118話─最後の戦い
その日の昼。キルトはルビィやエヴァと一緒にとある場所に向かっていた。彼らが目指しているのは……。
「ふわあ、久しぶりに来たねえ暗域。ようやくこっちに顔を出せるようになってよかったよ」
「そうね、ボルジェイの【ピー】野郎が死んだから、気兼ねなく出歩けるわ」
「うん、天気が悪くなければもっとよかったんだけどね」
コーネリアスの住む城に向かっているキルトたち。ショップの売り上げがいい具合に貯まってきたので、最初の支払いに行くのだ。
昨夜のうちにエヴァが暗域に行って通貨の両替をしてくれたおかげで、スムーズに事が進むとキルトは見ていた。
ボルジェイが死に、彼を警戒する必要がなくなったのも追い風だった。
「金貨三百枚ぽっちとはいえ、キッチリと払ってこちらに返済の意思があることを示さねばな。以前街で見た、借金取りに追われる者のようにはなりたくないからな」
「あはは、そうだね。えげつなさそうだもんね、闇の眷属の取り立てって」
「まあ、否定はしないわ。文字通り根こそぎ持ってくから。場合によっては命も含めて、ね」
そんな会話をしながら、三人は街の高所に設置されたチューブ状の通路を歩いていた。雨天時用の通路の中は、闇の眷属たちでごった返している。
キルトやルビィをチラチラ見てきてはいるが、単に物珍しいだけなようだ。視線を返すと、笑いながら手を振ってきた。
「……随分とフレンドリーなんだな、闇の眷属というのは。もっとこう、我々に対して敵対的かと思っていたが」
「少なくとも、コーネリアス様の領地じゃそんなことはないから安心して。大地の民との交流が盛んなのよね。アタシに媚びてくるのもいないから、快適この上ないわ」
「あはは、そうなんだ……ん? この気配……」
「どうしたキル……ああ、またしても奴か。どうする、キルト」
コーネリアスの城へ向かっていたキルトは、ティバの気配を察知した。街の外にいるようで、微弱なものではあるが……。
また乱入でもされたら、大変なことになる。そうなる前に倒しておくのがベスト。そう考え、キルトはルビィの問いに答える。
「行こう、お姉ちゃん。今度こそティバを倒して、因縁に全部ケリを着けるんだ。僕たちの手で」
「なら、コーネリアス様にはアタシから事情説明しとくから。存分に戦ってきなさい、今度は逃がしちゃダメよ?」
「ありがとう、エヴァちゃん先輩。もう逃がさないよ、いい加減飽き飽きしてきてるからね。ティバと戦うのは」
「言えてるな、何度も向かってくる根性は認めるが……ま、それも今日限りだ」
キルトとルビィは、チューブロードの脇にある魔導エレベーターへ向かう。そこから下に降り、雨の降りしきる街へ出る。
気配をたどり、街の外へ飛び出す。ティバを探していると、稲光がとどろき雷光が視界を覆い尽くした。光が消えると、目の前に……。
「……よお。まさかお前が暗域に来るとはな。オレを探しに来た……ってところか?」
「んーん、別件で来てたんだけどね。お前の気配に気付いたから、先に倒しに来たんだ。いい加減、完全に決着を付けたいし」
「相棒はどうした? やはり……キルトの奥義が致命傷になって死んだか?」
「ああ、死んだよ。ネヴァルは……オレの腕の中で息絶えた。本当は、オレが死ぬべきだったのによ」
雨と雷鳴が交差するなか、キルトたちは言葉を交わす。が、そんな中でキルトは小さな違和感を覚えていた。
あまりにも落ち着きすぎているのだ、ティバが。これまでの彼なら、出会い次第激昂しながら襲いかかってくるはずだが……。
「落ち着いてるんだね、親友が死んだのに」
「ああ、オレ自身驚いてるよ。だがな、キルト。誰だってきっかけがあれば成長するんだ。オレにとって、それがネヴァルの死だった」
「……ティバ」
「あいつが死んで、ようやくオレは理解出来た。今までの自分が、どれだけ未熟だったかを。あいつの死はオレの責任だ。だから……ケジメをつける。お前を倒してな」
『サモン・エンゲージ』
そう口にしながら、ティバはサモンマスターバイフーへの変身を行う。それを見たキルトも、契約のカードを取り出す。
『サモン・エンゲージ』
『気を付けろ、キルト。今の奴からはある種の余裕を感じる。……我らのように、何かしらのパワーアップを果たしたのかもしれん。油断するな』
「うん、分かった。出し惜しみはしない、最初から全力で行く!」
【REGENERATE】
