100話─雷の剣作戦
「随分とまあ、物々しい作戦名じゃないの。で、具体的に何をやるわけ?」
「そこに関しては、余から説明する。すでに理術研究院に、闇寧神ムーテューラ様がスパイを潜り込ませているのはリリンから聞いただろう?」
「ああ、聞いたよ。その者からの報告を元に、作戦を練るという話だった」
「報告の結果、魔魂香炉は東部理術研究院の第二牢棟なる場所の地下に安置されていることが分かった。そこで、迅速に敵地に潜り込み、目標の破壊を行う作戦を立てたのだ」
「稲妻の如く攻め入り、目的を達して帰還する。とにかく速度が求められる作戦なので、サンダーソードと名付けたのです」
アーシアやアゼルの説明が始まり、エヴァたちは作戦概要を聞かされる。第一目標、理術研究院第二牢棟への潜入。
第二目標、魔魂香炉を守る番人及びセキュリティの迅速な無力化。そして最終目的、地下深くで守られている装置の破壊だ。
「なるほど、そりゃ確かにスピード命な作戦ね」
「すでに、スパイがセキュリティを無力化するための工作を行ってくれている。余たちの方で、出来る限り終戦後のあれこれを決める講和会談を長引かせる。その間に、リリンと共に作戦を行ってもらいたい」
「えっ、全員で行くんとちゃうんか?」
「それは無理ですわね、大人数でゾロゾロ行ったら雑魚研究員にも気付かれますわ。最大でも四人が、隠密行動可能な上限ですの」
アスカが問うと、アンジェリカが答えを返す。ボルジェイやタナトスら幹部勢は、アゼルとの終戦協定のため理研を離れる。
その間、選抜された四人のメンバーによってオペレーション・サンダーソードを実行。それが、アゼルの筋書きだ。
「ま、別に人数なんてどうでもいいわ。アタシも一時期理研に潜り込んでたから、ある程度内部構造は把握しているわ」
「そうか、なら話が早い。すぐ出発しよう、道中で地図を渡す。エヴァンジェリン以外の二人は、全部頭に叩き込め。迷子イコール死と思っておけよ」
「ああ、分かった。……敵に捕まって尋問されるシチュエーションも悪くないな」
「こんな時にドMっとる場合かドアホ!」
「おっふ❤」
話が纏まり、いざ出発……という段階になっても、いつも通りなやり取りを始めるフィリールとアスカ。だが、リリンとは違いアゼルたちは平然としていた。
「あら、驚いたりドン引きしないのね」
「ああ、まあな。こっちはアンジェリカが似たようなことやってるし」
「ちょっとシャスティ先輩、聞き捨てならないことをおっしゃらないでくださいまし! いつわたくしがあんな下品な方のようなことをしたと言いますの!?」
「……お前、だいぶブーメラン投げるの上手くなったよな。もちろん悪い意味で」
「はいはい、おふざけはおしまいですよ。時間がありません、すぐここを発ちます。リリンお姉ちゃん、サモンマスターの皆さん……ご武運を」
アンジェリカという奇行の達人がいるアゼルたちにとっては、フィリールの被虐癖程度はさほど驚くことではないようだ。
もっとも、リリンだけは違ったようだが。そんなこんなでおふざけは終わり、いよいよオペレーション・サンダーソードが始まる。
「まずはポータルを使って暗域に行く。幹部勢が留守だからこそ、警備も厳重になっているだろう。慎重に行動しろ、いいな?」
「分かってるっての。というか、アタシにそれ言う? 暗域なんて庭みたいなもんなのに」
「……そこまで言うなら、これ以上は言わん。行くぞ」
リリンが作り出したポータルに入り、暗域へと移動する実行部隊四人。一方、当の理術研究院では……。
「では、これより講和会談に向かう。お前たち、俺やタナトスが戻るまで守りを固めておけ。いいな?」
「ハッ、お任せを! ところで、ティバたちはどこに……?」
「奴らは戦場で遺体回収の作業をしている。先日召喚した亮一は、第一牢棟に入れておけ。あの小娘のような事態にならぬよう、見張りを付けろ」
「かしこまりました! いってらっしゃいませ!」
