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111話─残された因縁

「嘘、だろ? ボルジェイ様が……死んだ?」


「ああ。私にすら事前の相談をせず、単独でキルトを始末しに向かったらしい。結果、返り討ちにされて死亡した……とのことだ」


 キルトとボルジェイの決戦から、三日が経った。戦争の後処理を終え、ようやく理術研究院に帰還したティバとネヴァル。


 そんな彼らに、残酷な現実が襲いかかる。院長室にて、タナトスの口からボルジェイの死が告げられたのだ。


「まさか、そんなことが……あり得る、わけがねえ。ボルジェイ様が、死んだ……」


「あたしたちが、いない間に……。ああ、ボルジェイ様……」


「私としても、ネクロ旅団との講和会談の最中に単独行動をするとは読めなかった。全く、悲しいことだ」


 絶句するティバたちに、タナトスはそう口にする。だが、声からは微塵も悲しさを感じられない。もっとも、それに気付く余裕は二人になかったが。


「……やる。殺してやるぞ、キルト! ゾーリン隊長やクレイ主席に続いて、ボルジェイ様まで手にかけやがって! 必ず報いを受けさせてやる!」


「タナトス様、あたしたちに出撃許可を! キルトたちをブチ殺さないと、この怒りは収まらないワ!」


「ダメだ。今しばらくは出撃許可を出すわけにいかない。院長の交代に際して、やらねばならぬ仕事が山ほどあるからな。お前たちにはその手伝いをしてもらわねばならん。出撃は認めない」


 キルトを抹殺し、命の恩人であるボルジェイの仇を討たんとするティバとネヴァル。だが、タナトスは出撃を許さなかった。


 理術研究院の立て直しのため、今はしばらくは二人に死なれては困るのだ。ボルジェイがどのようにして、キルトに倒されたのかが不明なのもある。


(この二人はボルジェイへの忠誠心が強い。それこそ、妄執や依存と言っていいほどに。出来るだけ早めに消したいが、今そうするわけにはいかぬ……歯痒いものだ)


 ティバとネヴァルの忠誠心は、理術研究院という組織そのものではなく、ボルジェイ個人に向けられている。故に、何かの弾みで離反する可能性があった。


 誰かに丸め込まれたり、あるいは何らかの理由によりタナトスがボルジェイを排しようとしていたことに気付くようなことがあれば……。


「ぐっ……でも!」


「でも、ではない。お前たちも分かっているはずだ。このまま策も無く飛び出したところで、またキルトに返り討ちにされると。なあ?」


「それは……そうね、悔しいケド認めるしかないわ」


 タナトスにそう指摘され、二人は黙り込んでしまった。これまで何度も、ティバたちはキルト一味と戦いを繰り広げてきた。


 決着が着くまで戦ったのは二戦目の廃鉱山のみだったが、それでもティバたちは戦いを重ねる度に実感させられる。


 キルトたちと自分らの実力差が、少しずつ広がっていることを。多くのサモンマスターと出会い、死闘を繰り広げる彼らとの間に、埋めがたい溝が出来ていることを。


「はっきり言おう。今のお前たちでは、何度やってもキルトには勝てない。そも、第二世代機(セカンド)最高傑作の片割れですら敗れたのだ、それ以下の」


「だからって! このまま指咥えて見てられるわけねぇだろうが! キルトがどれだけ強くなっていようが関係ない! オレは……オレは! あいつを殺さないといけないんだ!」


