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駆け抜ける衝撃4(前半)

少し長かったので、物語を2つに分割します。後半は、今日か明日中には投稿します。

また、「くみちゃんとみのろうの部屋」で、不完全版ですが数話先行しています。よろしければどうぞ。

 

手に取った事の無い方は書籍1から5巻、漫画1巻も是非お願いします。

キールセキ西側平野


 グラ・バルカス帝国第4師団長ボーグは焦りを感じながら空を眺めていた。


「まだ無線は受信出来ないのか!!!」


「まだ……バルクルス基地からは全く応答がありません」


 こちらの部隊到着が遅れたとはいえ、それは想定の範囲内であり、仮に無線が通じぬ場合は定期的に航空機が飛ぶ手筈となっている。

 しかし、来るはずの時間になっても友軍機は上空に現れなかった。

 先ほどの空洞山脈内での攻撃、そして甚大な被害といい、あり得ない現象が起こっている。

 ボーグの焦りは部隊へ伝わっていく。

 しかし、第4師団は大部隊であり、現在の残存戦力でさえ、ムー国にとっては多大な戦力である。

 少しの連絡に関する齟齬があったからといって、すぐに部隊の撤退という選択肢は取れなかった。


「今日は運が悪そうだ。いやな予感がする。索敵範囲をさらに広げ、キールセキ周辺までオートバイによる偵察部隊を出せ!!」


「了解!!」


 グラ・バルカス帝国第4師団長ボーグは、第19偵察団に対し、ムー国の戦略目標キールセキ周辺まで部隊偵察を命じた。

 第19偵察団は、すぐに出発し、約22km先にある小高い山を迂回するルートでオートバイを16台発進させた。


「ボーグ師団長、キールセキでの兵への褒賞はいかがいたしましょう?アルーの時よりも人的被害が増加しているため、しっかりとやるべきだと意見具申します」


 幹部が尋ねてくる。

 今は部隊そのものが不安定な状態にあるのにこの質問、少し苛立ちを覚える。

 しかし、兵の精神衛生管理は必要な事であった。


「好きにさせて良いぞ。兵の本能のままにな」


 幹部は嫌らしげな笑みを浮かべる。

 それにしても今回の侵攻はストレスがたまる事が多い。

 ボーグ自身、キールセキを落とした暁には、ストレス発散のため、好きにするつもりだった。


「ありがとうございます!!」


 尋ねてきた幹部は、嫌らしい笑みを浮かべ、前線へ司令伝達のために向かった。

 ボーグから約200mほど離れたところで、突然付近が猛烈な光を放つ。


 ゴォォォォォォ!!!


 光の後、猛烈な炸裂音がこだまし、耳を劈く爆発が発生した。


「こ……攻撃か!!!いったい何処から!!!」


 目視範囲に敵はいない。

 しかも目視範囲は25kmにも及び、グラ・バルカス帝国陸戦兵器の最大射程を超えている。

 ボーグは空を見上げるが、航空機は見当たらない。

 また、超高空からの爆撃でも無いようだった。


「ま……まさか!!射程外からの攻撃というのか!!!」


 眼前を見る。

 着弾から半径50mの土が煙を上げていた。

 

「ほ……砲撃か!!!」


 次々と、味方陣地に土煙が上がり始める。

 轟音と爆炎が、広大な範囲に展開する味方に効率的に降り注いだ。

 ボーグはすぐに装甲のある指揮車に入る。


 ガガガガガガアガ……


 パラパラといった音と、装甲車を激しく叩く金属音。

 小さな爆発が連続して起きているようだった。

 まるで金属の暴風……車の外から聞こえる悲鳴と断末魔が地獄を彷彿とさせる。

 やがて攻撃が止み、付近に静粛が訪れた。


「いったい何が……」


 彼は上部ハッチを開け、周囲を見渡す。


「つっ!!!」


 まだ土煙が上がり、外の様子は良く見えない。

 徐々に煙りが晴れ、戦場の一部の様子が目に飛び込んできた。


「なっ!!!」


 後続の自動車は穴だらけとなり、沈黙している。

 中には燃えている自動車も多数あった。

 地面にいた兵は倒れ、動く者はいない。

 

「被害確認!!!」


「了解!!」


 指揮通信車に被害状況が入り、徐々に被害が判明していく。

 

「戦車隊及び装甲部隊は概ね正常に動いています!!しかし、自動車部隊、歩兵部隊及びオートバイ部隊については応答無し、すべて沈黙!!!

