駆け抜ける衝撃4(後半)
後半を投下します
〇 書籍は大幅加筆と文章修正がなされています。WEBでは見ないエピソードも多数あります
まだ手に取った事の無い方は是非手にお取り下さい。
◆◆◆
第2戦車小隊のとある戦車、運転員のジブラは、最大の集中力をもって操縦をしていた。
車内では狼狽した戦車長が早く早くとわめき散らし、耳が痛くなりそうだ。
「あ……あれは!!」
遙か先、進路上の空洞山脈内で僅かな閃光が光ったように見えた。
「ま……まさか発砲!!!」
次の瞬間、右前を走っていた友軍戦車が金属が砕けるような音と友に猛烈な爆発と共に四散した。
「あああっ!!!!」
ジブラの目には絶望的な光景が写る。
かなりの間隔をおいて並ぶ敵戦車……その数は100両を超えていた。
「戦車長!!敵戦車発見!!!数、100を超えています!!」
たったの10両でさえも途轍もない戦力を誇る敵戦車……それが100両を超え、行く手を阻む。
すでに友軍戦車の残存台数を超えている。
「まずい!!まずいまずいまずい!!まずいぞっ!!!すぐに指揮車に報告、降伏した方が良い旨意見具申するぞっ!!」
狼狽した戦車長は無線のプレストークボタンを押し込んだ。
■ 指揮通信車
「ボーグ司令、前方第2戦車小隊から通信!!敵戦車発見!!前方空洞山脈付近、数100以上!!!広範囲に展開しています!!!降伏するべきだと入電しています!!」
「ひゃ……100を超えているだとっ!!」
敵戦車と友軍戦車の戦力比はとてつもないものであると、ボーグは本能で理解していた。 それが……100以上……すでに残存基数を超えている。
「そんな数……何処に隠れていやがった!!!」
あり得ない事が続き、脳内に思考は巡る。
このまま進めば全滅は免れない。
しかし……意志が……プライドが……思想が合理的判断を鈍らせる。
「この第4師団が……グラ・バルカス帝国最強の第4機甲師団が、異界の蛮族どもに降伏するだと!?
俺たちは……栄えある帝国最強の師団なんだぞ!!!
臆病者め!!!我らは敵を撃滅し、突破しなければならないのだ!!上申してきた者は、後で処分してやる!!」
ボーグは吼える。
「全軍密集隊形!!広範囲に展開しているならば、密度は薄い!!密集し、薄い部分を砲撃しながら突破するぞ!!」
「了解!!」
ボーグの司令は全軍に伝えられた。
◆◆◆
第2戦車小隊 とある戦車車内
「全軍密集隊形との指示が来ました」
「なんだとっ!!バカか!!上はバカなのか!!!現実が見えていない……確実に全滅するぞ!!!」
車内に響き渡る大声、運転員ジブラも同じ思いではあるが、上の命令には逆らえない。
彼は死を覚悟した。
「おい!!白い布を上げろ!!我が戦車だけでも降伏するぞ!!」
「白い布!?それを上げれば良いのでしょうか?」
「日本国軍に対しては、白旗を上げれば降伏しているという合図になるらしい。敵の強さは常軌を逸している。
このまま死にたくなかったら、白シャツを振って降伏するんだ!!!」
日本国に対する降伏の合図。
軍では降伏する事を想定していなかったため、軍の末端にはその情報は行き渡っていない。
僅かな上層部のみ知る情報だったが、戦車長は昇進に命を燃やしていたため、この情報をつかんでいたのだろう。
「し……しかし、上の指示を無視してそんなことをすれば、軍法会議にかけられます!!」
部下は食い下がる。
「どうせ降伏しない者は冥府へ行く!!このまま確実に死ぬのと、軍法会議にかけられる可能性が0.1%あるのと、どちらを取る!!早くしろ!!!この一瞬が命を左右するぞ!!!」
「し……しかし……」
「ええい!!もう良いわ!!!俺がする!!!」
戦車長はハッチを開け、戦車上部に出る。服を脱ぎ、白いシャツを、大きく降った。
次の瞬間……付近の友軍は猛烈な爆発を起こして四散した。
一瞬だった……同時に……広範囲に猛烈な爆発が起こり、土煙が上がる。
戦車長は震えながら白旗を振り続けていた。
徐々に土煙が晴れていく。
「おい!!お前ら……見てみろ!!!」
震え超えの戦車長が、他の隊員に、戦車から降車するよう指示する。
運転員のジブラも、戦車長の指示に従って外に出た。
「え!!!??」
先ほどまで……いや、つい2分前まで慌ただしかった無線は沈黙し、爆走していたはずの友軍戦車はすべてスクラップと化していた。
