね、御者くん。これは礼だ、取っておくといいよ」
「へえ、ありがとうごぜぇやす。いいんですかい、こんなに金貨を貰っちまって」
「いいのさ、無理を言って強行軍してもらった分のお礼だよ。そのお金で、一時の贅沢を楽しむといい。では、またね」
シュルム邸正門前に、一台の馬車が停まる。そこから、トランクを持ったエルミアが颯爽と降りてきた。御者にチップを渡し、屋敷に入る。
「奥方様、お帰りなさいませ。使用人一同、お帰りをお待ちしておりました」
「わ、二年ぶりねジェイスン。今は貴方が執事長なんですって? 随分と出世したじゃないの~、このこの~」
「はい、旦那様には目をかけていただきまして……お荷物などお持ちしましょう、屋敷の中で皆様がお待ち」
「あっ! そうそう、早く会いたかったんだ、キルトちゃんにね! キルトちゃーん、ママが今会いに行くからねー!」
「ちょ、奥方様!?」
敬礼する守衛たちと一緒に、正門で待機していた執事と再会したエルミア。彼にトランクを押し付け、屋敷の方へすっ飛んでいく。
「お、この足音は……帰ってきたようだね、相変わらず騒がし」
「みんなー、たっだいまー! 今帰ってきたよー!」
「な、なんだかとっても……パワフルな人、だね?」
「あらっ! あらあらあらあらあらあら!!! 貴方が! シュルムと私の! 義理の! 息子!? キャー、実物の方が絵なんかより何倍もかわいいー!」
「へ、もがっ!?」
「ああっ、キルト!」
玄関で待機していたキルトたちの元に、ついにエルミアがやって来た。ショルダータックルで玄関をブチ破り、ダイナミックエントリーをかます。
そうして対面を果たした義理の息子を見て、エルミアの目の中にハートマークが浮かぶ。思いっきり抱き着き、頭を胸の谷間で押さえ込む。
「もが、もがっ! あ、あふっ……」
「よしよし、これからは私を本当のママのように慕って甘えてくれていいからね~。あ~、可愛すぎて脳が溶ける~」
「ええい、離れんかこのアバズレ! キルトが窒息するだろうが!」
いつぞやのように死にかけているキルトを奪還するべく、ルビィがエルミアに襲いかかった。無事奪い返すことに成功し、ついでに存在を認識される。
「むっ! 何やつ……うちの子になったのはキルトちゃんだけ、あんたは何者なんだい!」
「フン、我のことは手紙に書いていなかったのか?」
「いや、あったけどキルトちゃんに関するとこ以外は読んでなかったから」
「なぬっ……ならば改めて自己紹介してやる。我はルビィ、偉大なるエルダードラゴンにしてキルトの魂の伴侶だ!」
「なにっ!? まさかの嫁が同伴! キルトちゃん、お母さんそんなふしだらなこと許し」
「はいはい、積もる話もいろいろあるだろうから、まずはシャワーでも浴びて着替えをしてきなさい」
「ああっ、待ってシュルム! このアバズレトカゲに制裁を~!」
ルビィとエルミア。二人の間に、一触即発の空気が流れる。が、そこにシュルムが割って入り妻の首根っこを掴んで連行していった。
何だかんだで、この夫婦はシュルムの方が強いらしい。彼らのやり取りを、メレジアはずっとクスクス笑いながら見物していたようだ。
「うふふ、お母様ったら。ずっと息子を欲しがっていましたもの、嬉しくてたまらないのですね」
「うう、だからってやりすぎ……がくっ」
「キルト!? しっかりしろ、傷は浅いぞ!」
解放されたはいいものの、熱烈なファーストコンタクトによってキルトは力尽きてしまった。ルビィの腕の中で、真っ白に燃え尽きてしまう。
それからしばらくして、カジュアルドレスに着替えたエルミアと共にルビィ含めた一家は食堂で昼食を堪能していた。
二年ぶりのエルミアの帰郷とあって、専属シェフたちが腕によりをかけたご馳走を振る舞う。舌鼓を打ちながら、お互いの話をするキルトたち。
「なるほど、キルトちゃんも苦労してたんだね。こんなに幼くて可愛いのに、健気な……」
「はは……うえも、長い間お勤めご苦労様でした。北の国境って、寒さが凄く厳しいって姉上に聞きました。この国のために、頑張ってくれていたんですね」
「母上……いい響きだ。でも、私としてはママって呼んでほしいな~?」
「……ど、努力します」
シャワーを浴びてテンションが落ち着いたのか、エルミアはようやく通常モードに戻った。しばらくは、他愛のない話をしていたのだが……。
「ああ、そうだ。シュルムにメレジア、事によってはまた屋敷を離れることになりそうなんだ」
「まあ、どうしてですの? 少なくとも、一年は次の任務が来ないはずなのでしょう?」
