揺らぐ大帝国1
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陸軍将校ランボールは神妙な面持ちで話し始める。
「日本国についてどの程度の認識がありますか?」
ランボールの問いに、ダラスは一時考え、話し始めた。
「我が帝国と同じ転移国家であり、そこそこの技術力は有しているが、軍事力が低く、また島国であり、他国に対する植民地化政策も進めていないため規模も小さいであろうという認識だ。
この世界では列強パーパルディア皇国を降したらしいが、技術格差によるものだろう。我がグラ・バルカス帝国に比べればその力は重視すべきほどでは無い……」
ダラスは外務省が認識している事実を淡々と話す。
「我々もそのような認識でしたが、どうも海軍が日本国に怯えているようなのです」
海軍が日本国に怯えている。
ダラスのみならず、シエリアにとっても初耳だった。
「何故?」
「解りません。現時点では陸軍も、海軍と日本国が衝突した類の情報を有してはいませんので、何らかの接触があったのか……それとも何らかの情報をつかんだのか……全く解りませんが……」
「怯えているという根拠は何だ?」
「ギーニ国会議員をご存じか?」
「ああ、海軍と財界にパイプの強い議員だな。主戦派で、極めて好戦的。
確か、転移直後からこの世界を征服するべきだと主張し、パガンダ王国での皇族殺害事件の後にタカ派の議員連盟の長として選出され、逆らう国の民は皆殺しにしてしまえとまで発言した超過激人物だ。
私個人としては帝国が世界を支配するのは賛成だが、ギーニ議員のやり方だとやりすぎであり、必ず後世の支配に禍根を残すだろうから反対だがね」
ダラスは続ける。
「財界の中でも兵器関係の企業とのパイプが太く、海軍では転移前に存在した占領地護衛艦隊とのパイプが強かったと認識している。
今は……確か本国艦隊に編入されていたかな?」
「そう、そのギーニ議員が急に消極的発言を続けています。
この世界の蛮族どもは、既定路線どおりに征服するべきであるが、同じ転移国家である日本国とは戦うべきでは無く、講和するべきであると……同じ科学技術国家として、不足する部分を補い合い、共に発展していくべきだ……とまで言い放ったらしいのです。
一体何があったのか……海軍経由で何か情報をつかんだのか、それとも兵器関係企業が何らかの情報をつかんだのか……」
「その内容では、海軍が怯えている事にはならないが?」
「そう、話には続きがあります。
カルトアルパス沖海戦で、日本国の巡洋艦が世界連合側として参加し、グレードアトラスターが同巡洋艦を撃沈したのは知っていますね?」
「ああ、知っている。日本側も主砲を我が国の戦艦に当てていたが、砲が豆鉄砲であり、大した損害にはならなかったと……航空機は少し撃墜されたと聞いている」
「これは、日本国の砲の命中率が極めて高い事を意味します。
そして、日本国では口径の大きい艦が多数存在している可能性もある。
あくまで現段階では可能性にすぎず、推測の域を出ません。
しかし現に海軍の同期が『上層部がとても怯えている』と、私に伝えてきています。
海軍上層部が怯えているといった情報は事実……いったい何かあったのか、引き続き情報収集を行おうと思っています」
ランボールは続ける。
「今後戦況については分析していくが、今回のバルクルス攻撃、不意打ち的なものではなく、正規に警戒していてなおもやられたのであれば、日本国の戦力、そして今後の作戦と進撃速度を見直す必要がある」
冷静な分析を行うランボールの言葉、ダラスの愛国心を逆なでする。
「栄えある帝国陸軍将校がそんな考え方で良いのか!!海軍が何をつかんでいるのか、そして議員が何故そんな発言をしたのかは知らぬが、グラ・ルークス皇帝の速やかなるムーの制圧、そして早期の日本国攻略という命が出ている限り、それに従い、命をかけて命令を守るのが我々の努めではないのか!!」
ダラスは、皇帝グラ・ルークスを神のように崇めている節があった。
「私は日本国と講話するべきだとは一言も言っていない!!戦力を見直す必要があると言ったのだ!!」
「陸軍は臆病風に吹かれたのか!!!」
「私の一言で陸軍全体にレッテルを貼るな!!精神論だけ振りかざして何が出来る!!最前線の兵は分析を間違えば死ぬのだぞ!!
安全な所から口だけ出す外務省には解らぬかもしれないが、冷静に敵を分析するのは将校の努めであり、義務なんだ!!
必要な情報を確実につかみ、前線の兵の被害が減るよう全身全霊をかけることが、多くの死者が出ることが解っていて、なおも死地に赴けと命令する側の最低限の義務なんだよ!!」
グラ・バルカス帝国海軍ではある程度合理的な考え方が浸透していたが、陸軍には精神論を振りかざす将校が多い。
そんな中、ランボールは珍しく合理的思考をする者であった。
議論が白熱し、話が脱線しそうになったため、シエリアが割って入る。
「ダラス、一々かみつくな。冷静な議論が出来なくなる。
ランボール殿、失礼した」
「ぐっ!!」
(小娘が!!)
