105話─遊園地の戦い
突き逃げ戦法を確立したフィリールにとって、その後の戦いは全て楽なものだった。最後に残ったカートを破壊し終え、安堵の息をつく。
「よし、これで片付いた。後は……」
『ひえっ! さ、さよなら~!』
「逃がすか、こいつを食らえ! グロリアスホーンシュート!」
『うひぇああああー!!』
頼みの綱の爆弾カートを失い、どうにも出来なくなった疾走ちゃんは逃げ出そうとする。が、フィリールが逃走を許すはずもなく。
カートを走らせつつ、槍をブン投げて疾走ちゃんを撃破した。忌々しい追いかけっこにようやく終止符を打ったフィリールは、そのまま外に向かう。
「せっかくだ、これは戦利品として貰っていこう。後でエヴァたちも乗せてやるとするか!」
なんだかんだでカートの乗り心地が気に入ったようで、アトラクションの入り口を無理矢理突破して走り去っていった。
カートに乗っていた方が、効率良くエヴァたちを探せるという打算もあったが。その頃、エヴァが何をしているかというと……。
「うらめし……ごぱっ!」
「しゃらくさいわね、そんなチマチマ来ないで一斉にかかってきなさいよ! このチキンゴーストども!」
「こいつ強い……恨み晴らせねっぶぇ!」
強制転移させられたお化け屋敷の中で、本物のお化けたち相手に無双していた。ミノスの大戦斧をブン回し、所狭しと暴れ回っている。
案内役の腹話術人形、恨めしちゃんはとっくのとうに撃滅され、残るお化けたちも斧の錆となり成仏(物理)させられていた。
「ふう、ざっとこんなもんかしらね。ったく、歯応えがなさ過ぎて全然楽しくないわねー」
「うお、おおお……」
「あぐ、うぇ……」
終わってみれば、エヴァの圧勝だった。カードの補充をするため、一旦変身を解いてから再変身した後出口へ歩いていく。
「にしても、遊園地ねぇ……。懐かしいわね、キルトの誕生日のお祝いによく連れて行ってあげたっけ。やること全部終わったら、また行きたいわ」
「おやおや、これはおかしなことをおっしゃられる。すでに夢と不思議のワンダーランドにいるというのにねぇ」
「あっ、あんたは! よくもまあいけしゃあしゃあとそんなこと抜かせるわね、さっさとアタシたちをここから出しなさいよ!」
無人となったお化け屋敷を脱出し、一息つくエヴァの元にクラウンズワールドの支配人たる実験体8837号ことサモンマスタートリックが現れる。
自分たちを元の場所に戻せと抗議するエヴァだが、道化師はせせら笑いながら首を横に振る。自分から引きずり込んだだけあって、タダで返すつもりはないようだ。
「お帰りになられたいのであれば、我を倒してからにしていただきたいですね。もっとも、そう簡単に倒されるつもりはありませんが」
『ジャグリングコマンド』
「ふぅん、戦る気満々ってわけ? いいわ、だったら返り討ちにしてやるわ!」
『アックスコマンド』
実験体8837号は、口から七つのボールが描かれたカードを吐き出し左手のスロットに挿入する。エヴァもサモンカードを使い、迎え撃つ準備を固めた。
「それではとくとご覧いただきましょう、トリック・ザ・クラウンの華麗なるショーを!」
「フン、何をするつもりか知らないけど。並大抵の曲芸なんかじゃ、アタシを驚かせることなんて出来ないわよ」
「なるほど、では最初から全力で行かせていただきましょう! せいっせいっせいやー!」
赤、青、黄、緑、紫、水色、黄緑色……カラフルな七つのボールを出現させ、高速でジャグリングする実験体8837号。
単に円を描くだけでなく、様々な軌道を描きながらボールを投げる。その卓越した手腕に、思わず魅入ってしまうエヴァ。
「へぇ、言うだけあるじゃない。おひねりあげたいとこだけど、今お金無いから……代わりに斧の一撃をくれてやるわ! ミノスクラッシュ!」
「ふむ、なれば……ジャグリングシャワー!」
「ちょ、なんなのよこのボール!? どんだけ分裂するのよ、うざったいわね!」
意外と上手い芸を見て、攻撃という名のおひねりをあげることにしたエヴァ。斧を振りかぶりつつ突進するも、相手は素早く後ろに下がる。
そして、それまでジャグリングしていたカラフルなボールを全て前方に投げた。すると、ボールが分裂し元の数十倍の数になる。
ボールの波に押し流され、後退させられるエヴァ。前に進もうにも、ボールに足を取られ転んでしまう。
