107話─サモンマスターイリーガル
「我はずっと願っていた。キルトに貴様の所業を聞いたその日から。この手で貴様を八つ裂きにしてやりたいと。その願い、ようやく成就する時が来た!」
「フン、エルダードラゴン風情がたわけたことを。俺には勝てん。絶望をたっぷり味わいながら死んでいけ!」
『イリーガル・エンゲージ』
ルビィの飛びかかり攻撃を避けたボルジェイは、砕けた南京錠とそれを掴む手が描かれたカードを取り出しスロットインする。
すると、濃い闇の瘴気が全身を包み込む。少しして瘴気が消えると、ボルジェイの姿が変わっていた。竜の鱗や獣の皮、金属のプレートに貝殻の破片。
キルトたちサモンマスターが本契約しているモンスターたちの素材を乱雑に混ぜ合わせたような、奇怪な鎧を身に着けた姿になっている。
「ふざけた姿になったものだ。貴様……モンスターと本契約していないのか?」
「誰がするか、そんなリスクしかないことを。俺にはこのイリーガルギアがある。こいつの能力は、他のサモンギアへの不正アクセス。要するに、こういうことが出来るんだよ!」
『イリーガル・ソードコマンド』
ボルジェイがそう叫ぶと、サモンカードを装填していないのにサモンギアが起動する。直後、彼の元にドラグネイルソードが現れた。
キルトの武器を操る姿に驚き、ルビィは僅かに反応が遅れる。が、すぐに我に返り紙一重で斬撃をかわしてみせた。
「くっ……。貴様、何ということを」
「驚いたか? だがキルトの持つカードだけじゃない。今活動しているサモンマスター全員のカードを! 俺は使えるんだよ!」
「そうか、なら……そんな小細工をしても無意味だということを教えてやる! エルダードラゴンの力、とくと見よ! そして死ぬがいい!」
違法の名の通り、サモンマスターのルールを無視した戦法を用いるボルジェイ。そんな相手に遠慮は無用と、ルビィは竜の姿に変身する。
「選べ。我が火炎のブレスで焼け死ぬか、この爪と牙で引き裂かれて死ぬかをな!」
「おっと、元の姿に戻ったか。こいつは流石に、真正面から戦っても勝ち目はないな」
「そうか、なら潔く死ね! バーニングブレス!」
「ムダだ。そんなブレスなど」
『イリーガル・ロストコマンド』
あらゆるサモンカードを用いるボルジェイでも、真正面から正攻法でルビィに挑んでは勝ち目はゼロ。だが、彼が正々堂々戦うわけもなく。
ルビィの放った灼熱のブレスを、ネヴァルの所有するロストコマンドのカードで消滅させてしまう。そして、さらなる反撃に出る。
「一つ教えてやろう。この大地には、まだ貴様らが存在を把握していないサモンマスターが『六人』存在している。つまり……分かるな?」
『イリーガル・コンファインコマンド』
「なにを……ぐっ!?」
未知のサモンカードの効果により、ルビィの変身が強制的に解除されてしまう。人の姿に戻されたルビィ目掛けて、ボルジェイが突進する。
「さあ、次は俺の番だ! 貴様の相棒が持つ剣で、全身を切り刻んでくれる!」
「卑怯者め! だが、我を容易く倒せると思うな!」
両手に生えた爪を用い、ボルジェイを迎撃するルビィ。刃と爪がぶつかり合い、火花が散る。真正面の戦いなら、ルビィが圧倒的かと思いきや……。
「貴様、なかなかどうして強いではないか。これだけ我と打ち合えるのに、何故これまで戦わなかった?」
「決まっているだろう? 俺は自分の手を汚したくないんだ。くだらん仕事は他人に任せ、美味しいところだけいただく。それが俺の流儀なんだよ!」
「なるほど、エヴァやコーネリアスが貴様を嫌悪する理由……よく分かった。貴様は人の上に立っていい器ではない! ドラゴンテイル!」
『イリーガル・シールドコマンド』
「黙れ! たかがモンスターが俺に説教するな! 身の程を知れ! イリーガルスラッシャー!」
ルビィの放った尻尾による打撃を、新たに呼び出した盾で防ぐボルジェイ。返しの斬撃を放ち、ルビィの胴を切り裂く。
「ぐうっ……!」
「ハハハハ! 所詮今のお前は一介のドラゴン! 俺を倒すことなど」
「ボルジェイ、そこまでだ! それ以上お姉ちゃんに手出しはさせないぞ!」
「キルト!? 目を覚ましたのか、運が良いのか悪いのか……」
よろめきながら後退るルビィ。ボルジェイがさらなる攻撃を行おうとした、その時。キルトが到着し、声を荒げる。
宿敵の登場に、ボルジェイはニヤリと笑う。魔魂香炉が破壊されていることなど知らない彼は、絶好のチャンスが来たと考えたのだ。