ダラスは注意を受けて黙る。
シエリアの脳裏には、先日の日本国外務省、朝田との会談で見せられた映像が浮かぶ。
可能性として、帝国を上回る軍事技術を持つ可能性……あまりにも恐ろしいその考えを今までと同様常識的理性で打ち消した。
シエリアは続けた。
「好戦的なギーニ議員が日本との講話を望むなど、普通では考えられない事です。
具体的に何があったのか、何をつかんでいるのかを我々独自のルートで調べましょう。
海軍に何があったのかも合わせて調査してみます」
「すいません、よろしくお願いします。
我が陸軍も、情報をつかんだらまたお伝えしたいと考えます」
日本国が脅威となり得る可能性が有ることが共通の認識となった。
議題は皇太子の来訪にうつる。
「グラ・カバル皇太子の来訪は、陸軍としてはとても現状満足のいく警備体勢が出来るとは思えません。
外務省が本件の主体となっているので、延期を申し入れる事はできませんか?」
この意見にダラスがまたかみつく。
「バルクルスの警備責任は軍部にあるだろう?
軍部を増強するなりなんなりして、警備を万全にするべきだ」
「その軍部が、本件壊滅の原因が判明するまで止めた方が良いと言っている」
「皇太子殿下が来ることは決定事項だ。人が足りない?危険性がある?出来ない理由を並べるのでは無く、やらなきゃだめなんだよ!!そんな意気込みで良いのか!!!」
「意気込み?そんな姿勢だって?……こちらだって精一杯やってるんだ!!物事をなすにはプロセスと、適正な人員配置と、時間が必要なんだ!!
意気込みもいるだろうが、精神論だけで危険性は除去されないんだよ!!」
議論は白熱する。
「ダラス!!かみついても何も生まれないだろう?」
またもシエリアが話に入る。
「ランボール殿、失礼した。
皇太子殿下の御身を危険にさらすわけにはいかないだろう。
外務省としても、皇内庁に、危険性があるため中止するよう進言しよう」
白熱した会議は終了した。
外務省シエリアは、本土の本省に対し、最前線基地が奇襲を受け、未だ危険性が除去されていないため、皇太子殿下訪問の延期を進言するのだった。
◆◆◆
グラ・バルカス帝国 帝都ラグナ
皇宮の一室で、内庁幹部が冷や汗をかきながら皇太子グラ・カバルに説明をしていた。
「レイフォルの最前線基地バルクルスは正体不明の攻撃を受け、相当の被害をうけております。
殿下の御身を危険にさらす訳にはいきません。
本件攻撃原因と安全性が確認されるまで、バルクルス視察は延期するほうがよろしいかと……」
「ふん……お前は解っていないな」
グラ・カバルは哀れみの顔で職員を見つめる。
「最前線基地とは、危険なもの。そんな事は百も承知だ。
しかし、私は信頼している。絶対的な強さを持つ帝国臣民の作りし兵器を、そしてそれを運用する精鋭グラ・バルカス帝国兵を!!
危険はあるだろう。
だが、危険が有るからといって私が行かなければ、グラ・カバルは安全な所にしか行かない臆病者と兵達は考えるかもしれない。
皇族の……しかも皇太子が危険な最前線基地で兵達を励ます。
このことこそが、重要なのだ!!