「ったぁ! もう、尻もち着いちゃったじゃないの!」
「おやおや、それはかわいそうに。では、次なる芸で大笑いし、痛みを忘れてもらいましょう!」
『マリオネットコマンド』
文句を言うエヴァに、そう答えつつ実験体8837号は第三のサモンカードを取り出す。糸で吊り下げられたデッサン人形が描かれたカードを、手のひらのスロットに入れる。
すると、エヴァの真上にマリオネットを繰るための板付きの糸が現れた。糸が降り、エヴァの手足や身体にくっつく。
「ちょ、何すんのよ!」
「次の演目は、お客様自身に演じていただこうと思いましてね。では始めましょう、それっ!」
「ちょ、あらららら!?」
実験体8837号の動きと連動し、エヴァに取り付けられた糸も動く。結果、珍妙な踊りを踊らされることに。
屈辱的なポーズを取らされたり、人体構造の限界を攻めるような動きをさせられたり……と、見た目のマヌケさとは裏腹に何気にヤバい攻撃だった。
「こんのー、よくもやってくれるわね! こんな糸なんてひきちぎっぺ!」
「おっと、つい手が滑ってしまいました。お客様、お怪我はございませんか~?」
「……あんた、ホントいい性格してるわね。もうあったまきた、ぶっ殺してやるわ!」
『アドベント・キルモートブル』
「ブルちゃん、あの糸を吊ってる板をぶっ壊して!」
「ぶもお!」
糸をちぎろうとするも、実験体8837号が自分の顔を殴ったのに連動し、エヴァも自分の顔面にパンチしてしまう。
けらけら笑っている実験体8837号を見て、完全にブチ切れた。相手が次の動きに入るより早く、スロットから半分契約のカードを排出して再装填する。
そうして相棒を呼び出し、自身を操っている糸繰り板を破壊させるエヴァ。キルモートブルは大ジャンプし、頭突きを放ち期待に応えた。
「!? な、なんだそれは。我のデータにそんなサモンカードの使い方は記録されていないぞ!」
「あら、やっと素に戻ったようね。生憎、教えてなんかあげないわ。キルトお手製の切り札だもの」
「くっ、なれば! 早急にトドメを刺してくれる!」
『アルティメットコマンド』
召喚を目の当たりにした実験体8837号は、狼狽し元の喋り方に戻る。想定の範囲外である、本契約モンスターの顕現に驚愕しているようだ。
連携攻撃をされる前にエヴァを倒さんと、口から最後のカードを吐き出す。笑みを浮かべる巨大なピエロの顔が描かれたカードが、スロットインされる。
「食らえっ! クラウン・ザ・ハンドシェイク!」
「フン、そんな技食らってやるつもりはないわ。ブルちゃん、こっちも奥義いくわよ!」
「ぶもう!」
『アルティメットコマンド』
顔と手だけしかないピエロが上空に現れ、エヴァを見下ろす。どうやら、このピエロが実験体8837号が本契約しているモンスターらしい。
両手による挟み込み攻撃が行われるなか、エヴァも切り札を使う。キルモートブルに飛び乗り、全力疾走して相手の攻撃をかわした。
「なっ……」
「これで終わりよ! カモン、エクスキューションロード! 食らいなさい、ファラリススクラッチ!」
「がっ……ぐああああ!!」
実験体8837号に体当たりをブチかまし、上空へはね上げる。すかさず手を伸ばし、相手の頭を鷲掴みにするエヴァ。
そして、遙か前方まで伸びる処刑用プレートに相手の頭を押し付けながら全速前進する。悲鳴がこだまするなか、エヴァは残虐な笑みを浮かべた。
「くぅ~、これよこれ! 前にオカマ鳥に使った時は相殺されちゃったから、久々に成功させられたわね。テンション上がるわぁ~! てやっ!」
「う、ぐっ……」
「じゃあね、道化師野郎。あんたの演目、まあまあ面白かったわ。とりゃっ!」
「がはあっ!」
ある程度進んだところで、エヴァは相手を真上に放り投げる。ブン投げた実験体8837号を追って自分も跳躍し、相手を追い越した瞬間かかと落としを炸裂させた。
力尽き落下していった実験体8837号は、真下で待機していたキルモートブルの角に貫かれ断末魔の声をあげる。
「こん、なことが……。ネガ様に、ほう、こく……がふっ」
呟きを漏らし、実験体8837号は息絶えた。同時に、幻想の遊園地がの崩壊が始まり景色が歪んでいく。元いた廊下に、エヴァたちが帰還しようとしていた。
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