019 機械の評価
校長室でシオン校長と話したあと、俺は再び402号室に戻った。
「レン、どうだった? やっぱり退学?」
アリサが心配そうに駆け寄ってきた。
ユキナとシズハも不安な面持ちでこちらを見ている。
「いや、そんな話じゃなかったよ。土曜にアリサが訊いてきたことと同じ質問をされただけだ」
「同じ質問って?」
「あれだよ、『どうして養成所に行っていないのにそんなに強いのか』ってやつだよ。俺くらいの強さがあれば、もっと前に国魔が目を付けていたはずなのにってね」
俺は2040年の件や柳生さんを紹介してもらった件は伏せておいた。
そういう話をしても面倒なことになるだけだからだ。
冗談を言っていると思って不快にさせるのが目に見えていた。
「あー、なるほど。そういえば、本当のことを話してもらってなかったね。2040年からやってきたとかいうオカルト話で濁されてさ! 実際のところ何で強いのさ?」
「それは企業秘密だ。秘密のある男ってカッコイイだろ?」
ニヤリと笑って誤魔化す。
「ちょっと仲良くなったからって調子に乗っちゃって」
アリサは笑いながらため息をついた。
「ま、言いたくないことは誰にでもあるだろうし、これ以上は詮索しないであげるわ。それに、今は強くても卒業する時には私のほうが上だから。何たって私の固有スキルはAランクだからね! Aランク!」
ふふん、と胸を張るアリサ。
「あのぉ……」
ユキナが手を挙げた。
俺とアリサが「ん?」と目を向ける。
「さっきから気になっていたのですが、レンくん……本当に養成所には通っていなかったのですか?」
「私も気になった! 養成所に通っていないって本当なの?」
シズハも驚いた様子で言った。
二人に対して、俺ではなくアリサが答える。
「びっくりだよね! あと、ミコト様に推薦されているのも謎だし! 得体の知れない男だよ、本当に!」
「レンくんって……本当にすごいね」
ユキナがしみじみした様子で言う。
「もしかしたら、本当に2040年からやってきていたりして」
シズハが冗談めかして笑う。
「ま、そんなわけで問題なかったんだ。活動の続きを始めようぜ!」
俺は話を打ち切り、コミュニケーションゲームの再開を促した。
◇
11時30分になると、学校内にチャイムの音が響いた。
モニターに『お疲れ様でした』と表示されている。
活動が終わったようだ。
「長かったなぁ」
普通の高校だと、午前は二つのコマに分かれている。
そして間には休み時間が存在しているだろう。
しかし、国魔では11時30分になるまで休みがなかった。
もっとも、今回は勝手に休むことができたので問題ない。
実際にお手洗いや水分補給などで教室を出ることがあった。
『それでは、評価を始めます』
モニターの文字が切り替わった。
シズハによると、一人ずつ採点結果が出るそうだ。
一人目はアリサだった。
――――――――――――
【名前】鳳条院 アリサ
【学年】1年
【点数】100点
【評価】積極的に発言し、気配りにも余念がなかった。
【順位】15位→7位
――――――――――――
次の瞬間、アリサが「やったぁ!」と両手を掲げた。
嬉しそうに飛び跳ねている。
「アリサさん、すごいです!」
ユキナが拍手し、俺とシズハも笑みを浮かべる。
「たしかに今日のアリサは文句なかったよなぁ」
アリサは本当によく頑張っていた。
馬鹿にしていたのは最初だけで、最後のほうはノリノリだったのだ。
ユキナやシズハとも馴染んでいて、すごくいい雰囲気だった。
『白峰ユキナの評価を表示します』
今度はユキナのようだ。
「私はダメそう……」
ユキナが不安そうな顔をする。
「大丈夫だって! ユキナだって頑張っていたわよ! 私ほどじゃないけどさ!」
アリサが「がはは」と豪快に笑ってユキナの背中を叩く。
この女、自分が100点満点だったので有頂天である。
――――――――――――
【名前】白峰ユキナ
【学年】1年
【点数】70点
【評価】協調性は高いが、積極性に欠ける点は改善の必要がある。
【順位】77位→55位
――――――――――――
ユキナは「うっ……!」と声を詰まらせた。
「でも、点数自体は高いんじゃないか。70点なら問題ないと思うぜ」
「私もレンくんと同意見。実際、順位は大幅に上がっているわけだから、落ち込む必要はないよ」
ユキナは「はい……」としょんぼりした様子。
「それにしてもAIってすごいな。本当によく見ている」
評価内容や点数に対して、全員が納得できる回答をしている。
2025年時点でここまでAI技術が発達しているとは思わなかった。
『八神シズハの評価を表示します』
シズハが身構える。
「これってどういう順番で表示されるんだろ?」とアリサ。
「点数が高い順だとしたら、シズハ先輩はユキナ以下になるが……」
「そ、そんなことありませんよ! シズハ先輩が私より低いなんて……」
話していると、モニターの内容が変わった。
――――――――――――
【名前】八神シズハ
【学年】2年
【点数】85点
【評価】大きな問題はないものの、主体性に欠けていた。
【順位】40位→36位
――――――――――――
「主体性かぁ……たしかに、そうかも」
シズハが残念そうな表情を浮かべる。
「で、でも、85点ですよ! 私より高いです!」
ユキナが彼女なりに励ます。
「点数は高いけど、順位の変動幅は全然だな」
「2年だからじゃないの?」とアリサ。
