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108話─覚醒の時

「う……あれ、ここは……」


「死後の世界とやらに来てしまったのか? 随分と暗く寂しい場所だな」


 ボルジェイの攻撃で気を失ってしまったキルトは、ルビィと共に闇の中を漂っていた。二人揃っているということは、死んでしまったのかもしれない。


 ルビィの言葉を受け、そう考えるキルト。宿敵を倒せず、志半ばで倒れてしまったことに悲嘆し、うつむいてしまう。


「僕たち……勝てなかったんだね。ボルジェイに」


「済まない、キルト。我の力不足だ。我にもっと力があれば、こんなことにはならなかったものを」


「そんなことないよ。ダメなのは僕の方だったんだ。僕のせいで……」


『違う。君たちはまだ死んではいない』


『今は気を失っているだけ。でも、このまま何もしなければ本当に死んでしまうわ』


 二人して嘆き悲しんでいると、声が聞こえてくる。これまでずっと苦しめられてきた、キルトの両親の声が。


「!? こ、この声……また、聞こえて……」


「おのれ、ここに来て追い打ちをかけにきたか!」


『そうじゃない。俺たちは、君の仲間たちのおかげでようやく……悪しき力から解放された。もう、誰にも縛られない。本当の想いを伝えられる』


「なに? そうか、エヴァたちがやってくれたのか」


「お姉ちゃん、どういうこと?」


「ああ、実はな……」


 ルビィは手短に、キルトが眠っている間に起きた出来事を伝える。両親の霊を操っていた魔魂香炉を破壊するため、エヴァたちが出向いたことを。


『彼女たちは、本当にギリギリのタイミングでやり遂げてくれました。おかげで、やっと……あなたと、私たちの息子と触れ合える』


 優しげな女性の声が響いた後、キルトたちの目の前に白い光が溢れる。光は人の形を取り、二人の男女が現れた。


 どちらもキルトによく似た柔らかな目付きをしており、微笑みを浮かべながら我が子を見つめていた。


『俺はジェイク。キルト、お前の本当の父親だ』


『私はアメリア。あなたのお母さんよ、キルト。……本当に、大きくなったわね。ずっと、あなたに会いたかった』


「……本当? もう、僕を罵らないの?」


『するものか! あんなおぞましい言葉、無理矢理言わされていたに過ぎない。俺たちはずっと……ボルジェイたちに殺された日から。鎮魂の園でお前を見守っていたよ』


『あなたの側にいてあげられないことを、どれだけ悔やんだか……ずっと、後悔していたわ。あの時、あなたを闇の眷属に渡さずにおくべきだったと』


 キルトの言葉を、ジェイクが否定する。彼らはずっと、悔やみ続けていた。キルトを魔導学園に行かせなければ。


 自分たちが殺されることはなく、キルトと一緒に暮らせただろうと。だが、その一方で……逆境に屈せず、生き抜いていく息子を誇りにも思っていた。


 アメリアはそう語りながら、手を伸ばしキルトの頬を撫でようとする。だが、手と頬は触れ合うことなくすり抜けてしまう。


『あなたはどんなに苦しくても、逃げずに立ち向かっていった。いつしかそんなあなたの周りには、たくさんの仲間が出来ていたわね』


「……うん。最初はエヴァちゃん先輩。それからルビィお姉ちゃんに、今の家族……それから、フィリールさんやアスカちゃん。大切な人、たくさん出来たよ」


『キルト、俺たちは死してなおずっと……お前を愛してきた。それだけは、どうにか伝えたかった。あんなまやかしの言葉を浴びせて……ごめんな』


「お、とうさん……」


『ルビィさん、あなたにもお礼を言わないといけないわね。不甲斐ない私たちに代わって、キルトを支えてくれてありがとう』


「ご母堂殿……」


 ジェイクとアメリアは、ずっと伝えたかったありのままの想いを口にする。死後の世界で、ずっと愛する息子を見守っていたと。


 幼い頃に生き別れ、顔も名前も覚えていなかった両親に……ずっと愛されていた。そのことを知り、キルトの頬を涙が伝う。


 側にいたルビィも、感謝の言葉を述べられ目頭が熱くなるのを感じていた。キルトは涙を拭い、両親に伝える。自分の想いを。


「……ありがとう。お父さん、お母さん。ずっと僕を見守ってくれていて。こんなことを言っても、虫のいい話だって思うかもしれない。でも……僕も、二人のことが大好きだよ」


