121話─動乱の気配
キルトとティバの戦いから、八日が経った頃。メインに使われている東の理術研究院施設に、五人の大地の民が招集されていた。
ドーナツのように中央に穴が空いた円卓の中に、タナトスが立っている。
「各々、忙しいだろうが集まってくれて感謝する。……と言いたいところだが、一人足りないな。『サモンマスターギーラ』はどうした?」
「ぎっちゃんなら来ないよー? 研究で忙しいからパスだってさー。きゃはっ!」
「……そうか。まあいい、奴なら自力でサモンギアのアップデートくらいは出来るだろう」
会議室に集められ円卓を囲む五人は、メソ=トルキアに潜むサモンマスターたち。ルヴォイ一世を除き、全員フードとのっぺらぼうの仮面で顔を隠している。
いずれ敵対し、ぶつかり合う相手に正体を明かすのはデメリットしかないからだ。だが、若き皇帝はそう考えてはいないらしい。
「早く終わらせてもらえないか、タナトス。朕はやることが山積みでな。あまりここで時間をムダにしてはいられないのだ」
「へー、じゃあもう帰ればー? 一人だけバージョンアップしてもらえなくて涙目になっちゃえ~。ぷぷぷぷっ!」
「で、タナトス。どのように我々のサモンギアをバージョンアップするのだ? そろそろ教えてくれてもいいだろう」
「はあ~!? この流れで無視る普通!? マジアリエナイんですケド~!」
ルヴォイ一世の右隣に座っていた、最初にタナトスの質問に答えた人物がからかう。が、皇帝は無視してタナトスに声をかける。
思いっきり無視されたことに腹を立てるも、これまた相手にされない。ルヴォイ一世にとって、この場にいるサモンマスターは全て格下扱い。
自分より実力で劣る者に、わざわざ姿を隠しておく必要などないと考えているのだ。
「落ち着け、『サモンマスターパフォール』よ。『サモンマスターエンペラー』も、あまり苛立つな。すでにバージョンアップは終えた」
「なに? いつの間に終わらせたのだ?」
「お前たちがくだらぬやり取りをしている間に、ネガが遠隔操作でバージョンアップを完了させた。これより、お前たちの使うサモンギアは第三世代となる。新たな機能を盛り込んだから、それについて説明してから解散とする」
喚くのっぺら仮面一号を宥めつつ、タナトスはそう口にする。その場にいた五人がどよめくなか、死神は新たに搭載された機能を説明する。
「まず一つ目に、召喚機能を実装した。キルトたちがすでに実用化しているが、こちらもようやく搭載出来る目処が立った。無闇に使える能力ではない、よく考えて使え」
「へっへっへっ、そりゃあこっちも十分に分かってまさぁ。あっしらと本契約モンスターは文字通り一心同体……そうでやしょ? タナトスのダンナ」
「その通りだ、『サモンマスタードロウ』。現に、キルトたちも考えなしにアドベントを使ってはいない。ピンポイントで状況打開のために使っている。奴らは敵だが、お前たちより経験が長い。やり方を学び、盗むがいい」
ルヴォイ一世の左二つ隣に座っている人物が、へらへらした笑い声を出す。この場にいる五人は、みなサモンマスタージャスティスのやらかしを知っている。
安易に本契約モンスターを身代わりにした結果、相棒共々命を落とした愚か者として。ゆえに、アドベント機能の実装を素直に喜ぶ者は一人もいなかった。
「で、他にはないのか? ないのであれば、もう解散でいいと思うが」
「まだある、が……これは全員が対象ではない。だがサモンマスターエンペラー、幸いお前には関係のある話だ」
「ほう、そうか。なら聞かせてくれ。どんな機能を追加した?」
「今回追加したのは、複数のモンスターと契約して使役する機能だ。エンペラーの場合は、軍隊使役型になるな」
タナトスが説明を始めた瞬間、ルヴォイ一世ともう一人を除く三人の姿が消えた。どうやら、タナトスが強制送還したようだ。
「おっと失礼、彼らには関係のない話なのでね。先にお帰りいただいた。その方が、お前たちも安心して聞けるだろう?」
「……フン、余計な配慮を。で、この若造とオレ様が該当者ってわけか」
「ああ。まずは軍隊使役型について説明しよう。これは同種族のモンスターを多数使役する能力だ。エンペラーの場合……」
「獅子のモンスター、カイザレオンを複数体アドベント出来るというわけか? ふむ、悪くない」
