115話─不穏な世界情勢
ティバとネヴァルの乱入騒ぎの翌日。改めてキルトとウォンの御前試合が行われたが……その結果は、キルトの圧勝。
リジェネレイトモデルの力を、観客たちに見せつける形で幕を閉じた。試合が終わった後、ウォンは己を鍛え直すため再び旅に出ることに。
「ありがとう、キルト。この戦いで、俺はまた一歩先に進めるだろう。勝利と同じくらい……いや、それ以上に敗北は多くのことを教えてくれる。いい教師だ」
「次も負けませんよ! まあ、もしウォンさんもリジェネレイト出来るようになってたら勝敗は分かりませんが」
「そうだな、次はそのリジェネレイトとやらを会得出来るようにしてみるか。……ところでだ、話は変わるのだが。風の噂で聞いたが、GOS……ガーディアンズ・オブ・サモナーズなる組織を発足させたようだな」
「ええ、そうなんですよ。もしよかったら、ウォンさんも加入しませんか? いつも一緒にいるのは無理でも、いざという時に駆け付けてもらえるだけで嬉しいなって思うんです」
帝都シェンメックの北門の外で、キルトとウォンはそんな話を行う。しばらく考え込んだ後、ウォンは静かに頷いた。
「ああ、そうだな。近頃は不穏な噂も多く聞くし、俺で力になれるなら喜んで加入しよう」
「ありがとうございます! ……ところで、不穏な噂ってなんです?」
「北のゼギンデーザに、南のレマール。そして、西のウィズァーラ。三つの国に、サモンマスターを名乗る者たちが現れた……らしい」
その言葉を聞き、キルトは顔を強張らせる。戦いの中でボルジェイがルビィに言った、不穏な台詞を思い出したのだ。
メソ=トルキアの大地には、まだキルトたちが存在を把握していないサモンマスターが『六人』存在していると。
彼らは各々の目的や野心のため、闇に潜んで爪を研ぎ、牙を磨いているのだ。
「なるほど……分かりました。そちらは僕たちで調べて、対処したいきたいと思います」
「気を付けろ、特に今はゼギンデーザ帝国には手を出さない方がいい。次期皇帝を巡る内紛が終わり、新たな皇帝が帝国三将を率いて戦力の増強に乗り出しているようだからな。迂闊に関われば、面倒に巻き込まれるぞ」
「それは嫌ですね。あ、でも……確かゼギンデーザとの国境にある長城に、母上が……」
ゼギンデーザ帝国。剣、槍、斧を操る三人の将軍を擁するシャポル霊峰以西最強を誇る軍事国家。ここしばらくは、皇帝の急逝により帝位を巡る内紛が頻発していた。
だが、つい最近……一人の皇子が帝位継承を巡る争いに勝利し、帝国三将と軍を掌握して国を纏め上げにかかっているらしい。
その話を聞き、キルトは以前シュルムから聞いた話を思い出す。彼の義理の母、エルミアはデルトア帝国の将軍。
「ああ、そうか。パルゴ卿の奥方はこの国の将軍だったな。なに、心配することはない。今ゼギンデーザは自国のことで精一杯。他国にちょっかいを出す余裕はないだろう」
「だと、いいんですけどね」
いかに軍事大国といえど、今のゼギンデーザは帝位争奪に伴う国家分裂の危機を乗り越えたばかり。しばらくは安全だろうと、ウォンは言う。
キルトは頷くも、顔色は良くなかった。僅かに痛む左腕が、そう遠くない将来に何らかの災いが降りかかってくることを知らせていた。
「さて、随分と長話をしてしまったな。俺はもう行こう、次に会うのは……願わくば、また御前試合の会場であってほしいものだ」
「ええ、僕もそう思います。……っと、そうだ。これを渡しておきます。GOSメンバーの証、ポータルキーです。これがあれば、いつでも好きな時にアジトに来られますよ」
「かたじけない。では、気が向いたら行ってみるとしよ。では、今度こそさらばだ」
ガーディアンズ・オブ・サモナーズの一員の証、ポータルキーをウォンに渡し見送るキルト。時刻はすでに夕方、そろそろ陽も落ちる。
「さて、僕も帰ろっと。今日の晩ご飯はなにかなぁ」
腹の虫が鳴りはじめるなか、キルトは門の向こうで待っているルビィの元に行く。家族の待つミューゼンへ、帰っていくのだった。
◇─────────────────────◇
「……ふむ。やはり一般人にはあまり適性がないか。サモンマスター候補が見つかるかとも思ったが、そう簡単には行かないな」
