120話─断ち切られた過去
「……ここだね、確かに認識阻害の結界が張ってある」
「早く埋葬してやろう、キルト。先方を待たせていることだしな」
戦いが終わった後、キルトはティバの亡骸を抱えネヴァルが眠る場所に向かった。竜形態のルビィから降り、結界を一時的に解き中に入る。
人形態に戻ったルビィに手伝ってもらい、ネヴァルの隣にティバを埋める。作業が終わった後、ふとキルトは背後に気配を感じた。
「あ、君は……」
「ピューイ」
「確か、オカマ鳥の本契約モンスターだったか。ずっとここにいたのか、主を見守るために」
「ピュイ!」
キルトたちの接近を感知し、一時姿を消していたビューコックが戻ってきたのだ。ティバが例外措置を取り、彼だけは結界の内外を自由に移動出来る。
最初は警戒していたビューコックだったが、キルトたちに敵意がないと判断したらしい。主が眠る墓の隣に座り、墓標代わりのデッキホルダーをクチバシで撫でていた。
「敵だったとはいえ、もの悲しいな。こいつは……死ぬまでここにいるんだろう。主たちが安らかに眠り続けられるように」
「うん……せめて、彼が邪魔されないように結界を補強してあげなきゃ。それくらいのことはしてあげてもいいよね?」
「ピュイ!」
「ああ、望むようにするといい」
ティバが使っていたデッキホルダーを墓標として土に刺した後、キルトたちは結界の外に出る。魔法を使い、認識阻害の力をさらに強めた。
これでもう、二つの墓はキルトとルビィ、そしてビューコック以外には認識出来ない。誰にも邪魔されずに、安らかに眠れるのだ。
「ピュ、ピュイ!」
「手厚く葬ってくれてありがとう、と言っている。こやつに感謝される日が来るとはな」
「ふふ、なんだか不思議だね。……っと、もう行かなきゃ。じゃあね、ビューコック。また今度、お参りに来るから」
「ピューイ!」
ビューコックと別れ、キルトはルビィに抱かれ元来た道を戻っていく。すでに空は晴れ、一片の雲も残っていない。
空を飛ぶなか、キルトはちらりと後ろを見る。いつまでもずっと、ビューコックが静かに去って行く二人を見つめていた。
◇─────────────────────◇
「……ふぅん。負けちゃったんだ、ティバ。ま、別にいいけどね。おかげで、もうコソコソしないで活動出来るし」
理術研究院、第七牢棟地下深く。そこに、キルトのクローン……ネガがいた。目の前に浮かぶ水晶玉を通して、オリジナルとティバの戦いを見ていたのだ。
「明日にはボルジェイの死と、タナトスの次期院長就任が発表される……。ふふ、これからは大々的に動けるよ。実に楽しみだね」
そう呟き、ネガは水晶玉を投げ捨て後ろを向く。そこには、乱雑に散らばるキカイの部品の山があった。
「さーて、サモンギアもいよいよ第三世代に突入……まずは、メソ=トルキアにいる六人のをバージョンアップしてあげないと。それから、リジェネレイトの相互互換になる強化システムの開発……やること盛りだくさん、楽しいね!」
頭の中に無数のプランを構築しながら、ネガは心底楽しそうに笑う。その頃、タナトスはというと……。
「なるほど、ではオメガ-13『ポケットの中のチリ紙』を部隊丸ごと購入する、ということだな?」
「そうだ。別に問題はなかろう? クラヴリン王。例の部隊は、実力は一流だが性格に難のある者たちの集まりだと聞く。そういう者たちこそ、我らに相応しい」
暗域の下層世界にある城にて、商談を行っていた。応接室にいるのは、二人の男。片方はタナトス、もう一人は……序列四位の魔戒王、クラヴリン。
質のいいタキシードを着た青年は、しばし考え込んだ後頷く。部隊を売却することを決めたのだ。
「よかろう、ならば当初の値段通り八千万ジェイナで手を打つ。我輩はかつての上司のように、値下げはしないぞ」
「構わない。資金だけは潤沢にあるのでね、こちらは。むしろ値段を吊り上げてもらっても構わんよ」