「お前らの命が助かったのは俺のおかげだ。感謝しろよ」
いけ好かない戦車長だったが、彼の言うことが正しかったとジブラは理解する。
この日、グラ・バルカス帝国陸軍最強の機械化部隊である第4師団は、日本国陸上自衛隊第7師団と交戦、降伏した1両の戦車を除いて全滅した。
第四師団長ボーグは戦死した。
◆◆◆
ムー国軍西部方面隊司令 ホクゴウはその場に立ち尽くしていた。
あたりには微かな煙が立ち込め、金属の焼ける臭いが鼻を突く。
「なんと……凄まじいな」
キールセキを襲おうとしていたグラ・バルカス帝国の機械化師団は日本国の自衛隊と交戦して全滅した。
現場視察に来たムー国の司令ホクゴウは戦車達の死骸を目の当たりにする。
「あの帝国が……手も足も出ないなんて、信じられません!!」
部下が率直な感想を述べる。
「陸軍の損害ゼロでキールセキを守れるなんて、夢にも思わなかった」
「まったくです」
「次の作戦に多くの人材をつぎ込めそうだよ」
「はい、日本国の支援があれば、きっと成功するでしょう」
「アルーの奪還……いや、その前にグラ・バルカス帝国基地、バルクルスの本格的壊滅だったな」
「はい、この1年間、陸軍精鋭特殊部隊は日本国の第一空挺団の元で学び、比較にならないほど精強になっています。
空爆により基地機能を損失したバルクルスであれば、きっと難なく制圧出来るでしょう。 今回は、日本国の第1空挺団も友軍として支援してくれます」
ムー国を守り切れるという自信が生まれる。
司令ホクゴウは、自国のために身を粉にして働くのだった。
◆◆◆
グラ・バルカス帝国 レイフォル地区 レイフォリア
外務省のとある建物、若き外務省の幹部シエリアは、執務室で事務作業をしていた。
傍らには少し性格に問題がある部下のダラスが仕事をしている。
「グラ・カバル皇太子のバルクルス訪問の件だが、4日後の10時30分に来所し、同日14時10分にバルクルス飛行場を視察、16時00分にバルクルス飛行場を離陸し、20時00分にレイフォリア空港で、間違いないな」
「はい、間違いありません」
皇内庁からの突然の最前線の視察、軍部はもちろん、外務省も反対したが、皇太子グラ・カバルの強い意向と命により、視察が実現する事になった。
「粗相の無いようにしなければ……」
皇族の権力は絶大で、彼らが来ると解ればその通るルートは舗装し直される。
道路標識はまだ新しくとも、すべて新品に交換され、見える範囲の景観はすべて確認の対象となる。
万が一の事も考え、通るルートが3案あれば、そのすべてが舗装し直されるほどの徹底ぶりだった。
段差の一つも許されない。
それほどに気を遣う皇族が、最前線の視察に行く。
不足の事態も考えられるため、外交官一同気が気では無かった。
不意に、バタンとドアを開け、執務室に職員が駆け込んでくる。
息は切れ、汗を書き、書類であろう紙を握りしめていた。
「どうした?」
ダラスが尋ねる。
「今し方、帝国陸軍より通信が入りました!!!」
「ほう、見せてみろ。もう次の街を落としたのかな?皇太子が来るから軍も張り切っているな」
話しながら紙を取る。
余裕のある表情は徐々にゆがむ。
「な……なんだと!?」
油汗が噴き出る。
文字を追う指先は震え始めていた。
「そ……そんな……バカな事があってたまるか!!!」
執務室にダラスの大声が響く。
「どうした!?」
狼狽したダラスの声を疑問に思ったシエリアがシエリアが書類を手に取る。
「え?」
要約すると、下記の内容が記載されていた。
○ キールセキ空爆に向かっていた陸軍航空隊は、敵の迎撃を受けて全滅した
○ その後、未明にバルクルス基地が空爆を受けた
○ 空爆前にレーダーが通じなくなる現象が起こったため、迎撃が遅れた
○ 日本軍と思われる戦闘機により、基地の重要部分を破壊され、その後ムー国の大軍 により、基地機能は壊滅状態に至り、航空隊も全滅
○ 消息を絶っていた帝国陸軍第4師団は、偵察部隊の帰還により、全滅したことが判 明した
○ 現在陸軍では戦力の立て直しを図っている
「な……何かの間違いではないのか?」
シエリアの問いに答える者はいない。
帝国陸軍は通常戦果や損害を一々外務省に通告しては来ない。