『いいんだ、そう言ってくれるだけで……俺たちは救われる。そうだろう、アメリア』


『ええ、もちろん。キルト……忘れないで。例え姿が見えなくても、声が聞こえなくても。温もりを感じられなくても……私たちは、ずっとあなたを見守っているから』


「うん!」


 ジェイクたちも目に涙を浮かべ、改めてキルトに伝える。これからも、愛する息子を見守っていくと。


 その時……両親から愛されていたことを知ったキルトの中で、新たな可能性が目覚めた。苦難を乗り越え、少年の魂の成長が……形となって現れる。


「! な、なにこれ!? なんでいきなり、サモンカードが……?」


『それは、俺たちからの最初で最後の贈り物。お前の中に眠っていた力を……目覚めさせたんだ』


「なんと、そんなことが……いや、出来るだろう。誰かを想う愛の力は、何よりも強く尊いのだから」


 キルトの目の前に、青い輝きを放つ一枚のサモンカードが現れる。描かれているのは、白い渦の中に浮かぶ青色の指輪。


 カードの上部には、『REGENERATE(リジェネレイト)─相愛』の文字が刻まれている。キルトは右手を伸ばし、カードを手に取った。


「……感じる。お父さんたちの温もりを。愛の強さを」


『私たちは、再び眠りに着くことになるわ。でも……約束するわ。これからも、あなたを愛し……命尽きるその日まで、見守り続けると』


「ありがとう、お父さん、お母さん。僕、もう忘れないよ。二人の顔を、声を、想いを」


「ああ、我もだ。二人には、どれだけ感謝してもし足りない。キルトをこの世に産んでくれて……本当に、ありがとう」


『ああ、そう言ってもらえて……俺たちは嬉しいよ。さあ、そろそろ目覚めの時だ。キルト、お前にはまだやらねばならないことがある。そうだろう?』


「うん! 今度は負けない。新しい力で、必ずボルジェイを……理術研究院を潰す!」


『負けないで。私たちの……愛しい、坊や……』


 ジェイクとアメリアの身体から、眩い光が溢れてくる。暖かな光はキルトとルビィを包み込み、目覚めを促す。



◇─────────────────────◇



「さて、いい頃合いだ。そろそろトドメを刺してやろう。あばよ、キルト。地獄に落ちな!」


 その頃、現実の世界ではボルジェイがキルトにトドメを刺そうとしていた。ドラグネイルソードを振り下ろし、首を両断せんとする。


「!? なにっ!? 貴様、どこにこんな力が!?」


「おはよう、ボルジェイ。お前が調子に乗っていられるのも、ここまでだよ。ここから先は、僕と」


『我の』


「大逆転劇の始まりだ!」


「う、ぐはっ!」


 直後、目を覚ましたキルト。糸を引きちぎって拘束から脱しつつ、左手で剣を掴んで攻撃を防いだ。両親の力で、胸に負った傷は癒えた。


 驚くボルジェイのみぞおちに拳を叩き込み、遠くへと吹き飛ばす。ゆっくりと数歩前に進み、キルトは己の内に宿るルビィに語りかける。


「お姉ちゃん、感じる? 今、僕たちの中に流れてる力を」


『ああ、もちろんだ。キルトのご両親からの、大切な贈り物だ。ありがたく使わせてもらおうではないか』


「うん、そうだね。……始めよう、ここからが本当の戦いだよ。お父さんとお母さんの……魂の安らぎのため。そして……」


 そう口にしながら、キルトは義手から『REGENERATE(リジェネレイト)─相愛』のカードを取り出す。すると、少年の周りを青色の冷気が漂いはじめる。


 よろめきながら立ち上がったボルジェイは、その光景を呆気に取られながら見ていた。これから、奇跡か起きるとも知らず。


「──僕の過去に決着をつけるために! 新たなるサモンカードよ、力を与えたまえ!」


REGENERATE(リジェネレイト)


 キルトが左腕を構えると、スロットがある側に変化が起きる。金色に輝く、雪の結晶のマークが描かれた青色のカイトシールドが現れたのだ。


 結晶の中央に移動したスロットに、カードを挿入する。すると、これまでとは違うエコーがかかった音声が鳴り響き……キルトの姿が変化していく。


「ぐうっ、なんだ……なんなんだこれは!? 貴様、一体……何をしたぁぁぁぁぁ!!!」


「……目覚めたんだよ、ボルジェイ。愛を知って、新たな可能性にね。さあ……始めよう」


【Re:NIFLHEIMR(ニヴルヘイム) MODEL(モデル)


「生まれ変わった僕たちの戦いをね」


 鎧の色は鮮やかな青と金に、背中の翼はオーロラのように輝くマントに。装いを新たに、少年は笑みを浮かべる。


 新たな力を得たサモンマスタードラクルの逆襲が、始まる。

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― 新着の感想 ―
[一言] やはりこういう形になったか(ʘᗩʘ’) 嘗てアンネの両親が亡くなれた後、魂になっても会いに来てくれた事があったが(٥↼_↼) キルトにも同じ事が起こっても不思議ではない、これは必然だ(⇀‸…
[一言] ボルジェイ、お前はここで滅びるんだ!! 両親がくれた!! 新たな力になああああああああッ!!!
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