私が行くことは決定事項だ。
外務省と軍幹部には、皇太子権限で行くことは決定事項だと伝えろ」
「し……しかし!!」
危険がある。万が一皇太子殿下に何かが起きれば、軍幹部も外務省幹部も首が飛ぶ。
当然、皇太子殿下に進言した自分も、社会的に抹殺されるのは目に見えて明らかだった。
「殿下、ご再考を!!本当に危険性が高いのです!!」
「くどいぞ!!」
職員は一喝された。
同日、皇太子権限により、最前線基地バルクルスへの視察が決定された。
◆◆◆
ムー国 キールセキ付近 陸軍基地
基地内にあるとある会議室、ムー国軍幹部と、自衛隊幹部、そして第2文明圏内国家群の軍団長達が集まり、作戦会議を行っていた。
「では、今回の作戦概要について確認いたします。」
カルトアルパス攻防戦、そして、歴史に大きく記されるであろうバルチスタ沖での大規模艦隊衝突……いずれも大きな打撃を受けて敗北した。
そして、アルーの街の近くにグラ・バルカス帝国陸軍が集結した時、大規模な侵攻来ることは予想されていた。
にもかかわらず、完全な軍事力に関する運搬能力の不足、そして敵のあまりにも凄まじい戦闘能力に、ムー国陸軍は破れ、屈辱的にも街は帝国の手に落ちる事となる。
アルーの民は屈辱的な状況にさらされ、生き残りの民から発言と、その実態が報道されるにつれて、ムー国民は激しく怒り、そして深い恐怖を抱く事になる。
第二文明圏列強、そして世界第二位の強国が為す術も無く浸食される。
あまりにも屈辱的であり、国民の受けた衝撃は計り知れなかった。
しかし……日本国が参戦する。
帝国陸軍の機械化師団を、一人の戦死者も出すこと無く殲滅するという、ドラマ的な大戦果、途轍もなく強力な援軍だった。
そして帝国の侵略に立ち向かう第2文明圏の精鋭達もここ、キールセキに集結する。
ムー国の……国家の意地とプライドをかけた作戦、グラ・バルカス帝国最前線基地の
壊滅。
第2文明圏として、いや、世界初ともいえる本格的反攻作戦に、ムー国としても気合いが入る。
熱意をもって、司会は説明する。
「すでに一時的な空爆で破壊されているバルクルスに対し、
第一段階として、日本国航空自衛隊によるバルクルスの残存航空機及びレーダー施設、対空砲施設、重砲、戦車部隊に対する空爆を実施。さらに弾薬庫と燃料タンクへの空爆を実施します。
第二段階として、ムー国が破壊残しの施設、建物、軍の駐留施設及び人員への徹底破壊を行います。
第二段階の空爆は、ムー国の威信をかけ、内陸部からも航空機をかき集めました。
バルクルス周辺の友軍基地からの同時爆撃となりますので、ムー国歴史上最大規模の空爆になると推察されます。
この時点で、すでに敵兵力のほとんどを減ずる予定です。
第三段階として、日本国陸上自衛隊の第一空挺団及び、ムー国がこの度新設した、特殊作戦部隊が空挺降下を実施、基地西側要塞内に位置する司令部を制圧し、残存陸軍の指揮系統を遮断。
最終段階として、第2文明圏連合竜騎士団700騎、(内訳ワイバーンロード300、ワイバーン400)及び、大型火喰い鳥1600羽に騎士と陸兵計4名が騎乗し、運搬された陸兵各3名計6900人によってパラシュート降下し、増援部隊とし、竜騎士団は支援火力として導力火炎弾による上空支援を行います。
増援部隊6900人について、ワイバーンはあまり重い物を運べないため、比較的体重の軽い者を選出、マギカライヒ共同体の開発した小銃を携行します。
火喰い鳥については運搬した後、各基地に帰投します」
歴史上経験したことの無い大規模作戦……場がざわつく。
「質問であります!!」
ムー国陸軍航空隊の幹部が手を上げた。
「どうぞ」
「大型火喰い鳥は、文明圏外国家でさえも支援火力としては一線を退きつつある航空戦力です。このレベルの戦いにはついて行けないと思うのですが」
火喰い鳥、地球で言うところの火喰い鳥とは違い、この世界に生息する人を乗せて飛ぶことが出来る大型の鳥類である。
口から炎を吐く事が出来るため、太古の時代に長く空戦兵器の主力として君臨していた。
ワイバーンに比べると速度も遅く、火炎放射の効果範囲も遙かに少ない。
ワイバーンを空戦に使用する国が勢力を伸ばしてきたため、徐々に各国の空戦主力がワイバーンに移行し、火喰い鳥は軍事では使用されなくなっていった。
この鳥、世界各地に生息域は散らばっているが、約1400年前に、南方の島々で火喰い鳥よりも大きな鳥が発見される。
生態、見た目、どれを見ても火喰い鳥だったため、大型火喰い鳥と命名された。
火喰い鳥に比べて大型で翼面積も広く、戦場に登場したこともあったが、使い勝手が悪く、小回りが聞かないため徐々に使用する国家は減っていった。
多少は重い物を運べるため、現在は商用の輸送鳥として各国に愛用されている。
「そのとおり、空戦能力は期待していません。本来であればワイバーンもしくはワイバーンロードが良かったのですが……バルチスタ海域での戦闘時、敵航空隊による基地爆撃も合わせて行われたため、多くのワイバーンが地上撃破されてしまい、竜が足りません。
ワイバーンは撃破されましたが竜騎士の多くは生き残っており、竜騎士は基本的に火喰い鳥を操る事が出来ます。
よって本件作戦となりました。
火喰い鳥に求めるのは単純に輸送能力です。
なお、ワイバーン及び火喰い鳥が到達する頃には、敵反撃能力はほとんど残されていない予定となっております。
おそらく残骸の上に立ち、する事は無くなるだろうと想定していますが、万が一の残存兵力の除去と、迅速な塹壕等による防御力の確保、そして敵の援軍が来た場合の一時的防御措置を担当します」
「解りました。ありがとうございます」
「制圧後の流れですが……援軍として……」
会議は続く。
第二文明圏……世界第2位の列強ムー国は、本格的反攻作戦に闘志を燃やすのだった。
ゴールデンウィークですね、私も少し出かけます。