 第19偵察団は、オートバイで攻撃範囲外にいたため全員無事を確認!!」

 

 通信士の声も震えていた。

 ボーグは付近を見渡す。

 戦車、装甲車以外に動くものは無かった。

 

「な……なんてことだ!!なんてことだ!!!」


 唖然とし、心の声が漏れ出る。

 グラ・バルカス帝国最強と言われた第4師団は、短時間の攻撃により、数千人の兵を失ったのだった。


「なんてことだ……なんてことだ……」


 戦車・装甲車以外は残っていない。

 部隊としては全滅と言って良く、残存戦力で敵の街が制圧出来るはずも無かった。 

 かつて、グラ・バルカス帝国がこれほどまでの一方的敗北をしたことは無く、また敵を確認する暇も無い瞬間的部隊消失という現実、ボーグの心は壊れそうになる。

 一時の放心の後、彼は我を取り戻す。


「こんな瞬間的かつ大規模な制圧射撃があるというのか……はっ!!第2波がくるかもしれない!!戦車隊は空洞山脈に向かって後退!!偵察部隊はキールセキを偵察した後、空洞山脈内まで後退せよ!!」


 グラ・バルカス帝国第4師団の主力戦車部隊は、反転し、空洞山脈を目指した。

 前方に出ていたため、同山脈まで5km以上の距離がある。

 兵達は、先ほどの攻撃にひどく狼狽していた。すぐそこに見える山脈が、ひどく遠く感じるのだった。



◆◆◆

 

「面制圧射撃、非装甲物に対して絶大な効果を認めるも、敵残存兵力は空洞山脈に向かって後退中、戦車、装甲車含めて130両以上」


 陸上自衛隊第7師団、自走榴弾砲の後方に陣取る師団長大内田の元に、続々と戦況報告が入る。

 敵は逃げている……逃げてはいるが、このまま逃がしたならば……残存兵力はムー国にとっては絶大な戦力となるだろう。

 その逃がした敵は、後に友軍を多数殺す事になるのだ。

 止めを刺すべき、解っているが、やはり撤退中の敵に攻撃するのは気が引ける。

 大内田は目を瞑った。

 カッと目を見開く。


「当初の予定通り、残存兵力を排除する。作戦は第2段階へ移行!!」


「了解、作戦は第2段階へ移行、残存兵力を排除します」


 戦場は動き続ける。


◆◆◆


 グラ・バルカス帝国第4師団の生き残りは、空洞山脈へ向けて疾走していた。

 隊列もくそも無く、とにかく何処から降り注ぐか解らぬ攻撃を避けるため、各個が全力で山脈を目指す無様な行軍だった。


「おのれぇ!!おのれぇ!!」


 ボーグは怒りの声が漏れ出る。


「あと10分ほどで最前の車両が空洞山脈に達します」


 部下から報告が上がる。

 ふと空気を叩くような音が聞こえた。


「ん!?」


 ボーグが音のする方向を見上げると、見たことの無い航空機が5機、まるで進路をふさぐかのように空中で停止していた。


「あ……あれは……」


 双眼鏡で不思議な物体を見る。

 翼は付いておらず、竹とんぼのようなものが上で高速で回転していた。

 下に描かれた赤丸を白色で囲んだマーク、幹部である彼には見覚えがあった。


「に……日本国のマーク!!!あれは日本の兵器か!!!い……いかん!!やつをたたき落とせ!!!」


 上空に向かって機関砲が向けられ、射撃が開始される。

 曳光弾を交えて火線が放たれるが、被弾面積の少ないそれには当たらない。

 仕返しだと言わんばかりに、敵航空機から光の矢が放たれる。


「敵、ロケット弾発射!!!」


 一斉に流れる無線、カンの良い者が乗る戦車は回避運動を開始した。


「な……なにっ!!!」


 驚愕……。

 おそらくはロケット弾による攻撃、単発で撃つロケットはそう当たるものではない。

 しかし、敵の放ったロケットはまるで意思をもっているかのように向きを変える。

 見張り員は報告する暇も無くロケットは友軍戦車に突き刺さり、砲塔が上空に大きく吹き飛ぶほどの爆発を引き起こした。

 轟音が戦場にこだまする。

 矢継ぎ早に発射されたロケットは、連続して友軍戦車に着弾する。

 戦車は次々と爆発を始め、その1回の爆発だけでも数名がこの世を去る。

 無敵であるはずの戦車は、まるで雑魚のように蹂躙された。


「ひぃぃぃぃぃ!!こちらに飛んで来……ガガガッ」


「第12小隊全め……ガガガガ」


 通信途中で無線が途切れる。

 友軍の機関砲は曳光弾を交えて上空へ発射される。

 しかし、絶望的に当たらなかった。


 空気を叩くかのような敵の飛翔音は戦場にこだまし、恐怖をよりかき立てる。

 