「ああ、国を乱すような事件がなければね。……残念だが、近々とんでもないことが起こりそうなんだ」
「一体、何があったのだね?」
話も一段落ついた頃、エルミアが真剣な面持ちでそう語る。メレジアやシュルムに問われ、彼女は小声で答えた。
「……これは本来、誰にも言ってはいけない機密情報なんだけども。キルトちゃんには伝えておきたいと思っていたんだ」
「え、僕ですか?」
「ああ。実はね……西の国境で、デルトア第二皇子の暗殺未遂事件が起きた。その下手人が、サモンマスターらしくてね」
「! 詳しく聞かせてください、その話。僕たちガーディアンズ・オブ・サモナーズが動くべき案件でしょうから」
キルトの言葉に頷き、エルミアは北の長城にいる時に来た報告書の内容を話して聞かせる。ウィズァーラ王国の不穏な動き、そして暗殺未遂。
話を聞き終えたキルトは、難しい顔をしながら考え込む。コーンスープを一口飲んだ後、ポツリと呟く。
「……いい機会なのかもしれない。僕たちも、戦力増強に動くための」
「戦力増強、か。そういえば、こちらには未使用のデッキとサモンギアが三組あったな。未知の敵との戦いだ、確かに味方を増やしておくべきかもしれん」
現在、キルトたちが所有している未使用のサモンギアとデッキは三組存在している。サモンマスターアノードとカソードが使っていた二組。
そして、ゾルグことサモンマスターオーヴァを打ち倒し、戦利品として手に入れたオーヴァギア。これらを使い、仲間を増やすつもりなのだ。
なお、クレイが用いていたクインビーギアは新規生産の媒体にするためすでに解体されている。資源は有限であり、有効に活用せねばならないのだ。
「ほう! なら、是非私に一つくれないかな? 実は興味があったんだ、サモンマスターになってみたいと」
「ええっ!? ダメダメダメ、ダメですって! 万が一のことがあったら、僕立ち直れなくなっちゃいます!」
「そうです、もしお母様が戦いの中で命を散らすようなことになったら……」
「いや、一応戦うのが仕事なんだけど……分かった、出会ってすぐに息子とお別れなんてのは嫌だからね。不服だけど、我慢しよう」
サモンマスターになりたい、と名乗りをあげるエルミア。が、即座にキルトとメレジアによって却下された。
息子と娘の猛反対に遭い、しぶしぶ発言を取り消すエルミア。キルトとしても、彼女を……否、彼女を含めた家族全員をサモンマスターの戦いに巻き込みたくないのだ。
「でも、どうやって仲間を増やすつもりなんだい? まさか、どこかで宣伝する……というわけにはいかないだろう?」
「そうですね、父上。こればっかりは、タナトスみたいに自分たちの足で探さなくちゃいけません。サモンマスターに相応し」
「旦那様、旦那様! 大変です、屋敷の正門前に不審者が!」
その時だった。慌てた様子の執事が、食堂に飛び込んできた。直後、屋敷の外から妙な気配がするのにルビィが気付く。
「なに? 衛兵たちがいるだろう、彼らは何をしているのだ?」
「そ、それが……その不審者、キルト坊ちゃまのように変身したんです! 衛兵たちは歯が立たず、応援を呼んでく」
「すぐに行きます! お姉ちゃん!」
「ああ、行くぞ! メレジアたちはここにいろ、いいな!」
「は、はい!」
執事の報告を遮りキルトは椅子を蹴って立ち上がりルビィと共に駆け出す。中庭を抜けて、正門へ向かうと……。
「あ~、やっと来たんだ? あとちょっと遅かったら、こいつら殺しちゃうとこだったよ~」
「お前、何者だ! 衛兵さんたちをよくも……許さないぞ!」
正門の内外に、衛兵たちが倒れている。彼らを返り討ちにしたのは、フード付きの赤い外套で全身を覆った人物。
顔にはのっぺらぼうの白い仮面を着けており、正体をうかがい知ることは出来ない。……相手がサモンマスターである、ということを除いて。
「ふっふーん、聞かれたなら答えてあげなきゃね~。ウチは『サモンマスターパフォール』! レマール共和国の将軍にして~……」
キルトに問われた仮面の人物は、外套を脱ぎ去り正体を現す。侵入者は、様々な色のフリルで装飾された衣服を着ている。
下半身にはスカートのように広がる垂れ布付きの短パンを履いており、上半身の服には胸元に大きなリボンが付いている。
「今をトキメく! キラキラぴゅあぴゅあガールでぇ~っす! よろしくぅ!」
この邂逅が、始まりの合図となる。メソ=トルキア西大陸全域を巻き込む、覇権戦争が幕を開けるのだ。