こちらもこちらで、ボルジェイが会談のため出立するところだった。アゼルに指定された会堂のある街に向かい、先に行っているタナトスと合流するのだ。
なお、ティバとネヴァルは戦争で死んだ者たちの遺体回収、亮一はアスカのように離反されるのを防ぐため第一牢棟に収容されている。
その結果、理術研究院の人的セキュリティレベルはかなり低下していた。もっとも、普通であれば警戒することは何もない。
「さて、ボルジェイ様も行ったことだし。鬼の居ぬ間に洗濯ってな、のんびりしようぜ!」
「さーんせーい! セキュリティシステムだけ稼働させときゃいいだろ。不可侵条約あるから、同族が攻めてくることないしな」
「久しぶりに遊ぶかー。ボルジェイ様が始めた戦争のせいで、最近ろくすっぽ休みがなかったからなー」
中立組織である理術研究院を攻める、愚かな闇の眷属はいない。ゆえに、ボルジェイたちが帰ってくるまでは遊び放題。
戦争の裏方として酷使され、ロクな休みもなく働きっぱなしだったのもサボタージュを加速させる一因になってしまった。
「とりあえず何するよ?」
「ありったけの菓子と飲み物持ってこい! 久しぶりにパーッと騒ぐぞ!」
「あいよ! へへ、楽しみだ!」
鬼上司がいない間に、バカ騒ぎして日頃のストレスを解消しようとする研究員たち。が、彼らは知らなかった。
すでに、自分たちの懐に敵対者が潜り込んでいることを。
「ぷぷぷぷ、みんなバカなのです。とっくの昔にボクが潜り込んでるのに、だーれも気付いてないのです。やっぱり、一般闇の眷属なんてみーんなポンコツなのでーす。あひゃひゃ」
理術研究院本棟、地下三階。セキュリティシステムの本体が安置されているフロアに、侵入者が一人。白いトーガを身に着け、背中に小さな翼が生えた少女はニシシと笑う。
彼女の名は、イミーラ。闇寧神ムーテューラの元で働く、見習い女神の一人だ。主人からの特命を受け、理研に潜入していた。
「さーてさて、この先に入るためには……っと。えーと、パスコードを入力……? そんなもの知らんなのです、キョーコートッパさせてもらうです。ふんっ!」
イミーラは分厚い扉の前にやって来ると、すぐ脇に取り付けられたパスコード入力装置に目を向ける。当然、パスコードなど知らない。
そこで彼女が取った方法は極めてシンプル。主人直伝、何でも壊す必殺パンチを叩き込んだ。神々の神聖な魔力が流し込まれ、無理矢理ロックが解除される。
「ふっふーん、今日もぜっこーちょーなのです。やっぱりムーテューラ様直伝のパンチは万事を解決するのです。むっふー」
パンチと同時に炸裂した魔力によって、警報機能も破壊された。その結果、地上でバカ騒ぎしている者たちは何も気付かない。
もっとも、気付いたところで誤作動か何かと決めつけて知らんぷりするだろうが。さっさと目的を達成しようと、イミーラは扉の奥に進む。
「あよっこいしょ。む、ありましたありました。あれがセキュリティシステムの本体ですね。んじゃ、こっちにもあらそーれ!」
部屋の奥に、巨大なキカイが設置されていた。理術研究院全体のセキュリティを管理するためのものだ。ソレに向かって、再び拳が振り抜かれる。
侵入者を検知する機能や、警報を鳴らす機能といった治安維持のためのシステムが全てオフラインになり、機能不全に陥る。
「よしよし、これでいいのです。さて、アゼル様に連絡するのです。後はあの方たちにお任せなのです」
やるべきことを終え、イミーラは懐から連絡用の魔法石を取り出す。アゼルに破壊工作が完了したことを告げ、天の世界へと帰っていった。
「あーやだやだ、全身闇の匂いでくっせーのです。戻ったらお風呂に入って入念に身体を洗うのですよ。全くもう」
オペレーション・サンダーソード……始動の時を迎えた。
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