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110話─それぞれの終戦

 戦いは終わり、因縁に終止符が打たれた。変身を解除し、キルトとルビィは寄り添うように立ちながらボルジェイだった残骸を見下ろす。


「これで、やっと終わったのだな。キルト」


「うん。これで僕は……もう、過去に囚われずに済むんだ。これからは、前だけを見て歩いていけるんだね」


 そう口にするキルトの頬を、一筋の涙が伝う。そっと涙を拭い、ルビィは微笑みを浮かべた。一方、エヴァたちはというと……。


「あー……もー疲れた。ダメ、動きたくなーい……」


「全く、だらしない奴らだ。アゼルたちが戻ってくるまでは居ていいが……そこに寝ていると邪魔だ、寝るなら部屋で寝ろ」


 魔魂香炉の破壊という大ミッションを達成し、フライハイトに帰還した。まではよかったが、流石に疲れが溜まってグロッキー状態になっていた。


 ぐったりしているエヴァたちを見下ろしながら、リリンは呆れ顔になる。指を鳴らしてスケルトンたちを呼び出し、彼女らを客室に運ばせる。


「全員連れて行け。あまりいい部屋をあてがわなくていい、物置にでも放り込め」


「カシコマリシタ、リリン様」


「ちょっとー、アタシらは客なのよー。もっと相応の扱いってものがあるでしょうがー……」


 エヴァは抗議するも、疲れてダルいようで声にまるで覇気がない。ぐったりしたまま、三人仲良くキャリーされていった。


「やれやれ、こちらは何とかなったが……アゼルたちはどうしているやらな。ま、そちらは任せて……キッチンで酒でも漁ってくるか」


 一人になったリリンは、ささやかな祝勝会をしようとキッチンに向かう。キルトやリリンたちが大勝利を飾った一方、講和会談はどうなったかというと……。


「……どうしたんです? ボルジェイ院長。なにやら苦しそうですが」


「な、なんでも、な……ぐっ。これで、署名は完了……これで、講和は成った……」


 開場にて、終戦宣言書類に署名するアゼルとボルジェイ……の影武者。本人が死んだことが何らかの影響を及ぼしているのか、影武者は苦しそうにしている。


 アゼルやアーシアはその様子を訝しむも、あえて追求しなかった。むしろ、ここでボルジェイ(影武者)が死んだ場合、自分たちが何かして暗殺したと思われる可能性があった。そこで……。


「これにて調印は終わった。両代表、最後に握手を」


「ええ、分かりましたタナトス。さ、院長。これで手打ちにしますから、講和内容に従って引き渡してくださいね? 西の理術研究院を」


「ぐっ……? 仕方ない、約束は約束だ。機材からなにから、全部持って行くがいい。お前たちに使い道があるかは知らんがな」


 最後の握手をした際、こっそり生命の炎を流し込んで回復させた。その後、互いにそう口にした後講和会談は閉幕となった。


 終戦の条件として、アゼルは西の理術研究院の所有権の割譲を要求した。ボルジェイ(本物)はそれを呑み、こうして戦争は終わったのだ。


 本拠地である東の理術研究院に戻った後、一息つくボルジェイ(影武者)。そんな彼に、タナトスが問う。


「講和会談、お疲れ様でした……と言いたいところだが。お前は本物ではないな? 言え、本物のボルジェイ様はどこにいる?」


「な、何を言い出すんだタナトス! どこからどう見ても、俺がほんも……ガッ!」


「とぼけるな。本物のボルジェイがあんなに物わかりがいいわけないだろう。私にすら黙って影武者を駆り出し、どこで何をしているのか……お前なら知っているはずだ。言え!」