「それもあるけど、私の順位が伸び悩んでいるのは、戦闘力の低さが原因になっているのだと思う」
シズハが持論を述べたところで、俺の出番がやってきた。
『王城レンの評価を表示します』
「レンは95点くらいじゃない? 私には劣るけど、そこそこ頑張っていたし?」
ドヤ顔のアリサ。
ユキナとシズハも賛同していた。
「俺も自己評価ではいい感じだけど、呼び出しで抜けたせいで減点されていたら厳しいだろうなぁ」
「それは大丈夫でしょ。私だって途中で何度か抜け出しても100点だったわけだし!」
アリサはペットボトルの水を取り出した。
活動の途中に「ノドが渇いた」と言って、売店で買ってきたものだ。
キャップを開けてグビグビと飲んでいる。
そんな時、画面が切り替わって俺の結果が映し出された。
――――――――――――
【名前】王城レン
【学年】1年
【点数】35点
【評価】発言内容には全く問題がなかったものの、白峰ユキナの胸部を凝視している回数が非常に多い点は酷評に値する。不適切な視線はPTメンバーにも把握されており、とりわけ八神シズハは、自身と白峰ユキナのバストサイズを比較するような視線を感じるたびに眉をひそめていた。
【順位】20位→20位
――――――――――――
アリサが口に含んでいた水を盛大に吹き出す。
「おい! おかしいだろ、この採点!」
俺はモニターに向かって吠えた。
ユキナは「うぅ……!」と恥ずかしそうに顔を赤くしている。
「ち、違うのよ、レンくん! 私は別に不快感を抱いていたんじゃなくて、もっと魅力的になれたらいいのになぁって思っただけだから! 本当だから!」
シズハは大慌てで弁明する。
「ほんとAIって優秀ねー! レンの変態行為をしっかり確認しているなんて! やっぱり時代はAIね!」
高笑いするアリサ。
しかし、その直後、彼女はボソッと呟いた。
「ユキナの胸ばっかり見ているのはムカつくけど。私だって大きいのに……」
俺は苦笑いで後頭部を掻き毟る。
それから、目を泳がせて話題を逸らした。
「そんなことより昼ご飯は何にする? 俺、お腹ペコペコだぜ!」
「なら皆で食堂に行く?」とシズハ。
「それいいですね! 私、食堂に行ってみたかったんだー!」
アリサが同意する。
「私、私も、賛成です! 午後の活動も、頑張りましょうね!」
ユキナが勇気を振り絞るようにして言った。
AIに積極性の低さを指摘されたので、さっそく頑張っているようだ。
「ユキナさん、活動は午前だけだよ」
シズハがきょとんとした様子で答える。
「そ、そうなんですか!?」
「ということはこれで終わりなんですか?」
どうやらアリサも知らなかったようで驚いている。
もちろん俺も初耳だった。
「ええ、国魔での活動は午前だけなの。午後は自由になっていて、どう過ごすかは完全に自由。もちろん評価対象外だから、何もしないで帰ってもいいよ」
「すげー自由主義だ。それは助かるな」
俺は2040年の問題に取り組むため、可能な限り時間がほしかった。
図書室にこもって情報を調べたり、ダンジョンで魔石を調達したり。
あと、前世に比べて動きにキレがないので筋トレもしたいところだ。
「私は全然嬉しくないなぁ。もっとガンガン評価されて、ぶっちぎりの1位になりたいし!」
アリサは不満そうに言った。
「私も決められているほうが嬉しいかも……。自由だと、何をすればいいか分からないし……不安……」
ユキナがポツリと呟く。
「安心して、ユキナさん。その点は大丈夫だから。職員室に行けば教官に相談できるから。私も1年の時は風間教官に相談しまくっていたよ」
「そ、そうなんですか。だったら安心です……!」
「ユキナ、不安にならなくても私が同じPTだから問題ないよ! これからみっちり鍛えてあげるから! 今日もお昼ご飯を食べたら演習場に行くからね! あ、シズハ先輩、演習場って使えますよね!?」
アリサは後ろからユキナに抱きついた。
「申請すれば使えるけど、独占はできないよ。他のPTも勝手に利用する形になるわ」
「全然問題なし! じゃ、午後は私とユキナ、シズハ先輩の三人で演習場に行くってことで決定!」
「は、はい、分かりました!」
「私も問題ないわ。でも……三人なの? レンくんは?」
シズハが尋ねると、アリサは不満そうにぷいっと顔を逸らした。
「レンとの連携はもう完璧だから不要! ユキナの胸ばっかり見ていた罰として、あんたは一人で過ごしなさい! 食事にだって混ぜてやらないんだから!」
「お前、根に持つタイプだな……」と、俺は苦笑い。
「そんなわけだから、ユキナ、シズハ先輩、行こ! じゃあね、変態のレン!」
アリサはユキナとシズハを連れて、402号室を去っていった。
「やれやれ」
俺はため息をつきつつ、窓の外に目を向けた。
晴れ渡る空に、のどかな平和が広がっている。
この穏やかな日常を、二度と血の赤には染めない。
「2040年の惨劇だけは絶対に阻止してやる」
固く決意する。
そのためにも、国魔を首席で卒業しなくてはならない。
他の可能性も検討するが、メインは対魔防衛軍の総司令になること。
(だったら、今やることは一つしかない……!)
AIや女性陣にバレることなく巨乳を凝視する――。
その術を身につけることこそが俺の最優先課題なのだ!
評価(下の★★★★★)やブックマーク等で
応援していただけると執筆の励みになります。
よろしくお願いいたします。