「あ、ちょっとティバ! 待ちなさいヨ、どこに行くの!?」


 いたたまれなくなったのか、タナトスの言葉を遮り院長室を飛び出すティバ。ネヴァルは申し訳なさそうにアイコンタクトした後、ティバを追う。


「行ってしまいましたねぇ、あの二人。連れ戻さなくてもよろしいのですか?」


「構わん。いなくなったらなったで、何とかなる。幸い、私には『ツテ』があるのでね」


 二人が去って少しした後、院長の椅子に座るタナトスの背後に泰道亮一が姿を現す。追わなくていいのかと問われ、静かに答えた。


 警備部門を担当する者がいなくなると、セキュリティが厳しくなりそうなものだが……。何か策があるようで、タナトスはさほど気にしていない。


「あの二人は旧体制最後の分子。もう少し先延ばしにしてもよかったが、自分から消えてくれるならそれでもよい」


「そうですか。ま、私もスレイブコマンドで使役出来る死人が増えてくれそうでありがたい限りですよ。ところで、どのように何とかするつもなので?」


「ああ、幸いにして理術研究院は潤沢な余剰予算がある。だから『買う』のさ。現序列四位の魔戒王……クラヴリン陛下から機動部隊をね」


 ふと興味が湧いたようで、亮一はここからどうやって立て直しを計るのかをタナトスに問う。そんな彼に対し、死神はそう答え……仮面の下で笑みを浮かべた。



◇─────────────────────◇



「アスカちゃーん、チャーハンおかわりちょうだーい」


「アタシはハンバーグー」


「はいはい、わぁったからちょいと待ちぃーや。全く、今日も今日で大繁盛やで」


 その頃、キルトたちは帝都にある自分たちの店に来て少し早めのランチを楽しんでいた。他の客に混ざって食事を楽しんでいると……。


「あ、いらっしゃ……んん!? あんたさんは!」


「久しいな、アスカ。それに、キルトも」


「ウォンさん!? 戻ってきてたんだ、帝都に」


「ああ。俺の第六感が告げてきたんだ。お前が以前よりも、さらに強くなった……すぐに手合わせをしろ、とな」


 長らく修行の旅に出ていた、サモンマスター玄武ことウォンが店に現れた。どうやら、戦士としての勘でキルトが新たな力を得たことを察知したらしい。


 手合わせを行い、お互いどれだけ強くなったのかを確かめるため急遽シェンメックに帰ってきたのだとウォンは語る。


「いいじゃない、また御前試合やれば? アタシも見てみたいのよねぇ、キルトの新しい戦い方をさ」


「御前試合かぁ……いいかもね、それ。今フィリールさんお城に行ってるし、戻ってきたら話してみよっと」


「俺も賛成だ。演舞としてみなに実力を披露するのも悪くない」


 エヴァの提案に賛同するキルトとウォン。しばらくして、久しぶりに家族の元に帰っていたフィリールが戻ってくる。


「キルト、今戻っ……ん、ウォンじゃないか。久しぶりだな、元気にしていたか?」


「おかげさまでな。再会早々、皇女殿下にお願いしたいことがある。実は……」


 周囲の客たちが興味津々といった感じで話を聞いているなか、ウォンは御前試合をさせてもらえるよう皇帝に掛け合ってほしい。そうフィリールに伝えた。


「それは面白そうだな。分かった、すぐに父上に掛け合おう。二人とも、しばし待っていてくれ。今日中には了承を取り付けてみせる!」


「申し訳ない、助かった。……ところで、キルト。君の相棒はどこにいるのだ?」


「お姉ちゃんはねー、今金獅子騎士団(レオーネリッター)の宿舎の隣にある厩舎を借りて久しぶりの本契約モンスター交流会をやってるんだ」


 キルトの言った通り、現在ルビィはキルモートブルやインペラトルホーンらと共にフィリールの古巣にいた。


 そこそこの広さがある乗馬スペースにて、ささやかな交流会を行っている。


「ぶも、ぶもぶも」


「ふむ、なるほど。そろそろ新しいブラシを買ってほしいわけだな。では、我の方からエヴァに伝えておこう」


「キシャ、フシャー」


「キルモートブルが羨ましい? ああ、まあ……アスカはあまりペットの世話をしないタイプだろうからな。気持ちは分かる」


 ルビィ以外は人語を話せないので、本契約モンスターたちが抱く主への要望をメモしてもらい、伝えてもらうための話し合いが行われていた。


 主人に愛され、丹念にお世話されているキルモートブルが羨ましいようで、ミステリアグルはフシャフシャ唸っている。


 そんな彼らを尻目に、インペラトルホーンはひなたぼっこに興じていた。アスカが持たせてくれた甘さ抜群のオオダマスイカを食べ、ご満悦だ。


「……ヨキニハカラエ」


「なんだ、そんなに美味いのか? なら、我にも一口……あいたっ!?」


「ヨキニハカラエ!」


「なにっ、欲しいなら店に戻っておねだりしてこいだと!? おのれっ、貴様見た目に似合わずケチな奴だな!」


「ぶもう、ぶもう!」


「フシャー!」


「ヨキニハカラエッ!」


 あまりにも美味しそうにスイカを食べているのを見て、ルビィは一口貰おうと手を伸ばす。が、即座に角を叩き付けられてしまった。


 インペラトルホーン、こう見えてかなり食い意地が張っているようだ。キルモートブルやミステリアグルの抗議も聞き流し、スイカを抱えて空に逃げていった。


「ぐぬぬ、あくまで渡さぬつもりか。いいだろう、ならこちらも追いかけるのみ! ミステリアグル、我の背に乗れ! 奴を追うぞ!」


「フシャッ!」


「ぶも、ぶもう?」


「お前は地上から奴を追え、頼んだぞキルモートブル!」


「ぶむふっ!」


 そんなこんなで、スイカを巡る本契約モンスターたちの一大レースが始まった。その後しばらくして、騒ぎに気付いたキルトたちに強制送還されて大目玉を食らったのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] バカな上司の自滅で昇進のタナトスとロクデナシでも恩義を尽くすティバとネヴィル(ʘᗩʘ’) タナトスも使えない駒はサッサと捨て駒にして金の力で新戦力(傭兵)を集める積もりか(٥↼_↼) そ…
[気になる点] >「ヨキニハカラエ!」 それがインペラトルホーンの鳴き声なん?w [一言] ティバぁ……そんなにやられたいんなら、望み通りにしてやるぜぇ!!
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