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【コミカライズ】二周目の人生で学園無双 ~人類最後の冒険者、【絶滅エンド】を避けるため成り上がる~  作者: 絢乃


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014 何も知らないアリサ

 規模に違いはあれど、〈ロビー〉の内装はどこも同じだ。

 ドーム状の広間がいくつも連結したような造りになっている。

 床は大理石のような硬い素材で、パワーボムで背中の骨が粉砕できそうだ。

 照明は魔力を動力源とするクリスタルで、白い光が神秘的に感じられた。


「休日ということもあって人が多いな」


 見渡す限りに冒険者の姿が見える。

 猛者感の漂う者から制服姿の学生まで多種多様だ。


「ロビーってこんな感じなんだ……想像以上に巨大な施設なのね」


 アリサが驚くことを口にした。


「え? ロビーに来たことないの?」


「うん」


「じゃあ、ダンジョンに行ったこともないんだよな?」


「そうよ」


 まるで「当たり前じゃない」と言いたげなアリサ。


「今までどうやって魔物と戦ってきたんだ……?」


 俺は当然の疑問を口にした。

 魔物を狩るにはダンジョンに行く必要がある。

 そこらの道路にゴブリンが歩いているわけではないのだ。

 2040年になるまでは。


「そんなの演習場に決まってるじゃない。レンの養成所、もしかして演習場がなかったの?」


「養成所……?」


「え? 養成所を知らないの? 嘘でしょ?」


 愕然とするアリサ。

 俺は彼女を無視して、スマホで養成所について調べた。


『養成所とは、塾の冒険者版だよ! 良い冒険者高校に入りたいなら、良い養成所に通うのが一番!』


 子供向けの解説サイトにそう書いてあった。

 そのサイト曰く、お高い養成所には演習場があるらしい。


(前世じゃ冒険者になる気なんてなかったから知らなかったな)