「来たか、キルト。あれだけ親に罵倒されたのに、まだのうのうと生きてるとは図太い奴だな、お前も」
「……ボルジェイ。今の僕に何を言ってもムダだよ。僕は怒ってるんだ、お前の所業に。ここで殺してやる。もう二度と悪事を働けないように!」
『サモン・エンゲージ』
「フン、愚か者め。お前は俺に勝てない。サモンマスターイリーガルの力にひれ伏せ! そして無様に骸を晒せ!」
『イリーガル・ブレスコマンド』
ルビィと融合し、サモンマスタードラクルに変身するキルト。そんな彼を嘲笑いながら、ボルジェイは己を強化する。
「!? あいつ、僕のカードを……」
『気を付けろ、キルト。奴は不正アクセスによって全てのサモンカードを使えるらしい。我々の知らない、この大地に潜む未知のサモンマスターのカードも対象とのことだ』
「なるほど、それは手強いね。でも、だからって臆していられない!」
『ソードコマンド』
『ブレスコマンド』
キルトも剣を呼び出し、竜の炎で強化する。そのまま斬りかかるが……。卑劣、残忍、狡猾を地で行くボルジェイがまともに斬り結ぶわけもなく。
「バカが、迂闊にカードを使うとは!」
『イリーガル・ロストコマンド』
「! ドラグネイルソードが!」
「これでお前は丸腰! 死ね、キル……べふっ!?」
「なら、ステゴロで戦うだけだ! 丸腰じゃ何も出来ないと思うな、ボルジェイ!」
不正取得したロストコマンドを使い、ドラグネイルソードを消滅させたボルジェイ。無防備なキルトを斬り殺さんと、剣を振るう。
が、あっさりとかわされた上にカウンターのパンチを剥き出しの顔面に叩き込まれる。例え丸腰でも、キルトは弱くない。
これまでに蓄積してきた、戦いの『経験値』があるのだ。ボルジェイには決して持ち得ないソレを武器にして、反撃に出る。
「ぐ、あ、ああ……!」
『フン、キルトを甘く見るからそうなるのだ。今のうちにトドメを!』
「うん! これ以上好き勝手にはやらせない!」
『アルティメットコマンド』
「ぐ……ふざけやがって! お前は俺に勝てねえんだよボケが! まだ理解してねえのかこのド低脳が!」
『イリーガル・コンファインコマンド』
「食らえ! バーニング……!? うわぁっ!」
アルティメットコマンドを用い、奥義を放たんとルビィに抱かれ空高く舞い上がったキルト。だが、ボルジェイはまたも妨害に走る。
再度使用されたコマンドによって、奥義すらも不発にされてしまう。奥義の強制消失により、キルトたちは地面に落下し叩き付けられる。
「う、いたた……」
『キルト、大丈夫か!?』
「うん、なんとか。でも、まずいよ……これじゃもう、打つ手が……」
「サポートカードしかない、ってか? バカが、使わせるかよ。もう何も出来ないようにしてやるよ、キルト!」
『イリーガル・シールコマンド』
「何を……あれ!? サポートカードを読み込めない!?」
「残念だったな。シールコマンドは指定された種類のカードの使用を『封印』する。お前はもう、サポートカードを使うことは出来ないんだよ」
『おのれ……どこまでも卑劣な! そこまでしてキルトと戦いたくないのか! この臆病者めが!』
「黙れ! 戦わずして勝つ、これが最上の兵法なんだよ。ってわけで、だ。そろそろお別れだ、キルト」
『イリーガル・トラップコマンド』
一縷の望みを賭けて、サポートカードを使おうとするキルト。だが、念には念を入れるボルジェイの妨害によりついに望みは絶たれた。
アスカのカードを使い、クモ糸でキルトを拘束するボルジェイ。剣を構え、抜け出そうともがくキルトの胸を貫く。
「う、あ……」
『キルト、キルト!』
「あえて心臓は外してやった。長い時間をかけて、苦しみながら死ね。ククク、ハハハハハハハ!!」
「僕、は……ま、だ……」
「気を失ったか。まあいい、このままくたばるのを見届けてやろう。死んだら遺体をバラしてやる。実に楽しみだ」
悔しさを抱きながら、キルトの意識は闇の中へと落ちていく。その寸前、少年の耳に声が届く。この十日近く、ずっと聞いてきた声が。
『……ト。キルト。まだだ、お前はここで死ぬ運命じゃない』
『ええ、そうよ。あなたにはまだ、やらなくちゃいけないことがある。だから……私たちが、力を』
魔魂香炉の呪縛から解き放たれた、キルトの両親の霊。彼らとの邂逅が、呼び覚ます。彼の中に眠っていた、別の可能性を。