「ふっ、羨ましいことだ。こちらは二十六の機動部隊を食わせていくのに精一杯だというのに……む?」
「失礼しまっす! ダーリン、お客さんにお茶を持ってきたっす!」
商談が纏まった直後、部屋の扉がノックされる。そして、ティーセットと茶菓子の入ったボウルを乗せたトレーを持った女性が入室した。
女の肌の色から、タナトスは相手が元大地の民であることに気付く。紅茶が注がれたカップを受け取り、礼を述べる。
「どうもありがとう。ところで……一つお聞きしたいのだが。君は直系の闇の眷属ではないね?」
「お、やっぱり分かるっすか? やっぱ肌が紫じゃないと、すぐ分かっちゃうもんすねー」
「我輩としては、そのままの君が好きだがね。三百年前の君も、転生して成長した君も……どちらも愛おしいよ」
「もー、ダーリンったら! 客の前で惚気ちゃ恥ずかしいっす!」
白いエプロンドレスを着た女性とクラヴリンは、夫婦であるらしい。タナトスがいるというのに、アツアツラブラブしている。
そんな彼らを見ながら、タナトスは仮面の口部分を消して紅茶を一口すする。柑橘系のフレーバーを使っているようで、どこか心が落ち着く味わいがした。
「うむ、いい茶だ。……そうだ、もう一つ聞かせてもらってもいいかな? ご婦人、名をなんと言う?」
「あ、まだ名乗ってなかったっすね、恥ずかし。アタイの名は──」
タナトスに問われ、女性は自身の名を告げる。彼女の正体を知り、タナトスは目を見開くのだった。
◇─────────────────────◇
「報告します、陛下。つい先ほど、第一皇女ルミアール殿下率いる反乱軍が降伏しました。どのように処断しましょう?」
「首謀者……姉上は殺せ。それ以外の者たちについては、二度と反乱が起こせぬよう隷属の魔印を刻んでから解放してやれ」
「はっ、かしこまりました。では、皇女殿下はどのように処刑致しますか?」
「朕が直々に始末する。この『力』についてより深く知るためにも、な。ガリバルディ、残りの反乱勢力の動向を随時監視せよ。任せたぞ」
「はい、この幻槍将軍めにお任せください」
ゼギンデーザ帝国首都、マルヴァラーツ。巨大なコロシアムを備える大都市の中央に、白銀に輝く城が鎮座していた。
その城の中、玉座の間に二人の人物がいた。片方は、緑色の鎧に身を包んだ中年の男。もう片方は、玉座に座す年若い青年。
数年に渡る帝位継承の内紛を制し、新たな皇帝……ルヴォイ一世として即位したのだ。
「よし、では下がっていいぞ。朕はしばらく思索に耽りたい、何者も通すなと衛兵らに伝えよ」
「かしこまりました。では、ごゆっくり」
ガリバルディが退室した後、若き皇帝は法服の下から『あるもの』を取り出す。それは、コバルトブルーに染まったデッキホルダーだった。
デッキの中央には、獅子の横顔を模したエンブレムが彫られている。彼はメソ=トルキアに潜む六人のサモンマスターの一人。
カードデッキの力で、帝位継承の戦いを勝ち抜き皇帝に即位したのだ。
「……サモンマスター、か。実に素晴らしい力だ。これがあれば、朕の……いや、俺の望みも叶えられよう。この国による、大地の統一を成し遂げ……争いの無い世界を作ってみせる。必ずな」
ルヴォイ一世の抱く夢。それは、全ての国を併呑し統一国家を築き上げること。無益な争いによって、人々が傷付かないように。
世界を統べる覇者にならんとしているのだ。もっとも、そうした野心を持つ者は他にもいるのだが。
「まずは反乱軍を全て鎮圧し、この国を纏める。その次はどこを攻めるか……デルトア帝国か、ウィズァーラ王国か。絵に描いた餅にならぬようにせねばな」
キルトを取り巻く、過去の因縁は全て終止符が打たれた。これより始まるは、新たなる戦いの物語。サモンマスターたちによる戦国時代が、幕を開けようとしていた。
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