 一周目の人生だと、今の時期は普通の高校に通っていた。

 固有スキルのランクがFだから、冒険者など眼中になかったのだ。

 それでも冒険者になったのは、高卒までに就職先が決まらなかったから。

 1~2年ほど就活の傍らにアルバイトをしたあと、観念して冒険者になった。


「養成所の件はひとまず脇に置いて、ダンジョンに行くとしよう。あそこで申請するんだ」


 俺は正面の奥にある受付カウンターを指した。

 そこに向かって二人で歩いて行く。


「何か必要な物とかあるの? 私、何も持ってないけど」


「この時代ならマイナンバーカードで大丈夫だよ」


「この時代?」


「気にするな」


 カウンターの前に着くと、受付嬢にマイナンバーカードを提示した。

 専用の端末にピッとタッチするだけでいい。


「ご希望のランクはどちらになりますか?」


「どうする? レン。私たちならAランクでも余裕じゃない? ここの人らに実力を見せつけちゃう?」


 ニヤリと笑うアリサ。

 俺は苦笑いでため息をついた。


「俺たちが挑めるダンジョンはEまでだぞ……」


「E!? なんで私たちがEまでなのよ!」


「なんでって、俺たちはFランクの冒険者だからな。自分のランクより一つ上までしか行けないよ」


「えー……だる」


 アリサが心の底からだるそうな声で言った。

 めちゃくちゃ恥ずかしかったようで、その顔は真っ赤に染まっていた。


「ちなみに、高校生には制限があってDランクまでしか挑めないよ」


 念のため、受付嬢に「ですよね?」と確認する。


「はい、その通りです」


「ということで、今回はFかEなんだけど……Eでかまわないよな?」


「当たり前でしょ!」


 そんなわけで、俺とアリサはEランクのダンジョンに申請した。


「それでは、あちらのポータルからダンジョンに移動してください。ご健闘をお祈り申し上げます」


 受付嬢が後方の空間に手を向けた。

 F、E、D、C、B、A、Sランクのポータルが横一列に並んでいる。

 各ポータルの上にはランクを示すアルファベットが書かれていた。


「レン、こっそりBランクのポータルに入ろうよ。間違ったって言えばバレないって。警備員はいないし、カメラもないみたいだから!」


 ポータルに向かっていると、アリサが耳打ちしてきた。

 俺の服を引っ張り、子供っぽくニヤニヤと笑っている。


「アリサ、お前……思ったより馬鹿だな」


「はぁ!? 馬鹿って何よ、馬鹿って!」


「試してみれば分かるよ。ほら、Bのポータルに行ってこい」


 俺はアリサの背中を押した。


「い、言われなくても、やってやろうじゃない!」


 アリサはキョロキョロしながらBランクのポータルに近づく。

 誰がどう見ても怪しい挙動で、悪事に不慣れだと一目で分かる。

 そして――。


「あれ? 転送しない?」


 アリサはポータルをすり抜けた。


「分かったか? 申請していないポータルには入れないんだ」


「対策済みってことね。ふん、なかなか賢いじゃないの、この国も」


「ああ、そうだな……」


 俺は大きなため息をついた。


 ◇


 ポータルの先には岩の迷宮が待っていた。

 極めて広大で、天井や壁には謎の紋様が刻まれている。

 それらが淡くて青い光を放っていて、周囲を青く照らしていた。


「Eランクのくせに雰囲気だけは一丁前にロマンチックね」


 アリサはレイピアを抜いた。

 心なしか声が強張っているように感じる。


「なんだ? 初めての実戦でビビっているのか?」


「ビ、ビビってないし! Eの敵にビビるわけないし!」


 どうやらビビっているようだ。


(可愛いところもあるじゃないか)


 俺はくすりと笑いつつ、奥のほうを指した。


「入口付近は他の冒険者と遭遇することが多い。戦闘を最低限に留めて奥にいこう。運が良ければ宝箱もあるからな」


「あなたについていくわ」


「えらく素直だな……」


「私も“チームワーク”ってものを学ぼうと思ってね」


「殊勝な心意気で感心するが、本当は初の実戦で下手を打って恥ずかしい思いをしたくないだけだろ?」


「うるさい! 黙って進め!」


 図星だったようだ。


 ◇


 アリサが緊張していたのは最初だけだった。

 戦闘が始まると、敵が弱いので落ち着いていった。


「予想以上に楽勝ね」


「国魔の入試とテストはどっちもDランクの敵だったしな」


 喋りながら魔物を倒しつつ、魔石の回収も怠らない。


「ところでレン、質問なんだけど」


「ん?」


「あなた、養成所を出ていないんでしょ?」


「おう」


「なのに、どうしてそんなに強いの?」


 俺はカニ型の魔物〈ブルークラブ〉を倒しながら考え込む。


(本当のことを話しても信じてもらえないよなぁ)


 とはいえ、仲間に嘘をつくのも気が引ける。

 どうせ信じないだろうと思いつつ、俺は素直に答えた。


「俺には前世……厳密には未来の記憶があるんだ。2040年に死んでな、その時の記憶があるから戦闘経験が豊富なのさ」


「はあ? 前世? 未来? 嘘でしょ」


 案の定、アリサは信じなかった。

 鼻で笑って流している。


(ちょうどいいし、目的を達成しておくか)


 俺がアリサをデートに誘った真の目的。

 それは――。


「俺からも一つ質問なんだけど、もし2040年にダンジョンじゃない場所……例えば上空に時空の歪みができて、そこからおびただしい数の魔物が侵攻してきて地球が滅びるとする。そのことが分かっているなら、アリサはどう対処する?」


 ――2040年の対策を訊くことだ。

 今回はアリサが対象だが、別に彼女に限った話ではない。

 シズハやユキナ、なんだったら俺の両親にだって考えてもらいたいことだ。


 自覚していることだが、俺は賢くない。

 だから、俺の頭だと『対魔防衛軍のトップになる!』しか案がない。


 しかし、必ずしもそれだけが正解とは限らないだろう。

 対魔防衛軍のトップになっても意味がない……という可能性だってある。

 だから、あらゆる方法を検討したかった。


「やたら2040年にこだわるわね……」


 アリサは半ば呆れたように呟くと、真面目に考え始めた。

 しばらく無言で戦ったあと、彼女は答えを言った。


「私だったら原因を潰すわ」


「原因を潰す?」


「今は2025年4月で、2040年のいつかは知らないけど、いつかに魔物が大規模侵攻を始めて地球を滅ぼすんでしょ?」


「そうだ。厳密には日本時間で2040年1月1日の0時00分ちょうどに大規模侵攻が始まる」


「つまり15年の猶予があるわけだから、その問題が起きないように動くわ。時空の歪みってのが今ひとつ分からないけど、何かしら原因があるはず。だから原因を特定して、潰す。そうすれば問題は起きないでしょ?」


「なるほど、予防するわけか……! 思いつかなかったよ」


 俺は2040年の大規模侵攻が起きる前提でいた。

 だが、アリサは“そもそも起こさない”という考え方をしている。

 目から鱗とはこのことであり、そして、やはり俺は馬鹿だと思った。


「ていうか、何なの、この話。レンって、そういうオカルト話を信じるタイプなの? だとしたら、ちょっと引くんだけど」


 本人は「ちょっと」と言っているが、既にドン引きのアリサ。

 俺は慌てて「違うんだって」と取り繕った。


「昨日の深夜に観たオカルト番組でそういう話があったんだよ! 話のネタにしただけだって!」


「ふぅん……だといいけど」


 どうにか“頭のおかしいオカルト野郎”のレッテルを回避できた。

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