104話─死のアトラクションを攻略せよ!
「うわっ! っとにもう、こんなにカップがあったらマトモに歩けんやんけ!」
『さあさあお嬢さん、ここまでおいで。ま、来られるわけがないけどね!』
コーヒーカップのアトラクションに参加させられたアスカは、どうにか硫酸満タンのカップを避けつつ移動していた。
だが、足場そのものが回転しているのに加えてカップが不規則に近寄ったり離れたり……その上、フチから飛んでくる硫酸が道を阻んでいる。
『ほらほら、早くしないとおかわりが来るよ? もう一つカップを追加だ』
「はあ!? 冗談やないわ、んなことさせっかい!」
『トラップコマンド』
ジェントルくんが手に持っていた杖型のマイクをくるりと回すと、台の空いているスペースにもう一つティーカップが現れた。
再びティーポットが揺れ始め、硫酸を新しいカップに注ごうとする。そんなことをされてはたまらないので、アスカは妨害に動く。
デッキホルダーからサモンカードを取り出し、レイピアの柄に取り付けられたスロットに挿入する。そして、レイピアの切っ先をティーポットの注ぎ口に向けた。
「いっけー! 糸玉発射やー!」
『うわっ! こら、なんてことするんだ! これじゃあ紅茶を注げないじゃないか!』
放たれたクモ糸の塊が、見事ティーポットの注ぎ口にヒットする。ネバネバする塊がべちゃりと張り付いて、中身をせき止めた。
大慌てするジェントルくんを余所に、アスカはやり返せたことに満足する。が、そうしてばかりもいられない。
新しいカップに硫酸紅茶を注がれるのは阻止出来たが、元からあるモノに関しては何の変化もないのだ。下手すれば、硫酸を被って死んでしまう。
『もう怒った! ソーサー回転、スピードアップ! 全身に紅茶を浴びて死んじゃえ!』
「フン、そうはいかへんで。ウチにはまだ、トラップコマンドのカードが二枚残っとるんや。それをぜーんぶ使わせてもらうで!」
『トラップコマンド』
「せいっ! ていやー!」
してやられたジェントルくんは、ティーカップやアスカが乗っている台の回転速度を上げて一気にケリをつけようとする。
ただでさえギリギリで回避が出来ている状況だというのに、これ以上速度が上昇したらもう避けることは不可能になってしまう。
だが、アスカにはまだ対処するすべがある。残り二枚のトラップコマンドを一気に使い、今度はソーサーの回転を止めにかかる。
「止まれ、止まれ! 止まらへんかったらウチが死ぬ! 頑張るんやミステリアグルの糸!」
『ふふん、ムダだよ。こんな糸の塊、二つあったところで……!?』
地面と台の僅かな隙間に糸の塊を発射し、ネバネバを広げて動きを止めようとするアスカ。そんなことは無意味だと、ジェントルくんは鼻で笑う。
最初こそ動きに変化がなかったが、やがて動きが鈍りはじめる。ちぎれた糸の破片が広がり、接地面に広がることで回転スピードが落ちたのだ。
『な、な、な……こ、こんなことが』
「っしゃ、今や! 覚悟しいやこのドグサレ人形ぉぉぉぉぉ!!!」
『ひ、ひぃぃぃ!!』
『ミラージュコマンド』
「覚悟しいや! カレイドスコープストラッシュ!」
『ひぎゃああああああ!!!』
糸の効果が切れる前に、敵を仕留める。アスカはミラージュコマンドを使い、五人の分身を作り出す。合計六人のアスカによる、怒濤のラッシュ。
特段戦闘能力を持たないジェントルくんに抗うことなど出来るわけもなく、ズタズタに切り裂かれたぼろ布に変わり消滅した。
「はっ、ざまあみさらせ! ……なんて言うとる場合やない、さっさとここを出んとな!」
見事ジェントルくんを仕留め、溜飲を下げることが出来たアスカ。が、うかうかしてはいられない。糸の効果はいずれ切れる。
そうなる前に、大急ぎで逃げなければならない。幸い、アトラクションの外に出られるゲートは開いた。全力疾走で飛び出し、アスカは解放された。