「わ、分かった! 言う、言うから!」


 影武者の首を掴み、握り締めながら腕を高く掲げるタナトス。苦しそうにもがきつつ、影武者は息も絶え絶えに白状する。


 本物のボルジェイは、魔魂香炉によって弱体化したキルトを抹殺しにメソ=トルキアに向かったと。そして、敗北し……死んだと。


「俺の体内に、本物のボルジェイ様の生命状態を知らせるデッドマンスイッチがある。それがあの会談の最中に知らせてきたんだ、本物は死んだと」


「……そうか、死んだのか。全く、勝手なことをしてくれる。最後まで無責任なものだ……だが、かえって都合がいい」


「? なにを言っ……ごはっ!」


「狡兎死して走狗煮らる。ボルジェイが死んだ以上、お前はもう用済みだ。思わぬ形で、我々への追い風が吹いたな……ククク」


 全てを知ったタナトスは、躊躇なく影武者の首をへし折り殺害した。わざわざボルジェイを追い落とす必要がなくなったと、死神は笑う。


「さて、無能な研究員どもに罰を与えて……その後で、始動させよう。新生理術研究院を、な」


 ボルジェイの死とキルトの覚醒により、一つの時代が幕を降ろした。のちに来たるは、新たなる戦いの時代。


 タナトス、そしてネガ率いる強大な敵が現れようとしていることを、まだキルトたちは知らない。



◇─────────────────────◇



「ええ~!? アタシらが理研でドンパチしてる間に、ボルジェイをぶっ殺しちゃったの!? しかも、新しい力に目覚めて!?」


「ああ、そうだ。ククク、間近で見られなくて残念だったなぁ? ま、それもまた本契約モンスターたる我の特権というものだ。ハハハハ」


「なによそれ……ズルッ! こっちを除け者にして~!」


 その日の夜、体力が回復したエヴァたちは会談から戻ってきたアゼルらに礼を述べメソ=トルキアに帰還した。


 そうして再会したキルトの口から、驚きの報告を聞くことに。ボルジェイの襲来と、呪縛から解放された両親の霊との本音の語らい。


 その果てに開花した、新たな力……『REGENERATE(リジェネレイト)』を用いて宿敵を撃滅したこと。それを知り、エヴァは悔しがる。自分もキルトの勇姿を見たかったと。


「見たい? 見たい? だったら見せてあげるよ、新しい力をね! ふふん」


「おー、ウチも気になるわ! なーなー、ウチらにも見せてーやー」


 それぞれのやるべきことを終え、アジトに戻ったキルトたち。アスカにせがまれ、せっかくだからとお披露目することに。


 展望室に移動し、キルトは大ガラスの前に立つ。まずは、通常のサモンマスタードラクルへの変身を行った。


『サモン・エンゲージ』


「まあ、ここまではいつも通りよね。で、ここからが凄いんでしょ? 早く見せてよ」


「ああ、なんだかんだで興味がある。宿敵との戦いに終止符を打った新たな姿……叙事詩になるな、これは」


「よし、それじゃあいくよ! お姉ちゃん、準備はいい?」


『ああ、いつでもいいぞ。始めてくれ、キルト』


 ルビィの言葉に頷いた後、キルトは左腕を横向きに構える。すると、ボルジェイとの戦いの時のように青いカイトシールドが生成される。


 ゆっくりと『REGENERATE(リジェネレイト)─相愛』のカードを引き抜き、盾の中央に移動したスロットに挿入した。


REGENERATE(リジェネレイト)


「おおっ、なんやこの冷気……さむっ! ごっつ寒いわこれ!」


「シッ、静かに! 変身が始まったわよ!」


 キルトの周囲を冷気が漂い、全身を覆っていく。エヴァたちが固唾を飲んで見守るなか、新たな装いになったキルトが姿を現す。


【Re:NIFLHEIMR(ニヴルヘイム) MODEL(モデル)


「……ふう。どうかな? これが僕の新しい姿……サモンマスタードラクル:ニヴルヘイムモデルだよ!」


「ほう……炎から冷気使いへ変化したのか。カラーリングも涼しげだな」


「ヤッターかっこいいー! ええなぁええなぁ、羨ましいわぁ! ウチもこんな感じに格好よくなりたいわぁ!」


 青地に金で彩られた、まさに聖騎士と呼ぶに値する姿になったキルトを絶賛するフィリールとアスカ。だが、エヴァの反応が無い。


「あれ? エヴァちゃん先輩どうし……し、死んでる……!?」


『あまりにも尊いものを見たせいでフリーズしているようだな。そうだ、キルト。せっかくだからシュルム殿たちにも見せてあげたらどうだ? 因縁にカタが着いたことも話せば、きっと喜ぶだろう』


「うん、そうだね! じゃ、まずはエヴァちゃん先輩を起こしてから……」


 あまりの尊さに、エヴァは微笑みを浮かべたまま機能停止してしまっていた。そんな彼女を正気に戻しつつ、一行はミューゼンに向かう。


 だが、キルトはこの時……すっかり失念していた。因縁があるのは、ボルジェイだけではないと。彼に見出された刺客たちが、まだ生きている。


 ティバとネヴァル、二人との完全決着の時もまた……着々と近付いてきていた。

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― 新着の感想 ―
[一言] 因縁の決着、(無謀な)戦争終結、新たな時代の風、歴史が動きだしたな(ʘᗩʘ’) しかしすんなり新フォームに成れていいのか?(゜o゜;こういうのは何かと癖があってすんなり成れないパターンもあ…
[一言] >全てを知ったタナトスは、躊躇なく影武者の首をへし折り殺害した。わざわざボルジェイを追い落とす必要がなくなったと、死神は笑う。 今度は(首が折れる音)じゃねーかw
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