わざわざ通告してきたという事は、皇太子をまともにお迎えする事が出来ないという意思表示だろう。
皇内庁の指示により、警備は軍部が行うが、案内と総責任は外務省に任せられている。
このままでは皇族の指示を外務省が守れなかったという事になり、その責任はレイフォル出張所の責任者であるシエリア、そして現場責任者であるダラスが追うことになっていた。
「こんなことが……帝国にこんな事があってたまるか!!!」
ダラスが叫ぶ。
仮にキールセキに案内出来なかった場合、少なくとも彼の出世の道は閉ざされる。
衝撃が走った執務室、静粛の中1本の電話が鳴った。
「シエリアです」
『シエリア様、陸軍将校ランボール様が至急説明のため、お会いしたいと……』
「すぐに通してくれ!!」
シエリアは、至急協議の場を設ける。
一時の後、ドアが開かれ、若き陸軍将校ランボールが入室した。
会議が始まる。
「急な来訪をお許し下さい。通信文だけだは状況が理解出来ないかと思い、説明に参りました」
将校ランボールは額に汗をかく。
彼は続けた。
「ムー国征伐軍最前線基地バルクルスは、大規模空爆により壊滅的被害を受けています。
率直に申し上げて、とても皇太子殿下をお迎え出来るような状況では無いかと」
「何故だ!!何故そんな事が起きたのだ!!!」
ダラスが吼える。
「現在目下原因を調査中です」
ランボールはダラスの部下では無い。
他省庁の者に対する態度では無く、彼は少し気分を悪くした。
ダラスはお構いなしに続けた。
「調査中?そんな情報を持ってきてどうする!!何故まだ解らないのだ!!軍の怠慢ではないのか!!!皇太子殿下の来訪を断るという事が、どういうことか理解しているのか!!!」
「解らないから解らないのです!!!特に第4師団などは、短期間に全滅している。情報は、初期の段階では断片的なものしか入らないものです。
情報を精査して確実な情報をお届けするのであれば、相当に期間がかかります。
迅速な情報というものは、不確定なものなのです!!
精査した後であれば、時間がかかりすぎて、あなた方はそれはそれで文句をいうでしょう!!」
けんか腰になってきていたため、シエリアが割って入る。
「ダラス、けんかをしても意味は無い。ランボール殿も、迅速な情報を伝えようとわざわざ来て頂いているのだ。
ランボール殿、部下が失礼した。
続けてほしい」
怒りのゲージが下がる。
「おほん……解りました。
バルクルスを空爆してきた飛行機の中には、とんでもなく高性能な機体があり、機体に日本国のマークがありました。軍部では第4師団を壊滅させたのも、日本国ではないかと現時点では疑っています」
「な……なんだと!?」
ダラスの脳裏に先日の朝田との会談が浮かぶ。
映像で発展した都市を見せつけられ、70年以上の技術格差があると言われた。
しかし、兵器に関する情報は全く出ていなかったと記憶している。
日本国の外交官朝田は言い放った。
(帝国が……ムー国への侵略を開始した時、グラ・バルカス帝国の……終わりの始まりとなるだろう)
まさか……まさか本当の事だったのだろうか?
いや、本当ならば兵器の実演も映像で見せつけてくるはず……そちらの方が外交上の効果は高いからだ。
ダラスの思考が巡る中、ランボールは続けた。
「軍部では、今回の基地壊滅を非常に重く受け止めています」
転移後今まで連戦連勝だったグラ・バルカス帝国。
世界連合艦隊すらも退け、誰もが世界征服に疑念を抱いてはいなかった。
しかし、大陸制圧初期ともいえるこの段階で、最前線基地が、どうやったのかは未だ判明していないが全滅に近い被害を受ける。
さらに、最強の機械化師団が壊滅するという状態に至ったため、陸軍上層部は蜂の巣をつついたような状況になっていた。
ランボールは続ける。
「海軍から……情報は来ていますか?」
「何の事だ?」
外務省に海軍からは世界連合艦隊線以降、特に何も情報は来ていなかった。
他官庁からの問い合わせなので、仮に情報が来ていたとしても、「何の
事だ?」と、答えたであろうが……。
「各官庁が情報を共有化しておかないと……今後の帝国運営に支障をきたしてはいけないので、この場でお話します」
ランボールは、外交官に対し、神妙な面持ちで話を始めるのだった。
漫画日本国召喚もよろしくお願いします。
(=゜ω゜)ノ