「敵、ロケット弾を連続発射!!!」


「なにっ!!」


 空中で一列に並んだ敵は、ロケット弾を連続発射した。

 ロケットは直線的に飛び、付近に着弾する。猛烈な爆発が連続的に発生し、付近は土煙に包まれる。

 流星雨の如きロケット弾をたたきつけた敵の航空機は、反転して北の上空に去って行った。 


「被害……報告」


 短時間の攻撃だった。非常に短時間の攻撃であっても甚大な被害。

 最初の会敵ほどではないが、35両の戦車が大破、使用不能に陥った。


◆◆◆


 第2戦車小隊



「早く!!速く逃げろ!!!早くしろおぉぉぉぉ!!!」


 短時間の攻撃での部隊消失、あまりの恐怖に戦車長が正気を失い、車内でわめく。

 無敵であるはずの友軍はもはや小動物以下の士気しか無く、刈られる立場となっていた。

 付近には友軍の死体が転がり、その上を戦車で乗り越えなければならない。

 戦車で友軍の……共に戦った戦友の死体を乗り越える。

 人の骨の砕ける音がなんとも嫌な気持ちにさせた。


 運転員のジブラはあまりのストレスに狼狽していた。

 あと3km、あとたったの3kmで空洞山脈に入れ、空からの脅威は無くなる。

 前方には約20両の友軍戦車が土煙を上げて走っていた。


「まだか!?まだ空洞山脈には着かないのか?」


 狭い車内で叫ぶ戦車長、甲高い声に耳がキーンとする。


「あと少しです!!」


 彼は必死で前方を確認しながら戦車長に報告を行った。

 不意に、爆発音が戦車を揺らした。

 前方に光と炎が上がる。


「なっ……何だ!!今度は何があった!!!?」


 続けて響く爆発音、一瞬だけ見えた上空からの攻撃。


「上から……上から攻撃を受けているようです!!」


「まさか……さっきの回転翼の航空機か!!!」


「わかりません!!」


 上からの攻撃、そして爆発がつづく。

 陸上自衛隊は96式多目的誘導弾システムで山の先から攻撃を加える。

 光ファイバーによってつながれた有線誘導は正確で、弾頭の映像を見ながら射手が敵戦車に誘導を行なっていた。

 カメラで「見て」誘導を行うため、例え熱探知型誘導システムを誤らせるフレアや、レーダーによる誘導システムを欺瞞するチャフ等をたとえ撒かれたとしても、一切効果が無いだろう。

 友軍に爆発は続いた。


◆◆◆


「ボーグ師団長!!前方が攻撃を!!」


 状況は報告を聞くまでもなく、目視出来る。

 ボーグは頭が痛くなった。


 最初に猛烈な範囲の制圧射撃が行われた。

 非装甲物はこれにより粗方破壊され、機械化部隊は撤退を余儀なくされる。

 戦車が撤退を開始したとき、敵航空機が現れ、弾薬の保つ限りの破壊を行った。

 さらに、正体不明の上からの攻撃により、さらに戦車部隊が単発ではあるが、破壊されるに至る。


 部下を死なせた焦燥感、命を奪われる恐怖……屈辱的な敗走だった。


「おのれ……おのれ……この私が……この私をこんな目に遭わせるなんて……

絶対にゆるさんぞ!!!

 体勢を立て直したら、蹂躙してくれる!!」


 まもなく空洞山脈に達する。

 敵の射撃密度は思ったよりも薄く、部隊は甚大な被害を受けるが、おそらくは逃げ切る事が出来るだろう。

 微かに生まれた希望と、猛烈に宿る復讐心。

 それをたたき折る事象が前方に現れる。





 駆け抜ける衝撃4後半は、今日か明日に投稿します

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