「はー、あっぶなかったわぁ。フン、二度と乗らへんわこんなアトラクション!」
外に飛び出してから数分後、魔力の補給がされなかったためトラップコマンドの効果が消える。それまで押し留められていた分の加速が加わり、えげつない速度で回りはじめた。
万一に備えて、遠くに退避していたアスカは大量の硫酸が飛び散るのを見ながら悪態をつく。何はともあれ、無事勝利を収められたことに安堵するのだった。
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一方、爆弾満載のカートに追い回されているフィリールはというと……。
「さあ捕まえたぞ! こんな危険なものはこうだ!」
『おーっと、これはなんということだ! 爆弾を放り投げて四号カートをクラッシュしてしまったー!』
いい加減追いかけ回されるのに嫌気が差したようで反撃に出ていた。近寄ってきたカートに無理矢理飛び込み、運転席に載せられている爆弾を固定しているフックから外し放り投げた。
爆弾は別のカートに直撃し、衝撃で載せられていた爆弾を誘爆させつつ派手に爆発した。疾走ちゃんが嘆くなか、フィリールはハンドルを握る。
「えーと、このペダルを踏めばいいのか? ふむ、まあなんとかなるだろう」
『このーっ、よくもやったわね! あたしの大切なカートを壊してくれちゃって、ちゃんと弁償してもらうんだから!』
「ふん、生憎弁償などしてやるつもりはない。残りのカートも全部破壊させてもらう!」
『ランスコマンド』
片手でハンドルを操作しつつ、フィリールはデッキホルダーからサモンカードを引き抜く。コースを走り回りながら、黄金の馬上槍を召喚する。
右手で大槍を持ち、小脇に抱え込む。ランスの本来の使い方に限りなく近く、決定的に何か間違っている姿になった。
「カートはあと七台……。すれ違いざまに槍で爆弾を小突いて起爆させつつ逃げれば無事に勝てるか……?」
いくらドMのフィリールでも、不死身ではない。大抵の痛みは快楽に変換出来るが、流石に致死ダメージを食らったら死ぬ。
そこで、彼女はひき逃げならぬ突き逃げ作戦を敢行することに。大槍の射程ギリギリまでカートに接近して、爆弾を突いた瞬間全速力で逃げる。
幸いにも、先ほど起きた爆発の規模はかなり小さく、全力でカートを走らせれば爆風から逃げ切れる可能性はあった。
『何をするつもりでしょうか、まあやらせはしないんですがね! 行きなさい、カートたち! あの生意気な女を爆殺しちゃいなさーい!』
「来る……! さあ、ここからが正念場だぞ。全部破壊してやろう。いざ参る!」
疾走ちゃんの叫びに合わせ、七台のカートがフィリール目掛けて突っ込む。根気強く突進をかわし、フィリールは待つ。
カートの動きにズレが生まれ、各個撃破が可能となるタイミングが訪れるのを。追いかけっこが十分近く続くなか、その時が来た。
(! あの二号と書いてあるカート、スリップでもしたのかフラフラしてるな。よし、まずはアレから破壊する!)
七台のカートのうち、一台が自動で行われるハンドル操作を誤り集団から逸れた。それを見逃さず、フィリールが仕掛ける。
真正面から近付き、ギリギリの距離を目測しつつ大槍を突き出す。シートの上に固定されている爆弾に切っ先が刺さり、衝撃で起爆した。
「うおおおおおお!? 背中が……アッツ❤ だが、ギリギリでやり遂げたぞ!」
『う、うっそ~!? そんなデタラメな作戦アリなの~!?』
右足でアクセルペダルを全力で踏み込み、急加速して離脱するフィリール。背中に爆風の熱を感じつつ、辛うじて無傷で離脱した。
疾走ちゃんが唖然としているなか、フィリールは同じ要領で二台目のカートの破壊を行う。今度は手慣れたもので、爆風がカスりもしていない。
「よし、コツを掴んできたぞ。覚悟していろ、人形。カートの次はお前を破壊してやる!」
死の遊園地に囚われたサモンマスターたちの、反撃が始まった。