泰然自若とした様子のティバを見て、警戒心をあらわにするルビィ。彼女のアドバイスに従い、キルトは初手から切り札を使う。
【Re:NIFLHEIMR MODEL】
「……やっぱりそうするよな、お前なら。じゃあ、オレも……見せてやるよ。ネヴァルの死を乗り越えて見つけ出した、新たな力を!」
【REGENERATE】
『!? バカな、奴がリジェネレイトを!?』
「いつの間に……確かに、これは油断しちゃダメだ」
ティバがデッキから『REGENERATE─鎮魂』のカードを取り出すと、サモンギアに変化が起こる。
光に包まれたサモンギアがプロテクターから肩当てに変化し、右肩に装着されたのだ。次いで、ティバ自身の姿も変わっていく。
背中にはサモンマスタールージュを思わせる鮮やかな青と緑のマントが、左肩にはサモンマスターゴームを彷彿とさせる岩石の肩当てが現れる。
【Re:SOUL LEGACY MODEL】
「……待たせたな。これがオレの得た新たな力。さあ、奏でさせてもらうぜ。ボルジェイ様の、ゾーリン隊長の……そして、ネヴァルへの鎮魂歌を!」
【バスタードコマンド】
『キルト、来るぞ!』
「うん、迎え撃つ!」
【カリバーコマンド】
ティバはデッキホルダーから岩石のように無骨な巨大剣が描かれたカードを取り出しスロットインする。そうして現れたのは、ゾーリンがかつて用いたものと同じ大剣だった。
己の背丈よりも大きな剣を軽々と担ぎ、ティバは走り出す。キルトも武器を召喚し、宿敵を迎え撃つ。
「見せてやる、ゾーリン隊長のような破壊の一撃を! グランロッククラッシュ!」
「くっ、これは……ダメだ、受けれない!」
剣を振るい、一気に振り下ろすティバ。受け止めようとしたキルトだが、すぐにその判断を捨て回避に徹する。
身をひるがえし、横っ飛びに跳んだ直後。大剣が地面に叩き付けられ、大地が砕け土の破片が宙を舞う。
『なんという威力……! 避けて正解だったなキルト、あれを受けていたら……』
「多分、ヘイルシールドが破壊されてたね。あの大剣をどうにかしな……おっと!」
「相棒とお喋りか? 余裕なのはいいが……あまりオレを甘く見ない方がいい。これまでみたいな猪武者じゃあないぜ!」
ルビィと話しているキルトに、ティバが追撃を仕掛けていく。大剣を羽根のように楽々振るい、連続で攻撃を仕掛ける。
だが、相手の反撃が来そうなタイミングでは前に出ず、逆に後退して付け入る隙を与えない。彼の言う通り、戦い方も洗練されてきていた。
「たった数日で……よっと! だいぶ駆け引きが上手くなったね。こっちも、本気を出さないと!」
【サポートコマンド】
「何を……ん? つる……ッチ!」
大きく後ろへ飛び、相手の攻撃範囲から逃れたキルト。着地しつつ、サモンギアにサポートカードを装填する。
すると、ティバの足下にトゲの生えた植物のつるが出現する。ぬかるみはじめている地面の下から殺気を感じ、ティバは後ろに下がろうとし……。
「いや、違う。上だ!」
【ウイングコマンド】
己の直感に従い、ティバは素早くサモンカードを取り出す。孔雀の翼が描かれたカードをスロットインすると、マントが真ん中から左右に裂ける。
そうして翼になったマントを羽ばたかせ、ティバは真上に勢いよく飛翔する。直後、彼の立っていた場所に人食い花が姿を現した。
「惜しい、後ろに下がってたら地中の本体を移動させて捕まえてたのに!」
「この花は……タイラントリップルか。よくこんな凶暴なモンスターを手懐けたな。だが! 今のオレには何をけしかけてもムダだ! ウィングシューター!」
「ヒギアァッ!」
地面から顔を出したチューリップ型のモンスター、タイラントリップルへ向かって無数の羽根を飛ばすティバ。
全身を貫かれ、ご馳走にあずかることなく人食い花のモンスターは消滅した。すでに二枚カードを使ったティバだが、まだ余裕はある。
「さあ、存分に打ち合おうぜ。お前も……無傷で勝てるとは思っちゃいないだろ、キルト」
「そうだね、今のお前に勝つには……犠牲を払わないといけない。それをよく理解させられたよ。でも、だからって負けるつもりはないけどね!」
「ああ、そうだ。そうでなくちゃ、ネヴァルたちの仇を討つ意味がない。来い、お前の全力を見せろ!」
雨足が強くなるなか、キルトとティバの戦いは続いていく。最後の戦いを制するのは氷獄の騎士か、魂の遺産を継ぐ者か……。
行く末は、神ですらも分からない。