その頃、タナトスは一人暗域にある大きな街を歩いていた。闇の眷属たちで賑わう大通りを抜け、狭く薄暗い路地裏に入る。
理術研究院の戦力増強のため、彼は新たなサモンマスターとなる逸材を探して練り歩いていた。だが、成果が芳しくないだけでなく……。
「おっと、待ちなタナトスさんよ。そっちは行き止まりだぜ? ま、俺たちからすりゃ都合がいいがな」
「……? なんだ、お前たちは。私は忙しい、世間話がしたいなら後にしてもらおうか」
「おいおい、ジョークを言ってる場合か? へへ、こっちを塞いじまえばもう出られねえぜ、あんた」
ガラの悪い四人の男たちが、タナトスを前後から挟むように行く手を阻む。それぞれが鉄パイプやらチェーンやらを持ち、害意を剥き出しにしている。
「聞いたぜ、あんたが次の理術研究院の院長になるんだってな。ってことはだ、今あんたを殺せば……俺たちがその地位を横取り出来るっつーこった」
「ああ、なるほど。お前たち『も』その手の輩であったか。身の程を知らぬ者たちよ、今なら見逃してやる。消えるがいい、ここからな」
「おいおい、そんなチョーシ乗ってていいのかよ? こっちは四人、しかも武器がある。お前は丸腰、どう見ても俺たちにゃ勝てねえだろ」
「頼みのサモンマスターとやらもいねえしなあ! ケケケ、ここでお前をフクロにしてぶっ殺すなんて簡単に出来るんだぜ、俺らはよ」
タナトスは男たちの目的を知り、やれやれとかぶりを振る。ボルジェイの死が広まってからというもの、このような者たちが多く現れていた。
見逃してやろうと慈悲をかけるも、男たちは意に介さない。そんな彼らは、己が命と引き換えに知ることとなる。
死神の持つ、恐るべき力を。
「一つだけ、訂正しておこう。サモンマスターならいる。……この私だ」
「はぁ? 何言って──!?」
「私は去れと言った。お前たちは拒んだ。なら、訪れる結末はただ一つ。……死ぬがよい、小物らよ」
『サモン・エンゲージ』
タナトスがそう口にした直後、彼の一番近くにいた男の首が落ちた。鮮血の花が咲くなか、残りの三人は何が起きたのか分からず固まってしまう。
そんな彼らの耳に聞こえてきたのは、サモンギアに契約のカードが読み込まれた時のメッセージ。だが、タナトスは変身していない。
……否、すでに彼は変身していたのだ。最初から、ずっと。
「な、なんだ……お前、何をしやがった!?」
「何をしたかだと? 見えなかったか? 私が首をはねてやったのさ。あまりにも速すぎて、お前たちが認識出来なかった。それだけのことだ」
「ひ……ひぃぃ!! こ、こんな奴に勝てぐはっ!」
「言ったはずだ、結末は一つだと。すなわち……貴様らの抹消以外にはない。この私……『サモンマスターデリート』が滅してやろう」
大通りに逃げようとした男が、瞬く間に首を刈られ倒れ込む。残された二人の男は、恐怖に呑まれパニック状態になる。
手にしていた鉄パイプを振りかざし、奇声を発しながらタナトスに襲いかかる。が、瞬時に彼の姿が消え去った。
「死ね……へぶっ!」
「いてっ! クソ、あいつどこに行っ……た?」
タナトスが消えたことで、仲間同士ぶつかってしまう。よろめきながら数歩後ずさったところで、ふと違和感を覚える。
「お、おい! お前、胸に大穴が空いてる……ぞ……」
「そ、そういうお前……こ、そ……うぐっ」
男たちの胴体に、いつの間にか風穴が空いていた。お互いにそれを指摘しながら、男たちは倒れて息絶える。
少しして、タナトスが二つの死体の側に現れる。魔法を使って死体や血を消滅させ、戦いの痕跡を完全に消し去った。
「やれやれ。第一世代の頃から同じものを使ってきたが、そろそろガタが来ているな。新しいサモンギアに交換しなければ」
『エンゲージ解除』
「さて、もう今日は帰るとしよう。明日は商談に行かなければならないからな。早めに休まねば」
黒衣を纏う死神は、そう呟きながら表通りへと戻っていく。彼の服の下で、壊れかけたプロテクター型のサモンギアが熱を放っている。
死神は気にもとめず、人混みの中に混ざり……そして姿を消した。新たな不穏の種が撒かれ、芽吹きの時を待っていることを……キルトはまだ、知らない。
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