「そういうことだ。使役出来るのは本契約した雄個体が一頭、後は全て雌個体。そこは念頭に置いておけ」
残ったもう一人は、かなり尊大かつ気怠げな様子で椅子にもたれかかっている。そんな彼を置いておき、まずはルヴォイ一世への説明が行われる。
なお、倒されたらNGなのは本契約を行った雄個体だけであり、他の雌個体はいくら倒されても命に影響はないとのことだった。
「フン、若造の分際で随分といい能力を貰ったじゃねえか。で、オレ様の方には何が来る? わざわざ説明を分けたんだ、こいつとは別なんだろ?」
「ああ、そうだ。お前のサモンギアに追加した機能は……」
もう一人のサモンマスターを相手に、説明は続く。六人のサモンマスターたちが闇に潜み、爪牙を研ぐ時間は終わった。
そうして始まるのは、メソ=トルキアの覇権を巡る世界大戦。そして……キルトを取り巻く乙女たちの、魂の成長の物語だ。
◇─────────────────────◇
「アスカちゃん、ごちそーさま! また来るぜ~」
「はいはーい、おおきにな~。今度は大人数で来てや~」
デルトア帝国、帝都シェンメック。今日もサモナーズショップ、及びアスカちゃん食堂は千客万来だ。忙しいランチタイムが終わり、客がいなくなって一時の平穏が訪れる。
本日、アスカは自分の分身たちと一緒に業務を行っていた。キルトとルビィはとある予定があってシュルム邸で待機、エヴァとフィリールは実家に帰省中。
そんなわけで、暇を持て余していたアスカは店の手伝いをしに来たのだ。洗い物を片付け、店内の掃除をしていると……。
「あ、いらっしゃい。ランチタイムはもう終わってしもたんやけど、今ならギリギリで」
「天王寺アスカですね? 審判神フィアロの名において、あんたを拘束させてもらうです。抵抗はしない方が身のためなのですよ」
ドアが開き、客がやって来る。入ってきたのは、白いトーガを着た少女。だが……彼女の口から発せられたのは、信じられない言葉だった。
嫌な予感を覚えたアスカは、咄嗟に後ろに飛び退き手にしていたホウキを少女に向ける。そんなアスカに向かって、少女……イミーラはニタリと笑う。
「なんやいきなり! ウチはなーんも悪いことしてへんで、お天道様に誓えるわ!」
「いーえ、あんたは罪を犯してるです。……天王寺アスカ、無断異世界転移の容疑で拘束させてもらうです。大人しくしないと、この街がまるごと吹っ飛ぶですよ」
「んなっ……!? おかしいやろ、ウチは自分の意思関係なく無理矢理転移させられたんやで! それが罪っちゅーんは道理が通らんわ!」
罪状を述べるイミーラに、アスカは抗議の声をあげる。彼女からすれば、メソ=トルキアにやって来たのはボルジェイたちの仕業。
彼女が自ら望んでやって来たわけではないのだ。しかし、そんなことは下っ端女神のイミーラには関係のないこと。
「てめーの事情なんて知ったこっちゃねーのです。文句があるなら、お仲間の転生・転移者たちに言う……あ」
「ん? なんやて? もしかして、ウチや泰道亮一以外にもおるんか? 異世界転生や転移した連中が」
「はわわわ、まずいのです。思わずとっぷしーくれっとを口にしてしまったのです! かくなるうえは……」
「かくなるうえは?」
「ムーテューラ様直伝、都合の悪いこと全部忘れる斜め四十五度チョーップ!」
「へぶっ!?」
アスカを拘束しようと、一歩踏み出すイミーラ。だが、ついつい口を滑らせてしまった。このままではまずいと考え、証拠隠滅に動くことに。
素早くアスカの元に飛び込み、彼女の頭部に強烈なチョップを叩き込む。これで不都合な記憶が消えた……かは定かではないが、イミーラ的には問題ないらしい。
「ふー、危なかったのです。こんなひみつろーえーがフィアロ様やムーテューラ様にバレたらけつあなぶっこ抜きの刑にされるのです。ギリギリでセーフなのです」
床に倒れ、気絶したアスカを抱えてイミーラは指を鳴らす。すると、彼女の足元に白い魔法陣が現れ光の柱が立ち昇る。
白い光の柱に呑まれ、二人の姿が消える。アスカを拘留するため、遙か天の先にある神々の大地……グラン=ファルダに向かったのだ。
「やれやれ、本当にめんどうなものですよ。勝手に転生やら転移させてる連中、魔神たちとの連携で必ずとっちめてやるのです」
天王寺アスカ、地球人。彼女に今、一つの試練が降りかかろうとしていた。




